何故…何故雪音クリスがテロリスト側についているんだ。
ボクは今までにこの事件を起こしていた一人であった少女の正体を見て絶句する。
「なっ…なんで私の名前を…」
「ガンヴォルトさん、あの子を知っているんですか!?」
少女、クリスは既に名前を知られている事に驚き、響は少女の身元を知るガンヴォルトに問いかける。
「二年前の空港での事件…とある国に捕虜となっていてようやく帰国してボク達が保護するはずだった子だよ…こんな形で会う事になるなんて…」
ボクは苦虫を噛み潰したように表情を歪ませて少女に合わせていたダートリーダーを下げる。
「保護なんて嘘だ!あの時、お前等は私を実験台にしようとしていたんだろ!」
「違う!ボクは…ボク達は君にそんなつもりなんて一切ない!」
「デタラメを言うな!お前達が私を保護すると言いながらもどうせお前等の持つ聖遺物の非人道的な実験台にしようとしていたんだろ!」
クリスはボクに向けてそう叫ぶ。弦十郎達は確かに聖遺物の適合者を探す為にクリスに目を付けていた。しかし、非人道的な事はするつもりもなく、身寄りのなくなったクリスの保護。そして、クリスに非人道的な事ではなく人々を助ける為に協力してもらう為だった。
でも、弦十郎も二課もそんな事をするつもりは一切ない。なのに何故そこまで飛躍した話になっているのか。
「なんでそこまで君の話が飛躍したかは分からない。でも、ボク達は君にそんな事をしようなんて考えて「黙れ!」…ッ!」
クリスはボクの話を最後まで聞く事もなく歌を歌い始める。
「Killter Ichaival tron」
そしてクリスの周りに響や翼、奏が聖詠を歌った時に発生するバリアフィールドが展開され、ガラスが割れる様に砕けるとそこには赤いシンフォギアを纏ったクリスの姿があった。
「…な、なんであの子もシンフォギアを…」
「イチイバル…ボクが所属する前に既に行方が分からなくなっていた聖遺物の欠片…それに彼女は適合者だった…弦十郎!」
『通信でお前達の会話は聞いていた。まさかネフシュタンの少女が、雪音クリス君だとは…ガンヴォルト、響君。これよりネフシュタンの少女、いや雪音クリス君の捕縛から聖遺物イチイバルの装者、雪音クリス君の保護へと切り替える!大人として彼女を放って置く訳にもいかない。それにテロリストの情報を何かしら持っているかもしれない』
耳につけている通信機越しで弦十郎がボクに向けてそう告げた。
「響。弦十郎からの指示通り、雪音クリスを保護する。抵抗されるけどなんとかするよ」
「分かりました!」
「何を話しているかは知らないがお前等になんか捕まってたまるかよ!」
クリスはそう叫ぶと銃の様なものを取り出して構え、ボクと響に向けて引き金を引く。銃の様なものからは紫色の矢の様なものが幾つも放たれる。
ボクと響はその矢の様なものをその場から飛び去り回避する。クリスは気付けば空いた方の手にも既に銃が握られており、一方を響、もう一方をボクに向けて構え、引き金を引いていた。
雷撃鱗で防ぐか考えるが、クリスの銃から放たれているのは物質ではなく、エネルギーの様なものだと一目瞭然である為、ボクは迫り来る矢を回避してクリスに向けて駆け出す。
クリスはボクや響に向けていた銃をガトリングへと変形させると弾幕を張る。
ボクはガトリングの弾幕を雷撃鱗を展開して全て防ぎ切るが響の方に向けられた弾丸を響は避ける事が出来ず、幾つか被弾してしまう。
「響!」
ボクは雷撃鱗を展開した状態でクリスに向けて近付いて響からボクに狙いを集中させようとする。
「ちょせぇ!」
クリスはボクに向けていたガトリングを再びハンドガンの様なものに変化させるとマシンガンの様に矢の雨をボクに向けて放つ。
「くっ!」
ボクは雨の様に降り注ぐ、矢を最小限の動きでなんとか避け、クリスへと近付いていく。そんな中、響がボクに視線を移しているクリスを目にしたのか取り押さえようと駆け出した。
「お前の考えている事はお見通しなんだよ!」
クリスはそう叫ぶと腰についていた鎧から幾つもの小型のミサイルの様なものを展開した。展開した小型のミサイルは直ぐにボクと響に向けて発射される。
「響!逃げるんだ!」
ボクの言葉に直ぐに反応した響はクリスから離れながら、小型のミサイルから逃げる。
「他人の心配なんてずいぶん余裕じゃねえか!」
気付けばクリスは両手に銃を携えてボクへと接近していた。直ぐに雷撃鱗を展開して接近を辞めさせるが、それでも矢の様なものを撃ち出して、攻撃をやめない。そしてクリスの後ろでなんとか小型のミサイルを回避していた響だったが、木の根に足が引っかかって転び、小型ミサイルが直撃する。
「響!」
「後はお前だけだ!」
いくらシンフォギアを纏っていてもあの攻撃を全て受けては無事では済まないかもしれない。最悪の場合、響は…。その事を一瞬考えてしまう。だが、その心配も杞憂に終わる。響のこけた地点に聳え立つ壁の様なもの。その正体を知るボクは直ぐにクリスへと接近して雷撃を纏った腕でクリスを掴もうとする。
クリスは直ぐ様避けて距離を取り、ボクからアドバンテージを取ろうとしたのか響のいた方向に銃を向ける。
「おい、これ以上お前が抵抗するならあいつがどうなってもいいのか!?ッ!?いつの間にこんなものが!?」
「こんなものじゃないわ、これは巨大な剣よ」
突如出現していた壁の様なものにクリスは驚く。そして返答に答えるのはボクや響ではなく、今は入院しているはずの翼であった。
「翼さん!?」
「翼!シンフォギアを纏って大丈夫なのか!?」
響は現れた翼に驚き、ボクはここに来る前まで立つ事もやっとであった翼の状態を心配する。
「仲間が戦っている時に伏せっている事が防人としての私が許せなかった。だから私はそんな状態でも来たの。それで立花をこうやって助ける事が出来たんだから」
「翼さん…」
「変な空気を醸し出してるんじゃねぇ!そういう関係なら他所でやれ!」
そんな状況を見てクリスは顔を赤らめながら叫び声を上げる。何を恥ずかしがっているのか分からないが、ボクはそんな隙を見逃すはずもなく、クリスへと素早く近付いてクリスを捕縛しようとする。
クリスも直前でそれに気付いたが、間に合わず、ボクはクリスの武装を叩き落として地面へと倒すと、抵抗出来ないように押さえつける。
「くそっ!」
「大人しくシンフォギアを解いて。これ以上君を傷付けたくない」
ボクの言葉はクリスには全く届かず、暴れようとする。雷撃を出して大人しくしてもらうか?いや、それはクリスにとっても情報を聞き出す際にそれがトラウマになったりして、情報を聞き出せない可能性がある。それに、助けられなかった少女を雷撃で黙ってもらう事も何処か間違っている気がする。
「大人しくすれば何もしないよ。だから」
「ガンヴォルト!お前達の周囲にノイズの反応が確認された!どんどん増えている!気を付けろ!」
突如弦十郎の声が通信機越しに聞こえる。ボクは通信が入ったであろう響と翼に向けて周囲の警戒を指示する。だが、翼は無理をして来ているせいで、響は先程のクリスの攻撃を受けて所々シンフォギアが砕けている。
「翼!響!この子を頼む!ノイズはボクが処理する!」
そしてなんとか近くに寄ってきた翼と響にクリスを任せ、ボクは直ぐにダートリーダーのマガジンを交換して索敵を開始する。
「弦十郎、ノイズの位置の特定は?」
「お前達の反応と今一致している!周囲にノイズは!?」
ボクは周囲、そして上空を確認するがノイズの姿が見当たらない。
「まさか!?翼!響!その子を抱えてその場から離れるんだ!」
ボクは翼達に叫ぶ。その瞬間地面が盛り上がり、ドリルの様な形状となった飛行型ノイズが現れた。翼はなんとか避ける事が出来たが、響はクリスを庇い、さらにダメージを負ってしまう。
「響!」
ボクは素早く
「私、さっきクリスちゃんに酷い事をしたみたいだから…こんな事で私がやった事が許される事じゃない事は分かってる。でも、それでも私、クリスちゃんを助けたかったから…仲良くなりたかったから…」
「訳分かんねぇよ!お前の言ってる事!私は…私はお前に今まで酷い事をしてきたんだぞ!それなのに…それなのに助けたかったから?仲良くなりたかったから…本当にお前の事分かんねぇよ…」
クリスは今直面している事態に戸惑い、そして敵だったはずの響に助けられ更に混乱している。
「結局、なんの成果も出せずに敵にまで助けられるなんて、本当に私をどれだけ失望させれば済むのかしら?」
突如響く声にボクはその発信源に向けてダートリーダーを向ける。そこには金色の長髪、そして黒い喪服の様な服装にサングラスをした女性が佇んでいた。その手に持つものは事前に翼や響がクリスと戦った時にクリスが使っていたノイズを召喚する杖であった。
「全く、女性に向けていきなり銃を構えるなんてどれだけ物騒な男なのかしら?」
「その言葉そのままそっくりお返しするよ。貴方が手に持つその杖は一体なんなのか分かっているのか?いや、タイミング的に既に使い方も分かっていると思ってる。ボクは貴方を今まで起きていた事象に関わっていると判断させてもらう。さっきのノイズ、そして貴方が出るタイミング、この子に対して言った言葉。無関係なんて言わせない。貴方達の目的はなんだ」
ボクは女性から照準を離すことなく女性に問いかける。
「貴方達に言う必要があるかしら?それとも無理矢理でも聞き出してみる?」
女性は素敵な笑みを浮かべるとノイズを大量に杖から召喚させるとボク等、それに仲間であるはずのクリスまでを狙い攻撃の指示をした。ボクは襲い来るノイズを処理する為に
「どういう事だよ!フィーネ!なんで私まで攻撃するんだ!」
後ろで響を支えるクリスが女性、フィーネに向かって叫ぶ。しかし、フィーネの興味なさげに、いや、興味がなくなった様な態度でクリスに向かい言い放つ。
「貴方の様な私の言った事を何一つこなせない様な子に私といる存在価値なんてないわ。本当に貴方をあの時引き取った事を後悔した。唯一役に立ったといえばこれを使える様にした事ぐらいね」
クリスに向けてフィーネはそう言い放つ。クリスはその言葉に縋るように懇願する。
「待てよ!私は確かにフィーネの言った事は何も出来てない…でも」
「言い訳なんて耳障りよ、クリス。貴方はもう私にとっては要らないの」
フィーネがそう言うとクリスは瞳から涙を浮かべまだフィーネに向かって言おうとする。
しかし、それを邪魔するように今度は空にノイズを大量に召喚するとボクの攻撃の届かない空から負傷しているクリスと響、本調子ではない翼に向けてノイズが襲い掛かる。
「閃く雷光は反逆の導、轟く雷光は血潮の証、貫く雷撃こそは万物の理」
ボクはヴォルティックチェーンの言葉を紡ぐ。その瞬間、フィーネはまずいと思ったのか、全てのノイズをボクに向けて狙った。
「ブラフだよ」
ボクは雷撃鱗と
「全く、広範囲スキルをブラフに使うなんて嫌な事するわね」
「仲間のはずのクリスをも巻き込んで殺そうとした貴方に言われたくないよ」
「ふふっ、仲間なんて思った事なんてないわ。その子は既に役目を終えた駒に過ぎないもの。それに、私はもう目的を達したから」
その言い方に対してボクはかつてのあの人のように信頼していたのに裏切り、殺そうとした事を思い出し、目の前の女性にかつての怒りが込み上げた。
「ふざけるな!そんな事の為に貴方はこの子を…クリスを駒として使っていたのか!うんざりなんだ!利用されて、使えないから処分されるなんて…人の気持ちを…意思を尊重しない貴方達のような輩が!」
「何熱くなっているか知らないけど、さっきも言ったようにもうここに用はないの。既にこの手にそこの役立たずが捨てたネフシュタンがあるのだから」
そう言って手を翳すとそこにはクリスの纏っていたネフシュタンの鎧の原型が女性の手の上に浮遊していた。辺りを見回すと散乱していたはずのネフシュタンの鎧の欠片が消えている。
「それが目的の時間稼ぎ…でも、貴方を逃す訳にはいかない!」
ボクは女性に向けて
「待てよ!フィーネ!」
消えた方向に響を翼に押しつけて追い掛けるクリス。ボクはクリスを掴んで止めようとしたが、クリスを掴もうとした瞬間にボクとクリスの間を通り過ぎる何かにより阻まれた。クリスはそれを無視してフィーネを追い掛けて行き、姿を消す。ボクもその後を追おうとしたが、今度は響と翼に向けられて迫り来る何かを察知して翼と響を守るように雷撃鱗を張った。
その瞬間に雷撃鱗に当たる何か。それは雷撃鱗を超えて迫ろうとするが雷撃鱗に入ってくると同時に角度を緩やか変えていき、そのまま逸れるように地面へと衝突した。
ボクは響と翼を誘導して木の後ろに隠れると先程の奇襲を警戒する。
「敵なの!ガンヴォルト!?」
響を支える翼がボクに問いかける。
「分からない。でも、タイミング的に敵だと思う。響と翼に向けてされた攻撃は弾のように見えた。もしかしたら何処からか狙撃されているかもしれない」
「そんな!?」
「フィーネ…あの人の協力者なのかもしれない。ボク達の目の前に出てくるにしても逃げられる策がないと出てこないのに、そんな事も頭に入れてなかった…ごめん、翼、響。ボクのミスだ」
ボクは翼と響に謝る。とにかく二人だけでも守らなければ。そして数分の時間が経つ頃には周囲に二課、そして避難誘導していた一課が到着して現場は収束を見せた。
◇◇◇◇◇◇
フィーネは避難誘導される人々に混じりながら、ガンヴォルト達のいた場所から離れていた。その手にはソロモンの杖もネフシュタンの鎧も既になく、誰からも怪しまれてはいなかった。
そんな中、フィーネの携帯に非通知の着信が入る。フィーネは誰かからの連絡なのか知っているかのように電話に出る。
『フィーネ、上手く逃げられたようだな?』
「よくもまあ平然と連絡が出来たものだな、アッシュボルト。貴様のおかげでこちらはどれだけ被害を被っているのか理解しているのか?」
電話の相手は協力者であり、そしてフィーネの目的に対してミスを犯したテロリストの頭目、アッシュボルトと呼ばれる者であった。声は変声器を通してなのか、ニュースでよく聞くような声になっている。
『ミスではないさ。あれはヒントさ。フィーネから聞いたその存在が本当に知っている者なのかをね』
「そんな事はどうでもいい。私はお前のせいで計画の成功率が下がっているんだ。どう落とし前をつけてくれる」
『だからさっき落とし前をつけたさ。あの男から簡単に逃げられると思っていたのか?私が狙撃して足止めしていなかったら確実にあの男に捕まっていたぞ?』
フィーネはその言葉を聞き、ぐうの音も出ない。確かに、あの程度でガンヴォルトを止められるはずはない。だが、特に追撃もなく逃走出来た。裏でこの男が動いて逃走出来たがそこまで言われると癪に触った。
「そちらのミスのせいでこんな目に遭っているのよ?これで貸し借りは無しとは言わないわ」
『それは失敬。だが、そちらにも非はあるぞ?私が回収した聖遺物を使える少女を買い取ると言ったのに安易と使い捨てるそちらにもな』
その言葉にフィーネは特になんの感情もなくアッシュボルトに言い捨てた。
「使えなかったから捨てただけよ」
『そうか。どちらも育て方と言う物がよく分からないようだな』
アッシュボルトはそう言うと直ぐに何かを片付けているのか忙しなく動きながら告げた。
『まあいい。それと我々はこれより君への支援はなしにしてもらう。君とあの子供のせいで失敗続きだ。既に私は見限っている。そんな所に投資したところで何も変わらないからな。もちろん、近日中に貴様の持つソロモンの杖も回収させてもらう。今までの報告も偽りと知った今、貴様に手を貸すメリットなどないからな』
「好きに言ってればいいわ。私は私の目的の為に動くだけよ。それにこれは元々私の物だ。返す訳ないでしょう」
『全く。君は立場を理解していないようだな。まあいい。その杖だけは回収させてもらうよ』
そう言うと向こうは電話を切ったのか、ツー、ツーと電話越しに聞こえる。フィーネは通話を切り、周囲の誰もが怪しんでない事を確認すると避難する人混みの中で姿を消した。