戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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後日、響の状態を了子から聞いて問題ないとの事だった。響は午前中の為、学校に行っている。カルテとその時の検査の様子を写した動画も見せてもらい、本当に響には異常がない事を知る。

 

だが、暴走の原因は検査では解る事ではなく、了子曰く、親友を傷付けられた事による響の胸に宿るガングニールの心象の変化により暴走を起こした可能性があると了子は語った。

 

聖遺物の適合者は己の心象を武器に反映して戦う武装の為、変化によりこのような事が起きたんではないかというのが了子の見解だ。

 

響のシンフォギアに僅かながら懸念が残るが、今は異常もなく無事な事に胸を撫で下ろす。

 

「響ちゃんもこんな良い男に心配してもらえて羨ましい限りね」

 

「からかわないでよ、了子。それにボクはそんな良い男じゃないよ」

 

こんなおふざけがなければ優秀な研究者なのになと溜め息を吐く。

 

とにかく、響も無事な事が確認出来た。後は、響の胸にあるガングニールの件はどうやって調べるか。

 

クリスとの戦闘の際に見たガングニールのアウフヴァッフェン波形にはシアンの電子の謡精(サイバーディーヴァ)の痕跡は見られなかった。調べるとなるとそれくらいだった為、念の為こうやって響のカルテも見たのだが、なんの手掛かりもなかった。

 

となると、やはり別の物なのか?

 

「全く、最近ガンヴォルトは眉間にシワを寄せて考え過ぎじゃない。響ちゃんにはなんの異常もなかったってこの聖遺物に一番詳しい美人研究者の私が言うんだから間違い無いわよ」

 

考えている事と見当違いの回答だが、確かに最近眉間にシワを寄せて考えてばかりだ。シアンの電子の謡精(サイバーディーヴァ)が宿る物が響のガングニールだと考え込んだり、翼に情報提供をした謎の人物について悩んだり、クリスを救えなかった事で悩んだりと。

 

「ごめん、了子。確かに考え込む事が多くなってたよ」

 

「悩むな、なんて研究者である私は否定しないけどたまには少し休んで別の楽しい事でも考えてリラックスしないと、良い案も解決策だって浮かばないわよ。年上の美人研究者の助言を快く受け取っておきなさい」

 

「…ありがとう、了子」

 

自分の事を上げて話す了子を可笑しく思いながら礼を述べた。

 

「本当に心の底から感謝してる?」

 

「してるよ、本当に」

 

「ならガンヴォルト!貴方の蒼き雷霆(アームドブルー)を」

 

「ボクも忙しいからそろそろ行くよ」

 

全く、少し見直していたら直ぐにこれだ。とにかくボクは了子の研究室から逃げるように退出していった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

響は学校の帰りに親友の入院している病院に急いで向かう。

 

リディアンの直ぐ近くにある為、直ぐに辿り着く。受付で未来の病室の部屋に行く事を告げて、病室に入る。

 

「未来!大丈夫!」

 

ノックもせずに入る響。親友である未来なら許してくれるだろうと入ったが、響の言葉に返答はない。

 

病室に入り、ベッドへと向かう。そこには外を眺めて起き上がる未来の姿がある。

 

「未来!よかった無事だったんだ!」

 

響は未来が無事な事を確認して抱きしめに行こうとするが、未来はそんな響に顔を向けずに拒絶する。

 

「やめて!響!」

 

未来の強い口調にたじろぐ響。

 

「どうしたの未来?」

 

「…」

 

未来は響の質問に何も答えない。そして暫しの沈黙の後、未来は響を見る事なく言った。

 

「隠し事はしないでって私何度も言ったよね?」

 

その言葉に響は未来にシンフォギアの事を見られたのかもしれないと思い返す。確かに、あの場で未来が傷付いてからの事は覚えていない。だが、未来の言い方は何か知っているような言い方である。

 

「どうして…どうしてあの人の事を知っていたのに私に黙っていたの!翼さんと仲良くなっているのは別にいい!…でもなんで響はあの人の事を隠していたの!あれだけ一緒に探していたのに…響は知っていながら私に隠していたの!?それに、あの響の纏っていた黒い鎧みたいなのは何なの!?」

 

ようやく響の方を向いたかと思うとその目からは涙が流れていた。

 

「ッ!」

 

響は全てではないが未来に見られていた事、そして何処で知ったのか翼とガンヴォルトの事を問われた響は口を閉ざす。

 

未来にも言いたい。だが、その事は全て弦十郎やガンヴォルトから機密として話してはならないと言われている。未来は全てではないだろうがシンフォギアの事、そしてガンヴォルトの事を気付いている。

 

話したい。でも話せない。響はそんな板挟みの感情の中、右往左往する。そんな事を知らない未来は黙ったままの響に怒りが込み上げているのか響を責め立てる。

 

「なんで話してくれないの、響!隠し事しないって約束したのに!なんで何も話してくれないの!私だけなの!?響を親友って思っていたのは!?馬鹿みたいじゃない!私だけ信じて約束を守っていた事が!」

 

「未来…」

 

「帰ってよ!今は顔も見たくない!」

 

未来からはっきりとした拒絶。響は未来の拒絶が未だに信じられないかのように固まる。だが、そんな響に追い討ちを掛けるように未来は手元にあった枕を投げつける。

 

「帰って!」

 

そこから響の記憶は曖昧だ。逃げるように病室から出て、そこからはどうやって病院から出たのか。気が付いたら響は寮の近くの公園のベンチに座っていた。

 

未来の拒絶。その事が響の頭から離れない。

 

「どうして…こうなっちゃったんだろう…」

 

響は呟く。何故こうなってしまったのだろう。未来にだけでも二課の皆には内緒で話を通しておけば、でもそうする事で未来を危険な目に遭わせる事になってしまっては…。

 

響は孤独になってしまうと感じ、腕で自分を抱いてなんとか気をしっかり保とうとする。だがその孤独感から溢れる悲しみを抑えきれず涙が流れる。

 

「未来…」

 

不意に漏れる親友の名前。しかし、今はその呟きに答えてくれる者はいない。

 

「響?」

 

見知った男性の声が聞こえた。声のする方向を見るとそこには二課から帰宅途中なのであろうか、スーツ姿のガンヴォルトの姿があった。

 

「…ガンヴォルトさん…」

 

響の様子がいつもと違うと感じたのか、ガンヴォルトは直ぐに響の近くに寄ると響の状態を見て、響に問う。

 

「何があったの、響?」

 

優しく問いかけるガンヴォルト。その優しさが今の響には辛く、涙が決壊したように流れ始める。そんな様子を見たガンヴォルトは慌てる。

 

「響、取り敢えず付いてきて」

 

事態が把握出来ないガンヴォルトは隣にあった鞄を取ると響の手を取り、立たせるとそのまま響を連れて歩き出す。響はガンヴォルトのなすがままに歩いて行く。

 

しばらくすると、近くのマンションに着く。ガンヴォルトはそのまま響を引き連れてマンションに入ると、ガンヴォルトの住んでいる一室まで招き、響を部屋に入れる。響を居間まで連れて行くと三人掛けのソファーに座るよう言って、ガンヴォルトはキッチンの方に向かった。

 

キッチンから帰ってきたガンヴォルトはマグカップを一つ持ってきて響に渡す。響はそのマグカップを黙って受け取った。その中には温かいココアが満たされている。

 

「それを飲んで落ち着いて」

 

ガンヴォルトの言葉に頷いて、袖で涙を拭いながら、響はココアを飲んでいった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

仕事も終わり、帰宅時に響に会った。それだけなら軽く話して帰ろうかと考えたが、響は涙を浮かべ、酷い顔をしていたから何事かと思わず家まで連れてきてしまった。

 

落ち着いてもらう為に響にココアを渡して飲んでもらっているが、何故響がこんな事になっているのだろうか。

 

ボクは響が落ち着くのを待つ。響の座るソファーの空いているスペースに座る。響はココアも飲み終わり、ボーッとしていた。涙も止まったのか流してはいないが目がまだ赤い。

 

「落ち着いた?」

 

響に問いかける。響は未だボーっとしているがこくんと頷いた。

 

「何があったか分からないけど、相談してくれれば力になるよ。別に話したくないのなら深くは追求はしないから」

 

ボクの言葉から口を閉ざしていた響はしばらく無言のままであったが、意を決して話し始めた。

 

「未来を傷付けない為に嘘を吐いてでもずっと隠していた事がバレて…未来を傷付けてしまいました…。お見舞いに行ったのに…未来から拒絶されて…」

 

響はまた涙を流し、止めどなく流れる涙を制服の袖でぐしぐしと拭う。

 

ボクはそんな響に対してどう話すか考える。ボク自身にも大切な人達はいる。だが、親友といわれるとそういう関係の人物にあたる存在はなく、どう話せばいいか分からない。

 

「未来が私を嫌いになったら、私はまた一人になっちゃう…嫌だよ…」

 

響は涙を拭いながら何度も一人になりたくない。未来とは離れたくないと連呼する。過去に何かあるのだろうか。だが、この様子を見るに問い返してさらに響を追い詰めては元も子もない。慰め方などは分からない。

 

だけど、

 

「響の辛い気持ちは分かるよ。大切な人がいなくなるのはとても辛いし、悲しい」

 

今のボクもシアンという大切な人が見つけられないからこそ響の気持ちを理解出来る事もある。

 

「響を傷付けてしまったのはボクにも原因がある。本当にごめん」

 

「ガンヴォルトさん達のせいじゃないです…私が…私がもっと…」

 

響はそう言って自分を追い詰める様に、そして自分のせいとまるで何かに取り憑かれた様に復唱する。

 

「響のせいじゃない。君は親友を守る為に自分を追い詰める必要もないよ」

 

「でも!私が」

 

響は何処か怒りをぶつける様にボクに対して叫ぶが、ボクはそれを制して言う。

 

「何度も言うよ。響のせいじゃない」

 

響は何か言おうとするがさらにボクはかぶせる様に言って響の言葉を遮る。

 

「例え響が自分のせいと思っても、何も変わらないし変えられない」

 

「ならどうすればいいんですか!?私は親友を失うかもしれないのに人事みたいに!ガンヴォルトさんには分かりませんよ!大切な人が居なくなるかもしれない辛さも信頼している人を裏切ってしまった事も!」

 

ボクの言葉に激情した響が噛みつく様に叫ぶ。

 

「大切な人が居なくなる事も信頼している人に裏切られた事も体験したから分かるんだ」

 

「ッ!?」

 

響はその言葉に激情していた頭が冷えたのか言葉を詰まらせる。ボクはかつてのシアンをあの人に殺されそうになる場面を。その人に裏切られて殺されかけた時の事を思い出す。あんな気持ち、知らない方がいい。

 

「傷付いている響に追い討ちを掛けるかもしれないから今は言えない。だけどボクはそれを体験しているから、どうしても響の助けになりたいんだ。ボクは弦十郎や了子みたいにカウンセリング面に関しては何も心得ていないから、響を励ます言葉が全然出てこない。それにボクは響が悲しむのを見たくないんだ。相談してって言ったのに何も出来ない自分が歯痒いけど」

 

ボクは響を励ます言葉が出ない事を吐露して何が助けたいだと自分は何も出来ていない事を、逆に響を激情させてしまった事を後悔する。

 

でも、ボクは必死に考えて響に対して、その子とどうしたいのか聞く。

 

「響はその子とどうしたいんだい?」

 

「…また一緒に笑い合いたい…仲良くしたいです…」

 

「だったら響らしくぶつかってでも話し合うしかないね」

 

ボクも奏との時を思い出す。奏も最初はボクを憎み、会えば罵詈雑言を浴びていた。だが、数年前の奏と共に墓参りをした後、僅かな時間だけど奏の態度は軟化して普通に接する様になった。何度もぶつかる事もあったが、いつしか関係が変わる事もある。

 

「いきなり変わるなんて無理だと思う。響が初めて二課に来た時の様に、翼が響に酷く毛嫌いしていたみたいに少し時間がかかる。それでも翼が響を認めて今の関係になっている様に、いつかはその子も響がどうしても話せない理由を聞いて納得してくれるまで話し合うしかない。確かに機密で話せないと言われてもその子が納得してくれるのか分からないから。でも響が必死に説得すればどうにかなるかもしれないよ」

 

他人事に聞こえるかもしれない。でもボクはボクなりに考え抜いた答えだ。

 

「でも…私また未来に否定されたら…」

 

「そんな最悪の状況を最初に考えるのはいけな事だよ、響」

 

自分も最近弦十郎に言われたなと思い出しながら響を嗜める。

 

「響のその真っ直ぐな性格なら絶対にその子も響がどうしてそこまで隠しているのかを分かってくれるよ。実際にボクも会って響が何でそこまで隠しているかを説明したい所だけど、こればっかりはね」

 

正体を知られている、そしてその子がなぜかボクを知っている以上、会う訳にもいかない。

 

「ガンヴォルトさんは確かに人を励ますのは下手です」

 

そこまで酷いか言わなくてもいいんじゃないと思いながらも、響の目を見る。その目には涙を流しておらず何処か決意の満ちた目をしていた。

 

「でも、ガンヴォルトさんは必死になって考えてもらったのにそれに応えないのも、そしてこんなに悩むのも私らしくないと思います!」

 

そう言ってソファーから立ち上がるとボクに向けて宣言する。

 

「未来とまた仲良くしたい!未来と親友のままでいたい!だから、未来と話します!拒絶されるかもしれない、無視されるかもしれない。そんな考えで未来を遠ざけてしまったら、関係が修復出来ないと思います!だから全力でぶつかって行きます!」

 

大きな声で宣言する響。ボクはいつもの調子に戻って行く響を見て安堵する。

 

だが、

 

「響、そう言って貰ってボクは嬉しいけど…声のボリュームは少し落として欲しいな。このマンションは二課職員専用のマンションだから大丈夫だと思うけど、響の声が隣にまで聞こえていると思うよ」

 

響にそう言うと顔を赤らめて恥ずかしそうに隣の部屋に繋がっている壁を交互に見るとしおらしく先程座っていたソファーに腰を下ろして顔を手で覆ってしまう。それに追い討ちを掛ける様にお腹が空いていたのだろう。お腹から可愛らしい音が耳に入る。

 

「ッ!?」

 

さらに顔が赤くなって行く。確かにそろそろいい時間だし腹が鳴るのも仕方ないだろう。響は恥ずかしそうにボクの顔をチラッと確認してまた顔を手で隠した。

 

「お腹空いてるみたいだし、今日は家で食べて行くといいよ」

 

「…はい。ありがとうございます」

 

顔を隠したままそう言うとボクはスーツから着替えてから夕食の準備に取り掛かった。

 

夕食では響は物凄く美味しいと言って先程までの暗い表情とは一変して明るくなっている事に安堵するものの、響の食欲に少し唖然とした。最近の女子高生はここまで食べるのかと。翼が元気になったら弁当に不満がないか聞いてみる事にしよう。

 

夕食後、響を寮の近くまで送り届け、無事に帰ったら連絡をと言って別れた。直ぐに寮に着いたのか響からは無事帰ったと連絡が入ったのでボクも帰路に着いた。

 

マンションに帰った際、両隣の二課のメンバーが何でお前の家に立花さんがいたんだ!や、女子高生を家まで連れ込んだ野郎、マジで地獄に落ちればいい!と罵倒されたので誤解がないように説得した。

 

防音設備がしっかりいる場所と変な誤解をしない住人のとこへ引っ越ししようか考えるべきかもしれないと思ってしまった。

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