詳しい過去を知りたい人はゲーム、又はwikiで確認してください。
翼もようやく調子を取り戻し、未来も医師からの問題ないという事で二人は退院した。未来との関係をガンヴォルトの言うように、響らしく未来へ何度もアプローチを掛けようとしたが、未来とは最低限の会話で未来はそれ以上何も話す事を拒む様に無視をされて響の話を聞いてくれなかった。
そんな様子を見て未来と響を心配しに来る創世、弓美、詩織の三人組。退院してからの響と未来の様子があまりにも激変した事から野次馬などではなく、三人も心の底から二人の関係を心配している。響は自分と未来の問題である旨を伝えてなんとかするというが、三人の表情は晴れる事はない。
だが、少ないが響の事、性格を知っている三人はもう少しだけ待つからと言って、これ以上長引く様なら介入するという風に伝えてまた五人でフラワーというお好み焼き屋に行こうね、と激励をもらい、響は約束をした。
だが、その日は未来との会話を何度も試みたがやはり、未来は響の嘘を許せる事が出来ないのだろう。全くと言っていい程会話がなかった。
何の変化もないまま放課後となってしまった。未来も響を置いて既に帰っており、これから寮でならまだ話せると直ぐに荷物を纏めて帰路に着こうとした時、響のスマートフォンに一件のメールが入ってくる。
「今は未来と早く仲直りしないといけないのに…」
響はメールを確認する為にスマートフォンを取り出してメールの内容を確認する。
メールの差出人は弦十郎であり、ノイズの発生か定例会だと思っていたが、その内容を見て響は息を飲む。
【響君へ
今日なるべく二課に来て欲しい。
今まで聞けなかったガンヴォルトの過去を話してくれるそうだ。大事な用事があればまた今度ガンヴォルトの過去を纏めた報告書で確認してもらう事になる。ガンヴォルトは過去に対してあまり言いたくないと言っているから正直、後から聞くのも気が引ける。だからなるべく来て欲しい】
未来の事も大切だ。だが、ガンヴォルトの過去についても、何故ガンヴォルトがそういう生き方をしてきたのかを今直ぐにでも知りたい。
それに、
「ガンヴォルトさんが言っていた過去に体験した大切な人を失いそうになる気持ちを知っているのか知りたい」
今の響の様に大切な人を失う辛さ、そして裏切られた辛さを知っているのかを知りたかった。それに今の響にとって未来と仲直りをする為の切っ掛けが見つかるかもしれないと思った響は弦十郎に行く事を伝え、二課へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
「ガンヴォルト、お前の過去についてなんだが…本当に聞いても大丈夫なのか?」
弦十郎は心配そうに問いかける。
「話さないと皆納得はしてくれないだろうし、翼も退院したから話さないと思ってね。今まで隠していた事に後ろめたい気持ちもあるし、ずっと話さなかったボクも悪いから」
ボクはそう返して、弦十郎と共に二課の大半のメンバーが集まる大会議室へと向かう。
「お前がそういうのなら俺からは何も言わない。だが、お前がどんな過去を背負っていようと俺は決してお前を見放したりはしないからな」
「ありがとう、弦十郎」
ボクは弦十郎にお礼を言うとそのまま無言で大会議室へと向かう。大会議室へと入ると二課の大半のメンバーが集合していた。大半の理由は有事の際に誰かが控えていなければ対処に遅れる事もあるからだ。
近くには翼、慎次、了子、そしてあおいと朔也がいる。
まだ響が顔を見せていない為、しばらく待っていると息を切らせて響が入室してくる。
この場に全員が揃った事を目を配らせて確認する。そして弦十郎からいいぞと言われ、話を始める。
「まず、皆にこの事を伝えずに不安を募らせた事を謝罪します。すみませんでした。今から話す事はあまりにもボクの身勝手な理由で行ってきた事だから、軽蔑しても構わない」
そして頭を深く下げて、謝罪する。そして頭を上げて、ボクは現在に至るまでの事を。
「ボクが何故人を殺めていたか、それはボク同様の能力者の自由の為、そして能力者と無能力者の共存という偽りの平和を掲げていた企業、
ボクは最初に行っていた理由を述べた。だが、その事を聞いた何人からは戸惑いの声や批判が募る。それを代表して、あおいがボクに対して問う。
「貴方が何故人を殺めてきたかは分かったわ。でも、何でそこまでしなければならなかったの?貴方の勘違いや貴方の被害妄想とかじゃなかったの?それで何の罪もない人を殺めていたのなら大問題なのよ!」
最後の言葉には怒りが込み上げており、声を荒げて叫ぶ様に言った。
「間違いじゃないよ。
「ッ!?」
その言葉にあおい、そして先程まで批判を募った全員が驚き、口を閉ざす。
「ボク自身、この力…
「なんでそんな事をされたんですか?」
響がおずおずと聞き返す。
「ボクの持つ
「無限の可能性というのは?」
研究者として活動している了子がボクに問う。
「こちらの世界もそうだけど、電子技術の発達した世界において、この能力自体がどれだけ応用が効くかを
その言葉を聞き、了子は驚き、そして考え込んでしまう。
「確かに、貴方のような能力者が複数人いて、戦闘技術も貴方同様の力を持つ者が出るとしたら、その国だけじゃなく他国への恐怖としての象徴、そしているというだけで抑止力となる訳ね」
「了子の言う通りだよ。その為に
かつてのボクの様に、能力を無理やり使わされ、非人道な実験を受けてきた事を。
「ボクはそんな時にある人物に助けられた。それが、ボクが傭兵になる前に所属していた能力者達の自由を掲げ、
二課のメンバーからしたら突拍子のない事のオンパレードだと思う。それでもボクは話を続ける。フェザーに入隊してから様々な訓練を受け、
「そしてボクはある事がきっかけでフェザーから脱退する事になった。これは皆も知っているボクの探し人であるシアンが関係している」
かつて古参メンバー達に、そして奏に語った
「ボクはそれでフェザーを抜けた事を後悔しなかった。それでシアンの自由が手に入ったのならね」
その言葉に反応して近くにいた朔也がボクへと近付いて胸倉を掴んだ。
「お前はそれでいいのかよ!シアンさんが助かったのはいいけど、お前の意思はどうなんだよ!今まで戦ってきたお前の辛さは俺達みたいなその場にいなかった者には分からない…。それなのに何でお前は平気なんだよ!今まで一緒に仲間と戦って来たんだろ!同じ志で
朔也が怒りのままボクへと叫び続ける。
「別に辛くなかった訳じゃない。でも、ボクはボクの意思でそう望んだんだ。シアンの自由を。その事を後悔する事なんてボクにない」
「それでも!」
「別に組織の人間じゃなくなったからってその繋がりがなくなった訳じゃないよ。フェザーはボクとシアンの事を最大限にサポートはしてくれた。二課の様に」
そう言うと朔也は早とちりした事を恥ずかしそうにする。胸倉から手を離して悪かった、と言うと元の場所へと戻っていく。ボクは掴まれた影響でぐしゃぐしゃとなった襟を戻して話を再開する。
「それで、ボクはフェザーから除名はされたけどフェザーから傭兵として依頼をくれて、それをこなした。シアンの為に、能力者達の本当の自由の為に。例え、その行いが一般の人達からしたらテロ行為と言われようと」
そして、その後に行った任務、七宝剣と呼ばれる幹部との戦闘について。
ゲームの駒としてしか味方の兵士を思っておらず、味方共々ボクを殺しにかかって来た少年。皇神こそが正義と盲信し、シアンの力を無理矢理にでも使って国を守るという青年。シアンの事を思うあまり、無理矢理能力を使われるシアンの事をそれが正しいと思い、その状態のシアンに恋慕を寄せていた倒錯した感情を持った少年。戦う事こそが本懐と、言い分を聞かずに能力者を捕らえていた青年。皇神の職員すらもゾンビに変えてしまい、それを楽しむ様な様子で能力を使い、そしてその事を何も思わなかった多重人格の少女。皇神の薬物により正常な判断すら出来ず、敵味方など判別する事も出来なくなり、自分の欲求を満たす為に戦った青年。そして、能力者の事を化け物と罵り、殺そうとする無能力者の少年の事を。そして、宝剣の事も。
「…ガンヴォルトさんは…ガンヴォルトさんは話し合いで解決しようとはしなかったんですか?」
響の言葉にボクは答える。
「話し合いで解決出来れば良かったさ。でも、
響は間違っていると思っているのだろう。だけど、話し合いで解決が出来る程ボクのいた世界は穏やかではなかった。
「それでようやく敵の幹部を倒し終えた時、ボクの気の緩みのせいでシアンが拐われたんだ。それもボクがこの手で殺した能力者に」
その言葉に誰しもが驚く。
「待ってよ、何でそこで貴方が殺したはずの能力者が出てくるの?貴方は確実に能力者達を殺したんでしょ?」
了子が食い気味に聞いてくる。その目には驚きよりも好機の色が窺える。一瞬、話さない事を考えたが、ここで嘘を吐く事でさらに険悪に、そして疑いがかかる可能性を考えて本当の事を話す。
「後の事になるけど、さっき話した能力者の少女、その能力は死者をも復活させる事の出来る
「死者を愚弄するのか…皇神は…」
翼はかつてない程の怒りを浮かべ、そう呟く。その手は強く握り締めている為小刻みに震えている。
「話を戻すよ。それでボクは拐われたシアンを救出する為、その能力者を追った。だけどその能力者の力、
「不死の能力者…そんな者をどうやって?」
了子は自分の欲求を満たす為なのか、
「さっき話した無能力者の少年の手によって殺されたんだ。その少年が持っていた銃弾に特殊な
「
そう呟く了子。弦十郎からいい加減に話を進めさせてやれと睨まれてごめんねと言い、ボクは続ける。
「そして、ボクはその無能力者の少年と戦ってその少年を退けてシアンの救出に向かった」
何故殺さなかったのか、あの時のボクも膝を突いた少年にかまっている暇などなかったからボクは手を掛けずにシアンの救出を専念した。
「そして
「ちょっと待って、
「いいや、
翼の方に目を配らせる。翼にだけは本当の事を能力の事を話している為、黙っていてくれという意味で目を配らせる。翼は無言で頷き、黙ってくれる事を確認する。
「そしてボスもシアンの力を最大限に使い、彼自身の持つ宝剣の力でボクを倒す為に巨大な鎧を纏い、ボクを倒す為に死闘を繰り広げた」
巨大な鎧を纏う紫電。シアンの力を無理矢理使い、プロジェクトと称したシアンの自由を奪い、紫電の掲げる正義。思想の相容れぬボクと紫電。正義と悪。
ボクは
「それで良かったのか、ガンヴォルト?」
弦十郎がボクに問いかける。本当にこれが良かったのかと。確かに、傍から見たらボクは平和を乱した
それでも、
「誰かを犠牲にした正義なんてものに本当の和平は掴めない。だからボクは戦った」
弦十郎はそうかとだけ言うと、それ以上何も言わなかった。あまりの展開に他のメンバーも驚き、何も言わなかった。
「そしてボクはシアンの救出に成功して、シアンを連れて
最初は脱出の手助けに来てくれたと思った。しかし、アシモフが来ていたのは別の理由であった。
「アシモフは元々、
その言葉に誰もが息を飲む。ボクがやってきた行いは能力者の解放。そして本当の能力者と無能力者の平和の為だと思っていたからやってきた事なのに。
「結局アシモフのやろうとしていた事は
だからこそ、ボクは協力を促されたが拒絶した。そんなやり方を、
「そしてボクはアシモフの手によって殺されかけた。何故持っていたのか分からないけど、無能力者の少年が手にしていた、
その言葉に誰もが驚き、悲痛の表情を浮かべる。
「その弾丸にシアンも貫かれた所までがボクの覚えている記憶だよ。その後目を覚ますとこの世界になぜか来ていて、その後は皆が知るようにこの世界でノイズと戦い続けながらシアンを探している一人のエージェントになった」
話を終えて、ボクは一度大きく息を吐いた。その直後、ボクの頬に大きな衝撃が走る。
目の前には翼がおり、翼が平手打ちを喰らわせた。それを理解するまでしばらく時間がかかった。
「翼?」
「貴方は何でそんなに平気でいられるの!?信頼していた者に裏切られて、大切な人を傷付けられて何でそこまで平然としていられるの!?奏の時みたいに…私が倒れた時みたいに何であそこまで感情的にならないの!?」
翼は涙を流しながら叫ぶ。そしていつの間にか近付いていた響も少し怒りを孕ませながらボクに向かって叫んだ。
「そうです!何でガンヴォルトさんはそこまで平然としていられるんですか!?ガンヴォルトさんは裏切られる辛さも大切な人がいなくなる辛さも知っているって言っていたのに、何で!?」
「響まで…」
そして、あおい、朔也、弦十郎、慎次。それぞれの形でボクへと向けて何故そこまで気丈に振る舞うのか怒る。
「…別に気丈になんて振る舞ってない。ボクが生きているのならシアンもこうやって何処かで生きていると信じているから。それにこんなに年月が経とうと、アシモフが何故こんな事をしたのか聞かないといけないから。生きているからこそ、チャンスがあるから。アシモフが何故こうまでしたのか。問いただす機会があるから」
その言葉に誰もが何も言えなくなる。ボク自身も気丈に振る舞っている訳ではない。だけど、ボクはこうして生きている。シアンも必ず。ボクの中に宿る彼女の
「…ガンヴォルト。お前は何故そこまで信じられるんだよ…」
朔也がボクに問う。
「ボク自身と自分の事をこうまでしておいた人に何でここまでしたくなるのか分からない。でも、アシモフ自身がこうした事にも何か訳があるかもしれないからだよ」
そう言うと今度は近くにいた全員から平手打ちよりも酷く、尖ったような拳を腹に喰らわせられた。
「ガンヴォルト…隠していた貴方が悪いのよ」
「そうです。ガンヴォルト君。何で君がこんなに辛い経験をしているのに気付けなかった僕達も悪いと思いますが、それを話さずに背負い込んでいた君も悪いです」
「そうよ。私達は貴方と一緒に戦う仲間なのよ?それなのに辛い経験を一人で背負い込んでいるのに見放そうとしていた私達が寧ろ悪者みたいじゃない」
「ガンヴォルト…貴方は私達の事を信頼してくれて話してくれた事は嬉しいわ。でも、前にも言ったでしょ?苦しみ、悲しむ事があるなら防人の剣として払ってあげるって」
「そうですよ。殺す事が仕方なかったなんて事は私には分かりません。でも、そんな悲しい事をずっと一人で抱え込まないで下さい!私だって、一人の女の子の為にそこまで出来るような人じゃありません…それでも!ガンヴォルトさんの力にはなれるはずです!」
了子、慎次、あおい、翼、そして響がボクに対して一発ずつ入れてそう言った。そして弦十郎も近くに寄って、トレーニング同様、内臓が破裂しそうな程の一撃をボクの腹に打ち込む。
「ッ!?」
ボクは腹を抑えて膝を突く。
「ガンヴォルト!これはお前が悪いんだぞ!そんな辛い思いをしているのに…そんな経験をしていてあんな気丈に振る舞うお前が!大体、俺は言ったはずだぞ!俺達を頼れと!それなのになんだ、さっきの話は!聞かなかった我々も悪い部分もある!だが、そんな辛い経験を隠し続けていたお前にも非がある!そんなに我々が頼りないか!?」
「…弦…十郎…?」
ボクの胸倉を掴み、無理矢理立たせると言った。
「さっき言っただろ!お前がどんな経験をしていても見捨てはしないと!それに見ろ!今の話を聞いて、お前を見放そうとしているメンバーがこの中にいると思うか!?」
殺人とは悪い事だ。例えそれが一人の少女を救う為だとしても。だが、この中のメンバーは最初にあった軽蔑とは別の感情が目に見える。
「誰もお前を見放したりはしない!だから、もっと我々を頼れ!そんなに我々が不甲斐ないか!?」
その言葉に賛同するように各々がボクに対して今までの不満を爆発させるように一人一人の感情がこの場を支配する。
こんなにも皆を不安にしていたのかと改めて実感する。ボクも少し抱え込み過ぎていたのかもしれない。ここに信頼しているフェザーの時の仲間もいない。それでもこの世界にもボクの事をこんなにも信用してくれる人物達がいる。
「今まで隠してごめん…それとありがとう」
ボクは今出る精一杯の声を出して礼を述べる。
ようやく弦十郎も胸倉から手を離し、納得してくれる。
「信用してくれて…それにこんなボクを受け入れてくれて、皆…本当にありがとう。それで急にだけど一つお願いしてもいいかな?」
弦十郎はおう、とようやく素直になったボクが嬉しいのかにこやかに言う。
「さっき貰った一発が凄く効いて今にも倒れそうなんだけど…医務室に連れてってもらえないかな?もう、正直立っているのも厳しいんだ」
そう言ってボクは再び膝を突く。まともに食らった弦十郎の腹への一撃。さっきから腹がはち切れるような痛みが酷くなる一方だ。体の方も異変をようやく脳が理解したのか顔もみるみる青く染まっていく。
全員がその事に気付き、慌ててボクを医務室へと連れて行くのであった。