戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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未来は響の帰りを待つことなく、その日は就寝しようと考えていた。

 

未来も言い過ぎたと思っていたが、隠し事をしないと約束していたはずの響が許せなかった。信じていたのに。それも響は未来が探しているはずの人物をいつからか隠していた事に。

 

その事が許せなかった。探しているはずの人物を知っていたはずなのに、何も伝えず、響がその人と話し合っていた事が。

 

もしかしたら未来を助けてもらった人ではないのかもしれない。それでも響の事を信じていたのに何も話すことなく黙っていた事が許せなかった。

 

だが、今ではその怒りは何処かに身を潜め、一抹の不安と寂しさが未来にのしかかっていた。

 

黙っていた響が悪いと思う。だが、それでも響にも何か訳があって話せない理由があったのではないのか?

 

だが、それでもあの時の未来にはそんな事を考える余裕もなく、なぜ隠していたのか、そして響の纏っていた黒い何かの事も隠していたのかがその思考を邪魔していた。

 

もしこのまま響が未来の事を嫌いになり今までの様に笑い合った関係に戻れなくなる事を考えて未来は怖くなる。

 

あの時、もっと考える思考があれば。もっと優しく言う事が出来れば。

 

響も未来に対して気にしてないよ、という風に何度も話しかけてくれたのだが、未来にとってその行動が今までの事をさらに隠していると感じ、遠ざけてしまった。

 

響が今までの事を話さずにまた仲良くしたい事は分かる。誰にだって話せない事がある様に。当然、その事は未来自身もある為に響の気持ちが分かる。未来も響には政府の人間により話せない事があるから。

 

だが、その隠し事があの男性となると未来はどうしても感情を隠す事が出来なかった。何年も行方も正体も分からなかった人。

 

だから響には酷い言葉を、引き離す様な言葉を使ってしまった。今になって後悔している。

 

なんで響の話を聞こうとしなかったのか。何故あんな言葉しか出なかったのか。

 

いくら後悔してももう遅いかもしれない。その証拠にもう門限の時間が過ぎているのに響が帰ってきておらず、連絡も先に寝ててという短い文だけで送られてきたメール。

 

響も同様に今日の最低限の会話しかしてこなかったせいで怒ってこの様な文を送ってきたのかもしれない。

 

未来は怖くなる。今までの思い出が色褪せていく事が。大切な親友がいなくなる事が。

 

「…一人は寂しいよ…響」

 

溢れ出した感情。だが、そこには今まで何かあれば直ぐに心配してくれる親友の姿も、自分を陽だまりと呼んでくれる太陽の存在もありはしなかった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

ボクは昨日の一件で何かと二課のメンバーから少し過保護になるくらい心配される様にはなったが、元の様に接してくれる様になった事に安堵した。

 

だが、日が登って直ぐに人気の無い地域にてノイズの出現があった為、ボクは現場へと急行していた。

 

だが、ノイズの現れた現場に着くと誰かが既にノイズを粗方片付けている様でボクは残っていたノイズの掃討をする。

 

「弦十郎」

 

『分かっている。お前に出撃してもらった後に急にノイズの反応が減っていった。ノイズはお前の様な能力者かシンフォギア装者しか倒す事が出来ない。翼と響君にはまだ連絡を入れていない。となるとノイズと共に出現したパターンを解析しなくても分かる。イチイバルの装者、あの子がやったんだろう』

 

弦十郎の言葉はボクの考えていた事と同じ事であった。

 

「それしか考えられない…。雪音クリスはフィーネとは決別したと考えられる。となると雪音クリスも既に敵と認識されていると思う」

 

『ああ。そう考えるのが妥当だろう』

 

そうなるとクリスの身が危ない可能性が高くなる。見放され、情報を持ったクリスはフィーネにとって最初に排除しなければならない対象となるからだ。

 

「早くしないといけない。弦十郎、ノイズ達を掃討したら捜索部隊の派遣を頼んだよ」

 

『分かっている。くれぐれも無茶するなよ』

 

ボクはその言葉に了解と返し、再び残ったノイズの出現位置へと向かう。

 

「…無事でいてくれ…雪音クリス…」

 

◇◇◇◇◇◇

 

未来は目を覚ますと、ベッドに今まであった温もりがない事に寂しさを覚えながら目を覚ます。二段ベッドの下の段には未来が眠った後に帰ってきたのだろう、少し悲しそうな表情で眠りにつく親友の姿があった。

 

響も遠慮して今日は一緒に眠る事はせずに空いたベッドで寝たのだろう。深い眠りにつく響。だが、その響の表情は共に寝ていた時の様な安心した表情などではなく、寂しそうに、そして悲しそうな寝顔。

 

未来はその表情を見て後悔もした。そして響を起こして、また話し合おうとする事が出来ないと思ってしまった。

 

あんなに酷い事を言ったのにどう響に接すればいいのだろうか。未来は響へと書き置きだけを残して、直ぐに身支度を整えて部屋を出た。

 

まだ学校に行くには早い時間。未来は学校にそのまま行く事を考えず、当てもなく街を彷徨い続ける。

 

今は何も考えず、ただ行き交う人々の波に流れながら未来は歩く。

 

流されるまま行き、ふと路地の方で苦しそうな息遣いに気付いた。気になった未来は路地をそっと覗く。

 

人気の無い路地。お店が設置している様な青いポリエチレンのゴミ箱。そして、その奥に見える人足を見て未来は驚き、駆け寄った。

 

そこに倒れる様に壁に背を預けて息を切らせた同年代くらいの少女が辛そうにしていた。

 

「だ、誰だ…ッ!?」

 

少女は未来を見るなり驚き、立ち上がろうとするが、足元が覚束なく、その場に倒れ込んでしまう。

 

「だ、大丈夫!?」

 

未来は慌てて駆け寄り、少女に肩を貸す。

 

「やめろ!」

 

少女はそう叫んで未来を振り払おうとするがそんな力もないのか、未来を振り払えない。

 

「私に構うなよ!私はお前に…」

 

「そんな状態で何言ってるの!」

 

未来は少女が何故拒絶したか分からない。だが、この少女を放っておいてはダメだ。そう思った。未来は力なく暴れる少女の肩を貸して立たせる。

 

「本当に…お前等はなんなんだよ…なんで私に…」

 

少女はそう言うと力が抜けて未来に身体を委ねたのか、気を失ってしまった。未来は、そんな少女の状態を確認する。

 

先程の様に気を失って息を荒げている。熱を確認して少女のおでこに手を当て、体温を確認すると自分よりも体温が高く、風邪をひいている可能性がある。

 

未来はその少女を肩を貸し、立たせると近くの安静に出来る場所に向かった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

ノイズを掃討したボクはクリスの行方を追っていた。あちこちにあるノイズの残骸には目もくれず、ボク自身の倒したノイズ以外の痕跡を追い続けた。

 

だが、クリスの痕跡は残っておらず、捜索は難航していた。唯一、分かったと言えばノイズ達の街への侵攻を食い止めていた事。

 

その証拠に街へと向かう沢山のノイズの残骸が多く見られた。クリスが何故、街へと向かうノイズを食い止めていたかは分からない。

 

でも、クリス自身が助けた響に何の危害も加えなかった様に関係のない人間まで巻き添えにする事を拒んでいるのかもしれない。

 

理由が分からないにしろ、クリス自身、今までの襲撃の様に人を巻き込まない配慮をしていたのではないだろうかという考えに行き着く。

 

クリスの言っていた争いのない世界。それの意味を何となくだが理解した。

 

争いを生む危険な思想を持つ者を駆逐して、力なき者を救おうとする事。

 

かつてボクが望んでいた和平とも似た考え。共存を謳った皇神をなくし、能力者と無能力者の差別がなくなった明るい未来を。

 

だが、クリスもボク同様に利用されて同じ窮地に立たされている。

 

だからこそボクは同じ過ち、同じ境遇にあって欲しくない。クリスを救いたい。その気持ちを原動力にクリスを捜索し続ける。

 

かつての自分を見ている様で、見捨てる事が出来なかった。あんな過ち、そしてあんな経験をして欲しくない。

 

ボクはクリスの無事を願い、捜索を続ける。

 

もうあんな経験をする人間が出ないように。

 

◇◇◇◇◇◇

 

クリスが目を覚ますとそこは知らない天井で、見慣れない、いや、自分が傷付けてしまった関係のない少女の姿があった。

 

何故、自分がこんな所で眠りについていた?何故、見ず知らず、いやネフシュタンの鎧で顔は見られていないかもしれないが傷付けてしまった少女が看病しているのかと頭に色々な情報が入ってくるが、今必要な情報のみを整理して、その少女から離れるよう身体を起き上がらせる。

 

「なんで私を助けた!?あそこで放っておいたらよかっただろ!?」

 

クリスは少女から離れるように辺りを確認して近くにあった壁に背をつけて問いただす。

 

少女は急に起き上がったクリスに驚きはしたものの、直ぐに顔を赤らめて目を逸らした事に違和感を覚える。

 

「なんだよ!何か言いたい事があるなら言えばいいだろ!」

 

「え、えっと…急に立ち上がってそんな警戒すると…その…」

 

何か言い籠る少女。それにムカついてしまい、クリスは少女に問いただす。

 

「どもってないで何か言ったらどうなんだ!」

 

突き放すような言い方だが、関係のない少女を巻き込んでしまった。だからこそ、クリスは少女に関係を持たないように言い放った。

 

「そんな態勢になるとお…」

 

少女は少し言い吃ると意を決したように言った。

 

「女の子の大切な場所が隠れていないよ!女の子なんだから、少しは同性だとしても恥じらいを持って!」

 

最初は意味の分からない発言であった。だが、今の自分の姿を見て理解する。

 

今まで着ていた服装ではなく、少女の私物なのだろうか、小日向と書かれた体操着を着せられ、その下に着ていたはずの下着すら剥ぎ取られたのだろう、何もつけていなかった。

 

警戒していた感情より、羞恥心が勝った。見ず知らずという訳ではないが、クリスにとって何故この姿になっているのかは分からないが、体操着を着ているのに何も着けていない事に気が付き、顔を赤くして、直ぐにその場に戻り、布団を乱雑に取り、包まった。

 

「な、なんで私はこんな格好になっているんだよ!?」

 

今の状況を理解出来ないクリスは目の前にいる少女に問いただす。

 

「そ、その…あの格好だと汗とかで体調が悪化しそうだったのと、下着の替えなんて持っていなかったから…ごめんね」

 

「ッ…こっちこそ助けてくれたのに怒鳴って悪かったよ…」

 

クリスはあの女の子同様に何故見返りもなく助けてくれた事に困惑したが素直に礼を述べる。

 

「貴方はなんであんな所で辛そうにしていたの?」

 

少女から掛けられた言葉。クリスを何故か少女は心配するような目でこちらを見ている。昨日の女の子と同様、何故クリスと出会った人達はなんの接点もないのに手を差し伸べようとするのか。少女は気付いてはいないが、あの時、傷付けてしまったクリスに対して。

 

何故だか分からない。しかし、クリスは気が付けば少女に対して吐露していた。

 

同じ志を持った人に見放され、裏切られた事を。一人、当てもなく彷徨っていた事。

 

目の前にいる少女への贖罪なのだろうか、聖遺物やノイズの事は伏せて、今までの事、当てもなくただ彷徨っていた事を話した。

 

少女はクリスの話に耳を傾けて聞いてくれた。クリスも話す事により、少しばかり、今まで戦いや二課の連中から逃げていた時のように張り詰めていた気が緩み、少しだけ楽になった。

 

少女はクリスの話を聞いて何処か思う所があったのか少し深刻そうな表情をする。

 

「なんでお前がそんな顔するんだよ…」

 

クリスは困惑しながらも少女に言った。

 

「…貴方が体験してきた事程でもないけど、私も貴方を傷付けてしまった人と同じ事をしているから…」

 

そして、クリスは助けてもらったのにこんな辛そうにしている少女を放っておく事が出来ず、少女同様に問い返した。

 

「聞いてもらってばっかだったし、お前も話せよ。私も話したら少し気が楽になったし、よく分からないけど、相談に乗る事くらいは出来るからさ」

 

クリスは少女に向けてそう言った。少女は少し困惑したが、話してくれた。

 

少女には親友がいて、親友が重要な事を隠していた事を。それが原因で親友との仲に亀裂が入ってしまった事。親友は関係を修復しようとしているのだが、少女がその事を許す事が出来ず、突き放してしまった事を。

 

少女の目には涙が溜まっている。クリスはどうすればいいか分からない。両親と死別してから一人で生きてきたクリスにとって人を慰める方法なんて分からない。だが、クリスに出来るアドバイスはフィーネから教わった痛みによる繋がり。だが、今となってはこのやり方すら正しいのかも分からない。

 

「相談に乗るって言っておいて、何も言わないのも酷いから言うが、お前はどうしたいんだよ?」

 

「私は…」

 

少女は考えているのか迷っているのか言い淀む。クリスはその行動に呆れと苛ついてしまい、怒鳴った。

 

「そんなんだから、そうなんだよ!言いたい事があればはっきり言えばいいんだよ!それが出来ないならそいつをぶっ飛ばして自分の気持ちを伝えるしかないんだよ」

 

突然の声に、少女は驚きはしたが、その乱暴な解決策に無理だと言った。

 

「無理だよ、そんな事!」

 

「無理、無理否定ばっかしてるから踏み出せないんだ。そういう時はどんな行動も勢いが大事だ」

 

「でも、その行動でまた…」

 

言い淀む少女に苛々を募らせる。クリスは知っている。少女の親友がどんな人物なのかを。どれだけ自分が酷い事をしてきた事にも関わらず手を差し出し、助けようとした響の事を。だからクリスは少女に言う。

 

「私は親友、それどころか親しい友人さえいないからこれが正しいなんて分からない。でも、そいつはそんな事で親友を辞めるような奴なのか?そんな奴、親友でもなんでもないだろ」

 

クリスの言葉に少女は困惑する。だが、何処か先程よりも深刻そうな表情は収まっている。

 

「ありがとう。私にはそこまで出来る自信はないけど楽になった」

 

少女はそう言うと今度は手を差し伸べてくる。

 

「相談に乗ってくれてありがとう、それと友達になって下さい」

 

今度はクリスの方が少女の言葉に困惑する。何故、傷付けてしまった少女は手を差し伸べるのだろうか。

 

「な、なんで私なんだよ…お前みたいな奴なら私なんかよりも」

 

「貴方なんかじゃないよ。貴方だから友達になりたいの。理由がそれだけじゃダメかな?」

 

クリスはますます困惑した。だが、こんな自分でも認めてくれる、そして対等に接してくれる少女に惹かれてしまう。気付けばその少女の手を掴もうとしていた。だが傷付けた事を負い目に感じ、戸惑ってしまう。

 

本当に友達になっていいのか?信用してもいいのか。クリスは戸惑う。だが、少女の目に移る自分は縋るように助けを求めている表情をしていた。

 

「大丈夫。私は貴方の味方だから」

 

その言葉にクリスは少女の手を掴んだ。この子は大丈夫。絶対に裏切らないと直感したから。

 

「友達に貴方って言われるのも嫌だ。私には雪音クリスって言う名前がある…」

 

「クリス…よろしくねクリス。私は小日向未来」

 

掛けられた言葉に込められた暖かさ。クリスはその暖かさを久しぶりに感じ、何処か安心する。この少女、未来の言葉からは生前の両親と同じ暖かさを感じた。

 

そんな中、未来の後ろでハンカチを目に当てて涙を溢れさせる女性がいた事に気付いた。女性もクリスが気付いた事にもう隠れても無駄と思ったのか部屋に入ってくる。

 

「ごめんね。お嬢ちゃんの服が乾いたから持ってきたんだけど、結構重要な話をしてたから。若い子の話を勝手に聞くのも申し訳ないと思ったけど、こんなドラマみたいな青春見せられたらおばちゃん涙腺が緩くなったみたいで」

 

そう言って畳まれたクリスの服を置くとクリスに向けて言う。

 

「よかったわね。こんな良い友達が出来て。それと何かあったらおばちゃんも力になるからいつでも来ていいからね」

 

野次馬のような女性であるが、暖かい言葉にクリスは安心してしまう。こんなにあったかい場所があったのかと今の自分でも受け入れてくれる人達がいる事にクリスは気付ば涙を流していた。

 

「クリス!?」

 

未来が心配そうに声を掛けるがなんでもない、ゴミが入っただけと答えた。そして涙を拭う。

 

守りたい。そしてクリスの望んでいた世界には友達になってくれた未来や目の前にいる女性のような人達が必要だから。あの時手を差し伸べてくれ女の子もそうだ。このような人達をなくしてはならない。

 

だからこそ、やらなきゃいけない。本当の平和を作り上げる為。争いのない世界を作り上げる為に。

 

だが、その誓いを試そうとするようにクリスが女性から受け取った元の服装へと着替え終わると同時に響き渡る警告音。

 

クリスは何か分からなかったが二人は直ぐに何なのか理解してクリスを連れて外へ出た。

 

「なんなんだよ、この音は!?」

 

「ノイズが現れたのよ!早く逃げないと!」

 

その言葉にこの騒ぎはフィーネによって仕組まれた事だと気付き、クリスは激怒する。

 

また関係のない奴を巻き込むつもりか、差し伸べてくれる優しい人達を消していくつもりか。クリスはもうフィーネにどう思われてもいい。未来のように、この女性のように心優しい人達がいるのにそれすらも消すつもりのフィーネに敵意を表す。

 

「あんたらは逃げてろ!私がなんとかして見せる!」

 

「クリス!?」

 

クリスは未来の静止も聞かず走る。守る為に、こんな悲劇に二人を巻き込まない為に。

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