二人から離れたクリスは今の街の状況を見て悔やんだ。自分がやってきた行い。それが今のような結末を生んでしまった事を。
響を捕らえたとしても多分、フィーネはこのような事をしでかしていただろう。だからこそ後悔する。自分が今までやろうとしていた事により、どれだけの関係のない人々に犠牲が出ていた事に。
「なんで私はこんな事にも気付けなかったんだ…こんな事の為に私は…あいつが言っていた事が正しかったのか…」
不意に浮かんだ敵対する男の姿。男は力では変えられない。その事を知っていて、こうなる事が分かっていた素振りであった。
関係のない人々を巻き込んでまでしたくない。だが、クリスのそんな思惑は初めから存在しない事に気付いた。自分が行ってしまったとんでもない過ちを悔いる。
「私が…私がやってきた事は…全部間違いだったのかよ…」
起きている惨状にクリスは涙を流す。全ては何の疑いもなくフィーネに加担してきた自分の責任。そして、今までの出来事の裏を何も知らなかった自分の責任。
気が付けば辺りには標的がいなくなった事で彷徨い続けていたノイズがクリスの辺りを取り囲む。
クリスは涙を拭い、取り囲むノイズへと啖呵を切った。
「そうだ…お前達の獲物は目の前にいる…だから関係のない奴に手を出すな!」
クリスの啖呵と同時に一斉にノイズが襲い掛かる。クリスは避けながらも聖詠を口にする。
だが、漂う炭の粉が喉に入り、咳き込んでしまった。ノイズにとって絶好のチャンスであり、それを見逃すような事もせずクリスへと襲い掛かる。
「しまっ…」
既に目の前に迫っていた。だが襲い掛かるノイズとクリスの間に誰かが立ち塞がると同時に蒼い雷で作られた膜を出現させた。
膜に当たるとノイズは身体全体に蒼き雷が迸ると炭へと変わっていった。
「お前は!?」
「間に合ったみたいでよかった」
クリスの目の前に現れたのは敵対しているはずの男、ガンヴォルトの姿があった。
◇◇◇◇◇◇
今朝のノイズ出現後、ボクは他のエージェントと共に雪音クリスの捜索を行なっていた。
ノイズを掃討したボクは戦闘服のままの為に市街での捜索は出来なかった為、人のいないと思われる廃墟などの特定の場所などの捜索を行なっていた。
街にいる可能性も高いが、そこから離れて身を隠している可能性もなくはなかった為、ボクはテロリストよりも早くクリスの捜索を行った。
だが何の進展もなく、他のエージェント達の捜索も完全に空振りと来ている。
既にテロリストに捕まったという最悪の可能性が頭に過ぎる。だが、その考えを振り払い、捜索に専念する。
だがそれを遮るかのように通信端末から通信が入る。
『ガンヴォルト!今朝に続き、ノイズが出現した。場所は市街地だ!避難誘導は一課、それにエージェント達が既に行っている!翼と響君にも通達するがいかんせん今回のノイズの出現場所が少し学院から離れている!最も近いのがガンヴォルト、お前しかいない!直ぐに現場に向かってくれ!』
「分かった。現地に急行するからノイズの出現ポイントを端末に送って」
そう言うと直ぐにボクの端末にノイズの出現ポイントが表示される。場所を確認した瞬間に生体電流を活性化させて駆ける。
廃墟の壁を蹴り上がり、屋上まで辿り着くとビルを飛び、ノイズの出現ポイントへと急ぐ。
そして市街地へと入り、彷徨うノイズが標的を見つけた事によりボクに襲い掛かるが、雷撃鱗を展開して退ける。
そうこうしているとノイズがある一点に集まっているのを確認した。ボクはそこに向けてビルやマンションの屋上を飛び、直ぐに向かう。
そしてその中心にいる人物を確認して驚く。
中心にいたのはクリスであり、探していた人物である。そしてクリスはノイズの中心におり、ノイズはクリスに標的を絞っている。
ボクはさらにスピードを上げてその中心に駆け出した。今のクリスはシンフォギアを纏っておらず生身である。危険であり、シンフォギアを纏う為の聖詠が間に合わない最悪の可能性が過り、走る。
また救えない。奏の時のように間に合わない事なんて絶対に。
最速で、最短で、全力で。
そしてクリスがなんとか堪えてくれたおかげでボクは間に合う事が出来た。直ぐ様雷撃鱗を展開してクリスを襲っていたノイズを全て片付ける。
「お前は!?」
「間に合ったみたいでよかった」
間に合った。その事に安堵する。そしてクリスは突如現れたボクに驚いている。
とにかく今はクリスの救出と安全を確保する為、クリスを抱えて、ノイズに囲まれた地点から離脱する。
クリスは突然抱えられた事に驚いたのか抵抗している。だが、クリスは現状を理解し空中で落とされたら危ない事を悟ったのか暴れなくなった。
近くのビルの壁を蹴り上がり、クリスを下ろす。
「よかった、今度は間に合った」
ボクはクリスを助けられてあの時のように失う事もなく助けられた事を本当に良かったと思う。
「な、なんで私を助けたんだ!私とお前は敵だろ!なんで助けた!」
クリスはボクから離れながら言い放つ。
「ボクは君を敵なんて思っていない。助けたいから助けた」
クリスはその言葉を意味が分からないと頭を掻き毟る。ボクはそんなクリスの背後から襲い掛かろうとする。
ダートリーダーをノイズに向けて構え、
「ッ!?」
いきなりの行動にクリスは身構えたが、自身がノイズに狙われていた事を悟った。
「Killter Ichaival tron」
直ぐに聖詠を歌い、シンフォギアを纏った。
「…助けた事は感謝するが、私は今のお前を信用しない!絶対にだ!」
未だ拒絶される。だが、それでもいい。いつかクリスは分かってくれる。根拠のない思いだが、今はそれでいいと思ってしまう。
奏の時のように、ボクではなく、翼でも響でもいい。必ずクリスが心から信頼する人がいれば。だからボクはクリスに向けて何も言わなかった。
だが、
「信用して欲しきゃ、助けろよ!今、この場のノイズに襲われている関係のない奴を!こんな私に手を差し伸ばしてくれた奴等を!そしたらお前の事をほんの少しだけ信用してやる!」
そう言うとクリスはノイズが蔓延る街に向けて飛び去って行った。
「ッ!?…待つんだ!」
だがクリスを追おうとするボクの前にノイズが立ち塞がる。この場にいたクリスがいなくなった事によりこの場のノイズがボクに標的を移して周囲を取り囲んでいたからだ。
「お前達に構っている暇なんてない!」
そう呟くと同時にボクは言葉を紡ぐ。
「閃く雷光は反逆の導、轟く雷光は血潮の証、貫く雷撃こそは万物の理」
紡ぐ言葉に呼応して迸る雷撃は鎖となり、周囲のノイズを貫き、絡めとる。
「迸れ!
鎖に雷撃が迸り、周囲にいたノイズが全て炭の塊となる。
ボクは駆け出したクリスが向かった先に。ノイズが蔓延る街の中心に。
「信用してくれるのはいいけど、君が無事じゃなかったら意味がないんだ」
ボクの呟きは誰にも聞かれる事なく、静かに消えていった。
◇◇◇◇◇◇
響はいつも通り起床したが、未来の姿が見えず、本当に嫌われてしまったと悲しみに暮れるが、机に残る未来が書いた書き置きを見て、まだ希望があると少しだけ元気が出た。
急いで着替え、学校に向かった。
だが、学校には未来は来ておらず、弓美、創世、詩織にも未来を今日は見ていないと言われて心配する。
真面目な未来が何の連絡もなく学校に来ていない。もしかしたら、事後報告ではあったが、ガンヴォルトが対処したノイズの襲撃に巻き込まれてしまったという最悪の考えが浮かんだ。
その考えを振り払おうとしたが、振り払う事が出来ず、授業も上の空で何度も先生に注意された。その事で三人にも心配されたが、その事が言えず、未来がいないからとだけ答えた。
三人もその事で授業を抜けて探す事を提案してくるが、ノイズが関わっている可能性がある以上巻き込みたくない。
そんな話をしている最中にスマホに弦十郎からノイズの発生を告げるメールが入り、響は教室から飛び出した。
響は弦十郎に向けて連絡を入れる。
「師匠!どんな状況ですか!」
『現在、市街地にノイズが出現している!付近にいたガンヴォルトに対応してもらっているがいかんせんノイズの出現範囲が広過ぎる!翼にも既に連絡済みだ!急いで現場に向かってくれ!』
弦十郎の言葉に了解と答え、気になっていた事を確認する。
「師匠!確認したいんですが、早朝のノイズの出現の時に被害にあった方はいますか!?」
『何故今そんな事を?』
「未来が…親友が巻き込まれている可能性があるんです!」
『なんだと!?』
弦十郎は他のオペレーター達に今朝のノイズによる被害状況を確認してくれた。
『響君。早朝のノイズの被害はガンヴォルトが抑えて建物以外被害はない。君の親友は巻き込まれていない』
それを聞いた響は最悪の事態が起きていない事を知り、安堵して、直ぐに現場に向かう事を告げ、通話を切った。
まだ未来は無事。だが、学校にいなかった未来は街にいる可能性がある。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
響は聖詠を歌い、シンフォギアを纏うと街へと高速で移動した。街の皆を救う為。親友を救う為に。