了子は街から離れた屋敷の中に備え付けられていた機械を使い、ディスプレイに映し出されているデータを確認してはデータを自身の持って来ていた大容量記憶デバイスの中に移していく。
映し出されているデータは二課で行なっていた解析や調査などより推考な聖遺物に関するものであった。
「全く、二課の仕事のせいでやるべき事を後回しにし過ぎたわ。アッシュボルトは既にここに気付いている筈だからいつこの場を襲撃してくるか分からないし」
そう呟くと同時に了子のいる室内に窓や扉を破ってアッシュボルトが率いているテロリストの部隊が突入して来た。
「ッ!?いつの間にこの場所に!監視カメラには何も映っていなかったはず!?」
「その認識が命取りになるんだ、フィーネ」
テロリストが付けている無線から発せられた声に了子、いや、フィーネはそちらを睨む。
「アッシュボルト!」
「監視カメラ、しかも性能が低いこんなものなど私にかかればハッキングなど容易い。まあ、そんな事はどうでもいいだろう。宣言通り、貴様の持つソロモンの杖の回収に来た。返してもらおうか?」
テロリストの無線からボイスチェンジャーで変声された声に苛つきを覚えるフィーネ。
「取り返しに来たのなら何故お前は姿を現さない、アッシュボルト」
「何、私は用があって国外にいるのでな。私がご指名なら私の持つそこの最後の部隊を全員片付けて逃げれたのならば、日を改めて殺してでもソロモンの杖の回収の為に向かうさ」
この場にいない為か、高みの見物なのか分からないがフィーネはアッシュボルトのこの物言いは気に入らない。
「さて、お喋りもここまででいいだろう。
アッシュボルトが無線越しに命令を出すとテロリスト達は各々が持つ銃をフィーネに向けて一斉に射撃を始めた。
「アッシュボルトォ!」
フィーネは叫ぶと同時に銃弾の雨が襲い掛かり、身体中に穴を穿とうとした。
だが、フィーネは手を翳すと紫色の光が出現して、襲い掛かる銃弾を全て防ぎ切った。
「貴様等も生きて帰れると思わない事だ」
そう言うとフィーネはもう片方の腕を上空に翳すともう一度紫色の光が展開され、この建物一帯を全て包み込んだ。
そして茶色であった髪が金色に変色すると同時に、フィーネの身体にはいつの間にか白衣ではなく、金色の鎧を纏っていた。
その鎧はかつてクリスの纏っていたものと同じものであったが、装備した者に合わせて形を変える様に、フィーネに合った形状へと変化している。
一瞬の出来事にテロリスト達は戸惑いはしたが直ぐに、フィーネに向けて再び発砲を開始する。
フィーネは今度は腕を翳して先程の様にガードする事もせずにそのままの状態で銃弾を受けた。
受けた弾丸はフィーネを貫通するどころか、当たった瞬間に、鋼鉄に当たったが如く、弾が潰れ、フィーネの身体に傷付ける事すら出来ていなかった。
だが、それでも尚、フィーネに向けて銃弾を撃ち続けるテロリスト達。
「皆殺しだ」
フィーネはそう呟くと同時に鎖の様なものを振るい、テロリストの一人の身体を貫いた。
身体を貫かれたテロリストは血反吐を吐きながらも、攻撃を続けようとしたが、フィーネは身体を貫かれたテロリストごと鎖を振って周囲に群がるテロリスト達を薙いだ。躱す者もいたが、それも数人のみで他は鎖と共に壁へと叩きつけられて、血反吐を吐いて完全に動かなくなってしまう。
完全聖遺物と現代兵器。その差はこの惨状を見てどちらが有利なのかなど言うまでもなく、圧倒的であった。
銃が無駄だと判断した数人が声を上げて再び隊列を組むと、フィーネに向けて発砲を再び再開した。
それと同時に、再度数名のテロリスト達が部屋に侵入してくる。
その手にはRPGが握られており、それを構えるとフィーネに向けて直ぐ様撃ち出す。
だが、フィーネはそれを気にする事もなく、手を弾頭に合わせて構えるだけで、そのまま直撃する。
大きな爆発がこの場を反響する。爆発により煙が広い部屋に充満する。だが、テロリスト達はRPGを再装填して再びフィーネが立っていた位置に向けて再び発射させた。
テロリスト達も銃弾を撃っても傷一つ付かなかった相手がこの一撃で仕留められると考えるなど毛頭なかった。
全てを撃ち切って尚、煙の中に向けて銃弾を撃ち続けるテロリスト達。
そして銃弾を全て撃ち尽くした後は胸元のケースにしまっていたナイフを取り出して構えた。
そして煙が晴れるとそこには依然として傷一つなく佇むフィーネの姿があった。
「これで終わりか?」
そう言うとテロリスト達は狼狽などせず、ナイフを構えながら、フィーネに向けて接近戦を始める。
だが、振り抜かれる鋭利な刃すらもフィーネの纏う鎧、そして身体には傷を付けることなく、刀身が砕けて折れた。
「無駄な事を」
そう呟いてフィーネは襲い掛かって来た全てのテロリストを手刀で貫き、絶命させていく。
最後のテロリストを倒し終えたフィーネは貫いたテロリストの一人へと近付き、無線へと手を掛ける。
「残念だったな、アッシュボルト。貴様の駒は全て倒した」
「それは本当に残念だ」
無線越しの声からは結果に対してなんとも思っていない風なアッシュボルトの声が聞こえて来る。
「だが、それで終わりだと勘違いしては困るな、フィーネ」
無線越しにアッシュボルトの声が響くと同時に、無線を付けていた死体が爆発して肉片と焦げた肉の匂い、そして赤黒い煙が周囲に充満し始める。
「下衆が!」
フィーネがそう叫ぶ。それと同時にフィーネはこれまでに味わった事のない倦怠感に襲われる。
「これは!?」
フィーネが感じた不快感。その正体を瞬時に理解する。何故ならそれはフィーネが以前ノイズの調査の際に感じた存在と全く同一のものであったからだ。
Anti_LiNKER。それは聖遺物を纏うシンフォギア装者の適合率を下げる物。だが、今回のものはそれとは別に改良されているのか、完全聖遺物にも作用している。
それと同時に聞こえる、複数の発砲音。そしてフィーネの脇腹に衝撃、そして衝撃を受けた場所に痛みと熱さを覚え、その場所に視線を移す。
鎧を纏ったその場所は何かによってネフシュタンの鎧が砕かれ、血が吹き出していた。
「くっ!?」
フィーネは痛みを堪え、次に発砲音の聞こえた方向に視線を移すと、腹に穴を開けられながらも、銃をこちらに構えたテロリストがいた。
痛みにより狙いが定まっていなかった為か、一発のみ被弾して、残りはあらぬ方向に飛んだのだろう。テロリストは血反吐を吐きながらも、リロードの完了した銃をフィーネに既に構えており、フィーネを倒そうと狙いを定めて引き金に指を添えていた。
「アッシュボルトォォ!!」
フィーネが叫ぶと同時にテロリストの持つ銃口からマズルフラッシュが煌めいた。
◇◇◇◇◇◇
ボクと弦十郎、その他のエージェントは突き止める事の出来たフィーネのアジトへと赴き、街外れの屋敷に訪れていた。
「弦十郎、ここから先はボクが先導する。近隣住民から警察の方に爆発音や銃声の様なものが聞こえたと連絡が入っているみたいだ。もしかしたら、クリスがフィーネ、もしくはテロリストと戦闘になっていた可能性もある」
拘留されている間、世話になった弦十郎の同僚から連絡があった為、ボク等は急いでこの場所に来た。現在は風により揺れる木の葉の音のみと静寂に包まれており、綺麗な屋敷も何処となく不気味な雰囲気を纏っている。
「分かった」
弦十郎は他のエージェントにもその事を伝えるとボクは屋敷の扉へと近付いて行く。扉に手を掛けて開けると同時に鼻につく火薬と僅かながらの血の匂いと肉が焦げた様な匂い。
戦闘がこの場であったのだろう。ボクは内部の安全を確認しようと中に入る。
それと同時に目に入る、夥しい量の血痕。そしてテロリスト達の死体。そして共通する、何かに切り裂かれたり、貫かれた形跡。ナイフの様なもので切り裂かれた様なものだったり、太いパイプの様なもので貫かれたようなものだったりと、殺害方法が疎らだ。
「弦十郎、突入するのは待ってくれ。テロリストの死体だけだけど、二年前同様にまた爆弾が仕掛けられている可能性がある」
ボクは扉の外で待機する弦十郎達に無線で声を掛けて入る事を禁ずる。
テロリストに近付かない様に調査を続けているとある部屋の前で誰かの息遣いが聞こえて来た。
その部屋は僅かに扉が開いており、その隙間から内部の様子を窺うと、クリスが部屋の中で撒き散らされた夥しい量の血痕とテロリスト達の死体の山を目にして立ち尽くしていた。
「何故君がここに!?」
思わず、声を出して部屋に侵入する。部屋の中は入り口付近より更に酷く、壁面には血がこびり付き、爆発でもあったのであろうか、周囲に所々焦げてあったり、砕けていたりしている。
「な、なんでお前がここに!?」
そして、周囲の死体を見ていたボクへ向けて否定する。
「わ、私じゃない!私が来た時にはこうなっていたんだ!こんな酷い事私がしたんじゃ…」
後退りながら否定するクリス。だがその周囲にはテロリストの死体があり、ボクはそのままクリスに駆け出した。
「ッ!?」
急に走り出したボクに驚き、後退りながら死体に足がぶつかり、そのまま尻餅をつく。素早くクリスの近くに辿り着くとテロリストの死体からクリスを抱き離れて雷撃鱗を展開する。
それと同時にテロリストの身体が膨らんで爆発した。それに合わせて近くにあるテロリスト達の死体、他にも何処からか建物自体をも揺らす程の爆発が起きる。建物自体にも爆弾が仕掛けられていたのか、建物が崩れ、天井から瓦礫が降り注ぐ。
だが、その瓦礫も雷撃鱗に衝突すると同時に砕け散り、テロリストにも付けられた爆弾を防ぐ事に成功する。
ようやく爆発も崩落も収まった事を確認して雷撃鱗を解除する。
雷撃鱗を展開していた場所を起点に辺りは瓦礫が積み上がっている。
「大丈夫かい?」
「あ…あぁ…」
いきなりの爆発と崩壊、クリスは突然起こった出来事に理解が追いついておらず、唖然としている。
『ガンヴォルト!無事か!?』
「ボクは無事だ。それと雪音クリスもこの場に居た。ボクと雪音クリスのいた場所で激しい戦闘があったみたいなんだが、爆発で証拠となるものは全部瓦礫の下敷きになった」
『分かった。とにかく、その場からクリス君を連れて脱出して来てくれ」
ボクは無線を切ると、抱いていたクリスを離して言った。
「ここは危ない。ここから出よう」
「ま、待てよ!なんであんな状況の中にいた私を捕まえようとせず、助けたんだ!?傍から見ればあの中にいた私が怪しかったのになんでお前はそうまでして助けた!?」
「なんでって、助けかっただけじゃダメかい?それに、あの惨状を起こした犯人が君だなんてボクは思ってなんかいないよ。あんな酷いやり方、優しい君がやるなんて思ってないよ」
「…」
その言葉を聞いたクリスは泣きそうな表情になりながら、押し黙る。
ボクはそんなクリスの頭に手を置いて、言った。
「もう一人で苦しい道を進もうとしないでいいんだ。たった一人で苦しみを抱えなくてもいい。ボク達と君とでは理想は違うかもしれない。でも目的は同じ平和にする事なんだ。もう一人で進もうとしなくていいんだ」
その言葉を聞いたクリスは決壊したかの様に泣き始めてしまった。ボクはどうすればいいのか戸惑っているとクリスが泣き顔を見られない様にボクの胸に顔を当てる。
こんな状況でどうすればいいか分からないボクは無言のままクリスが泣き止むまでクリスに胸を貸して頭を撫でる事しか出来なかった。