翼が泣き止み、ボクは彼女を連れて二課本部の司令室へと向かう。あれから彼女はまだ立ち上がる事が出来なかったので背負っている。
そして二課の司令室に入ると、全員がボク達が無事な事を喜び、歓迎してくれた。
「ありがとう、ガンヴォルト。君のおかげで翼を失わずに済んだ。改めて礼を言わせてもらう」
「いや、協力してるんだから当たり前の事をしただけだよ」
「そう言ってもらえると助かる」
ボクは慎次が椅子を用意してくれたので、背中に背負っていた翼を下ろす。翼は、ボクが下ろすと小さな声でありがとうと礼を言う。ボクは翼の頭をポンと軽く置いた後、弦十郎の方に向き直る。
「今回のノイズの件で気になる事があるんだけどいい?」
ボクは今回出現したノイズの掃討時、思った事を口にする。
「今回のノイズの出現量についてなんだけど、余りにも数が多過ぎる。前にも同じような事が?」
「ノイズの出現量についてなんだが、この量が出現した記録はない。ノイズの出現量はまばらだからどうとも言えないが、こんな天災を起こす量が出た原因については謎だ」
弦十郎も不可解と思っていたようで既に調べていたようだ。だが原因は分かっていない。
「ノイズ自体災害そのものだ。予想を出来る訳ではない。が、ここまでくるとなんらかの意図が働いているんじゃないかと疑いたくはなる」
どうやら、初めての事例で二課の中でも気にはなっているようだ。だが、原因が分からない、再発する時のパターンを確認しなければ対策すら取れないだろう。
「それよりも俺達が気になっているのは、ガンヴォルトの出したあの鎖だ。なんなんだあれは?あれも
「あれはヴォルティックチェーン。ボクの雷撃を鎖へと変化させ、敵を殱滅させる。敵が多ければ多い程威力が強くなるボクの持つ広範囲のスキル。翼も限界に近かったからあのままチマチマと倒して戦闘が長引けば翼にも危険があると思ってね」
先程のスキルの説明する。
「そうか。しかし、なぜその事を隠していた」
説明を聞き、弦十郎が少し怒った表情で問いただす。
「あなた方がボクを監視しているようにボクをまだ完全に信用出来てないのが理由かな」
「…気付いていたのか?」
弦十郎達は驚きはしたものの直ぐに表情を戻す。
「部屋の至る所に盗聴器、監視カメラなんか仕掛けられていたからね」
ボクは既に監視に気付いていた事を明かすが、敵対の意思はないと両手を上げる。
「…監視に対しては済まないと思っている。俺達もこんな事はしたくないんだが…ガンヴォルト 、お前が傭兵だったという事を聞いて我々の中にある危険性をどうしても見過ごす訳にはいかなかったんだ」
「危険性か…否定は出来ないからどうとも言えないな…」
弦十郎は顔を強張らせ、問いただす。
「やはり、お前は人を殺めて…」
「ああ、ボクは人を殺した事がある」
ボクはあっさりとその事実を認める。
「やはり…それは何故だ?私利私欲のためか?」
「…彼女の自由のため…私利私欲、側から見たらそうなのかもしれない。ボクは彼女を…シアンを利用しようとしていた能力者達と戦って、殺した。だけど、ボクだって殺したかった訳じゃない。シアンを助けたかっただけなんだ!」
ボクはシアンを利用していた
「シアンはその能力をもって生まれたせいで、自由を失い、能力を無理やり使わされた!シアン自身もそれを嫌がって、ボクと初めて会った時、これ以上苦しみたくないと自らの命を落とす覚悟までして、ボクに殺して欲しいと頼んだ!ちゃんと外の世界も見た事もないのに…だからボクはシアンの本当の願いを聞いて、シアンの自由のために戦っただけだ!例え、その行いが
かつて彼女を操り、その力を使用して対峙した男がボクに向けて言った一言だ。でもボクは自分の行動が間違っていると思っていない。
弦十郎はボクに近付いてくる。弦十郎はそんなボクを肩に手を置き、目を合わせ言う。
「ガンヴォルト。お前が行ってきた事、どんな辛い経験をしたかは俺達には分からない。そして、俺達はお前のやっていた行動に善悪を決めつける事も出来ない。だがな」
弦十郎は一拍おいて、
「もがき苦しみながらも戦っていたお前を罵るような奴はこの二課には誰一人としていない。だから、一人で抱え込むな。その行動を他人からは間違っているとしてもお前は己の信念を曲げず、その少女のためにやったんだろ?」
弦十郎はそんなボクを憐れみや同情といった表情で見ず、ただ真っ直ぐにボクの目を見ていた。
「うん」
「なら包み隠さず、俺達大人にぶつけて来い!何のための大人だと思う!ただ、歳だけ無駄に食っているだけと思っているのか!大人とはな!悲しみ、苦しみを持った子供達を導いてやる存在なんだよ!お前も、俺達が守るべき未来ある子供なんだ!たまにはその大人びた態度をやめて子供らしく大人に頼りにこい!」
まるでレトロ映画のような台詞を言う弦十郎。余りの臭い台詞にボクは先程の怒りを忘れ、笑みをこぼす。
「そのレトロ映画みたいな台詞を言うのは流石にどうかと思うけど…でも、ありがとう。少し気が楽になったよ」
「なら良かった。しかし、俺の言った台詞はそんなに古い映画みたいなのか?」
少し恥ずかしそうにボクに小声で聞いてくるが、笑って濁した。この世界からしたらどうなのか分からないが、その言葉はボクにとってはレトロに聞こえる。しかし、そんな事は置いておき、弦十郎は咳払いをしてもう一度ボクに問い掛ける。
「だから、もう一度聞かせてくれ。お前は、殺しを…何の罪もない人々を殺したりするのか?」
「そんな事するつもりは絶対にないよ」
「ならばよし!こちらも済まなかったな。監視するような真似をして」
「ボクの方こそ、疑い過ぎてごめん」
謝罪して、頭を下げる。頭を下げた時、コートの端を掴む翼が見えた。その表情は覚悟を決めたような感じ
でボクは頭を上げて翼の方に向き、目線を合わせる。
「どうしたんだい、翼?」
翼はボクの過去を聞いて、何か言いたかったのだろうか。翼はボクの目を弦十郎と同じく真っ直ぐ見て宣言するように叫ぶ。
「ガンヴォルト!私はあなたの行動を否定しないわ!だけど、これから背を合わせ戦う者同士、嘘なんて付かないで!あなたが苦しみ、悲しむような事があれば私が、この天羽々斬と共にずっと防人の剣で払ってあげる!」
この叔父あってこの姪あり、二人とも台詞回しがどことなく古い。だが、その言葉にはとても助けられる。
「ありがとう、翼。そしてこれからよろしく」
ボクは翼の手を両手で包むように握り、彼女の表明に答える。それを見た慎次が余計な事を言わなければここで話は終わっていたのかもしれない。
「翼さん、ずっとなんて付けて逆プロポーズに聞こえちゃいますよ。それにガンヴォルト君の握り方、とてもそのプロポーズを了承したようにしか見えません」
急にそんな事言うから翼の顔がリンゴのように真っ赤になる。司令室にいた女性社員達もきゃー、と黄色い声援を上げ、ざわめき始める。
「まだ小学生の言葉だろう?そこを指摘するのはどうかと思うよ、慎次」
呆れながらもボクは慎次に返す。しかし、一人だけ間に受けた者がいるようで、こちらに拳を構えている男がいる。
「大切な姪っ子のプロポーズだと…ガンヴォルト、俺はそこまで気を許したつもりはないぞ!もし、翼と婚約を結びたいと言うのなら、俺と兄貴を倒してみろ!」
「いや、弦十郎もどこまで話を飛躍させてるんだ…」
そう叫び襲い掛かる弦十郎。それを抑え込もうとする男性職員達。彼らは抑えながら同じような事を叫ぶ。
「司令!あなたがこんな所で暴れたら機材やら床が跡形もなく壊れてしまいます!」
「素手で床に穴を開けたりするあなたが、こんなとこで暴れて壊れた機材を搬入したりするのは僕達なんですよ!」
「緒川さん!何でそんなピンポイントに司令の地雷踏んじゃいますかね!それだから、優良物件と言われてもモテないんですよ!ザマァみろ!」
一人だけ罵倒も混じっている気がするが、そんな感じで司令室が混沌に包まれた。ボクはとりあえず他の職員に逃げるように促される。
「待て!ガンヴォルト !話と拳の決着はまだついてないぞ!」
司令室から木霊する弦十郎の雄叫びを聞きながらボクは急いでその場から退散した。