戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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もう限界…かも…


64VOLT

アビスの深淵。

 

そこでは激しい戦闘が行われていた。

 

荒れ狂う竜巻が地面や壁を砕き、周囲に放電される蒼い雷撃が混じり、壁に備え付けられていたライトが余波により割れたり、伝播した雷撃により破壊される。

 

そんな事に気を止めず、戦い続ける二つの影。

 

一人は槍を携え、目の前の男をただ殺さんばかりの勢いで振るい、致命傷を与える程の攻撃をし続ける装者、奏。

 

ボクはどうすれば操られた奏を助けられるか、どうすれば傷付けずに救う事が出来るか考え、責めあぐねている。

 

だが、この両者の攻撃には決定的な違いがあり、方や殺す為に。方や救う為に。

 

どちらに分があるかは一目瞭然であり、奏の方は未だ傷一つ負っておらず、ボクの着ているコートは所々が痛み、破れている所もあれば露出の少ない肌には細かな傷が大量に出来ている。

 

「お願いだ、奏!目を覚ましてくれ!ボクは君を傷付けたくない!」

 

だが、ボクの言葉は奏に届く事はなく、ただ目の前の敵を貫き殺さんと槍を振るう。

 

ボクはその槍を雷撃鱗を展開して弾き、徒手格闘で応戦する。

 

元より装者になってボクと模擬戦なども行った事のない奏であったが、奏自身のかつてのノイズへの復讐心、そしてボクへの恨みにより、それがシンフォギア装者としての原動力によって更に強くなっている気がする。

 

だが、ボクにとっては今はそんな事はどうでもいい。今ボクがすべき事はどうやって奏を正気に戻すかだ。

 

植え付けられた催眠は強い物なのか弱い物なのかは専門家でもないボクには何一つ分からない。だからボクは奏に問い掛け続けるしかない。

 

「奏!なんでこんな事をするんだ!君はこんな事の為に装者になったのか!ノイズを操るフィーネの為に戦う事をやめるんだ!君の父親と…家族と同じ被害者を増やしたいのか!」

 

その言葉と共に奏の攻撃は更に速度が上がり、ボクは防ぐのが困難になっていく。

 

それでもボクは奏に語りかける事をやめない。

やめてしまえば奏はずっとフィーネに使い続けられるかもしれない。そして、前のクリスの様に、未然に防ぐ事は出来たが、クリス同様にフィーネの手によって奏が手にかけられるかもしれない。

 

こういった再会を望んでいた訳ではない。こんな展開を誰も望んでいた訳じゃない。

 

翼だって、響だって。二課の皆だってこんな事を望んでいない。だから、ボクがここで止めるしかない。

 

「奏!少し痛いかもしれないけど、もうこれ以上は手を出さない事はしない!ボクは、ボクの出来る方法で君を救い出す!」

 

かつての暴走した響のように、力だけしか持たないボクには蒼き雷霆(この力)でしかどうする事も出来ない。

 

シアンの様に、翼や響、奏、クリスの様に。歌という力を持たないボクにとってこれ以外の方法がない。

 

だけど、

 

「ボクは絶対に蒼き雷霆(アームドブルー)で君を助け出す!」

 

決意を胸に身体から迸る雷撃を更に強め、奏と対峙する。

 

絶対に奏を助ける為にボクは雷撃を纏い、奏へと接近する。

 

奏は槍を構えてボクに向けて振り下ろす。その攻撃を躱して奏へと拳を握り、雷撃を纏わせて殴る。

 

だが、奏もタダで喰らう訳もなく、振り下ろした槍の軌道を変えて、足を刈り取る様に槍を薙ぐ。

 

素早く自身の周りに雷撃鱗を展開させて、防御する。槍は雷撃鱗により弾かれて、軌道が逸れる。

 

行ける。そう確信した時、奏の鎧の至る所から滲み出ていた血に気付く。ボクは直ぐに奏と距離をとり、離れた距離から奏の様子を見る。

 

奏のギアインナーは戦闘中では気付かなかったが、槍を振るうごとに、駆けるごとにギアインナーを血で染めていっている。

 

奏は目を覚ましたばかりであり、肉体は二年も眠り続けていたのだ。シンフォギアという鎧のお陰である程度は軽減出来ているのかもしれないが、二年という歳月も身体が激しい運動を行なっていない状態でこの様な戦闘力を発揮している分、身体には相当な負荷がかかっているはずだ。通常ならまだしも、そんな事耐えられるはずがない。

 

「そんな単純な事を見落としているなんて…」

 

ボクは口を強く噛み締めた。

 

フィーネに操られた奏を止める為に声をかけ続け、攻撃しなかった事でより奏に辛い目に遭わせてしまっていた事を後悔する。

 

長期に渡り声をかけ続けても奏は壊れてしまい、短期決戦を決めようとしても力加減を間違えれば奏を殺してしまう。

 

ボクは迷いが生じてしまい、責める手を緩めてしまった。

 

その瞬間を奏が見落とすはずもなく、奏は空高く飛び上がると槍を構えて、投擲する。投擲と同時に無数の槍が出現するとボク目掛けて雨の様に槍が降り注ぐ。

 

素早く雷撃鱗を展開して全てを防ぐが、視界を覆い尽くす程の槍のせいで奏の姿を見失ってしまう。

 

「何処に!?」

 

そして音もなく背後に回り込んでいた奏は雷撃鱗を無視して突撃してダメージを恐れずにボクの腹に強烈な蹴りを入れた。

 

「ガッ!?」

 

ボクはそのまま壁際へと蹴り飛ばされ、地面を滑っていく。

 

弦十郎とまた違った重い一撃に内臓が掻き回されて、意識が飛びそうになる。

 

だが、こんな事で止まってはいられない。ふらつきながらも素早く立ち上がり、元いた位置、奏の方に身体を向け直すと、そこには既に槍を構えた奏が目と鼻の先にまで迫っていた。

 

「クッ!?」

 

ボクはふらつく足で不格好ながらも奏の振り下ろす槍を躱して避雷針(ダート)を奏に向けて連射する。

 

だが、その攻撃も奏の槍が回転して巻き起こす突風に阻まれる。そしてその突風は竜巻に変わり、ボクに向けて振り払われる。

 

雷撃鱗を展開するが、雷撃鱗は物理的な攻撃のみしか防ぐ事は出来ない為、竜巻にはなんの効果も発生せず、ボクの身体は荒れ狂う竜巻により引き裂かれていく。

 

「ガァァ!?」

 

身体を駆け巡る身体を裂く痛み。色々な機能を付けているはずのコートですら意味をなさず、この攻撃が止むのを待つしかなかった。

 

やがて奏の持つ槍の回転が止み、ギアインナーを血で濡らしながらも立つ奏と、身体中を風の刃により切り裂かれ満身創痍のボク。

 

既に勝敗が決まった様な構図。

 

だが、ボクは諦めない。軋む身体に鞭を打ち、ボロボロの身体をなんとか立ち上がらせる。

 

「諦めない…絶対に君を助けるまで諦めない…」

 

譫言の様に口に出す言葉。

 

こんな所で倒れたらダメだ。こんな所で死ぬ訳にはいかない。ボクは奏を助けるんだ。ここでボクが歩みを止めてしまえば、奏をより辛い目に、そしてこんな奏を見た翼や響、二課の皆が悲しむ。

 

それに、ボクにはやらなければならない事がある。だからこそ、この場で倒れてしまう訳にはいかない。

 

ぶれる視界に奏を納めながら、ようやく溜まった力を振り絞り言葉に出す。

 

「ヒーリングヴォルト!」

 

ボクの持つ雷撃は全て攻撃のスキルという訳じゃない。このスキルも応用で、体内の生体電力を細胞に流し活性化させ、再生能力を増幅させる。

 

だが、このスキル自身、完全に回復させるものなどではなく、表面の傷を塞ぐ程度であり、痛みを無くすには程遠い。

 

それでも、先程ぶれていた視界は収まり、奏の姿をしっかりと確認出来る様になった。

 

「絶対に君を止めて、助けるから…だから待っていてくれ、奏」

 

振り絞る様に声を出して構えを取る。スキルもこの身体じゃ使うのにも負担が掛かる。

 

あと一撃が限界かもしれない。それでも絶対に決めてみせる。

 

覚悟を決めて、奏へと今出せる全力で駆け出した。

 

奏もボク同様に、ギアインナーから血が吹き出しながらもボクに向けて槍を構えて突撃してくる。

 

交差する雷撃を纏った拳と、撃槍の名を冠するガングニール。

 

決着は一瞬であった。

 

奏の振るう槍をダートリーダーで弾き、軌道を逸らす。それと同時に持っていたダートリーダーはひしゃげて破壊される。

 

操られていながらも唯一の武器を捨ててまでした予想外の行動に奏は僅かに動きを止めた。

 

その瞬間、ボクは雷撃を纏った拳を奏の腹に向けて振り抜いた。

 

「いい加減目を覚ますんだ、奏!」

 

振るわれる拳が奏の腹に振り抜かれた瞬間、雷撃が奏の身体を駆け巡り、アビスの深淵を蒼く照らし出した。

 

◇◇◇◇◇◇

 

奏は目を覚ました瞬間に抑えきれぬ憎い衝動に駆られていた。

 

かつてのガンヴォルトに父親を見殺しにされた時のように。

 

目を覚ました瞬間に了子により聞かされた、ガンヴォルトが今までのノイズを使い、人を襲っていた事を聞かされて、了子に渡されたギアペンダントを掴んで、動かぬ身体を鞭打って動かして、ただ、ガンヴォルトのいる場所を了子から告げられたガンヴォルトの居場所へと向けて。そしてリディアンとは別のアビスへの入り口に踏み込むと、そのまま深淵へと続く穴へと飛び込み、ガンヴォルトの元へ向かった。

 

そしてガンヴォルトを見つけた。信じていたのに裏切った敵。そして、あのノイズを引き連れて現れた家族の仇。

 

奏は怒りのまま歌を歌い、シンフォギアを纏った。

 

そこからは何かに身体を乗っ取られるかのように、動かなくなり、意識が遠のく。そして気付けば何処か暗闇に閉じ込められた。

 

そこからは何が起きているかは自身でも分からなかった。だが、自身の身体は物凄い勢いで痛みが走り、その痛みに身体を抱いて耐えるしかなかった。

 

「な、何が起きてるんだよ…これ」

 

振り絞り出した言葉はただ虚空へと消えていく。そして長く続く痛みに耐えながら、奏は治るのを待ち続けた。

 

しかし、その痛みも何か空間を破る衝撃によってかき消された。

 

「な、なんだ…」

 

その方向を見ると暗闇の空間が裂けて、蒼い雷光により照らされた空間が見えた。

 

そして、奏はその空間を見て、驚く。

 

そこに映し出されていたものは、多分、奏が意識を失った後の光景だと思われるもの。

 

今までのガンヴォルトの行動。眠りについて、とても悲しそうに、そして辛そうに奏の手を握るガンヴォルトの姿。そして、ガンヴォルトが誰かを救う為に、何の躊躇いを持たず、ノイズを倒していく姿。そしてガンヴォルトと共に、親友である翼と奏が助けたかった少女の姿。そして、本当の敵はガンヴォルトなどではなく、自身をここまで導いた了子である事。

 

幻覚なのかもしれないが、奏にはその光景がどうしても本物にしか見えなかった。

 

「やっと繋がった!いい加減目を覚ましなさい!貴方のせいで、GVがどれだけ傷付いていると思うの!?」

 

それと同時に現れる蝶を模した服を纏う少女の姿。

 

「お、お前は…」

 

「今はそんな事はどうでもいい!早く目を覚ましなさい!これを見て分かったでしょ!貴方の恨むべき人はGVなんかじゃない!」

 

蝶を模した服を纏う少女は怒りに駆られながら奏を叱責する。奏は何が起きているのか分からずに呆然とする。

 

そんな奏に痺れを切らせた少女は奏にぶつかる程まで近付く。

 

「さっさと起きる!こんな所で呆然としていても何も変わらない!」

 

そして奏に平手打ちを喰らわせた。

 

「何しやがる!?」

 

「貴方がこんなチンケな暗示にかかったせいで、死にそうなのよ!いつまでもぼうっとしてないで、早く目を覚ませ!」

 

その瞬間に奏を囲んでいた暗闇の空間は崩れ去り、蒼い雷光に照らされた空間へと変化する。

 

「もう時間がないの!急がないと、私ももう消えちゃう!貴方の為にGVは身体を張ったせいで死に体なのよ!」

 

その言葉に我に帰り、直ぐに少女にどうすればいいのか問う。

 

「どうすればいいんだよ!私は!?」

 

「聞く前に思いなさい!目を覚ましたいってね!」

 

奏は少女の言う通り、目覚めたいと思う。

 

それと同時に身体が浮遊感に襲われると同時に浮かんでいくのを感じる。

 

「早く行きなさい!私の力が消える前に!そしてGVを助けなさい!もしGVの身に何かあったらただじゃおかないわよ!」

 

そう言って少女の姿がどんどん光り出して透けていく。

 

「おい!?お前は誰なんだよ!?」

 

「そんな事は今はいいから早く行きなさい!」

 

少女の叱責を聞くのを最後に奏は覚醒した。そして、覚醒した奏は自身の腹に拳が叩き込められており、雷撃により身体が、痺れていくのを感じる。それと共に砕ける視界を塞いでいたバイザー。

 

「ガァァ!?」

 

久しぶりに感じる現実の痛みはとてつもなく身体に堪える。

 

そして、その痛みのあまり奏はその場に倒れ込んだ。

 

「起きて早々、なんて事しやがる…ガンヴォルト…」

 

「奏!?目を覚ましたのか!?」

 

ガンヴォルトの方へと顔を動かすと、そこにはボロボロのガンヴォルトの姿が。

 

そして、その瞬間に流れ込む、今までの行動を。

 

そして一気に押し寄せる後悔の波。

 

「あ、あっ…」

 

動かない身体を無理に動かしてでも、苛まれる後悔に奏はガンヴォルトから離れようとする。だが、ガンヴォルトはそのボロボロの身体で奏を抱き上げると優しく抱きしめた。

 

「良かった…本当に良かった…」

 

涙を流すガンヴォルト。何故、ここまでした相手である奏を抱きしめるか分からなかったが、奏は涙が止まらなかった。

 

「ごめん…ごめんなさい…私…お前をそんなになるまで酷い事をした…」

 

「いいんだ、奏。ボクは君が元に戻ってくれれば…」

 

その優しさに奏は決壊したように涙を流す。だが、そんな時間は長くは続かなかった。

 

急に奏を押し飛ばすとガンヴォルトは奏の盾になるように立つと同時に、背中に三本の剣がガンヴォルトに突き刺さった。

 

「…ガハッ…」

 

それと同時にガンヴォルトの口から大量の血を吐き出して倒れた。

 

「が、ガンヴォルトォ!」

 

「勝手に動き始めたと思えば、この男を仕留める為に自発的に動くなんて持ってきておいて正解だったわ」

 

声が響くと同時に、金色の鎧を纏う女性が舞い降りてくる。

 

「テメエェ!?」

 

「催眠も解けるなんて予想外だったけど、障害になりそうな貴方達二人を同時に片付ける事が出来たのは嬉しい誤算だったわ。なんにしろもう既に目的も最終段階に入ったわ。貴方もここで用済みよ」

 

そう言って女性は奏を蹴り飛ばして、壁へと激突させるとそこで意識が飛んだ。

 

「さぁ、世界を一つに戻しましょうか」

 

そして

 

「これで終わりだよ、ガンヴォルト」

 

奏が最後に聞いたのは女性がそう呟く声と微かに聞こえた少年の声であった。

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