戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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シェルター内は沈黙に包まれていた。

 

翼の絶唱によるカ・ディンギルの月の破壊の阻止。フィーネの目的は達成させられなかったが、装者達は倒れ、唯一残る希望である響も暴走によりフィーネの手に落ちている。

 

「クソッタレ!俺達はもう何も出来ないのか!?」

 

弦十郎は肉親である翼も倒れた事に怒り狂い、物へと怒りをぶつけていた。

 

「まだガンヴォルトがいます!ガンヴォルトなら!」

 

「こんな状況になっても音沙汰のないガンヴォルトに何を頼ればいいっていうんだよ!?あいつならどうにか出来るかもしれないが、あいつが生きていればの話だろ!?こんな絶体絶命の状況なのに何の連絡もないあいつに何を頼れっていうんだよ!?」

 

あおいは唯一生き残っていると思われるガンヴォルトの名を口にするが、ガンヴォルトからの連絡も一切なく、無事なのかさえも分からない。朔也は既にガンヴォルトもフィーネの手によって殺されてしまったと考え、あおいに向けて叫ぶ。

 

本当にどうする事も出来ない現場。

 

二課の全員は既に希望を見出せず、ただ再び起こる、カ・ディンギルの次弾装填を待つ事しか出来ない。

 

「ガンヴォルトさんは生きてます!音沙汰がないのもこんな状況で、通信が上手くいかないだけで絶対に生きてます!」

 

そんな中、未来が叫んだ。

 

ガンヴォルトという希望はまだ絶たれていない。それに、響もいる。例え、それが極小の希望だとしても未来は信じた。

 

「そうだ…あいつなら…ガンヴォルトなら何とか出来る筈だ!」

 

弦十郎も唯一の希望であるガンヴォルトを探すように絶望するオペレーターに激を飛ばす。

 

だが、

 

「こんな状況であいつに何を託せっていうんだよ!」

 

「ここまで来ているのに何の連絡もないガンヴォルトに何を任せればいいっていうんだよ!?」

 

オペレーター達は喚く。

 

弦十郎もその気持ちも分からなくもないと感じるが、希望を捨てようとしているオペレーター達に喝を入れるが、全く彼等の不穏な感情を捨て去る事が出来ない。

 

「すみません!誰か治療を行える者はいませんか!?」

 

突如、その場に乱入してくる女性の声。未来にはその声には覚えがある。いつも響を怒鳴る担任の声。その声のする方に目を向けるといつもの服を血に染めた担任の姿があった。

 

「今は忙しいんだ!治療を行える者の場所を言うからそちらに向かってくれ!」

 

そんな担任に怒鳴る弦十郎。だが、担任はその怒鳴り声に怯えながらも言う。

 

「で、でもこの人が赤い髪の大柄な男を探せって…」

 

担任は声を小さくしながらも弦十郎にはっきりと伝える。そして、未来のクラスメイトがゾロゾロと現れると共に、急遽鉄パイプとリディアンの制服で作られた担架に乗せられたガンヴォルトが入って来る。

 

「ッ!?ガンヴォルト!」

 

弦十郎は声を上げる。それと同時に朔也や慎次、男性オペレーターがガンヴォルトの担架へと駆け寄り、生徒からガンヴォルトの乗る担架を受け取る。

 

仰向けに乗るガンヴォルトは今までに見た事ない程傷付いており、生きているのが不思議な程の傷を負っていた。

 

片腕はだらりとぶら下がり、片足は原型を保っているのが不思議な程だ。

 

「ガンヴォルト君!しっかりして下さい!ガンヴォルト君!」

 

「寝るなよ!ガンヴォルト!」

 

慎次と朔也は虫の息のガンヴォルトに声を掛ける。

 

「…大丈夫…意識はあるよ…」

 

血反吐を吐きながら答えるガンヴォルト。

 

「ガンヴォルト!」

 

弦十郎は痛む腹を押さえながら、ガンヴォルトの元へ駆け寄る。未来もガンヴォルトがまだ生きている事に安堵しながらもこんな傷を負っている事に胸を痛めて近付く。

 

「…この子達のお陰で…何とかここまで来る事が出来た…ありがとう…」

 

血反吐を吐きながらも生徒達に感謝を述べるガンヴォルト。

 

「喋るな!直ぐに治療を行う!それまで絶対に意識を保て!絶対に助けてやる!」

 

弦十郎はガンヴォルトにそう言いながら、治療出来る者を直ぐに集めようとする。

 

だが、ガンヴォルトはそれを言葉で制止した。

 

「自分で…何とかするよ…だから…折れた腕を真っ直ぐにして欲しい…それと…ひしゃげた足のブーツも脱がして…」

 

「馬鹿野郎!そんな傷で何が出来るって言うんだ!」

 

弦十郎はガンヴォルトに叫びながら、各々に治療が出来るようにガンヴォルトの着ているコートやブーツを取り払う。だが、ブーツだけは肉に食い込んで、取り払う事に苦労する。それに背中に負う傷は今も尚血を流し続けている。

 

「いいから…ボクを信じてくれ…」

 

弦十郎へとガンヴォルトは頼み込む。だが弦十郎は首を縦に振る事をしない。

 

そんな中、未来だけはガンヴォルトを信じ、治療をしようとしていた隊員達をガンヴォルトから引き離そうとする。

 

「ガンヴォルトさんを信じて下さい!」

 

「未来君…」

 

ガンヴォルトから隊員達を引き離し、ガンヴォルトの盾になるように、前に出る未来。

 

「響や翼さん…二課の皆さんより私はガンヴォルトさんの事は知りません!でも!それでもガンヴォルトさんはこう言っているんです!ガンヴォルトさんの事を信じてあげて下さい!」

 

未来はガンヴォルトを信じて欲しいと叫ぶ。

 

「ありがとう…未来…」

 

ガンヴォルトは血反吐を吐きながらも未来に礼を述べる。

 

「…ガンヴォルト、本当に何とか出来るんだな?」

 

弦十郎はそんなガンヴォルトに向けて確かめるように言うと、力なくだがはっきりと首を縦に振った。

 

「信じるぞ、ガンヴォルト…俺達に出来る事は?」

 

弦十郎は唯一の希望であるガンヴォルトに再度確認の為に聞いた。

 

「…腕を伸ばして欲しい…それと…食い込んでいるブーツも脱がせて欲しい…」

 

それを聞いた慎次が肉に食い込んだブーツをナイフを取り出して肉を削いで取り払った。

 

「ガァァ!?」

 

ガンヴォルトが苦しむ声に、この場にいた全員が耳を塞ぎ、絶叫を聞かないようにして苦しむガンヴォルトから目を背ける。

 

「ガンヴォルト!?本当に治療出来る設備もないのに本当に大丈夫なのか!?」

 

「大丈夫…何とかなるはずだよ…」

 

ガンヴォルトは激痛を堪えながらそう言う。

 

そして、慎次に腕を伸ばすように、朔也に身体を抑えるように伝え、二人はガンヴォルトの指示に従い、腕を元の位置に戻すように伸ばす慎次。身体を抑える朔也。だがその顔は怪我人になんて事をしてしまっているんだという、辛そうな顔であった。

 

その瞬間、再びガンヴォルトは絶叫する。だが、ガンヴォルトはそれでも尚、堪え、はっきりと叫んだ。

 

「リヴァイヴヴォルト!」

 

それと同時にガンヴォルトの身体に迸る雷撃。ガンヴォルトの負っていた傷が急速に塞がり始め、伸ばした腕は再生するように蠢き始める。

 

あまりの激痛であろう、ガンヴォルトは絶叫を上げる。慎次と朔也はあまりにも苦しむガンヴォルトから腕を離しそうになり抑え込む力を弱めそうになる。だが、それでもガンヴォルトを信じ、掴んだ腕で抑える力をさらに込める。

 

雷撃が止み、静寂に包まれる。ガンヴォルトから手を離す慎次と朔也。それと同時に辛そうにだが、自分の足でしっかりと立ち上がるガンヴォルト。

 

ふらつきながらもあらぬ方向に曲がっていた腕と原型を保っていたのが不思議な足の感覚を確かめるような動作をする。

 

「何とか…元通りになったみたいだ…」

 

先程まで血反吐を吐いて、途切れ途切れの声だったガンヴォルトの声は生気が戻ったように、はっきりとそして力強く言った。

 

「ガンヴォルト…お前…本当に無事なのか…?」

 

先程まで死に体であったはずのガンヴォルトに対してあり得ないという風に弦十郎が問う。

 

「何とか間に合ったよ。それよりもまだ時は一刻を争うんだ。ボクの装備とダートリーダーをお願いしてもいい?」

 

弦十郎はそのはっきりとしたガンヴォルトの言葉に涙しつつも、ガンヴォルトの言う通りに新しい装備を持ってくるようにオペレーターに伝えた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

どうやらカ・ディンギルは起動してしまい、奏も翼も、そしてクリスまでも倒れ、残る響も暴走してフィーネの手に落ちた事を聞いた。

 

「クソッ!ボクがしっかりしていれば!」

 

ボクは治った腕で地面へと拳を叩きつけた。

 

「ガンヴォルトさんのせいじゃありませんよ…」

 

未来がふらつくボクを支えながら言う。

 

「でも…ボクがもっと早く、どうにか出来ていれば…」

 

「ガンヴォルトさんのせいじゃありません。あの時私が他の人達を救おうとして居もしない人達を救おうとしたから…」

 

未来はボクを支えながら、泣きそうな声でそう言った。未来の頭に手を乗せて言う。

 

「未来、君のせいじゃない。君の行動は何一つ間違っていないよ」

 

未来をあやすようにそう伝え、未だ動かない響の様子が映る画面を見る。そして、その奥に映るのは邪魔者が全て消え、カ・ディンギルが再装填されるのをほくそ笑むフィーネの姿。もう遅かったとしか言えない状況。それでもまだなんとかなるはずだ。絶唱を放っても奏と翼は生きていた事がある。それならばまだ全員助けられるはず。

 

「もう遅かったとも、間に合わなかったとも言わせない…ボクが貴方を絶対に止める…」

 

後悔を今する場合じゃない。後悔をするのはもう十分だ。その考えを振り払う為に、首を振るう。

 

「ガンヴォルト君の装備を取ってきました。それにしても何でシェルターの中にガンヴォルト君の装備が?それも何で君だけこんな事を知っているんだい?」

 

ボクの言われた場所に装備を取り終えて戻って来た慎次が、不思議そうに聞く。

 

「備えあれば憂いなしだよ、慎次」

 

そう言って装備を受け取ると、未来に離れるように伝えて片手のガントレットを外し、未だ残っていたコートと特殊な加工を施したアンダーシャツを脱ぎ去り、上半身を顕にさせた。

 

それと同時にこの場にいた女性陣は顔を覆いながら絶叫を上げる。

 

「ちょっとガンヴォルト!貴方の身体はこの子達には刺激が強いし、何て事してくれるのよ!」

 

確かに女性陣がいる中、着替えるのは気が引ける気もしたが、緊急事態で一刻も争う状況の為、気にせずに新たな装備に着替えた。

 

ガントレットを装着してブーツの調子を整える。

 

「全く。非常時だから仕方ないとして、普通こんな大っぴらな所で…しかも女性陣の前でほぼ全裸を晒すか、普通?」

 

弦十郎も呆れながらそう言うが、ボクは気にせずに言う。

 

「緊急時にあれやこれや言ったって仕方ないでしょ?それよりもボクは直ぐに地上に行ってフィーネを止める。弦十郎達はここで出来る事…いや、ボクがフィーネを相手にしている間に、カ・ディンギルの止める方法と…皆の救助を頼む」

 

ボクは朔也が渡すダートリーダーを受け取り弾倉のチェックと予備のマガジンに避雷針(ダート)が満杯に入っているか確認してポーチに詰め込んだ。

 

「待って下さい、ガンヴォルトさん!」

 

地上へと向かおうとした矢先に未来がボクに制止を掛けた。

 

「ガンヴォルトさん…まだ地上には響が…響がいます!地上は響が何とかしてくれます!だから、ガンヴォルトさんはあの大きな塔をどうにかする為に動いて下さい!」

 

未来の言葉に驚きつつも、黒い鎧を纏う響なら何とか出来るはずと懇願する。

 

「未来…悪いけどその頼みは聞けないんだ。弦十郎からさっきも聞いたけど響はフィーネに操られている。翼の声も届かなかった響にはそれ以上のきっかけを与えないと戻す事が出来ないと思う」

 

「でも響なら…響ならそんなもの絶対に抜け出してくれます!お願いです!響を信じて下さい!」

 

「…」

 

必死に頼み込む未来。ボクはどう言えば未来が納得してくれるかを考える。

 

その時、

 

「あっ!?お兄ちゃん!」

 

突如部屋の中に響く幼い子供の声。それと共にボクの足元に小さな衝撃が。

 

そちらに顔を動かすとボクの足に引っ付く初めて響が助けた女の子の姿が。

 

「君は」

 

「あの時はありがとうございます!お兄ちゃんとお姉ちゃんのおかげで助かりました!」

 

お礼を述べる女の子を足から離れるように伝えて目線が合うようにしゃがんだ。

 

「どういたしまして。…ごめんね、また危険な目に遭わせちゃって」

 

「平気だよ!だってどんな状況でもお兄ちゃんやお姉ちゃんが何とか出来るって信じてたから!」

 

その言葉にこの女の子にシアンの幻影を見る。

 

かつてのシアンもボクの無事を祈り、信じて待っていてくれた。未来同様にこの子も響を信じてくれている。それなのにボクは響を信じる事もせずに一人で何とかしようとしていたなんて。

 

前と同じだ。あれほど弦十郎からも諭されたのに結局一人で解決しようとしている。そんな自分は何も変わってはいなかった。だからこそ変わらないといけない。皆を信じないといけない。未来のように。

 

「…未来、君の事を信じるよ」

 

「ガンヴォルトさん!」

 

その言葉を聞いて未来は嬉しそうに言う。

 

「弦十郎、ボクは未来の言う通りカ・ディンギルに向かう」

 

「だが!そうなると外はどうすればいいんだ!何故未来君の言う通りにする!もう地上には戦える者はいないに等しいんだぞ!」

 

「未来みたいにボクは響を信じたい…いや響だからこそ信じるんだよ。弦十郎、前に貴方から言われていた仲間を信じる。それを実行するだけだ」

 

「だが、響君はもう!」

 

弦十郎がそう言うがボクは首を横に振るう。

 

「響なら何とか出来る。でも、きっかけを与えないといけないんだ。前もあんな状況になった時、響はシアンの歌を聞いて戻って来たと言っていた。だから、今度は皆の歌で響に問い掛けて欲しい。響を元に戻す為に歌って欲しいんだ」

 

「根拠のない事を信じてやれって言うのか!」

 

弦十郎は叫んだ。

 

「根拠はない。でも響を叩き起こせるのは皆の歌しかないんだ。だからお願い」

 

ボクは弦十郎に頭を下げる。それに続き、未来も頭を下げた。

 

その行動に弦十郎も折れて、確かめるように言う。

 

「歌ならばなんとか出来るんだな?」

 

「皆の歌ならね。一人だけじゃ今の響には届かない。皆の歌で響を救ってあげて」

 

そう言ってボクは未来に言った。

 

「響の事を頼んだよ、未来。皆の歌で響を叩き起こしてあげて」

 

「絶対に響を起こします。お寝坊な響を起こすのはいつもの事ですから…だから、ガンヴォルトさんも無事帰って来て下さい」

 

その言葉を聞き、ボクは頷くとカ・ディンギルの元へ行く為に部屋を出て駆け出した。

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