欠けた月面は崩れ、既に足場など殆ど無い状況の中、唯一無事であるガンヴォルトのいる場だけを守る様に装者達はオロチを纏う紫電と戦っていた。
八体の巨大な蛇、それを従える紫電の理想を止めようと装者達は戦い続ける。
「何故君達も僕の邪魔をする!真の平和へと導こうとする僕を止めようとする!君達も分からないのか!いいや、君達だからこそ分かるはずだ!その力の危険性を!それを扱う君達ならば!いつ暴走するかも分からない爆弾を抱えた君等は何故僕の前に立ち塞がるんだ!」
紫電は装者達と応戦しながら叫ぶ。
「君の方が何も分かっていない!シンフォギアは確かに危険なのかもしれない!私も何度もガングニールに飲まれて理解しているよ!でもそれでも、この力は希望なんだ!皆が笑って手を取り合える為の!」
「違う!聖遺物は危険だ!僕が認めない!そんな戯言は認めない!管理しなければならない!僕がそうしなければならない!」
響の答えに反論する様に叫ぶ紫電。
「お前の考えの方が間違ってる!あいつもその危険性を理解しているからこそ、これをちゃんと使える奴に管理を任せようとしていたんだろ!それにノイズの脅威!それに抗うには聖遺物が必要不可欠なんだ!」
「間違ってなんかいない!君達がノイズを倒せたとしても、その力に飲まれ、牙を剥くか分からない以上、君達が持っているのも相応しくない!」
クリスの言葉にも反論する紫電。
「だったら尚更私達があんたを止めなきゃいけない!あんたの方がどう見たって危険だろうが!完全聖遺物を纏ってこんな事を起こすお前の方が私達から見たら、いや全員が思ってるんだよ!」
「君達にはこの神々しさが分からないのか!神となった僕のこの姿を!危険!?ふざけた事を言うのもいい加減にしろ!」
奏の言葉に声を荒げ叫ぶ。
「神々しいなんて思えない!そんな姿の何処にそんなものがあるの!ガンヴォルトの力の方がよっぽど綺麗だったわ!」
「黙れ!誰も彼も話にならない!君達は何も分かっていない!それだからこの国は、世界は平和にならない!ガンヴォルトがいたおかげで!君達の様な存在が生まれたおかげで!だからこそ、僕が為さなければならないんだ!真の平和を!神となった僕が守らなければならないんだ!」
「そんなものの何処に平和がある!」
全員が叫ぶ。ガンヴォルト同様にそんな世界に本当の平和があると言うのか?違う。この目の前にいる人物が管理した世界など、真の平和などではなく、ただ自分が思い描く自分勝手な理想でしかない。
それが本当にいいのかなんて誰にも分からない。でもそんな世界の何処に希望があると言うのだ。
「ガンヴォルトさんがそんな危険な理想を持つからこそ君を止めようとしていたんだ!」
「ああ!私には分かる!あんたと同じ事を考えていたからな!だけどあいつから教えてもらったんだ!そんな事は間違っているってな!」
「私はあんたの事を知っている訳じゃないから正直なんとも言えないが、だけど、分かるんだよ!あんたみたいな奴に全部任せたらダメだって事ぐらいはな!」
「二人や奏の言う通り、貴方は間違っている!貴方が神なんて笑わせないで!そんな禍々しい姿をした神なんていない!存在しなくていい!そんな貴方が治める世界なんて必要ない!世界の平和は自分達の手で手に入れて見せる!」
装者達は紫電を否定し続ける。
「愚かだ…愚か過ぎる…ガンヴォルトと同じく君達は何も分かっちゃいない!やっぱり君達も危険だ!僕に…神に逆らう存在は!君達の様な存在がいるから平和が訪れない!世界に争いが消えないんだ!だからこそ、今度こそ僕が世界を救う!平和を齎すんだ!」
紫電は狂ったように叫び、手を自分の上へと翳した。
「ガンヴォルトと共に君達も消えろ、
そう叫ぶと同時に八体の蛇の攻撃の苛烈さが増す。装者達は互いをサポートしながらそれを抑え込む。だが、数が多い。一人で二体の別々に動く敵と戦う状態。しかも、破壊された瞬間に新たな蛇が生まれ、減る事がない。
だが装者達は諦めなかった。生憎、何度も復活する竜と先刻まで戦っていたのだ。あんな事を二度も経験するとは思わなかったが、だからこそ戦える。
だが、
「全員消えろ!」
そう紫電が叫ぶと共に、地球から眩い光が煌めくとこちらへ向けて何かが真っ直ぐに向かってくる。
装者達はなんなのかそれを瞬時に理解する。先程地上で見たカ・ディンギルからのエネルギーの塊が放たれたのだ。
それもガンヴォルトが倒れる月面へと向けて。
「させない!」
全員が叫ぶ。そして相手する蛇を各々のアームドギアで吹き飛ばすとガンヴォルトの元に集まる。
そして四人は手を握り、ガンヴォルトを守る様にバリアフィールドを展開させた。
その瞬間に月の欠片を覆う
その一撃は翼とクリスが散らしたカ・ディンギルの一撃よりも重く、物凄いエネルギーの塊。
「絶対にやらせない!」
四人は輪廻の歌を力強く歌う。誰も失わない為に、ガンヴォルトを助ける為に。だが、カ・ディンギルの一撃は重く、展開するバリアフィールドを徐々に削り、亀裂を入れていく。
「堪えろ!絶対に諦めるな!」
「諦めません!皆で絶対に生きて帰るんですから!」
「諦めたらここで全員お陀仏だろ!諦めるなんてするか!」
「そうだ!絶対に諦めない!」
「絶対に諦めないで!」
装者とは別の声が響く。倒れるガンヴォルトの身体が光り、その粒子が形をなすと少女が現れる。
「シアン!?」
シアンを唯一知る翼が、シアンの姿を見て驚く。
「ありがとう皆。貴方達の歌のお陰で私も完全ではないけど起きる事が出来た」
シアンが全員に向けてそう言う。
「でも貴方達じゃ今のあの人に勝つ事は出来ない」
「だったらどうすればいいの!?」
響がシアンに問い掛けた。
「GVを起こす。GVなら絶対にあの人に勝てる!」
「起こすってこんな身体になっているのにまだこいつに戦わせる気かよ!?ふざけるな!」
「こんな身体でGVをあの人と戦わせる訳ないでしょ!」
シアンがクリスに向けて叫ぶ。
「今の私一人の歌じゃGVを助けられない!だから貴方達の歌を!力を貸して!」
「ガンヴォルトを助ける為なら何だってしてやる!」
奏はそう叫び、全員も同じ気持ちらしく、頷いた。
「私に合わせて歌って!そうすれば絶対にGVは起きてくれる!」
そう叫ぶと同時に全員が歌を歌う。
輪廻の歌を。ただ一人の男の為に。唯一の希望であるガンヴォルトの為に。
「解けない心、溶かして二度と、離さない貴方の手」
絶対に起きて欲しい。立ち上がって欲しい。ガンヴォルトが起きる様に願いを込めて。
そしてその瞬間にバリアフィールドから眩い光が放たれた。
◇◇◇◇◇◇
起きているか寝ているかも分からない。
ただ意識のみははっきりしており、身体を動かそうにも身体はいう事を聞かず、何もする事が出来ない。
紫電の放ったカ・ディンギルの一撃。それに飲み込まれてからは自分がどうなったのか分からない。
どれだけ時間が経ったのかも紫電との戦いがどうなったかも分からない。だがはっきり言えるのはボクは倒れたという事だけ。
だから何度も立ち上がろうと動かない身体を動かそうとする。
立ち上がれ…。
こんな所で倒れていたままじゃ世界が…皆が辛い世界になってしまう。紫電の管理した世界にボクの思い描く平和は訪れない。
立ち上がれ。
このままじゃ駄目だ。紫電を止めないと。でもいくら力を入れても身体は動かない。
立ち上がれ!
絶対に立ち上がって紫電を止めるんだ。まだ意識があるのなら動くはず。力を、気力を、全てを振り絞り身体を動かそうとする。だが、何度も身体へと脳が指令を出すが指一つさえぴくりとも動かない。
立ち上がれェ!
そんな事は関係ない。ボクはまだ死ねない。こんな所で死ぬ訳にはいかないんだ。シアンもまだ見つけられていない。アシモフも止められていない。紫電を止めていない。そんな中、死ぬ訳にはいかない。
そして身体は動かないというのに光を帯びる様に暖かいものに包まれる。そして聞こえる彼女の声。
「シ…アン…」
シアンが歌っている。
その中には奏の、翼の、クリスの、響の声も聞こえる。
「み…んな…」
何故シアンがここにいるか分からない。装者の皆がいるか分からない。でもこの場にこの歌が聞こえているという事は全員がこの場にいてボクの代わりに紫電と戦っているという事。
眠ったままでいいのか?このまま倒れたままでいいのか?そんな訳ない。皆が戦っている中、ボクだけが地べたで寝込んでいるなんて…そんな事があっていい訳がない。戦うんだ。皆と一緒に。
ボクは再び立ち上がろうとする。さっきの様に身体は全くいう事を聞かない。だがさっきとは違い、皆の歌が、輪廻の歌がボクに力を与えてくれる。輪廻の歌がボクの中の波動を強めてくれる。
今度こそ立ち上がって皆の元に向かうんだ。そして今度こそ…今度こそ紫電を倒すんだ。
身体の内から今までに感じた事のない程の波動のエネルギーを感じる。そのエネルギーがボクの身体を動かなかった身体を再起する様に力をくれる。
「立ち上がってGV(ガンヴォルト)!」
皆の声に応える様に身体に力が入る様になり、覚醒する。そして、ボクはゆっくりとだが、しっかりと月面を踏み締めて立ち上がる。そして髪を纏めるテールプラグをダートリーダーに接続させると、溢れ出さんとするエネルギーをダートリーダーへと収束させ、全員を襲う膨大なエネルギーの塊へと向けて撃ち込んだ。
ぶつかり合う蒼と紫のエネルギー。その膨大なエネルギーはボクの撃ち出したエネルギーが全てを飲み込み地球へと押し戻していった。
「ありがとう皆。それにシアン」
膨大なエネルギーに耐えられなかったのかダートリーダーが崩れ落ちる。だが今はそんな事はどうでもいい。見渡せば、立ち上がるボクを見て全員が涙を流す。
「良かった、GV」
シアンがボクを見て言った。
「シアン、会いたかったよ…ずっと会いたかった…聞きたい事が沢山あるけど、まずはやるべき事があるから、この後ゆっくり君の事を聞かせて」
そしてボクは全員の頭を一度ポンと叩くと、紫電へと視線を向ける。
「馬鹿な!?バベルの一撃が!?神の一撃が押し負けただと!?ありえない!そんな事あってはならない!」
「驕るな!君は神なんかじゃない!ただの自身の欲と野望に塗れた人間なんだ!」
「黙れガンヴォルト!何故、君は立ち上がる!死んでいればいいのに!何故ボクの前に立ち塞がるんだ!死んでいればもう苦しまなくていいのに!何も感じなくて済むのに!歌の力で何故何度も蘇る!?君をそこまでさせるものは何だ!?何を原動力として立ち上がるんだ!」
「そんなの決まっている!君の野望を止めたいからだ!君の好きにさせた世界に平和なんて訪れない!だからこそ、何度でもボクは立ち上がる!君を倒して本当の平和を掴む為に立ち上がるんだ!」
紫電へと叫ぶ。
「黙れ!君の理想は儚い幻想に過ぎない!そんな物、蜃気楼の様に掴もうとしても掴み取れはしない!」
「君の方が黙れ!もうこれ以上話すだけ無駄だ!決着を付けるぞ、紫電!」
そしてボクは溢れ出る波動のエネルギーを強める。それと同時にボクの身体からは虹色の淡いオーラが出現する。
「死に損ないが神に抗うというのか!ガンヴォルトォ!」
「君の様な神が存在するのならボクは抗い続ける!だから眠れ!紫電!」
叫ぶ紫電へとボクは地面を蹴り、紫電との決着を付ける為に空を駆けた。