〜クリスの引っ越し〜
「お邪魔しまーす!」
「いらっしゃい!響!」
開口一番に大きな声で入ってくる響。そしてそれに応えるようにシアンが響の方へと向かう。
「響、隣の人の迷惑になるからあんまり声出しちゃダメだよ」
「それが立花のいいところなのだが、少しは緊張したらどうだ?」
そんな響に未来は注意してクリスは呆れながらそう言い、翼は少し緊張した面持ちで言う。
「相変わらず元気だけは一丁前だな」
「まあまあ、いらっしゃい。悪いね。手を貸してもらって」
そしてガンヴォルトとクリスが奥の部屋からシアンの後に出てきた。普段のスーツではなく、動きやすい格好をしている。
なぜ響と未来がそして翼が来たかと言うと引っ越しの手伝いをしようと言うことになり、ガンヴォルトもそれを了承したからだ。
「気にしないでください!それよりもガンヴォルトさんってここの大きなマンションも借りてたんですね!」
「元は学生の頃の友人とかが来てもいいように借りていた物件だよ。殆ど任務とかで県外に行ってたりしたから使わなかったけど」
ガンヴォルトは苦笑いしながら答えた。
「まあこれからはシアンとクリス、それに奏とも住むことになるし、あの部屋もあの戦いで半壊して使い物にならなくなったから丁度良かったかも」
「まあ、あの部屋よりも広ければ奏さんもシアンちゃんにクリスちゃんもいるし遊びに来やすいですね!」
そう言った響。だがその何気ない言葉に不機嫌になる人達がいた。
翼と未来、そしてシアンだ。
「そう言えばガンヴォルト、前に一度他の家に立花を連れ込んだと聞いているのだが」
「響、ガンヴォルトさんの家に一度行ったってのは本当?」
「響…そんなの初耳なんだけど…事と次第によっては響でもただじゃおかないんだから」
ガンヴォルトは翼に詰め寄られ、響は未来とシアンに詰め寄られる。未来は見えていないはずなのにまるでそこにシアンがいると感じているように、被らない。
「翼、あの時は事情があって響を入れただけだから」
「そ、そうだよ。ガンヴォルトさんが心配してくれて入れてくれただけであって遊びにとかそう言うのじゃないよ…ご飯はご馳走してもらったけど…」
過去の事を詰められるガンヴォルトと響。
「その事情にもよるが、何故それで立花はご馳走にもなっているんだ?」
「翼さんの言う通り、なんでそんな状況になっていたの?響?」
「GVも事と次第ではただじゃおかないんだから!」
そして響はあの時の状況を説明してなんとか事なきを得たが、そんな様子にクリスは辟易する。
「手伝いにならそんな話はどうでもいいだろうが…ったく、お前は特にそう言うところ疎いんだからもう少し気を使えよ」
クリスはガンヴォルトにそう言って背中をバシン叩いた。
「…何に疎いかは分からないけど善処するよ…」
「そう言うとこだぞ。まぁ、とりあえず、私の部屋の方に来てくれ」
クリスがそう言って話を切り上げると、ガンヴォルト以外を自分の部屋へと連れていく。
「何かあったら言ってね。手伝い出来る範囲は手伝うから」
「おう。っても大物も無くなったから殆どないけどな」
「分かってるよ」
そう言ってクリスの部屋へと全員が移動する。
「おー、これがクリスちゃんの部屋かー」
開口一番、響が声を上げる。
「買い物の時の家具を見ても思っていたが、可愛い系のものが多いな」
「わ、悪いかよ!と言うかジロジロ見過ぎだ!」
翼の言葉にクリスが恥ずかしがってそう言う。
「別に悪いとは思っていない。私だって可愛いものを集めたりはするし」
「可愛い物が好きで悪いとかないんだから」
そんな翼の言葉に好きで悪いかと言うが、翼と未来がそんな事はないと言ってくれる。
「そうそう、可愛い物を集めたって誰も文句なんて言うわけはないじゃない」
シアンもそう言ってクリスはむず痒く感じる。
「ならいちいち言わなくていいだろう!」
そしてむず痒さを隠したいのか、クリスはぶっきらぼうに答えた。
「じゃあ、クリスちゃんの私達は何をしたらいい?」
そして響がクリスにそう問いかけた。
「ならここいらの物をとりあえず開けてタンスにしまってくれ」
そう言ってクリスが指示を飛ばす。と言っても、クリスの私物はそこまで多い訳でもないため、数少ない段ボールを開けて衣類を閉まってもらう。
そこまでは別に何もおかしいところはない。だが、翼が担当した段ボールの中の一部を取り出した際、僅かに空気が変わった。
「…ずっと思っていたが、やはり大きいのだな」
何処か悲壮感を持って呟く様に翼が言った。
その言葉に反応するかの様に全員が翼の担当していた段ボールが気になりそちらに目を移す。
翼が手に持って呟いた理由。それは女性物の下着であった。
それを見た女性陣は一度自分の物を確認してそこからクリスへと視線を向けた。そしてその視線が何なのか気付いたクリスは顔を赤らめて翼が持っている自身の下着を奪い取った。
「まじまじと見過ぎだ!この馬鹿ども!」
そう言って自身の下着を隠してそう叫ぶ。
「確かにクリスちゃんのは大きいよね」
「だよね…あの時も私の着替えだけじゃ丈が足りなかったし…」
クリスの胸を見て響は言って、未来はかつて自分の体操着を貸した時の事を思い出しながら羨ましそうにクリスの胸を見る。
「奏のも大きいが、雪音も同等くらい…それに対して…」
そう言って自分の胸に手を当てて自信を勝手に無くす翼。
「…何をどうすれば大きくなるのよ…」
シアンも自身の胸を見てそう呟く。
「別に胸は関係ないだろう!人それぞれなんだから!大体!大きくてもいい事ない!肩は凝るし、可愛い下着も少ないし!」
その言葉に対してクリスはそう言った。胸が大きい故の悩みを言うクリス。だが、それでも魅力的に映る胸のサイズに対して分からない悩みを言われても更に傷を抉るだけであった。
「一度でいいからクリスちゃんの胸触ってみてもいい?」
「触らせるか!この馬鹿!」
そして手をわきわきしながら言った響に対して制裁を下すクリス。
「少しくらいいいじゃん!クリスちゃんのケチ!」
「そう言うのは親密になった奴がやる奴だろうが!」
「じゃあもっと仲良くなったら触らせてくれるの!?」
「ぜってぇ触らせねぇよ!」
クリスの言葉に希望を見出してそう言った響。だが、それでもクリスは拒否をする。
だが、それを良しとしない者もいる。
「響、クリスが嫌がっているし、セクハラ紛いな事を誰彼構わずやるのは私は許さないよ?」
何処か黒いオーラを纏う未来が響に対してそう言った。それに恐れ慄き、響は絶対にやりませんと宣誓する。
そんなこんなで胸の話で盛り上がり、ふと翼が口にする。
「ガンヴォルトも…大きいのが好きなのか?」
その言葉にその場の空気が停止する。
「…いや、ガンヴォルトさんはどうかは知りませんよ?と言うか何でそんな事を?」
何か嫌な予感がして響は翼に対してそう問い返す。
「よく考えたら雪音と奏と一緒に住む事になっている…そして二人の共通点に胸が大きいと入っている…そして私が確認したら拒否された…まさか…ガンヴォルトは大きい胸が好きなのではないか?」
その言葉に対してシアンが否定する。
「そ、そんな事ないじゃない!じ、GVに限ってそんな事!」
だが、否定しようにも動揺が隠せないシアン。
「その話は無しに…」
響はその会話を断ち切る為に別の話題へと方向転換させようとする。しかし、それを拒むかの様に翼が言う。
「いや、そうかもしれないだろう!私だってそこそこ容姿は良い筈!それなのにガンヴォルトは私に対してそんな気を起こす事もなかった!ならばそうしか考えられないだろう!」
急にヒステリックを起こし始める翼。
「お、落ち着いて下さい!翼さん!まだそうと決まった訳じゃ!」
「そ、そうですよ!勝手にガンヴォルトさんが大きいのが好きと決めつけるのは早すぎる気がします!」
響と未来が翼を落ち着かせようとそう言った。
「いいや!その可能性を捨てきれないのであれば、あり得る話だろう!」
「お、落ち着くのよ!翼!そ、そんな事決まった訳じゃないんだから!」
翼と同じく動揺するシアン。そしてその可能性が本当であれば満更でもないと言う雰囲気のクリス。
そんなこんなで騒がしくなるクリスの部屋。
「胸が大きい方が男性の気を惹きやすいと雑誌にも書いてあったし、やはりそうなのか!?やっぱり男は胸が大きい方がいいのか!?」
「待って下さい!あくまでそれは雑誌の話ですよ!全ての人がそう言う訳じゃ…ないと思い…ますよ?」
「響!そこは強く言って貰わないと全然信じられないわ!」
翼は発狂しそうになり、響は否定しようとしたが、その考えに疑問付をつけて返した為にシアンもそれに対して全てを否定しきれてない為に響に向けて言う。
そして胸の大きさに対してヒートアップする翼とシアン。それを聞きながらそうなのかな?と自身の胸のサイズを見て不安を抱く未来。そうであれば納得だが、奏も入ってくるとどうなるかと考えるクリス。そしてもう終わってくれと願う響。
丁度胸の大きさについてヒートアップする中、丁度昼の時間なので昼食を持って扉の前に立つガンヴォルト。
「…入っていける会話の内容じゃないな…」
ガンヴォルトの胸の好みのタイミングではなかったが、男であるガンヴォルトはその話に入れないと少し苦笑いを浮かべながら少し時間を置いてから持っていこうと一旦中断していた奏の部屋となる場所の整理でもしようと一旦ガンヴォルトは退散するのであった。
◇◇◇◇◇◇
〜シアンのとある一日〜
ガンヴォルトと融合しているシアンは常に側に居られる。嬉しいことではあるのだが、それでもガンヴォルトはエージェントとして仕事をしている故に話せない時もある。
そんな時はシアンは響や未来の所に行く事が殆どだ。
奏や翼、クリスとも話すがやはりシアンの中では気を許せるのは響くらいだ。未来には未だ警戒しているが、それでも暇で退屈でいるよりは良い。その為シアンは響と未来の元へと向かうのは当然であった。
「響、今大丈夫?」
「あっシアンちゃん!」
リディアンの新規校舎近くの寮に引っ越しを終えたばかりで、綺麗な室内に響と未来が談笑する中、携帯の中に入り、響へと声を掛ける。
響は見えるから良いのだが未来には見えない事、そしていきなり壁からぬるりと出るのはシアン的にも幽霊みたいで嫌だからと言う理由である。
「シアンちゃん、どうしたの?」
「GVが仕事で全然構ってくれないから暇なの。だから話し相手になって!」
「全然大丈夫だよ!未来もいいよね?」
「私も大丈夫だよ。だけどガンヴォルトさんって今そんなに忙しいの??」
「そう見たい。ある程度復旧は出来たとか言ってたけど、記録とか文書作成とか見たいなのでずっと大男とオペレーター達と一緒にパソコンに齧り付いてるの」
「私だったらそんなの眠くなりそう…」
その光景を思い浮かべた響は大変だと吐露する。
「でも、ガンヴォルトさんは仕方ないんじゃない?もう大人で社会人だし、仕事をしているんだから」
「でもでも!それでも少しくらい相手にしてくれてもいいじゃない!」
未来の言葉にシアンは我儘だと分かっているが、それでもそう言わずにいられなかった。
「仕方ないよ。今は色々と大変そうだし」
「そうだよねー…あっ!ならシアンちゃん!ガンヴォルトさんの昔の事とか私知りたいんだけど!前にヘソ出しスタイルとかの話聞いたけど他には何かないの!」
「何それ?私も詳しく聞きたいな」
響の言葉に未来はとても興味ありげにし、シアンの映る響の携帯へと近寄る。
「色々あるよ!じゃあ何から話そうかな?」
そして響、未来、シアンはガンヴォルトの過去の日常について話し始めた。
ガンヴォルトのかっこいいところ、好きな食べ物を聞いたのに何故か好きではなさそうなのだが、髪にいいと言われるワカメと答える所、ガンヴォルトに勉強を教えてもらったりと色々話す。
響も未来もその話はとても興味深い物もあり話が弾む。
そしてガンヴォルトの話をしていると時間があっという間に過ぎ去り、既に外の空は茜色に染まるまで火が沈みかけていた。
「あっ、そろそろGVが帰る時間だし、そろそろ帰らないと」
「本当だ、気付いたらもうこんな時間…もっと話を聞きたかったけどまた今度に聞かせてよ!」
「そうだね、色々聞けてすごく良かったしまた今度聞かせてね、シアンちゃん」
「勿論いいわよ!じゃあね!」
そう言って名残惜しいが、シアンは響の携帯から出て、ガンヴォルトの住む家へと先に帰る。
「ただいまー」
気配はあるがガンヴォルトが居ないことは理解しているが、居候はいるだろうと声を掛ける。
「おーおかえり」
聞こえた声は恋敵でありながらも今共に住むクリスの声が聞こえる。だが、聞こえた声の方向がガンヴォルトの部屋であった為に、シアンは何をやっているのかと怒りを覚えながらガンヴォルトの部屋へと向かう。
「ちょっと!GVがいない時にGVの部屋に入っているのよ!」
そう怒鳴りながら入るシアン。そんなシアンの様子に驚きはしたもののクリスは普段通りに返事を返す。
「なんでもいいだろうが。下手に弄らなきゃ勝手に入っていいって言われてるし」
そうクリスが言うと何か読んでいたのか視線をその本に再び戻した。
その態度に苛つくシアンだが、クリスの持つ本が気になり、クリスの背後から覗き込む。
「ッ!ビックリするだろ!」
それに驚くクリス。しかし、シアンはクリスが見ていた本、漫画本を見て釘付けになってしまう。
「これってGVを題材にした漫画じゃない!」
「お前、知らなかったのか?」
シアンの驚き様にクリスはシアンが知らなかった事に少し驚く。
「知らないわよ!こんな漫画!と言うか、なんでこんな漫画があるの!?」
「おっさんが聞いたんだが、あまりにもあいつが色々とやってて有名な都市伝説になったから少しでも現実から切り離そうとフィクションで取り上げて漫画化させたらしい。前にこの漫画の話を聞いたからどんなもんかと少し気になってたし、引越しの時にあいつの部屋にあったから読んでんだよ」
クリスがどう言った経緯で漫画になったか説明し、何故かガンヴォルトが持っていたらしく、クリスは気になったので読んでいたと言う事を説明。
「知らなかった…GVこう言う事嫌そうだと思ってた…前から目立つのは嫌ってたし」
「多分あれだろ?嫌でもこうして何かしないと一般的には不味いんじゃないのか?」
クリスの言葉にシアンもそうなのかなと少し納得はする。
そしてクリスが見る漫画をシアンもそれを見せてもらう形で見ていく。
雷人と言う特殊な雷撃能力を持っていたが、それで誰かを助けようと力を振るう所はガンヴォルトと同じである主人公。
そしてストーリーもしっかりしていてとても二人は夢中になってそれを読み耽る。
「二人ともここにいたの?ってその漫画…」
気付けばガンヴォルトは帰宅しており、二人が夢中で読んでいた漫画を見て苦笑いを浮かべる。
「おかえり、GV!それよりもGVって漫画にされてたの!?」
「情報操作しても認知されすぎてるからそうやってフィクションに落とし込む狙いでされたんだよ。思った以上に人気が出ているみたいで、ボクとしてはむず痒いばかりなんだけどね」
「でもこうやって集めてるのはそれなりにお前も気に入ってんだろ?」
苦笑いを浮かべるガンヴォルトにクリスはそう言う。
「忙しいからあんま読めていないけど、元になったのがボクだからって事で単行本が発売されたら必ずボクのところに届く様になっているんだよ」
「届くんなら見りゃいいのに」
「まだそんなに読めてないけど凄く面白いんだよ!」
クリスとシアンがそう言った。
「時間がある時に見るよ。じゃあ、ボクは夕飯の支度をするからゆっくり寛いでで」
そう言ってガンヴォルトは自身の部屋にスーツの上着とネクタイだけ外すと再びリビングへと戻っていった。
そして二人もそれを見送ると再び漫画を読む事に集中するのであった。
「ちょっと!私まだこのページ読み終わってないんだけど!」
「私は早く続きが観たいんだよ!」
一悶着はあるものの、なんやかんや時間が過ぎ、夕食を食べるガンヴォルトを眺め、またクリスと共に漫画を読み、夜が耽ると先にクリスは寝ると言って、そこからガンヴォルトと今日一日の出来事を話す。
「シアンもみんなと仲良く出来ているならそれで良いけど…ボクの話とかばかりじゃない?聞いてると少しだけ恥ずかしくなるんだけど」
「いいじゃない、響も未来も楽しく聞いてたんだから!」
その事に対してガンヴォルトはまた苦笑いを浮かべ、ガンヴォルトが寝るまでまたシアンは語る。
しかし、
「シアン…ボクは明日も仕事なんだけど…」
「もう少し!もう少しだけ!」
シアンはまだ話し足りないとガンヴォルトを寝かさずに話を続けるのであった。