〜奏の引っ越し〜
ある程度リハビリを行い、松葉杖の補助があれば歩ける様になった奏は退院後、装者全員と未来、ガンヴォルト、シアンと共にある場所を訪れて居た。
「ここか」
「ここの一室がこれから奏が住む場所だよ」
「不本意だけどね!」
それは新しく住む事になったガンヴォルトの住む部屋のあるマンション。ガンヴォルトがそう言ったがシアンは不満そうに奏へと向けて言う。
「不本意とか言わない、シアン。これから一緒に住むんだから仲良くしてよ」
シアンが奏に威嚇しているのを嗜めながらそう言った。
「シアンちゃん…落ち着いて」
「やっぱりシアンちゃん荒ぶってる?」
響がシアンに向けてそう言い、未来は見えない為に響に聞くと頷いた。
「シアン、気持ちは分かる。だが、私からしたらシアンもそちらに入っているのだぞ?」
翼もシアンに向けて言う。
私は別でしょ!と怒りながら翼へと噛みつくシアン。それを嗜める響と未来。
「全くあいつらはこいつの事になると直ぐにいつもこれだ」
クリスがその様子を見てはそう呟いた。
「全部ガンヴォルトのせいだから仕方ない」
「ボクが全部悪いの?」
「全部お前の鈍さがな」
苦笑いするガンヴォルトに対して奏とクリスが同時に言った。
そんなたわいもない会話をいい加減に打ち切り、ガンヴォルトが先導して部屋へと向かう。
そんな中でも奏への気遣いを忘れないガンヴォルトに他のみんなはため息を吐き、今ばかりは仕方ないと後に続く。
そしてエレベーターに乗ってガンヴォルトの部屋まで来る間、奏は柄にもなく緊張をしていく。
共に住む事を許可してくれたガンヴォルト。これから居候するという事もあるが、恩人であり、恋慕を抱く想い人。そんな人物とこれから共に過ごす家。そこにこれから住むと考えると、彼方はそんな事気にして居なくても此方としてはとても緊張するもの。
そして到着したガンヴォルトの部屋。先導してガンヴォルトが案内し、奏の部屋へ。
既に家具などの荷物は到着してガンヴォルトと業者の人が配置しており、幾つかの段ボールが真ん中に鎮座している。
「奏個人の荷物の方は流石に手を出せないからそのままにしてあるよ」
「ありがとう、そいじゃちゃっちゃと整理するよ」
「ゆっくりでいいよ。まだ退院して間もないんだから、じゃあ、みんなも奏が無茶しない様にお願い」
「だからそんな無茶する事ないって」
ガンヴォルトがそう言ってリビングの方へと向かった。
「じゃあ、悪いけど手伝ってくれ」
「了解です!と言うか、基本的に私達がするのでゆっくりしていてください!」
「響の言う通り、私達がやりますから指示してくれれば大丈夫ですよ」
そうして奏の部屋にある段ボールから荷物を出して行き、みんなが奏の指示に従ってそれをしまっていく。
ここでもまたもや奏の下着を引き当て絶望したが、そこはかつてと同じやり取りが始まったが、奏がそれを上手く収めて、再び段ボールを片付けていく。
「みんなサンキュー。助かったよ」
ようやく段ボールを全て片付け終えた奏は全員に礼を述べる。
「奏も退院したばかりだから別に気にしなくていいんだから。ただ、こればかりは本当に羨ましい」
「それは本当にタイミングだって。翼なんて幾らでも機会があったはずなのに引っ込むから。それにもし一緒に住む事になったら翼は逆に呆れられるぞ?部屋をまともに片付けられないんだから。それをガンヴォルトが知ると苦笑しかしないんじゃないか?」
「…もうバレてる…」
奏の視線を逸らしながら翼がぼそっと呟いた。
「片付けられないのかよ…そんなんでよく言えたな…」
「片付けられないって程度にはよるけどそこまで酷いの?」
クリスがため息を吐いて翼に言い、シアンが翼の片付けが苦手な事が本当かを奏に聞く。
「苦手だな。まあでも、人には苦手なものもあるし、気にする事もないけどな」
奏は翼の苦手な物に対して人それぞれあると肯定的な意見を述べる。
「確かに、私なんて勉強が苦手ですし気にしなくていいと思います!」
「それは苦手とかじゃなくて勉強が嫌いなだけじゃないの、響?」
響も話に乗って勉強は苦手と言ったが未来はそれは違うのじゃないかと響へと言う。
「うっ…確かにそうだけど…それは別にいいじゃん!」
「響は勉強が苦手なのねー。でも知らない事を学べるってとっても楽しい事だと思うけど?」
そんな響に対して勉強は楽しいと言うシアン。
「えー!シアンちゃんは勉強好きなの!?おかしいよ!絶対!数学なんて訳わかんないし、文字ばかりの国語や古文なんて文字ばかりで眠くなっちゃうし!」
まさかのシアンの言葉に勉強嫌いな響はそう言った。
「人それぞれなんだから別に良いだろうが。と言うか、そんなんだと課題とか出た時とかお前は大変だな…どうせ見せてるんだろ?」
そんな響にクリスは呆れ、未来へそうだろうという確信を持って聞く。
「まぁ…いつもの事だから」
クリスの言葉に苦笑いしながら答える未来。
「こいつの事を考えているなら自分でやらせとけよ…やらない時点で自業自得なんだから」
「そうだな。そこはクリスに同意する」
「そんなー…奏さんまでー」
その事で奏にも言われて泣きそうになる響。
「まぁ、さっきも言ったように誰しも苦手なものくらいあるから別に良いだろう」
響の話が出て自分の話も区切りが付けられた為に、それ以上話を蒸し返せない様に翼が打ち切った。そのタイミングでノック音が部屋に響く。
「開けても良いかい?」
「良いぞー」
そうして奏の部屋に入室するガンヴォルト。飲み物を持ってきてくれたのか、全員分の飲み物を渡してくれる。
「それとみんな、ご飯食べてく?」
「えっ!良いんですか!?ガンヴォルトさんのご飯美味しいから良いのなら是非!」
「私も!」
「うむ。いただけるのなら私も」
響の言葉に未来と翼が後に続く。そしてそれを了承するガンヴォルトは奏へと聞く。
「奏食べたい物はある?約束だったし、リクエストがあれば言って」
「やった!なら肉系統の物がいいな、病院食はどうも食べた気にならなかったし、ガッツリ食べたい!」
「分かったよ。じゃあ、冷蔵庫の中にある物でガッツリ食べられるやつを作るよ。それじゃあ、しばらく待ってて」
そう言ってガンヴォルトは奏の部屋から退出していった。
「ガンヴォルトさんって料理上手ですから楽しみです!」
「確かに、ガンヴォルトには色々と作ってもらっているし、私の栄養管理もしてもらっているからかなりうまいな」
「うんうん、GVは料理すっごい上手なんだから!」
「そうなんですね…もしかして翼さんの弁当ってガンヴォルトさんの手作りだったんですか?」
何処か羨ましそうに翼へと未来は聞いた。
「ああ。と言うよりも小日向は何故それを知っている?」
その言葉にかつて未来と旧リディアンの食堂での話をした。
「むぅ…そこまで私は昼食の時違ったのか…」
「ガンヴォルトの事に関しては分かりやすいもんな」
そこまで他人からも分かるくらいになっていたのかと思う翼と分かりやすいと言う奏。
「と言うか、なんであいつはお前に弁当を作ったり栄養管理なんてしてんだよ?」
それに疑問を持ったクリスが翼に聞く。
「元々はガンヴォルト自身の弁当が美味しそうで、作って欲しいと頼んで何度も作ってもらっていたんだ。そしたらその弁当を緒川さんが見て栄養バランス、味なんかを気に入ってガンヴォルトに一任しても問題ないと言うことと、ガンヴォルトがそれでもいいなら構わないと言う事があってそうしてもらっていたのだ」
「ほえー…ガンヴォルトさんの弁当を翼さんが持っていたのってそんな理由があったんですね。食堂も美味しいけどガンヴォルトさんの料理も美味しいから羨ましい」
「安請け合いしすぎなだけじゃねえの?」
翼の答えに響はなるほどといつも食堂も美味しいがガンヴォルトの料理も美味しい為羨ましいと思い、クリスは安請け合いしすぎだと言う。
「その辺りは大丈夫だろ?ガンヴォルト元々料理好きっぽいし、気にしてないみたいだし」
「GVは確かに安請け合いしすぎだと思うけど、趣味が無いって言うGVが唯一凝ってる物だし仕方ないわ」
奏の言葉にシアンが付け加えて言う。
「それを趣味っていうんじゃないのかな?」
シアンに対して響はそう言った。
「だってGVって趣味はないよって言ってたもん。まぁ、響の言う通りそれが趣味って言うんだろうけどGVはそんなんじゃないよっていうから」
シアンは響にそう言って、ガンヴォルトさんってそう言うところも何処かずれているねとシアンに返した。
そんな話をしていて、しばらくするとガンヴォルトがリビングから呼ぶ声が聞こえる。どうやらご飯が出来た様で響はすぐに奏の部屋から出てリビングへ向かっていった。
「響、慌てないの。ご飯は逃げないんだから」
そう言ってその後を追う未来。
それに続いてシアンも響と未来を追った。
「ったく、そそっかしい奴らだな…退院したとは言え、まだ怪我人を置いていくなんて」
「まぁ、良いだろう。立花や小日向だって楽しみにしていたんだから」
クリスの言葉に翼がそう返す。
そして奏を翼とクリスが支えてリビングへと向かう。
そしてそこからは楽しい食事が始まり、奏は久々のガッツリした物が食べられる為に結構な勢いで食べ、響は負けないくらいに頬張っていく。
「まだお代わりあるからゆっくり食べて良いよ」
「やったー!ならおかわりお願いします!」
「私も!」
「二人って結構食い意地張ってる?」
ガンヴォルトの言葉にすぐさま反応する二人にシアンが何処か苦笑いしながらそう言った。
「まぁ、奏は久方ぶりのこう言った食事だから仕方ないとして、立花はいつもこうなのか?」
「いつもこうですよ。でも、それが響らしいところなので」
翼の言葉に未来がそう答える。
「答えになってねぇな」
「そう言うあなたは少しは食べ方を直したほうがいいんじゃないの?スプーンで食べているのになんでそんなに散らかるわけ?」
クリスがそう言った時、シアンがクリスに向けて言う。
クリスは少し、いや、大分食べこぼしを多く辺りに散らしながら食べている。
「別に良いだろ!自分で後片付けするんだから!」
シアンの言葉に顔を赤くしながらクリスが言う。
「シアン、食べ方に関してとやかく言うのはどうかと思うよ」
シアンを注意するガンヴォルト。
「でも、GV。こう言うのは注意しておかないと後々大変な目に遭うのは自分自身なんだから」
今回に関してはまともな事を言うシアン。そんなこんなで食事も終わり、楽しい?食事も終わり、翼、響、未来も時間が来たので三人は家に帰る。
そしてガンヴォルトは全員分の皿洗いをすると言ってキッチンに篭ろうとしたが、奏を部屋に送ろうかと声をかけるが、大丈夫と奏は断る。何故ならクリスが既に奏を支えて部屋に戻そうとしていたからだ。
「悪いな、クリスが何も言わずに支えてくれたよ」
「まだふらついたりもする奴ほっとけねえだろうが」
「言葉に棘はあるけどやっぱりクリスは優しいのな」
ぶっきらぼうに答え、顔を逸らすクリス。
「ありがとうクリス。じゃあちょっとボクは片付けてるから何かあったら呼んで」
そう言ってキッチンに戻るガンヴォルト。
そんなガンヴォルトと話したいのか、シアンもキッチンにいる。
奏はクリスに支えてもらいながら部屋に戻る。
「悪いな。支えてもらって」
「別に構わねぇよ。こう言う時は助け合いだろ」
「はは、そうだな」
そう言って笑う奏。そして部屋まで行くとベットまで連れて行こうとするが、奏は別の方に視線を向けて言う。
「ベッドの前に、少しだけあっちに良いか?」
「…気にはなってはいたがこれって」
そう言ってクリスが奏の視線の先に目を向けると部屋の中で異質な物が目に止まる。そこにあるのは小さめに仏壇であった。
「私の家族だよ。ノイズにやられてもういないけどな」
「悪い…嫌な事聞いて…」
その事にクリスは分かっていたとしても聞いては不味かったと謝る。
「もう心の整理は出来ているから気にするなよ」
そしてクリスに気にするなと声を掛ける。クリスに支えてもらいながら仏壇の前に連れてきてもらった奏は腰を下ろすと、おりんを鳴らして手を合わせた。
「ただいま…二年もほったらかしにしてごめん。ずっと眠ってて…でもこれからは毎日顔を出すから。こっちだけじゃないよ。勿論お墓にも久し振りに行く。ずっとガンヴォルトばっかり顔出してて心配してたと思う。でも今度は私も顔を出すから」
そう奏は声を掛けた。家族は何も答えないと分かっている。だが、それでもこうやって家族に向けて報告をしないといけないと思うのか言葉に出てしまう。
「…」
その気持ちを何処となく理解出来るクリスはその奏の行動に何も言わず、自身も奏の横に座り、同じ様に手を合わせた。
そしてそれを見た奏は笑みを浮かべ、また言葉にする。
「それに住む場所も変わったんだ。前は翼のところだったけど、今はガンヴォルトのとこにいるよ。それに新しい友達二人と一緒にね」
友達という言葉にクリスは驚きはしたが、ただ恥ずかしがりながら、仏壇に向けて言う。
「雪音…クリス…です…今後とも…宜しく…お願いします」
そう奏の家族を祀る仏壇に返す。勿論返答はない。だが、何処となく、これからも奏と仲良くと都合のいい様に思われるかもしれないがそう聞こえた気がした。
「宜しくだってさ。みんな言ってるよ」
そう奏も感じ取ったのかクリスに向けてそう言った。そして手を合わせ終えた二人は向き直る。
「まぁ、これからしばらくは迷惑をかけるかもしれないけど、今後とも宜しくな、クリス」
「しばらくは面倒はあいつと一緒に見てやるよ。そっちの家族にも挨拶しちまったしな」
ぶっきらぼうながらも奏へとそう言ったクリス。その言葉に相変わらず口下手だなと思う奏。そしてクリスは奏を再び支え、ベッドの方に向かわせた。
「…なぁ」
ベッドに腰掛けた奏にクリスが問いかける。
「こういうのってどんくらいの値段なんだ?」
クリスは仏壇に視線を向けて奏に聞く。クリスの事情を知る奏はその言葉の意味を理解しているから言った。
「高くないとは言えないけど、二課から給料貰っていればそれなりに良い奴は買えるよ」
「…そっか…こう言うの存在は知ってたけど…やっぱり、あるとないとじゃ違う感じがしたし…私もパパとママにこうやって毎日話したい…」
さっきの奏の行動を見てそう言ったクリス。
「それが良いと思う。やっぱり、顔は見れないとしても、こうやるだけで気持ち的には家族と会話出来ているって思えるからな。となると」
そう言って奏はクリスに端っこに追いやっていた雑誌の束の中の一つに視線を向けて取ってくれと言った。
クリスは疑問符を浮かべながら、その視線の先の雑誌の束を見る。
「その中に確か私が買った時のカタログがあるから、一緒に良い奴探そうぜ」
その言葉に合点が言ったクリス。
そしてその束の中から仏壇のカタログを見つけたクリスは奏の隣に腰を掛ける。
「私はそれなりに良い奴じゃないとダメ出しするからな」
「おっ、なら良い奴探すしかないな」
そうやって二人はクリスの父母の仏壇を決める為にカタログを二人で話しながら見ていくのであった。
そんな二人を開いた扉からキッチンで洗い物を終えたガンヴォルトがお風呂の準備の為に通った時、その様子をチラリと見た。
「仲良く出来ていて安心したよ」
「…二号ってもっとツンツンしてた気がしたけど…一号とだとそんな事ないのが不思議…」
「まだその呼び方してたの…いい加減やめてあげなよ、シアン。そもそも奏はクリスと同じ境遇だから…何かシンパシーでも感じているんだと思うよ。だからこそ歩みよりが他と違って分かっているんじゃないかな?…悲しい過去だし、こんな話はよそう。二人が仲良くできているのならボクはそれでいいんだから」
「仲良さそうなのは別に良いけど…どうしてあの二人はすぐ二人して仏壇のカタログ見ながら楽しそうに話しているのって少しは可笑しいって思わない?」
「シアン、変に言わないの」
シアンに注意しながらもガンヴォルトも少しそう思うが、それは二人の両親に失礼だと思い、心にしまう。
そして後日。カタログに良いやつは見当たらず、それならと仏壇の店にクリスに連れられ、買った大きな仏壇を弦十郎と共に何度も職質されながらも運ばされるとは思わなかったガンヴォルトであった。
「喜んでいるのならいいのだが…流石に何度も職質されるとくるものがあるな…」
「弦十郎の知り合いが来なかったら拗れてたかもしれないね…でも確かにクリスが喜ぶのならあんな事があっても報われたと思えるよ」
その当人達はクリスが喜ぶのならと甘んじて受け入れる。
「結局カタログにも載ってないでかい奴にしたんだな…」
「やっぱりでっかい方が見栄えもいいし、飾られるならこういう奴の方がパパとママも気分がいいだろ」
そして奏に自慢するかの様にクリスの部屋にも大きな仏壇が置かれる事になった。