戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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奏がガングニールのシンフォギア装者となって数日。ボクは弦十郎の計らいにより奏とは余り会わないようになっている。今は力を手に入れ落ち着いているし、日常ではある程度の抑えは利くようになっていると聞いた。

 

ボクは奏にはあれ以来会っていないため、そのくらいの情報しかない。ノイズの出現に対してもボクは一人で、翼と奏は二人での行動が多くなると聞いている。

 

それと、翼はあれから奏に歩み寄ってくれているそうだ。弦十郎は最初に平手打ちしたからどうかと心配していたそうだが、問題なかったそうだ。

 

奏も翼もうまくやれているのなら心配はないが、ただ今気になっているのは奏のガングニールの件だ。

 

正式には第3号聖遺物、ガングニール。この国が保有している聖遺物の欠片であり他にも翼の保有する天羽々斬、紛失してしまったイチイバルがある。

 

話が逸れたが、その聖遺物は適合する者の歌でしか反応しないはず。それなのに奏が運良く適合した。そんな都合の良い話があるのだろうか。

 

ボクはその事実確認のために弦十郎の元へ向かう。司令室に入り、弦十郎に声を掛けた。

 

「弦十郎、奏のガングニールで聞きたい事がある。聖遺物は適合者でないと反応しない。これは間違いないと聞いてる。奏に反応したのがちょっと気になっているんだけど」

 

「…ここで話すのは少々気が引ける。付いてこい」

 

弦十郎はそう言って司令室から一緒に出るように促す。ボクはその後を追った。

 

「弦十郎、あの場で話せないのはなんで?何か機密があるのか?」

 

「機密などはない。だが、この話はあまり大人数で話す内容ではないからな」

 

そう言って休憩室に入り、弦十郎は缶コーヒーを二つ買って、片方をこちらに投げ渡す。それを受け取るが開ける事なく直ぐに弦十郎に問う。

 

「それで、奏がなんでガングニールを使えるように?奏は適合者だったの?」

 

「いいや、彼女はちゃんとした適合者ではない。ガングニールは彼女の歌には反応しなかった」

 

「じゃあなんで奏に反応を?適合者じゃないと反応しない。了子の資料を一通り目を通してるからそのぐらいは理解している」

 

だったらなんでと聞き返す前に弦十郎が答えた。

 

「LiNKER。それが奏を適合者にした答えだ」

 

「LiNKER?」

 

聞いた事ない単語が出て弦十郎に聞き返す。了子にもらった資料にもなかった単語。

 

「LiNKERは聖遺物との適合率を無理矢理引き上げる薬の事だ。だが、当然副作用があって適合率を上げれば上げるほど投薬者に負荷が掛かる。運が悪ければ死者や廃人を作り出してしまう程の」

 

ボクはその言葉を聞いて弦十郎の胸倉を掴んだ。

 

「なぜそんな薬を使ったんだ!」

 

「彼女が望んだ事だ。俺だってあの子をこんな戦いに参加しては欲しくなかった」

 

「だからってそんな物を使ったのか!そんな危険な副作用があると知って!死ぬ可能性もあったかもしれないのに!」

 

「おいおい、そんなの承知の上に決まってるだろ。あんたに何かを言われる筋合いはないぜ」

 

弦十郎からではなく背後の入り口の方から聞こえた。振り返るとそこには奏が立っており、その後ろにはどうしていいか分からなそうにオロオロしている翼がいた。

 

「奏…」

 

「気安く呼ぶなよ。あんたに気を許してなんかいないんだからな」

 

奏はボクへ突き放すように言った。

 

「私はノイズをぶち殺すために血反吐を吐きながらもこの力を手に入れたんだ。それを何様だ?使うな?副作用が出て廃人になるか死人になる?私にとってはそんなのちっぽけな事に過ぎないんだよ。家族の仇、それさえ取る事が出来れば私はどうなろうと関係ない」

 

「そんなの間違っている!例えそれが君の願いだったとしても、家族の仇を取るために自身の命を懸けて欲しくない!」

 

「うるせぇ!理想を並べて善人を気取ろうとしたって私の意志は変わらない!私に残されたのはノイズをぶち殺す、この力だけなんだからな!」

 

そう言って奏は首から下げているペンダントを握った。

 

「奏!ガンヴォルト!二人とも落ち着け!なんでお前等は顔を合わせるだけで言い争いになるんだ全く!」

 

弦十郎がボクと奏の間に入り仲裁する。

 

「弦十郎の旦那には関係ねぇ!」

 

「関係大アリだ!お前等二人の保護者という立場だからな!とにかく今のお前等じゃ話が進まん!一旦落ち着いてこい!翼、奏を何処か落ち着ける場所に連れて行ってくれ!」

 

翼は頷いて奏を引っ張って連れて行く。奏はあの時よりは落ち着いているのか暴れようとはせず、こちらを睨みながら出て行った。

 

「ったく、どうしてお前等は…」

 

呆れながら溜め息を吐く。

 

「ガンヴォルト…お前はなんであそこまで彼女に戦って欲しくないと言うんだ?戦うのも彼女の意思だ」

 

「戦って欲しくない、それはボクの我儘だって事ぐらい分かるさ。ボクが怒る理由は薬を使い続けた結果の事だ」

 

弦十郎にその事を説明をする。未だ何が起こるか分からない物を使い続けた結果。彼女がどうなってしまうかを考えてしまう。

 

それに...

 

「今の奏が…復讐を望む奏が過去の自分の辿ろうとしていた道に行きそうだから」

 

「お前が辿ろうとしていた道…」

 

かつてボクは皇神(スメラギ)の実験施設にいた。その時、あの人に助けてもらい、ボクは自由になった。だが、あの時のボクは助けられずに実験体として扱われ続けたら彼女よりも酷く誰も彼も信用出来ない人間になっていただろう。

 

憎むべきものは違えど、彼女がその憎しみを抱き、生き続けるのは耐えられない事を語った。

 

話しを聞いた弦十郎は辛そうな表情を浮かべる。

 

「それに奏はそうは思ってないかもしれないけど、ボクは助けた人がそんな状況だからこそ見捨てる事が出来ない」

 

「お前の気持ちは分かった。だが、奏はあの様子だと止まらないだろう。だから、あいつのケアは俺達に任せてくれ。それと薬に関しては申し訳ないが今すぐどうこう出来る問題じゃない。もし、ここで止めて仕舞えば、奏は矛先をさらにお前に向ける事となるからだ」

 

確かに、急にLiNKERを打てなくなれば先程反対していたボクに向くと予想は出来る。弦十郎は話を続ける。

 

「だがガンヴォルト。前にも言ったが、お前も我々や医療班を信用して欲しい。ここに配属されている人材は皆優秀なんだ。絶対に奏を危険な目には遭わせはしない」

 

「…分かった。だけど、約束はしてくれないか。奏と翼を、あの二人を危険な目に遭わせない事を」

 

「そんなの当たり前だろうが。二人とも大事な俺達が支えるべき子供達なんだからな。だが、お前も」

 

「その中に入っている。そう言いたいんでしょ」

 

弦十郎も分かっているならよし、と言ってボクの背中を叩く。

 

「まあ、この問題に関しては直ぐには動けるような問題じゃない。だが、このままギスギスした状態でいるのもな…」

 

弦十郎はさらなる課題に頭を悩ませる。

 

「毎回のように口論になると決まった訳じゃ…」

 

「だとしてもだ。奏もまだ装者になったばかりだ。しばらくはガングニール装着時のトレーニングに専念させる。お前との鉢合わせなんかは少なくなるだろうから大丈夫だと思うが」

 

「分かってるよ。奏が落ち着くまでボクは召集がない限りあまり二課の中を歩かないようにするよ」

 

そう息を吐くように言うとぬるくなった缶コーヒーを開けて一口飲む。温くなったコーヒーは特有の酸味と苦味だが、いつも飲んでいるコーヒーよりも苦く感じた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「そろそろ離せよ、翼」

 

奏は自分の手を引き、先程言い争っていた休憩室から離れた場所まで来ると翼に言った。翼は手を離すと奏の方を向き言った。

 

「なんで奏はガンヴォルトに会ったら言い争うの。あの人も奏に対してすぐに感情的になるかもしれないけど、奏を助けてくれたのよ?」

 

「あの時も言った通り、あいつは私のお父さんを殺したようなもんだ」

 

「ガンヴォルトの報告じゃ、奏を守ってと聞いているわ。現場にいなかった私じゃどうこう言える立場じゃないけど、あの人は簡単に人を見捨てるような人じゃない」

 

翼の言葉は真実であるのかもしれない。あの時は怪我をした父親を助けようと必死だったから彼がどうしていたかも不明だ。だが、助けられなかった事は事実であり、あの場にいたガンヴォルトは助けてくれなかった。

 

「いいや、あいつは私のお父さんを見捨てたんだ!」

 

あの時の感情を思い出し、思わず叫んでしまう。急に叫んでしまい、翼は涙目になる。我に帰り、友達になってくれた翼に謝る。

 

「急に怒鳴ってごめん。でも、私はあいつが許せない。目の前の助けられた命を見落としたあいつが…」

 

「あの人は…ガンヴォルトはそんな事する人じゃないよ…それだったら、あの時私も死んでたんだから…」

 

翼が涙を拭いながら言った。

 

「翼が死んでいた?」

 

奏は翼の言葉に問い返す。

 

「奏も知ってるでしょ?2年前に起きた、リディアン初等部であったノイズの襲撃を」

 

2年前に大々的に報道されたリディアン初等部を襲ったノイズの大群。その事件は奇跡的に死傷者がほとんど出ずに解決された数少ない事例だと聞いている。

 

「あそこで私はノイズの大群を一人で相手していたの。あまりの数の多さに手数が足りなくて、気付けばノイズに囲まれて追い詰められたの」

 

翼が語る真実。それは規制されてメディアでは報道されることのないもの。

 

「あの時、私は死にかけてもうダメだって思っていた時、ガンヴォルトが助けてくれたの。自分の疑いすら気にもせず」

 

その言葉に奏は気になる事が出来た。

 

「何に掛けられてんだ、あいつ?」

 

「…殺人」

 

その瞬間、奏の中の何かが弾け、先程いた場所まで駆けようとするが、翼が奏の手を掴んで止める。

 

「離せよ翼!やっぱりあいつは!」

 

「違うの!あの人は確かに人を殺したと言ってた!でも、それは人を守るためなの!」

 

「だからってなんで誰もあいつを恐れないんだ!人殺しがなんでこの場に!」

 

ガンヴォルトが殺人を犯しているのに、この場でのうのうと過ごしているのを見逃しては置けず、翼の手を振りほどこうとする。

 

「違うの!あの人は別の世界で悪用されようとしていた力を持つ人のために戦ってたの!決して罪のない人を殺すような人じゃない!」

 

「翼や弦十郎の旦那もなんでそんな奴の事が信用出来る!嘘偽りの可能性だってある!今は隠しているかもしれないけどあいつがいつ本性を出し始めるか分からないだろ!それに別世界ってなんだよ!訳わかんねぇよ!」

 

急な展開で頭が追い付かない。過去のリディアンの襲撃。ガンヴォルトの殺人。別の世界。一気に入ってくる情報は奏の頭をパンクさせる。

 

「本当に訳がわかんねぇよ!なんなんだよそれ!」

 

「だったら私が詳しく説明してあげるわ」

 

その言葉と共に何処からともなく了子が現れた。

 

「了子さん…」

 

「奏ちゃんもこれからは二課で一緒に働くものね。その辺りも詳しく話しておかないと今後になんで説明しなかったって怒りそうだものね」

 

そう言って了子は奏と翼を手招きする。

 

「こんな所で立ち話するのもなんだし、近くの部屋でお茶でも飲みながら話しましょう」

 

了子は奏と翼を引き連れて近くの部屋へと入っていった。

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