最終章、G編を始動いたします。
燃え盛る炎の中、一人の白銀の鎧の様な物を纏う少女が白い巨大な生物と対峙していた。
生物の名前は、ネフィリム。
完全聖遺物。それが目の前の白い生物の正体。だがネフィリムは暴走している。
起動する為に必要なフォニックゲインが不足する中での強制的な起動により、不完全であり、歪な形で産声を上げたネフィリムは目につく全ての物を喰らい、破壊していく。
その結果が今の現状であり、それを為そうとした研究者達はそれを止めようとしたが制御などする事が出来ず、この様な惨事が起こった。
そしてそれを止める為に今目の前の絶望を食い止める為に対峙する、聖遺物、アガートラームを纏う少女。セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。
「急に起こされて怒るのは分かるよ…でも貴方もそんな事したって悲しいだけなの…だから止まって…」
シンフォギアを纏うセレナだが、彼女はこれまでに戦闘などの経験は全くない為に目の前のこの生物と戦うという選択はなかった。
だからこそ、セレナは歌った。自身の歌を信じ、この目の前のネフィリムを再び眠りに就かせる為に。もうネフィリムに何も傷付けさせない為に。
「Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el zizzl」
絶唱。それは装者の奥義でもあり、自身をも傷付けてしまう諸刃の剣。
だが、セレナは躊躇なく歌った。
この場には大切な姉であるマリア・カデンツァヴナ・イヴ。それに自身を拾って育ててくれたナスターシャがいる。沢山の研究者達も。そんな人達を助けたい。だからこそ、セレナは絶唱を躊躇いなく歌った。
セレナを起点に周りから白色の光が現れ、それはどんどん包み込んでいくかのように大きくなっていく。
ネフィリムはセレナの放つ絶唱のエネルギーの光の中に包まれた。
「ガァァ!?」
苦しみにも聞こえるネフィリムの咆哮。
だが、セレナはそんなネフィリムへと近付いて優しく声を掛ける。
「苦しいかも知れない…辛いかも知れない…でもこれは貴方が落ち着く為の歌なの…だから…もう止まって…ネフィリム…」
「ガァァ!」
だが、セレナの言葉を、歌を拒み、抗うように暴れ始めるネフィリム。しかし、ネフィリムの振るう拳はセレナの歌う絶唱のエネルギーに弾かれる。
その瞬間にセレナのあちこちから血が吹き出す。絶唱が自身の身体を蝕み、傷付けているのだ。
それでもセレナは痛みに顔を歪める事なく、ネフィリムに対して優しく言い続ける。
「大丈夫…もう貴方を苦しませたりしないから…もう二度と貴方をこんな苦しい思いをさせないよ…お願い…ネフィリム…だから…落ち着いて…」
しかし、ネフィリムはまたしてもセレナの優しい問い掛けを拒み、この包み込む光の元であるセレナを狙い始める。
だが、ネフィリムの攻撃はセレナに触れる事すら出来ずに弾かれる。
「ガァァ!」
それでもセレナへの攻撃を止めないネフィリム。荒々しく、そしてとてつもない音量の咆哮を上げて眠りを拒むかの様に。
「お願いだよ…貴方に誰も傷付けて欲しくない…だから止まって…」
セレナは願い続ける。ネフィリムに誰も傷付けて欲しくない。誰も犠牲を出したくない。その一心でセレナは歌い続ける。
「ガァァ…」
そして、ようやく抗う力すら失ったのかネフィリムの大きな身体が、ゆっくりと崩れ落ち、瓦礫の上でその巨体を横たえた。
「良かった…」
そしてセレナはようやく止まったネフィリムを見ながら、自身も膝が崩れ落ちる。
「セレナ!」
「マリア…姉さん…」
傷付いた身体を支えてくれたのは姉であるマリアであった。危ない現場なのにも関わらず、自身の危険を顧みずここまで来てくれた様だ。
そして、セレナも歌を口にする事が出来なくなり、纏うシンフォギアであるアガートラームも消えてしまう。
「セレナ!しっかりしてセレナ!」
「マリア姉さん…私は大丈夫だから…早くここから逃げよう…」
マリアも燃え盛る炎が徐々に近付いてくる事を感じてセレナを抱えて、この場から立ち去ろうとする。
だが、マリアがセレナを立ち上がらせた瞬間、とんと押されて倒されてしまう。
「何をするの!セレ…」
マリアは最後までセレナの名を呼ぶ事が出来なかった。
何故なら、マリアの目に映ったのは眠ったはずのネフィリムが再び巨体を起こし、大きな口でセレナを飲み込もうとしている瞬間であったのだから。
「ごめんね…マリア姉さん…」
その言葉と共にセレナはネフィリムの開けた大きな口の中に付近の瓦礫と共に飲み込まれた。そしてセレナの首につけていた砕けたアガートラームのペンダントだけがマリアの元へ転がる。
「セレナァァ!」
手を伸ばした所でネフィリムは口を開ける事なく、そのまま光を纏い、起動する前の小さな物体となってしまった。
「セレナ!セレナァァ!」
マリアは落ちたアガートラームとネフィリムを拾い上げて叫び続ける。
「返して!返してなさいよ!セレナを返しなさいよ!ネフィリム!」
「マリア!危ないわ!早くこちらに来なさい!」
マリアを救う為に現れたナスターシャの声。
だがマリアはその声が聞こえていない様に手に持つネフィリムに対して叫び続けていた。
そんなマリアに向けて無情にも天井が崩れ、瓦礫が降り注ぐ。
「マリア!」
ナスターシャはマリアの元へ駆け出して、マリアに瓦礫が当たらない様、自身の身体を盾にする。
「ぐっ!?」
マリアを抱え、なんとか落下する瓦礫からマリアを助ける事は出来たが、自身の足が巻き込まれてしまう。
「マム!?ごめんなさい!ごめんなさい!」
マリアはネフィリムを拾い上げてポケットにしまうと助けてくれたナスターシャに謝りながら、必死に瓦礫を退けようとする。
「マリア!逃げなさい!私の事はいいから!」
「嫌だ!セレナもマムもいなくなるなんて嫌だ!そんな事言わないでよ、マム!」
マリアは必死にナスターシャを助け出そうと瓦礫を退けようとする。だが、巨大な瓦礫はマリアの力ではどうする事も出来ず、ただ、遠くの方で忙しなく何かをする研究員達に向けて叫んだ。
「誰か!誰か来て!マムが!マムが大変なの!早く!」
だが、マリアの声が聞こえていないかの如く、研究員達は誰一人として助けに来る事はなかった。
「なんで!?なんで誰も来てくれないのよ!」
「私を置いて行きなさい、マリア…こんな足じゃ貴方が逃げる妨げになってしまいます…」
「嫌だ!絶対にそんな事しない!」
マリアは動かない研究員達にもう叫ばずに自身でなんとかしようと瓦礫を退けようとする。
だが、そんなマリアに向けて再び瓦礫が降り注ぐ。
「マリア!」
マリアは間一髪の所で避ける事に成功したが、衝撃で舞う砂塵と小石で傷付いてしまう。
だがその瓦礫によりナスターシャの足を挟む瓦礫が浮かび上がり、どうにか動ける状態となった。
「マム!」
マリアはナスターシャを引いて救出するとナスターシャを抱え、その場から足早に立ち去る。
「ごめんなさい…マリア…セレナ…こんな事になってしまって…」
近くにいるマリアですら聞こえない声でナスターシャは呟いた。ネフィリムを起動しなければセレナを失う事はなかった。
だからナスターシャは謝る事しか出来ない。大切な家族を失わせてしまったマリアに。そしてネフィリムに食べられたセレナに。
◇◇◇◇◇◇
「はっ!?」
マリアは上空を未だ飛び続ける飛行機の中で目を覚ます。
懐かしく、悲しい夢。かつてセレナを失った時の夢であった。
「マリア、大丈夫?」
「なんだかとても魘されていたデスが…」
側に座る大切な家族である月読調と暁切歌がマリアを心配そうに手を握っていた。
「大丈夫よ。ちょっと昔の夢を見てただけだから…」
二人の頭を撫でながら心配ない事を伝える。
「嘘…マリアがあんな魘されてたのに大丈夫なんて事ない」
「そうデス!私達に隠し事なんてあんまりデス!マリア!」
二人はマリアに対して言った。隠し事をされたと思い、二人ではマリアの支えになれないのかという風に。
マリアもそんな二人を見て自身が先程まで見た夢を語った。
かつてセレナをネフィリムに食べられた事。ナスターシャに歩けない怪我をさせてしまった事を。
以前からその事を知る二人も悲しげな表情を浮かべる。聞いてはいけなかった。その場にいなかった二人からすればその時、マリアがどれだけ辛い目に遭ったか、どれだけ悲しい目に遭ったか理解出来るから。
そして、自分達を妹の様に接してくれるマリアをそれ以上悲しい表情をさせない為に口を紡ぐ。
「心配してくれてありがとう、二人共」
「ごめんなさい」
「マリアぁ…辛い事を言わせてごめんなさいデス」
涙を浮かべながら二人はマリアに必死に謝る。マリアも気にしないでと二人の頭を撫で続ける。
「どうしたのですか?調に切歌も泣いて?」
車椅子を動かしながらナスターシャが現れる。
そして切歌と調はナスターシャへと抱きついた。そして切歌と調はマリアの過去を思い出そうとするのを拒む為、ただ必死に口を紡いで涙を堪える。
「…そう…あの時の夢を見たのですね」
ナスターシャは二人の様子とマリアの少し疲れた顔を見て察するとそれだけ言った。
そして、切歌と調の頭を撫でて言う。
「マリア…貴方にはまた酷い事をしてしまいます…今なら…今ならまだ貴方は重い罪など背負う事をせずに歩む事が出来ます」
「いいえ、マム。例え、それがどんな事だろうと私はやって見せる。セレナの様に…辛い思いをする人達を出さない為にも…もうあんな悲しみを生まない為にも…それに…いずれ私はフィーネとして覚醒してしまう…そうなってしまえばどんな事があろうと、重い罪を背負ってしまう…だからこそ、私が私でいられる内にしなくちゃならないの」
覚悟を決めたマリアの顔にマムはただ頷く事しか出来なかった。そして、切歌と調も見ると、泣きそうな顔であるがマムに対して覚悟を決めた表情で頷いている。
「分かりました…重い罪を私達は背負ってしまいますがやりましょう…世界を救う為に…例え、それが世界すら敵に回してしまう悪の道であったとしても…」
その言葉に三人は覚悟を決めて頷いた。
◇◇◇◇◇◇
アメリカから日本へとマリア達が向かう中、ウェルも日本に先に向かわせ、アッシュボルトは研究所に一人残り、画面に映され解析されたガンヴォルトのDNAを見て高笑いを上げていた。
「ハハハ!そういう事か!それが貴様の正体だとはな!」
アッシュボルトは何度もそう言いながら画面に映るDNAの図を見続ける。
「貴様の正体は分かった…貴様が
そう笑うと同時に今度は一気にテンションが冷めたのか高笑いを止める。
「だが…何故貴様にも
そう言うと研究室から出る為に扉へと向けて歩き出す。
「まあいい、手に入るはずのないピースがちょうどよく手に届く所に現れたのだからな…既に機は熟した…貴様がどうやってこの場所に現れた事などどうでも良い。だが、その力…
そして研究室に手榴弾を出て行く瞬間に投げ入れると研究室を爆破させて証拠となるもの、機材やDNAの情報を全て消し去った。
「今度こそ
そう呟くと共に仕掛けていた爆弾を爆発させながら崩れゆく研究室を優雅に去って行った。
勘のいい皆さんはアッシュボルトの正体に気付いていると思いますが本編で正体を表すまで絶対に言わないようお願いします。
そもそももっとわからない様にしろよと皆さんは思うかもしれませんが、あんな口調が特徴的な方の正体を隠す方が難しいです。