ドラクエ9(仮)   作:UMAコメイジ

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3話

「よーし、いくぜ!リン!」

 

 意気揚々と銅の剣を掲げるニード。その様子はまさしく冒険ごっこを始める子供のそれで、私は思わず顔に笑みを浮かべた。

 

「元気なのは良いけど一人で突っ走んないようにね」

 

「大丈夫だって!」

 

 何がどう「大丈夫」なのか分からないが、ニードがこちらの話を聞きそうにないことははっきりと分かった。これは自分がしっかりと気を張らねばなるまい。

 

 私は腰元に下げた銅の剣に手をかけた。リッカが見つけてくれた時はボロボロだったらしいが、見る限りその刃に傷は見あたらない。村の道具屋に感謝しつつ、その剣を抜いた。目が覚めてから初めて剣を手に取ったハズだが、不思議と剣を持つ手に違和感を感じない。この様子ならニードの護衛をこなす事が出来そうだ。

 

「……い、おーい!リン!何してんだよ!」

 

 ハッと前を見るとニードはすでに大分前へと進んでおり、こちらを振り返って私を呼んでいた。

 

 いけない。どうやら私は物思いにふけると周りが見えなくなる嫌いがあるようだ。ニードに追いつこうと走ろうとしたその瞬間、ニードのすぐそばの茂みが揺れ、2つの影が飛び出した。

 

 水色の軟体生物と槍を持った細長い体の人型ーー魔物だ。

 

 ニードはまだ魔物の存在に気づいておらず、それが分かっているのか魔物の顔には歪んだ笑みが浮かんでいる。

 

 それを見た私の行動は早かった。

 

 右足に力を込めて跳躍。ニードに飛びかかろうとした水色の魔物を自分の全体重をもって叩き斬った。相方がやられ、うろたえたように一歩下がる緑の魔物。その一瞬の隙を突いて素早く体勢を立て直し、横薙ぎの一閃。魔物のキュウリのような身体が上下に割れ、そのまま崩れ落ちた。わずかに浮いた額の汗を拭う。息は切れていない。

 

「ふぅ……大丈夫だった?」

 

「お……おう……ワリィな」

 

 感謝の言葉をかけたニードは地面に尻餅をついていた。なんとも情けない状態だが、それを咎める人間は誰もいない。私はニードの手を取り、ぐいっと引き上げた。

 

「いや、私のほうこそごめん。ぼおっとしてて」

 

 元はと言えば私が考え事をして注意が散漫だったのが原因だ。気を張ろうなんて意気込んでいた自分が恥ずかしい。

 

「にしても……やっぱ旅芸人ってのは強いんだな」

 

「そう……ね」

 

 ニードにそう言われ、私は改めて身体の感覚を確認する。

 先程の戦い。私はほぼほぼ無意識に剣を振っていた。やはり記憶を失う前はそれなりに剣の鍛錬をこなしていたのだろうか。

 

「まあ、気をつけて行こう。……次は尻餅つかないでよ?」

 

「う、うるせぇな!今のは後ろから来られたからびっくりしただけだ!」

 

 頬をわずかに紅潮させながらニードがうなる。戦意は十分のようだ。ずんずんと進んでいくニードを私はほほえみながら追った。

 

 そこから先は特に語ることは無かった。確かに魔物は多く周りへの注意は必要であったが、魔物そのものは大した強さではなく、私はもちろんニードも苦戦する事なく蹴散らしていく。

 

 そうしてついに峠の道へとたどり着いた。

 

「この先が土砂崩れのあった場所?」

 

 私は周囲に魔物の気配が無いことを確認し、腰元に剣をしまう。その予想は正しかったようで、ニードはうれしそうに顔をほころばせる。

 

「おう!よーし、待ってろ土砂崩れ!このニード様が吹っ飛ばしてやる!」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 周囲に魔物がいないのを良いことに、ニードがその道をかけだした。あわててその後を追いかける私。

 

 だが、私はその足を早々に止める事となった。

 

「え……何……これ……?」

 

 それは汽車だった。自然の多く残る峠の道に突っ込むようにたたずむそれは異常な存在感を放っており、私はただただ圧倒されていた。が、

 

「なんだろう……?」

 

 突然奇妙な違和感を感じ、首を傾げる。なぜそんな事を思ったのか分からないが、私の頭にはある疑問が浮かんだ。

 

 

(あれ……?もっと光ってなかったっけ?)

 

 

 そう、考えた瞬間。

 

「……ッ!!?」

 

 突然頭が割れるような痛みを訴え始めた。私は思わず頭を押さえ、目を固くつむる。すると閉じた瞼の裏に断片的な映像が浮かびあがった。

 

ーー途方も無い大きさの樹に何かを捧げる自分。こちらへ向かってくる金色の汽車。そしてそれらを貫く紫の光。吹き飛んでいく自分。

 

「おい!どうした!?」

 

 気がつくとニードがこちらへかけよって肩を揺らしていた。そのおかげかだんだんと頭痛は治まっていき、目を開くとこちらを心配そうに見つめるニードが鮮明に映った。

 

「大丈夫だよ……ちょっと頭痛がね……」

 

「おいおい大丈夫か?頭でも打ったか?」

 

「いやほら……こんなところに汽車があったからびっくりしちゃって……」

 

 私は空笑いしながらそう告げた。頭に浮かんだ記憶は断片的で、誰かに説明できたものではない。「記憶がちょっと戻った」などと言って根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だったし、こんな異物を見れば驚くのは仕方の無い事ではなかろうか。

 

 そんなつもりで言ったはずなのだが、ニードの返答は私の予想の斜め上を行くものだった。

 

「は?汽車?どこにそんなものがあるんだ?(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「え……?」

 

ーーどこにそんなものがある?ーー

 

 ニードは何を言っているのだろう。あるだろう、目の前に、これ以上なく存在感を放って。

 

「え……ほら、目の前にあるじゃん!?あれ!あれだよ!!」

 

 私は汽車を指差してニードの視線が私につられソレを視界に捉えた。

 

 捉えた……ハズ……なのに……

 

「あれって……どれだよ?木と土ぐらいしかねえぞ?お前ってやっぱ変な奴だよなぁ……」

 

 いぶかしむように汽車を見つめ、だが何の反応も無いニード。嘘をついているとは思えないし、そもそもニードが嘘が上手な人間でない事は分かりきっている。つまり、

 

(私には見えてて……ニードには見えてない……?)

 

 疑問はつきない……というより疑問しかないが、そうとしか説明のしようがない。もう少し調べておきたいがこれ以上ニードに変な目で見られるのはごめんだし、そもそもここに来た目的はこの汽車ではない。調べるのは後にするべきだろう。

 

「いや、勘違いだったよ。ごめんね」

 

「勘違いって……何をどう勘違いしたんだよ?」

 

「なんでも良いでしょ……それより、この先が土砂崩れなんでしょ?早く行こ」

 

「あ、おい!……勝手なやつだなぁ」

 

 ずんずんと足を早め、強引に話を切り上げた。今はニードの依頼が先だ。

 

 だがこの依頼が終わったらここにもう一度来よう。これは私の記憶に間違いなく関係している。そう確信できる。

 

 前へと進む二つの足が不思議と軽く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なにあいつ?この天の箱船が見えたっていうの?」

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