ドラクエ9(仮)   作:UMAコメイジ

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5話

 キサゴナ遺跡はいつ、誰が、何の目的で建てられたのかまだ分かっていない謎の建造物だ。ウォルロ村とセントシュタインをつなぐ道として使われた事もあったらしいが、それも昔の話。

 

 外見なら城か何かに見えなくもないが、外壁にびっしりと生えたコケと周囲に点々と存在する毒沼、鬱蒼と生えた木々が空を覆い、まるで建物そのものが人間を拒絶しているように感じる。

 

「これ・・開くのかな」

 

リンはもはや封印とでも言うべき重々しい石扉に手を添え、力を込めた。

 

「う・・ぐぅ・・」

 

 始めはビクともしなかった石扉も、本当に封印されていた訳では無いらしく、大気を震わせながら少しずつ、その口を開けていく。

 

 そしてなんとか自分が通る事が出来そうな隙間を作る事に成功する。リンはその隙間に身体を滑り込ませ、遺跡の中へ侵入する。

 

 リンの予想に反し、遺跡の中は明るかった。

 老朽化し、天井に空いた穴から日の光が漏れているというのもそうだが、淡い光を放つ植物の様なものが道の端に沿って生えていたのだ。おそらく昔、ここがセントシュタインへ行くために使われていた時のものだろう。

なんにせよ、お陰で暗闇を手探りで探索する必要は無さそうだ。リンは腰に差した剣を抜き、周囲を警戒しながら遺跡の奥へと進んでいく。

 

「…………」

 

 コツコツと自身の靴が鳴らす音が遺跡内に響き渡る。壁も、道も、見事に整えられているものの、やはり時には敵わないのか所々にヒビが入り、歩く度に天井から石の粉が舞い落ちる。

 

「早く、見つけないと」

 

 何かの拍子にうっかり崩れでもしたら私もルイーダさんもおしまいだ。焦燥に駆られ、歩く足は無意識に早まっていく。

 

「え?」

 

 先に行くための道が巨大な石によって塞がれていたのだ。崩れた瓦礫によるものではない、人為的な形状をしたものだ。近付いて良く見るとそれは石碑のようで、面には文字が刻まれていた。

 

ーー悪しき魔物の犠牲者をこれ以上増やさぬため、この遺跡の道を封印するーー

 

「ちょっと……嘘でしょ?」

 

 ルイーダさんはセントシュタインからこの遺跡に入ったと言っていた。つまり、ルイーダさんの居場所は間違いなくこの道よりも奥の方だ。

どうにかしてこの封印とやらを抉じ開けねばルイーダさんの元へ行くことは不可能、なんならこの封印の向かい側にいて外に出れずにいる可能性すらある。

 

「こっっのお…………」

 

 どうにか動かそうと力をくわえるが、先程の入り口の扉とはわけが違うようで封印は微動だにしない。壊そうにも封印は普段使う木の扉の倍近い厚さを持っている。銅の剣一本では余りに心許ない。

 

 まずい事になった。一度引き返すか、いや、そんな時間の余裕はない。ならば別の道を、それも微妙だ。そんなものがあるならこの封印の意味がなくなってしまう。だが……

 

「壁の亀裂とかならなんとか……」

 

 幸いと言うべきか壁は劣化しきっており、すでにいくつもの亀裂が刻まれている。もしかしたらどこかに人間一人通れる程の隙間があるかもしれない。

 

 ひとまず来た道を戻ろうとリンは後ろを向く。

 

「…………!?」

 

 余りの驚きにリンの呼吸が止まった。

 

 彼女の真後ろにもう一人、中年の小太りした男が立っていたのだ。驚いたリンは衝動に突き動かされるがままに剣を振るい、目の前の男を切りつけた。

 

 が、

 

「わわっ!?」

 

 剣は男を通り抜けそのまま通過、勢い余ったリンはバランスを崩し、大きくよろめいてしまう。素早く立て直し、もう一度剣を振るも結果は同じ。男を切ること無く、ただ通り抜けるだけ。これ以上は体力の無駄と考え、警戒はしたまま、リンは少し男の様子を見ることにした。

 

「……」

 

「……」

 

 男は攻撃をやめたリンを一瞥すると、背を向けて歩き始めた。そしてそのまま立ち去るのかと思いきや、その姿が完全に闇に紛れる直前、再びこちらを向いて立ち止まった。

 

「付いて来いってこと?」

 

 どうやらそうらしく、戸惑いながらも男を追うと男は再びゆっくりと歩き始める。

 

 しばらくそのまま男を追って歩いていると、少し開けた小部屋のような場所に辿り着いた。

 

「……なにあれ?」

 

 小部屋にあったのは奇妙な人型の石像だ。リンよりもやや高く、不思議と見下ろされているように感じる。

 

 男はその石像に歩み寄り、その背後に立つと再びこちらをじっと見て立ち止まった。

 

「……」

 

「え?」

 

「……」

 

「あの……??」

 

「……」

 

「あ、背中を見ろって事?」

 

 ようやくその意図を理解したリンは石像に駆け寄りその背中を観察した。すると、石像の首に押し込むような小さな突起があるのを確認した。男は黙ったままその突起を見つめている。おそらく押せ、と言うことなのだろう。リンは意を決し、その突起をぐっと押し込んだ。

 

 その直後。何か鈍重なものを無理やり動かしたような地響きがリンを襲った。

 

「……まさか!?」

 

 言うや否やリンはその小部屋を飛び出し走った。このタイミングでこの振動、思い当たるものは一つしかない。

 

「やっぱり……」

 

 石の粉が舞い踊るその先、どれだけ押そうがびくともしなかったあの重厚な石碑が道を開け、その向こうに遺跡のさらに奥へと続いている通路が覗いていた。

 

 道が開けた喜びに、思わずその先へ駆け出そうとする足をどうにか押さえ、リンは踵を返して開けた道とは逆方向に歩き出す。向かうのは先程の小部屋、そこにいる男の所だ。

 

 ここまで来ればあの男がこちらの手助けをしてくれたのは明らかだ。実際あの男がリンの元に現れなかったら彼女は見つかる当てもない抜け道を探していたに違いない。

 

 その上、最初は彼を敵と決め付け斬りかかったのだ。その謝罪を、せめて一言礼を言わねば彼女の気が収まらない。まだあの小部屋か、出ていたとしてもそう遠くはないはずだ。

 

 だがそんなリンの予想に反し、小部屋にも通路にも男の姿は無かった。念のためと入り口まで探ったがやはり居ない。

 

 もう外に出てしまったのだろうか、確かに外は既に日が隠れた魔の時間だ。彼の目的は不明だが、こんな遺跡に長居してもただ危ないだけ。

 

「仕方ない……か」

 

 何とも心残りではあるが、居ないならばどうしようもない。リンは心の中で彼に礼を言い、先を急いだ。

 

ーーこの時、リンは気づくことは無かった。

 

 彼女が開けた扉の隙間に男が通れる程の大きさでは無いこと、長年開いていなかったこの遺跡の仕組みを何故か知っていたこと。

 

 彼女がこの時一刻を争う事態で無ければ、

いや、彼女が守護天使であった時ならば彼の正体を一目見ただけで理解できたかもしれない。

 

 黒の空に輝く満月が淡く遺跡を照らしている。

 

 




話の締め方が分からん……

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