ドラクエ9(仮)   作:UMAコメイジ

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9話

 滝が落ち、川がせせらぐ。

 

 清流は月の光を歪ませ、夜の闇の中でぽうと淡い光を放つ。

 

 リンは一人、物思いに耽り、重い足取りでリッカの家へ足を運んでいた。

 

「…………」

 

 リッカにセントシュタインに行くべきと説得する。ルイーダの代わりに、自分が。

 

 正直難しいと言わざるを得ない。リッカは一度決めた事を簡単に覆すような人ではないのだ。それは世話になった短い間でもはっきりと分かる事だ。

 

 それでも諦めるつもりは毛頭ない。ルイーダは本気だった、その気持ちを踏みにじる訳にはいかない。

 

「…………はぁ」

 

 考えが全く纏まらない。これではリッカの悩みを聞く所かこちらがリッカに心配されてしまいそうだ。

 

 ふと顔を上げるともうすぐリッカの家に差し掛かる所だった。思考の海に沈み続けたせいか、自分が歩いていた事すら意識になかった。

 

 

「ーーッ!?」

 

 あわてて剣を構え、切っ先を幽霊へと向ける。すると幽霊は目を丸くして後ずさり、

 

「ちょちょ、ちょっと待ってください!!」

 

 しゃべった。しかも情けなくビビりながら。

 

 洞窟でこちらの攻撃に微動だにせずにリンを導いたあの姿とはどう考えても似つかわない。

 

「……え?」

 

「さ、さっきリッカの家に入ろうとしているのを見ました。あなたは……リッカの友達なんですよね?」

 

「?」

 

「病弱で引っ込み時案だったリッカに友達ができて……」

 

「待って待って待って」

 

 一人で加速し始める男をどうにか止める。そして大急ぎで状況の整理を始めた。今の発言を考えるとこの男はリッカの事をよく知っている。顔立ちは柔らかく、見るからに穏和そうだ。そして幽霊。

 

 まさか

 

「……リベルトさん?」

 

「え?……はい、そうです……どこかであった事ありましたか?」

 

 まさかだった。

 

 数年前に亡くなったというリッカの父。彼はその幽霊という事らしい。

 

「ところで……お名前をお聞きしても?」 

 

 考え込んでいると、ふいにリベルトの声が聞こえた。

 

「え、あ、私の名前は、リン……です」

 

 ルイーダの話を聞いた手前、思わず妙にかしこまった返事をしてしまう。

 

「リン……守護天使様と同じ名前ですか」

 

「ええ、そうみたい」

 

「幽霊である私の姿を見る事が出来ますし……もしかしてご本人だったりします?」

 

「いや、」

 

 違う、と言いかけてふと言葉に詰まる。

 

 峠で見た大きな列車、自分の生い立ちの謎、そしてさっき見た天使としてウォルロ村を見た夢……否定するには気になる要素が多すぎた。

 

 答えが出せず、押し黙ってしまう。リベルトはそんな事情など露知らず、急に黙ったリンを不思議そうな表情で見つめている。

 

 とにかく何か喋らねば、と口を開いたその瞬間

 

 

 

「ちょぉっっと待ったぁぁあああ!!!!」

 

「え?」

 

 

 

 声、そして衝撃。

 

 

 突然後頭部を思い切りはたかれたような痛みが襲った。思わず顔をしかめながら振り向くと、そこには奇妙な何かがいた。

 

 それを一言で表すなら「ピンクの球」だ、サイズは豆粒程。それが淡い光を放ち、リンの目線の高さでふよふよと漂っている。その球はこちらと目(?)が合うとその光を強め、姿形を変えていく。

 

 そして球はリンの半分程のサイズの少女になった。球の姿も珍妙だったが、人としての姿も随分と珍妙だ。

 

 当たり前だがまず人では無さそうだ。彼女の背中から羽化したての蝶のような透き通った羽が生えている。肌は小麦色に焼けており、オレンジのキャミソールとハイヒール、金色の髪に花を挿し、顔には濃い化粧とやたらに洒落た格好で、自然真っ只中のウォルロ村にはあまりに合わない出で立ちをしていた。

 

 そんな彼女は額を抑え、リンの姿を目に捉えると、やけにキラキラした目でこちらを睨んだ。

 

「ちょっと!どこに目ェつけてんのよ!?痛いじゃない!!」

 

「……少なくとも頭の後ろにはついてないわ」

 

「あっそ……いや、そんな事より!」

 

 少女はリンの抗議を無視し、風を切らんばかりの勢いでリベルトを指さした。

 

「そこのオッサン!!今の発言、聞き捨てならないんですけど!今こいつが天使だとか言ってたよね!?」

 

 リベルトが「えぇ……そうですけど」と答えるが、目の前の少女は聞く素振りも見せずに言葉を進める。

 

「あたしもそうだとは思ったんだけど………頭の輪っかも羽も無いなんて変くね?何者?」

 

「……変と言えば貴女も大概変でしょう、貴女こそ何者なの?」

 

 そう聞くと、目の前の少女は待っていましたとばかりに瞳を輝かせた。

 

「ふっふーん、そう聞かれちゃあ答えない訳にはいかないわね」

 

 少女は大仰に言葉を溜め、ビシッ!と決めポーズをとった。

 

「聞いて驚けっ!アタシは謎の乙女(ぎゃる)サンディ。天の方舟の運転手よ!!」

 

「はぁ……」

 

「………」

 

 何とも反応に困る二人。そんな様子を不満に感じたのか、サンディとやらは「なによ、ノリ悪いわね……」とつぶやいていた。

 

「んで、アンタは何者なの?どーみてもただの人間なのになんで天の箱船やユーレイが見えるの?」

 

「それは……分からない」

 

「分からない?人間でも天使でもなくワカラナイって……え?ドユコト?」

 

「えっと……」

 

 うまく説明ができる訳もなく、リンはつっかえつっかえ、しどろもどろになりながら現在の状況を伝えた。最初は胡散臭そうに聞いていたサンディも、次第に顔に真剣味が浮かんでいく。

 

「へぇ、記憶が……ねぇ。ま、天界から落っこちたんじゃムリも無いか。ハナシ聞く限りアンタが天使だって事は間違い無いっぽいし?」

 

 しばらく考え込んでたサンディは、ふと何かひらめいたように顔を跳ね上げた。

 

「よし!じゃ、アタシがアンタの記憶を取り戻すのを手伝ってあげる!」

 

 サンディは我天啓を得たりと顔を輝かせ、再度リベルトを指差した。

 

 

「そこのオッサン!こいつを成仏させなさい!!」

 

「え、えぇ!?私ですか!?」

 

 

 リベルトは突然の提案に驚いていたが、サンディはそれを気にする女ではない。

 

「そ!どーせなんかショボい未練抱えてるんでしょ?」

 

「まあ、確かにこのままで良いとは思って無いですけど……」

 

「でしょ?じゃー決まり!このオッサンの未練を解決してやって昇天させてやんのよ!!」

 

 そこまで言い終え、サンディはこちらに向き直った。

 

「そーすりゃあんたの記憶も戻るかもしれないし?ま、細かいことはノリでやっちゃって!」

 

 サンディはパッと光ったかと思えば、最初の時のようなピンク色の球へと姿を変えた。

 

「じゃ、しばらくあたしはあんたに付いていく事にするわ、これからヨロシクね!」

 

 サンディはくるりとリンの周囲を回り、そのままリンの持ち物袋の中へと入っていく。

 

 

 リンの旅路に、新たな仲間が加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇっ、あんた袋の中ぐちゃぐちゃじゃない!ちゃんと整理しなさいよ!!」

 

「あ、ごめん」

 

 

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