とある劇場にてある音楽会が開演していた。
名だたる音楽家たちが数年に1度集まり、不定期に開催されるこの音楽会は今年、他の誰でもない、ある男の弔いとして開催された。
癖のある音楽家たちを集め、まとめ上げ、この音楽会を開催した今は亡き指揮者。
多くの者に慕われ、多くの者を虜にしたその男の弔いを奏でるオーケストラ。
離れ離れになるやもしれない、もう集うことはないと思われた音楽家たちの最後の晩餐。
芸能に携わる者であるのなら誰もが注目するその音楽会にはある噂が流れていた。
曰く、男の代わりに人形が指揮を振るのだと。
曰く、人形に似たそれは幼い少女だと。
曰く、少女は男の孫娘だと。
曰く、その人形が導く音楽は1度聞けば忘れられないものなのだと。
男の孫娘は若干16歳、それはそれは人形じみた姿をしているという。
ーーーーーBravo! C’est bien ! Marvelous!!
様々な言語の歓声と拍手が劇場に轟く。
それをどこか透明な壁を隔てたような感覚で耳にした。
高揚が止まらない。
あの興奮が、あの瞬間が、あの感覚が、
終わってしまったのが信じられない。
タクトを持つ手が震える。
鼓動が血を全身に巡らせ耳でドクドクと主張する。
あぁ。堪らない。
全てを出しきるこの瞬間、この感覚、この興奮こそが、私が求め続けたものだ。そして、祖父が生涯求めたものだろう。
祖父の弔いのためであることすら忘れ、体が、心が震える感覚に身を委ねる。
俯かせていた顔を上げ、両腕を広げる。
そのままふわっと振り返り、オーディエンスに仰々しく礼をした。
再び顔をあげたその少女の姿を、立ち上がったオーディエンスたちは改めてみる。
陶芸品のようななだらかな白い肌、
祖父譲りの青と緑が入り交じったような不思議な瞳、
まるで絹のような細く艶やかな髪、
等身大の人形だと勘違いしてしまいそうな華奢な体。
唯一少女が人間だと思うのは興奮に赤くする頬と、時折瞳を閉じさせるその瞼だけ。
あまりに人形じみたその少女に観衆は異世界に来たかのように錯覚した。
照明が明るくなり、幕が閉じられるとようやく観衆は現実に戻る。
興奮冷めやらぬまま、連れだった友人らと劇場から出るのであった。
閉じられた幕の裏、集った音楽家たちに一人ずつ挨拶に回る人形は、落ち着いていく興奮の波に残念に思いながら新たな舞台を心の底から求める。
少女の名は天ヶ瀬凛音(アマガセリオン)、
シークフェルト音楽学院、舞台音楽学科に通う、
この物語の主人公である。
1000字って長いんすね…