Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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夏休みが今日で終わる……
鬱になりました


カオスで騒がしい喫茶店

「カオスです……」

 

 ラビットハウスの看板娘、チノは店内をそう形容した。

 

「上手い! こいつは上手いぜ! なあ響!」

「うん! これなら明日何があっても平気へっちゃら!」

 

 初見の男女二人組は、さっきから大声でパフェを食い散らかし(ハルトがなけなしの給料で支払うらしい)、

 

「いいですよ可奈美さん。もう少し、アップにお願いします!」

「あの青山さん。さっきから、文章じゃなくて絵を描いていませんか?」

 

 その隣ではなぜか可奈美が青山さんのスケッチ対象になり、セクシーポーズなのかファイティングポーズなのかよくわからないモデルをしていたりしている。

 

「まどかちゃんもふもふ~!」

「きゃああああああ!」

 

 いつものようにココアがまどかに頬ずりをしている。

 おおよそ喫茶店の光景とは思えない騒がしい景色に、チノは静かに「ただいま」を告げた。

 

「ああ、お帰りなさい」

 

 カウンターで皿洗いをしているハルトだけが、チノに返事をした。

 チノはカウンターへ歩み、

 

「随分騒がしいですね」

「ああ。まあ、俺が連れてきた行き倒れが主に騒がしいんだけどね」

 

 ハルトは、見たことのない男女の二人組を指差した。

 少し薄汚い印象だが、シャワーでも貸してあげた方がいいのだろうか。

 そんなことを考えていると、ドアが開いた。

 

「あ……いらっしゃいませ」

 

 まだ着替えていないのに、思わずおもてなしの挨拶をしてしまう。

 チノの背後を通り過ぎたのは、同じ年くらいの黒髪の少女だった。

 ハルトも慌てて応対のために彼女の前に向かい。

 表情を険しくする。

 

「ほむらちゃん……」

 

 ほむら。その名前は、チノにも聞き覚えがあった。

 

「最近の転校生が、そんな名前だったような……?」

 

 別のクラスだったため、顔はよく覚えていない。見返り美人というものか、背中から見える彼女は、美しい、という印象があった。

 

「ほむらちゃん、どうしたの?」

「私はただの客よ」

 

 ハルトと少し気まずい空気を見せている。接客業なのだから、プライベートとは別にしてほしいとチノは願いながら、代わりにほむらを案内させようとする。

 だが、その前にほむらが続けた。

 

「アイスコーヒー。もらえないかしら?」

「……かしこまりました」

 

 ハルトが頭を下げた。だが、たとえ客に対しても無関心な人でも、ここまで冷め切った対応をすることはないとチノは思った。

 

「可奈美ちゃん……」

「な、なに~?」

 

 青山さんに遊ばれている可奈美が涙目になっていた。

 青山さんが女性店員へセクハラをするのはいつものことのため、チノは止める気もなかった。

 とにかく、ほむらへの対応を早く代わらなければと、チノは急いで着替えて戻る。

 チノが戻ってきたとき、なぜかハルトは、丸テーブルのほむらと向かい合って座っていた。

 

「……はあ」

 

 険悪なことにはならなくても済みそうだった。チノはそう安心して、カウンターの定位置に付く。

 

「ねえ、チノちゃん……」

 

 青山さんから逃れてきた可奈美が、少し疲れた様子でやってきた。

 彼女はチノの耳に手を当て、

 

「ねえ。あの人、ハルトさんの友達かな?」

「知りませんよ。そもそも、ここに来てからほとんど一緒なんですから、可奈美さんが知らないなら、私も知るわけないじゃないですか」

「だよね~」

「ねえ!」

 

 すると、談笑していた二人組の女性の方がこちらへ来た。キラキラとした表情が明るいその少女は、空いた容器二つを差し出した。

 

「アイスコーヒー! お代わりください!」

「はい」

 

 チノは、普段より使っているコーヒーメーカーを使い、カップにコーヒーを淹れていく。その様子を少女は「おお~」と目を輝かせてみていた。

 

「……はい、冷たいもの。どうぞ」

「冷たいもの、どうも」

 

 手渡したコーヒーを受け取り、少女は礼を言う。

 だが彼女は席に戻らず、ぐいっとチノに顔を近づける。

 

「ねえ! 私、立花響! あなた、もしかして中学生?」

「はい……」

 

 何だ、この客。そんなことを心の中で思いながら、この響という少女は続ける。

 

「ねえ! 名前はなんていうの?」

「香風智乃です」

「チノちゃんか……そちらは?」

「あ、私衛藤可奈美です!」

 

 チノとは対照的に、元気な返事を返す可奈美。特に示し合わせたこともなく、ガッチリと握手を交わす。

 

「すごい適応力……」

 

 そんな言葉の中、可奈美と響は互いの手を見下ろしている。

 

「すごい……可奈美ちゃん、握力強いね!」

「響ちゃんこそ! これ、ダンベルとかでも何キロでも持てそう!」

「いやあ……それほどでも……」

 

 響が頭を掻く。にやりと口を歪める。

 可奈美は続ける。

 

「ねえ! 何かスポーツとかやってるの? 球技とか」

「やってないよ。まあ、コウスケさんの手伝いで、フィールドワークとか色々歩き回っているんだけど」

「え? でも、これは色々やってないとここまでにはならないよ?」

「ええ……そうかな?」

 

 あははと、笑い続ける響。

 チノには、彼女が何か隠しているように見えて仕方がなかった。

 その時、黒髪の少女、ほむらがカウンターにやってきた。

 

「どうかしました?」

「お会計よ」

 

 ほむらは無表情のまま、金額を置いていく。

 少し驚きながら、チノはその代金を受け取った。

 

「ありがとうございます」

「美味しかったわ」

「もういいんですか? ハルトさんと話していたみたいですけど」

「別に。顔を見に来ただけよ」

 

 ほむらはそれだけで、さっさと帰っていった。

 ココアと、ほむらのクラスメイトであるまどかがやってきたのは、それから十分ほど経ってからだった。

 

 

 

「はいそれでは皆さん!」

 

 帰ってきてすぐに着替えたココアのもとに、皆の注目が集まる。

 

「せっかくこんなに集まってくれたので、これからラビットハウスの出し物をしま~す‼」

 

 元気な声のマジシャン衣装の彼女の前には、青山さん、ココアとやってきたまどか、コウスケ、響の四人がいた。彼らだけが客という喜ばしくない状況だが、ココアはそんな状況であろうとも明るい。

 

「レディーズ アンド ジェントルメン! お楽しみくださいまし!」

 

 ハルトは四人の観客の前に堂々としているココアに少し感心していた。

 ココアは全く恥ずかしがりもせず、何やら落語らしきもので四人のウケを取っている。

 ほかにも、ハルトの株を取ってしまいそうな手品、その見た目には予想し得ない熱烈な演歌。可奈美も店員業務を忘れて拍手に興じていた。

 

「すごいな……」

 

 ハルトはそう言って、手元に飛んできたガルーダの嘴を小突く。

 ファントムとは関係ない。魔力切れで戻ってきたこの使い魔は、そのままココアの寸劇の観客になっていた。

 

「そういえば、俺が最初に大道芸やったときってどんなだったっけ?」

「________」

 

 毎度のことながら、ガルーダたちプラモンスターの言葉が分からない。だが、それでもガルーダは何度も跳ねている。

 

「……あんなに元気だった?」

 

 否定した。

 

「結構ビビってたっけ?」

 

 肯定。それはそれとしてかなり落ち込む。

 だがガルーダは、そんなハルトのことは気にせずに屋上近くで楽しんでいる。

 

「何だかなあ」

 

 頬に手を当てながら、ハルトは呟いた。 

何となくココアの出し物を眺めていると、突如として、ココアがこちらを指差した。

 

「続きましての出し物は、ラビットハウス限定! 噂の大道芸人こと、松菜ハルトによる、ラビットハウス専用マジックです!」

「いや聞いてないよ⁉」

 

 突然のご指名に、ハルトは思わず立ち上がる。

 だが、すでに皆の眼差しは、ハルトに集約していた。

 ハルトは座席の下でコネクトを使う。小さな魔法陣から小道具を取り出す。

 

「さあさあどうぞどうぞ」

 

 ココアがニコニコと舞台をハルトに譲る。

 ココアが座席に戻るのを見送って、ハルトは言った。

 

「さてそれでは、ご指名に預かりました松菜ハルトです。それでは一人、アシスタントをお願いしたいと思います」

「「アシスタント?」」

 

 皆目を丸くしている。誰にしようかと迷い、

 

「じゃあまどかちゃん」

「わ、私ですか?」

 

 自分に来ることはないのだろうと安心していたのだろう。まどかは仰天してこちらにやってきた。

 ハルトは小物状態のものを組み立てて、自分よりも高い背丈のシリンダーボックスを用意した。前方が開き、内部の空っぽの構造が露になる。

 

「まどかちゃん。悪いけど、ここに入ってもらえる?」

「は、はい……」

 

 まどかは少し怖がりながら、箱に入る。あらかじめ調節しておいた台に立つことで、首だけが出る形になる。

 

「はいそれでは皆さん! ラビットハウスプロデュースのコラボマジックです!」

「あれ? だったら普通ココアさんかチノちゃんじゃ……」

「まあまあ。俺がここに来れたのもまどかちゃんのおかげだから、折角ということで」

「訳が分からないよ……」

 

 キュウべえみたいな言葉を聞きながら、ハルトは箱の蓋をする。

 

「さあみなさん。今こちらの美少女さんは、しっかりと箱に閉じ込められました。まどかちゃん、出られる?」

 

 ガンガンと、箱の中から音が聞こえる。

 

「うん。鍵とかしてあるね」

「さあ、それでは脱出撃! うっ……頭が……ん」

 

 ハルトはわざとらしく頭を押さえる。そして、大仰に行動に移す。

 

「うがぁ! 私に悪魔が取り憑いた‼」

 

 おおっ、と観客は拍手をする。

 いい反応だと身に感じながら、ハルトは敢えて狂ったような声を出す。

 

「この娘の命を生贄に、私は現界しよう!」

 

 ハルトは手に持った剣(手品用のペラペラのもの)を箱に突き刺す。

 

「ひゃっはあ‼」

「うぎゅっ!」

 

 まどかが絞り出したような悲鳴を上げてくれた。

 さらにハルトは、箱の前後左右から剣を突き刺し続ける。まどかの「ぐええ」という反応の後、観客へ呼びかける。

 

「さてさて皆さん。私の悪魔の所業ですが、果たして本当に彼女は息絶えたのでしょうか」

 

 まどかが目を閉じて首から力を抜いてくれた。

 

「疑う方もいらっしゃるでしょう。その実をお店しましょう!」

 

 実際のこの箱には、分割する仕掛けがある。縦にも三段に分かれており、横にスライドすることができる。

 

「はぁ!」

 

 奇声とともにハルトは、箱を横に大きくずらした。上二つを大きく動かすと、まどかの体系ではありえない面積しか、上と下は繋がっていない。

 

「ひっはは! これで、この娘を生贄にした私は現界した! さあ、この世界は私のものだ!」

 

 悪役のセリフを言いたい放題言ったところで、観客から野次が飛んでくる。

 

「どうすればまどかさんを助けられますか?」

 

 青山さんがそんなことを聞いてきた。

 今から言おうとした説明を代用してくれた青山さん。彼女の要望に応え、大魔王ハルトマンは、堂々と「今の私は、彼女が無事に脱出したら死ぬぞ!」と宣言してみた。

 

「さあ皆の衆。いざクライマックス! この生贄の少女はいかに……?」

 

 串刺しにされ、スライスされたとしか思えないまどかの箱を元に戻し、剣を抜く。

 そして、箱を開けると、

 

「なっ⁉ 無事だとぉ⁉」

 

 傷一つついていないまどかの体に驚愕した仕草をするハルト。そのまま、

 

「おのれ……お見事な脱出撃‼」

 

 ポケットに忍ばせておいた音源装置で爆発音を使い、幕引きとしたのだった。

 




夏休みはいつもアニメ三昧なのです

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