Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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今年の夏はすさまじく暑い……先月まで雨ばっかりでうんざりしていたのに、今は雨が降って欲しい……


ムーの民

「ここは一体……! どこなんだあああああああああああああ!?」

 

ムー大陸の大空の下で、真司が叫んだ。

 エコーがかかる真司の声だったが、帰ってくる声はない。

 

「グスン……誰かいないのかよ……」

 

 真司は肩をがっくりと落としながら項垂れる。

 

「こういう時さあ……誰か一人くらいはいてもいいじゃないか? 携帯繋がらないし、俺なんか悪いことしたかな?」

 

 真司はぐったりと膝を折った。

 ほとんど茶色一色の遺跡。記者を目指す者としては特ダネの塊としてぜひ取材したいところではあるが、カメラなく気力なく体力なくの真司には、ムー大陸はただの石の塊でしかなかった。

 

「いきなりこんなところに……ひでえよ……」

 

 真司は口を尖らせながらも歩き続ける。

 『真司ぃ~。クリスマスに恋人もおらずに暇を持て余していたお前に朗報だ。クリスマス開けもたっぷり仕事させてやる』と店長に言われてシフトに入ったのが三時間前。よりにもよって忙しくなり始めたころにムー大陸が出現した二時間前。現れた怪物たちが暴れまわる。騒ぎに乗じて隠れて龍騎に変身し、倒したと思ったら告知、即座にムーに飛ばされてから、もう一時間。

 しかも、ムー大陸の遺跡の外側。冬の空にむざむざとさらされる状態なのである。

 

「へっくし!」

 

 何より、バイトの制服のままムー大陸に連れて来られてしまったので、常に体を寒さが突き刺さる。

 

「うううう……寒い……制服、結構薄着なんだよなあ……」

 

 鼻を擦り、真司は空を見上げた。天気は雪だったが、雲海の上にあるムー大陸上部からは、雲一つない青空が展望できた。

「あー……澄み渡る青空……だけどめっちゃ寒い!」

 

 冬風に悲鳴を上げる真司。ムー大陸での立ち回りを考える前に、どうにかしてストーブでも探さなくちゃ、と考え始めた、その時。

 

「あ」

「……」

 

 見覚えのある顔の人物が、丁度入ろうとした角より現れた。

 その厳しい視線が、真司に突き刺さる。

 

「えっと……君は、確か……」

 

 目の前の少女の名前が出てこない。真司は頭を抱えた。

 

「あ! 暁らむほ!」

 

 銃声が、真司のすぐ頭の近くを穿った。

 

「暁美ほむらよ」

 

 表情を一切変えない黒髪の少女、暁美ほむらはそれだけ言い残して背を向けた。

 

「あ、そうだそうだった! ほむらちゃん!」

 

 去ろうとする彼女へ、真司は着いて行く。

 

「ねえ、ほむらちゃん。君もここにいるってことは、やっぱり……」

「話しかけないで」

 

 ほむらが足を止めずに進める。

 

「いや、いやいやいや待ってよ!」

 

 真司がほむらの先回りをする。なぜか魔法少女の姿のままの彼女は、うんざりした表情で「何?」と尋ねる。

 

「いや、ほらほらほら。俺たち、いきなりこんな訳の分からないところに連れて来られたわけだろ? ちょっとは協力してなんとか乗り切ろう! ……みたいな?」

「貴方、バカなの?」

 

 ほむらの目つきが無表情から冷たいものへ変わった。

 

「私達は敵同士よ。この前は世話になったけど、その借りはキャスターがムーの説明で返したのでしょう? なら、もう馴れ合う理由はないわ」

「そう言うなよ。ほら、こんなところで一人だと寂しいだろ?」

「私はずっと一人で戦ってきた。今更どうってことないわ。分かったら退きなさい」

 

 ほむらは真司を押し分けて進もうとする。真司は仕方なく、彼女に付いて行くことにした。

 だがほむらは、あくまで真司は敵とみなしている。

 

「いつまで付いてくるの?」

「いや、他に行くとこないし」

「通報するわよ」

 

 ほむらは一時変身を解除し、スマホを見せつける。

 スマホよりも、冬休みにも関わらず何故中学校の制服なのかが真司は気になった。

 

「それより、ほむらちゃんこそ、なんかアテとかあんの?」

「ないわ。私はただ、早くキャスターと合流したいだけよ」

「あー」

 

 キャスター。真司にとっては、ムー大陸の説明をしてくれた美女のイメージしかないが、ハルトによれば、高い戦闘能力を持つサーヴァントらしい。

 だが。

 

「それよりさ、助けが来るのを待った方がいいんじゃない?」

「こんな空の彼方にある大陸に、一体どんな助けが来るというの?」

「ああ……」

 

 真司はムー大陸の空を見上げた。成層圏に位置するムー大陸より上には雲が存在せず、飛行機させも目下を通り過ぎている。

 

「それもそっか」

「ならば今は、キャスターを見つけて、ここを根城にしている敵を制圧するのが先よ」

 

 ほむらはそのまま、すぐ近くの洞穴に足を止めた。

 

「やっぱり古びてるよな」

 

 真司はその入り口へそう言った。

 地下へ続く、階段の入り口。それを包むものも、すでに崩壊しており、ほとんど雨よけにもならないものになっていた。

 ほむらはそれに大した感心も払わず、階段を下る。

 

「お、おい! 待てって」

 

 真司もその後を追いかける。

 

「な、なあ。こっちに何かあるのか?」

「分からないわ。虱潰(しらみつぶ)しに探すしかないでしょ」

「そんな気の遠い……」

 

 どんどん明かりが消えていく階段で、真司はため息をついた。

 突如として、階段が終わる。つまずいた真司は「おっとっと」とバランスを崩す。

 

「階段、ここで終わりよ」

「今言っても遅いから!」

 

 通路の先には、淡く蒼い光があった。

 ほむらもそこから調べることにしたのだろう。狭い廊下の、その光の部屋へ入っていった。

 

「あ、おい!」

 

 真司も後を追って部屋に立ち入る。

 淡い光に目を覆い、一番に目に入ったのは茫然とするほむらの姿だった。

 

「ほむらちゃん。どうした?」

 

 その質問に対し、珍しくほむらは指で答えた。彼女が指すのは、上の方。

 真司はそれに従い、部屋の上の方を見上げる。

 そして。

 

「うおおおおおお!?」

 

 その光景に、思わず真司は尻餅を付いた。

 青い光に照らされる、人の体。

 集合体恐怖を引き起こすような、無数のカプセル。その一つ一つに、人の姿が収められていた。まるで虫の巣のような不気味な光景が、部屋一面に広がっていた。

 

「何だ、これ……?」

「これは……」

 

 ほむらがおそるおそるといった歩調で、一番近くのカプセルに近づく。真司も彼女に続いてそのカプセルを覗き込んだ。

 

「人?」

 

 だが、真司はあまりそれを見つめたくはなかった。

 それは、人ではあるが、すでにその命を終えている。

 ミイラ。

 

「うわああああああああああああ!」

「うるさい」

 

 悲鳴を上げてしまった真司とは対照的に、ほむらは眉一つ動かさずにミイラを凝視している。ガラスに手を当て、一か所欠けているところを目撃している。

 

「おいおい、もしかして、ここのカプセル皆が……」

 

 真司は両腕をさすりながら部屋を見上げる。

 茶色の肌で眠り続ける人々。壁から天井に至るまで、広大な部屋にぎっしりと人々の寝床が詰まっていた。

 

「ムー大陸の人々、ということね」

 

 ほむらが真司の言葉を引き継ぐ。

 

「多分、ここはムー大陸の避難所だったのね」

「これ、よくある冷凍保存ってやつか」

「正確にはコールドスリープね。でも……」

 

 ほむらはカプセルをぐるっと見渡す。何千、何万と下らないカプセルは、それぞれが干からびた遺体が棺のように収められている。

 

「コールドスリープの装置が、一万二千年の間に故障した、ということかしら」

 

 ほむらは、部屋の中央に設置されている装置に触れながら言った。石でできたような装置は、ほむらの手に全く反応せず、沈黙を貫いていた。

 

「ほむらちゃん、ずいぶんと詳しいな」

「こういう機械は、色々調べてるのよ。コールドスリープも、一時興味を持ったこともあったわ」

 

 ほむらは、全く反応しない機械を手で弄ぶ。

 

「私達の文明でコールドスリープをしようとすれば、常に維持する人間が必要だけど、ムー大陸ではそれさえも必要ないみたいね。ただし、何らかのトラブル……それこそ、沈没していた大陸に入った魚だったり、微生物がたまたま回路を焼き切ったりしたせいで、一気にシステムがダウン……そんなところかしら」

「その通りだ」

 

 その時、別の声に真司とほむらは振り返った。

 部屋の入り口に、新たな人物がいたのだ。

 真っ白な髪、頬を走る赤い紋様。

 そして、服の胸元には、ムー大陸のあちらこちらで見かける紋章が描かれている。

 初めて見る者。だが、真司はその名をすでに耳にしている。

 

「貴方は……ソロ……」

 

 ほむらが警戒の声色でその名を呟いた。

 




キャスター「……」
キャスター「……」
キャスター「……」←ムー大陸の端で、ただ一人
キャスター「誰もいない……」
キャスター「このまま呆けているか……」
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