Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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今更ですけど、今期異世界転生いつにも増して多いですね。
精霊幻想記と建て直しは結構楽しんでます


人の心を持った怪物

「はああっ!」

 

 ウィザードとグレムリンは、互いの刃を交差させる。

 

「相変わらず恐ろしいね……」

 

 だが、力量ではウィザードが勝さるのか、戦局はあっさりとウィザードへ傾いた。

 怒りが込められたウィザードの剣は、アッサリとグレムリンの短剣を弾いた上に、その体を切り刻んでいく。

 

「ぐっ!」

「まだまだッ!」

 

 さらに、ウィザードは容赦なくその体を斬りつけていく。

 緑の体からは、ウィザードが銀の刃を振るうたびに火花を散らしていった。

 さらに続く、ウィザードの蹴り。転がったグレムリンに対し、ウィザードはさらに蹴り倒す。その上、起き上がる隙さえも与えずに、ウィザーソードガンの手を開いた。

 

『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』

 

 これまで何体ものファントムを葬って来た、ウィザードの必殺技の一つ。

 ルビーの指輪の読み込みから始まるそれ。

 

『フレイム スラッシュストライク』

 

 それは、灼熱の魔力を銀の刃に練り込ませていくものだった。

 

「おいおい……ハルト君、ちょっと乱暴すぎやしないかな?」

「うるさい……」

 

 ウィザードはそのまま、炎の斬撃を振るった。

 

「だから、ちょっと単純すぎるって、いつも言ってるでしょ?」

 

 グレムリンはそれをしゃがんで避け、逆にウィザードへ斬りかかる。

 ウィザードの体から火花を散らしながら、グレムリンがどんどんウィザードを追い詰めていく。

 

「だったら……!」

 

 ウィザードは、その場で体を回転させ、グレムリンの攻撃を引き離す。そのまま蹴りで、右手を打つ。

 

「っ!」

 

 息を呑むグレムリン。

 その間にも、ウィザードはさらに指輪を入れ替える。

 

『ビッグ プリーズ』

 

 発生した、巨大化の魔法。巨人の腕となったウィザードの手は、そのままグレムリンを押しつぶした。

 

「や……やったの?」

 

 粉々になったアスファルトを見下ろしながら、可奈美は尋ねる。

 だが、ルビーの仮面に隠したウィザードは顔を振った。

 

「いや……奴は……」

「そうそう! 僕にこういうのは効かないからね」

 

 その声は、ウィザードの背後から聞こえてきた。

 同時に、銃声がその声の箇所を穿つ。

 地面を潜るグレムリンを、ウィザードが狙い撃ちしている。

 その事実を可奈美が理解するのは、ウィザードがひたすらに周囲を打ち鳴らしているのを見てからだった。

 彼が狙うのは、地面から顔だけを出してくるグレムリン。

 やがてウィザードは、グレムリンへの狙撃を諦め、他の指輪を使用する。

 

『コネクト プリーズ』

 

 続いてのウィザードの魔法。

 それは、彼が頻繁に使う、空間湾曲の魔法。いつもならばウィザーソードガンを取り出す手筈のウィザードだが、今回彼が取り出したのは、ピンクの棒。

 

「可奈美ちゃん!」

 

 それを手渡されるまで、可奈美はそれが自らの分身たる千鳥だと気付かなかった。

 

「可奈美ちゃんも! 戦って!」

「え? う、うん……」

 

 可奈美は戸惑いながらも、千鳥を抜く。

 赤いラビットハウスの制服のまま、可奈美の体は白い写シに包まれていく。

 

「へえ……君、刀使だったんだ?」

 

 そんな可奈美の姿を見て、グレムリンがせせら笑った。

 

「話は結構聞くけど、実際に見るのは初めてだなあ。刀使。今漏出問題で話題沸騰中だよね」

「あなた、どうして……? 人間と同じように見えたけど……」

「当たり前だよ!」

 

 グレムリンは、その言葉とともに可奈美と打ち合う。

 刀使もかくやという速度に、可奈美は驚きながらも受け続ける。

 

「この剣……! 迷いもない、普通の剣と同じ……! これってもしかして……!」

「そう! 僕は人間だよ!」

 

 グレムリンは高らかに告げた。

 

「人間……!? ファントムが……!?」

「ハルト君から僕のこと聞いてないの? 僕は、人間のままファントムになったんだよ!」

 

 グレムリンの刃が、可奈美の首を狙ってくる。

 その衝撃を体で感じながら、可奈美は目を大きく見開く。

 

「これ……嘘じゃない……! ハルトさん!」

 

 可奈美の頭上を跳んできたウィザード。グレムリンへ唐縦割りを放った彼へ、可奈美は問いかけた。

 

「本当なの? あのファントムが、人間って……」

「……今は、ファントムだ……」

「でもッ! 人間の心を……それじゃあ、コヒメちゃんと同じ……!」

「奴は、もう人として許されないだけのことをやってる! ここで見逃すことなんてできない!」

「でも……!」

「アイツを見逃したら、今まで俺たちが手を下してきたことが無意味になる!」

 

 ウィザードの手が、少し震えていた。

 

「フフフ……でも……僕が人間なのは、変わらないよ!」

 

 グレムリンは、その目を光らせる。

 すると、不可視の光線が、ウィザードの体から火花を散らした。

 

「ぐあっ!」

「ハルトさん!」

 

 転がっていくウィザード。だが、彼の心配をする間もなく、グレムリンがまた可奈美との打ち合いに持ち込んでくる。

 

「ああ……でも残念だなあ……?」

「残念って……何が?」

「もう少し髪が長かったらなあ? 僕、こう見えても美容師なんだよ」

 

 グレムリンは背中を反らして可奈美の剣を避ける。そのままずぶずぶと地面に潜っていく彼へ、可奈美は気配を探った。

 

「っ!」

 

 その気配は、右下。千鳥を持ち替えて、防御の体勢に入る。

 千鳥から伝ってきた衝撃。明らかに可奈美の首を狙ったグレムリンの刃に、可奈美は戦慄した。

 

「この切っ先……もしかして、これまでも人を切って来たの?」

「すごいね! 刀使って、本当に剣で相手と会話できるんだ!」

「つまり……人間の心のままの怪物ってこと……? それじゃあ、ご当主様の逆……迅位!」

 

 グレムリンの刃と鍔迫り合いになった可奈美は、瞬時に上位の時間流へ飛んで行く。それは、グレムリンの速度を優に上回り、逆に彼の対応外の速度で攻撃を重ねていく。

 

「うわ、早いなあ……」

 

 可奈美の攻撃を受ける他ないグレムリンが、放心したように呟いた。

 だが。

 

「でも、普通に見切れるんだよね」

 

 グレムリンは、可奈美の斬撃をその二本の剣で防いでみせた。

 

「えっ!?」

「甘いよ。可奈美ちゃん!」

 

 驚きのあまりに静止してしまった可奈美。そこへ、グレムリンはさらに剣でのラッシュを仕掛けてくる。

 

「っ!」

 

 可奈美の剣術は、相手の攻撃を受けて流すことがメイン。

 それは例えファントムであるグレムリンであっても変わらない。だが、だんだんとグレムリンの剣を受けている可奈美の表情は、陰っていった。

 

「だからなの……? この人の剣……すごく、冷たい……!」

「へえ? 冷たい? ひどいなあ……ところで、剣が冷たいってどういう意味?」

 

 グレムリンが顔を寄せながら尋ねる。

 だが、可奈美がそれに返答するよりも早く、グレムリンはどんんどん攻撃を続けていく。

 

「切りたい……! やっぱり切りたい!」

 

 グレムリンはどんどん過激な攻撃になっていく。

 だが。

 

『ハリケーン シューティングストライク』

 

 突如吹き荒れる緑の風。

 風のウィザードは、可奈美の頭上よりグレムリンへ緑の銃撃を放っていた。

 ウィザードの銃口。それは、グレムリン本体ではなく、その脇。銃弾が進むと、緑の風が竜巻のようにグレムリンを巻き上げていく。

 

「うわああっ!」

「お前の弱点は分かってる。空中ならもう逃げられないってこともな」

「へへっ……流石はハルト君。僕とはやっぱり、長い付き合いだからね」

「……」

 

 ウィザードは無言のまま、緑の風を足元に発生させる。

 完全に身動きが取れないグレムリンへ、容赦ない風の斬撃を突き付けていった。

 

「ぐあっ!」

 

 さらに、落下しようとするグレムリンの体は、ウィザードの両足により蹴り上げられる。

 

『チョーイイネ サンダー サイコー』

「本当に……遠慮がないね、ハルト君は!」

 

 グレムリンは剣を交差して、緑の雷を防ぐ。

 散りばめられていく火花。そして、電撃はそのまま、グレムリンをどんどん上昇させていく。

そしてウィザードは、即座に最後の指輪を右手に通す。

 それは。

 

『チョーイイネ キックストライク サイコー』

 

 発生した、風の魔法。

 それは、どんどん色濃く、右足に集っていく。

 右足を上に飛び、ウィザードを追いかけるように竜巻が発生していった。

 

「ハルトさん……?」

 

 ファントムとはいえ、見知った顔のはずでは、と可奈美が疑問に思うのも束の間。

 

 風のキックストライクは、地上より噴出した水流によって押し流されていった。

 

「なっ!」

「うわっ!」

 

 ともに地面に転がる、緑の異形たち。

 可奈美が今の水流の発生源に目を移せば、そこにはさらに別の異形の姿があった。

 

「新しいファントム!?」

 

 人魚のファントム。

 それは、そうとしか言いようがなかった。

 青い、水のような体のファントム。顔はそれぞれ楽器のように穴が開き、腰には同じく水を布地にしたようなその姿は、まさに美しい女性のイメージを彷彿とさせた。

 人魚のファントムは、しばらくその手にレイピアを掲げて、やがて可奈美を、そしてその直線状のグレムリンを指した。

 

「来る!」

 

 可奈美がそう直感したと同時に、それは現実のものとなった。

 人魚のファントム、そのレイピア。それは、どちらかと言うと指揮棒のように振るわれた。

 すると、彼女の周囲に、地下から水が湧きだしていく。地下水そのものが人魚のファントムの意思の通りに動き、また形を変えていく。

 

「あのファントムは……!」

 

 水の塊をよけながら、ウィザードが呟いたのを可奈美は聞き逃さなかった。

 

「ハルトさん? あのファントムも知ってるの?」

「……」

 

 だが、ウィザードはそれには答えず、ウィザーソードガンの手を開いた。

 

『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』

「ハルトさん!」

『ハリケーン スラッシュストライク』

「可奈美ちゃん伏せて!」

 

 緑の風を纏ったウィザーソードガン。それは、可奈美が伏せると同時に、空間全体を引き裂いていく。

 水たちは切り刻まれ、グレムリン、更には人魚のファントムにも斬撃として襲い掛かる。

 

「そんなの、あたしには通じないよ。魔法使いさん!」

 

 人魚のファントム___声色が、ずいぶん可奈美と同年代に感じてしまう___が、ウィザードへ襲い掛かる。

 

「なんで……なんで来た!?」

 

 ウィザードは強い語調で怒鳴った。

 

「何もこっちから触れる気はなかったけど……ここまでくるんだったら、俺だって倒さなくちゃいけなくなるだろ!」

「話を聞いてたら、ちょっと確かめたくなったんだよ。だって、あのファントム、要はあたしと同じなんでしょ?」

「違う! 全然違う! アイツは……」

「ハルトさん!」

 

 可奈美は横から千鳥でレイピアを受け止める。

 

「なっ……!」

 

 ウィザードは、明らかに反応しきれていない。

 可奈美は、ウィザードと人魚のファントムの間に割り込んで、その剣を受け止める。

「……っ! この剣……!」

 

 人間の剣。

 それは、これまでファントムの剣を受けてきた可奈美が違和感を感じさせるものだった。

 つまり。

 

「貴女も……人間!?」

「さあね?」

 

 人魚のファントムは、そのまま背中の水色のマントをはためかせ、素早い突き技を放ってくる。

 

「っ!」

 

 レイピアという剣を活かした早業。

 可奈美はそれを全て防いでいくうちに、だんだんと違和感が芽生えていった。

 

「これ……もしかして、どこかで会った……?」

 

 だが、人魚のファントムはそれに応えない。

 水を蹴るように、足技が可奈美を襲う。

 そのまま可奈美は蹴り飛ばされ、川岸のベンチを押しつぶした。

 

「があっ……!」

 

 悲鳴を上げながら、可奈美は起き上がる。

 その時、グレムリンを切り払ったウィザードが、人魚のファントムとの間に割り入る。

 

「待って! どうして……?」

 

 それ以上は口にできず、ウィザードは口を噤む。

 人魚のファントムは、それでもウィザードへ容赦なくレイピアを振るっていく。

 

「どうしてって……言ってるだろ!」

 

 風のウィザードは、レイピアを足場に跳ぶ。人魚のファントムの目の前で回転、そのまま回転蹴りで大きくバランスを崩す。

 だが、地面に倒れた人魚は、そのままその姿が砕ける。

 

「消えた!?」

「違う! 地面に潜ったんだ!」

 

 ウィザードはそう言いながら、エメラルドの指輪をサファイアに入れ替える。

 

「へえ……あのファントム、僕と同じ能力を持っているんだね」

『ウォーター プリーズ』

 

 グレムリンの言葉をバックに、ウィザードの頭上に現れた、緑の魔法陣。それは即座に、青い水のそれに書き換わっていく。

 そうして、風から水のウィザードへ。それを合図に、人魚のファントムは地中からレイピアをもって襲ってくる。

 

「だったら……!」

『リキッド プリーズ スイ~スイ~スイ~スイ~』

 

 ウィザードの体は、瞬時に液体になる。

 人魚のファントムを追いかけるように、ウィザードも川岸の地面へ飛び込んでいく。

 

「ハルトさん……!」

 

 やがて、地中で戦う音が、どんどん遠くなっていく。

 深く、寄り深く。地表より逃げるように、ウィザードと人魚のファントムは、どんどん沈んでいくようだった。

 

「おやおや? ハルト君、待ってよ!」

 

 グレムリンもまた、地面へ潜っていく。

 ただ一人取り残された可奈美は、ただ、誰もいなくなった川岸に突っ立っていることしかできなかった。


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