Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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生きていていい

「アンチ君!」

 

 追いついた。

 アカネを追いかけていったアンチの手を掴み、彼の動きを止めた。

 

「待って! 危ないよ!」

「っ……!」

 

 ギロリと友奈を睨むアンチ。彼は動きを止め、やがて急ぐ足を直立させた。

 友奈は安心して、その手を放す。

 

「これ以上は危険だからね。お姉ちゃんは、わたしに任せて!」

 

 友奈は目線の高さをアンチに合わせてほほ笑む。

 アンチは片方だけしかない赤い眼で友奈を睨む。

 

「新条アカネは……姉じゃない」

「お姉ちゃんじゃない?」

 

 そういえば、と友奈は、先ほどのアカネの発言を思い出した。

 いらない、使えない。

 果たして肉親に使う言葉だろうか。

 そう考えている間に、アンチはその目を赤く光らせる。

 そして。

 

「俺は……俺はやはり、怪獣だっ!」

 

 その言葉と共に、紫の閃光が友奈の視界を塗りつぶしていく。

 一瞬友奈の視神経をブラックアウトさせてしまうほどの強さに、友奈はバランスを崩す。両目を抑え、ようやく目が慣れてきたとき、目の前にいたアンチの姿は変貌していた。

 

「アンチ君!?」

 

 その姿を、友奈は二度見する。

 さきほどまでの華奢な体を持つアンチとは裏腹に、広い肩幅を持つ生命体。紫の体と赤いゴーグルを付けた怪物が、その場にいた。

 怪物の赤い眼に映る友奈の姿。自らが驚いている表情が友奈を見返している。

 

「もしかして……アンチ君!?」

「俺は怪獣だ……このまま怪獣として生きるしかないんだ!」

「何を言っているの!?」

 

 だが、その問答にアンチは答えない。

 その巨腕を放ち、友奈を圧し潰そうとする。

 

「っ!」

 

 友奈はアンチの動きを見切り、その腕を受け流す。

 友奈の隣に立っていた大きな木を殴り砕くその威力に、友奈は目を大きく見開く。

 

「なんて威力……!」

「はあっ!」

 

 さらに、アンチの攻撃は続く。

 友奈へ向けた手のひら。その危険性を察知した友奈は、大きく回避。

 すると、その手から黄色の光線___見滝原南に現れた怪鳥の超音波メスと全く同じもの___が放たれた。

 巨木の幹を切断するそれは、友奈の視線を一瞬釘付けにする。

 さらに、アンチは続けて攻撃してくる。

 

「はああああああっ!」

「うわっ!」

 

 友奈の目と鼻の先をアンチの腕が掠める。その余波が友奈の顔面に吹き付けられ、友奈は思わず目を閉じる。

 

「うっ……!」

 

 視界が一瞬闇に包まれ、友奈は数回足を取られる。森という足場の悪さを思い出し、友奈は青ざめた。

 だが、アンチがその分かりやすい隙を見逃すはずがない。

 始まる、ラッシュともとれる猛攻。だがそれが、友奈に届くことはなかった。

 

「牛鬼!」

 

 友奈の前に立つ牛鬼。

 花の形をした桃色の盾で防御する牛鬼だが、トレギアとの戦いのダメージがまだ残っている。アンチを弾き返すと同時に、牛鬼の体が力なく落下する。

 牛鬼をキャッチする友奈。全身がズタボロの牛鬼を見て、変身に協力してもらう体力がないことを察する。

 だが、牛鬼の心配にそこまで時間を割くことは許されなかった。

 すでにアンチの拳が、生身の友奈の目と鼻の先に迫っていた。

 友奈に少しでも格闘技術が欠けていれば、友奈の体は背後の木の幹と同じように粉々になっていたに違いない。

 友奈は格闘技のセンスを駆使し、アンチの攻撃を紙一重で回避し続ける。

 さらに、アンチの攻撃一つ一つに対し、生身ながらも反撃を加えていく。拳でくればその肘へ、蹴りでくるならばその膝へ。

 真っ向勝負では敵わないならばと、少ない力で反撃を加えていく。

 

「なぜだ……なぜ、俺の攻撃が届かない!?」

 

 アンチはさらに、その肩幅を広げる。

 すると、肩からミサイルらしきものが発射された。

 木々を爆散させていくミサイルたち。それは、友奈への道をこじ開け、友奈の体を破壊しようとしていく。

 

「っ!」

 

 友奈はバク転でミサイルの雨を回避、さらに全速力で周囲を回り、アンチから離れる。

 見つけた巨木の裏に隠れる。他の木々に比べて頑丈なそれは、友奈をミサイルの雨から守る。

 

「はあ、はあっ!」

 

 アンチの息を切らす声が聞こえてきた。

 友奈は木陰から様子を窺う。

 アンチは膝を折って、友奈を睨んでいる。

 

「新条アカネの命令だ……俺は、お前を倒す!」

「命令……」

 

 友奈は唇を噛みしめ、駆け出す。

 アンチの腕を掻い潜り、一気に接近。腰の入った拳をアンチの腹へねじ込んだ。

 

「効かないぞ、その程度!」

 

 アンチに対し、友奈は左右の構えを入れかえる。

 戦いの代償として、今の友奈には右耳の感覚がない。嗅覚もない。

 だからこそ、残った感覚は常人よりも研ぎ澄まされている。

 アンチの拳を受け流し、そのまま彼の腕を抱える。そして大きく足を広げ、

 

「だあああああああああああっ!」

 

 アンチは叫び、手刀を振り下ろす。

 友奈は背中を傾けて手刀をギリギリで回避、さらに腕を全身で掴む。

 

「うおおおおおおおおおおおっ!」

 

 友奈は雄たけびとともに、アンチを放り投げる。僅かながらに勇者の加護を生身の体に流したそれは、圧倒的な質量差を覆し、アンチを当て身投げ。

 背中から押し倒されたアンチは、そのまま重力に従い斜面を転がり落ちていく。数回木々にピンボールのように跳ねたアンチは、体を地面に張りつけることでようやく止まった。

 

「アンチ君!」

 

 アンチを追いかけるように斜面を降りてきた友奈。だが、起き上がったアンチは即座に友奈へ敵意を向けてきた。

 赤く光る眼差しとともに繰り出される格闘。

 だが、これまで格闘で鍛えてきた友奈の動体視力はアンチの動きを完全に見切る。卓越した動きですべてよける。

 

「せいやっ!」

 

 生身のまま。

 友奈の正拳突きは、アンチの巨体、その数少ない急所である腹を貫いた。

 関節部分を的確に撃ち抜いた友奈の攻撃に、アンチは大きく後ずさりをした。

 

「なぜだ……!?」

 

 引き続き攻撃を再開するアンチ。

 だが、どのような手段をもってしても、結果は変わらない。全て友奈の技術によって防がれ、逆にアンチがダメージを負ってしまう。

 

「なぜ人間のお前の攻撃が俺に通じて、俺の攻撃が通じないんだ!?」

 

 焦燥感に駆られていくアンチは、目に見えて動きが読みやすくなっていく。

 やがて友奈はしゃがみ、その頭上をアンチの腕がかすめる。

 そして。

 

「牛鬼!」

 

 限界が近い牛鬼。その残り少ない能力を発動させた。

 すでに友奈の全身を勇者服に変身させる余力はない。だからこそ、その右腕のみを変身させた。

 

「勇者……」

 

 桃色の光が溢れ出す。

 桜吹雪の中で、勇者は拳を握った。

 

「アッパーっ!」

 

 そして突き上げる拳。

 右腕だけが変身させたアッパーが、アンチの下あごに炸裂する。

 大きな威力を示したそれは、アンチの巨体を殴り飛ばし、そのまま地面に大の字で伸ばした。

 

「なっ……!」

 

 右腕を除いて、生身のままの友奈。

 彼女の、たった一度の反撃で、怪獣であるアンチはその体が砕かれていく。彼はその事実を受け止められないように、唖然としている。

 

「なぜだ……なぜなんだ……!」

 

 片目だけで、空を仰いで呟くアンチ。

 

「俺は……新条アカネの命令に従えないのか……結局俺は……トレギアと、ムーンキャンサーを止めることなんて」

 

___もしかして、俺って、生きてたらいけなかったの⁉
 

父さんの言ったとおり、生きていたらいけなかったの___

 

 その言葉は、心のどこかで、友奈に突き刺さったままだった。

 あの大雨の日。生きる事を許されなかった少年の姿が、アンチの姿にフラッシュバックする。

 だから、あの時()には言えなかった言葉を、友奈はアンチに向けた。

 

「大丈夫。いいんだよ。だってアンチ君は、生きているんだから」

「生きている……?」

「そう。それに、アンチ君はあんなこと言われてたけど、それでもお姉ちゃん……アカネちゃんのことが心配なんでしょ?」

「……ああ」

 

 頷いたアンチ。

 彼はようやく、友奈の手を握り返した。

 友奈はにっこりとしながらアンチを助け起こす。友奈は数回アンチの体に付いた土埃を払い、尋ねる。

 

「だからさ。精一杯、頑張って生きようよ。そうすれば、きっと……いいことだって、あると思うよ」

「……結局、決めるのは自分自身だということか」

「うん。それに、それを選ぶことさえ出来なかった子を、わたしは知ってる」

 

 友奈は続ける。

 

「でもその子が生きた証は、今でも残ってる」

「……どこに?」

 

 アンチの聞き返しに、友奈は「ほら」と町の方へ促した。

 見滝原の山から一望できる、見滝原の街並み。色とりどりの町々が、夕焼けの光を反射して輝いていた。

 

「この街全てだよ。あの子は、誰からも受け入れられなかったけど、それでもたった一人の大切な人が好きだった町を守ったんだ。たとえ生まれがどんなところでも……君の正体がなんだって関係ないよ」

「……俺は……!」

「だから、上手く言えないけど……あの怪獣が君の正体だったとしても、それを呪って考えることを辞めちゃだめだよ。君にだってきっと、君が動きたいようにできるはずだよ」

「俺は……っ!」

 

 友奈に知る由などない。

 ほんの数日前、彼がとある聖杯に呼び出された戦士に言われた一言が、彼の胸中に去来していることに。

 アンチが顔を落としている時。

 その気配に、友奈は背筋を震わせた。

 

「危ないっ!」

 

 ノータイムで、友奈はアンチを押し倒した。すると、友奈とアンチの首があったところを切り裂いた。左右の木々が切断され、音を立てて倒れていく。

 

「何……これ?」

 

 友奈は顔を真っ青にして、一瞬にして切り株になった木々を見返す。

 そして、発生した場所。

 山の斜面、その少し先の部分。夕日が差し込むその箇所に、一か所だけ、自然にはあり得ない光景が広がっていた。

 それは___

 

「ムーンキャンサー!? 何でここに!?」

「ムーンキャンサー?」

 

 それはつい先ほど、アカネとアンチが問答していた中心の存在。

 ムーンキャンサーなるものはまだここからは遠く、友奈には視認できない。

 だが。

 

「何か……いる……!」

 

 自然の結晶である、見滝原山。

 その、さらに自然の神秘を詰め込んだ、うっそうとした洞窟。発光体などなさそうなその空間に、不自然に光る何かが見えた。

 

「あれは何?」

 

 だが、その問いの答えは、アンチの移動。

 これまた人智を越えた動きで、一気に山を駆け下りていく。

 

「アンチ君! 待って!」

 

 友奈も、すでにボロボロの体に鞭を打ってアンチを追いかけていく。

 決して陽の光が射さないその場所は、入った瞬間の湿気と寒気で、友奈は呼吸の感覚が変わった。

 そして。

 

「あれが……ムーンキャンサー?」

 

 洞窟の壁にへばりつく、美しく青く輝くその生命体。

 心臓のように胎動する、青い球体。

 そして、その半透明の球体の中にいるそれを見て、友奈は青ざめた。

 その半透明な球体の中に、いたのだ。

 アンチと深い関わりを持つ少女。すでに意識はなく、ぐったりとした体つきで全身をムーンキャンサーの体組織にへばりつけられている。

 トレギアのマスター、新条アカネが。

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