Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
ヴィラ・ローザ見滝原。
聖杯によって見滝原に召喚された友奈と真司が格安で借りている物件だ。
そんな見慣れたボロアパートを見上げながら、真司が友奈に尋ねた。
「これ、誘拐じゃないよな……?」
彼は背負ったアカネを振り向きながら呟いた。
友奈は心配そうに、気を失ったままのアカネを見やる。
真っ青な顔のまま、アカネは動かない。道中何度か彼女の生存が不安になったが、彼女の背中が上下しているところを何度も確認していた。
「アンチ君も、休んで行って……あれ?」
その時、友奈は気付いた。
いつの間にか、アンチの姿が見えなくなっている。
「どこ行ったんだろ、アンチ君?」
キョロキョロと周囲を見渡すが、彼の姿はどこにもない。烏が鳴く時間帯、子供だから家に帰ったのかななどという考えさえ過ぎってしまう。
「へ? あれ、確かに」
真司も、友奈の言葉によって、アンチがいなくなっていることに気付いたようだ。彼は一度アカネを背負い直し、友奈と同じくアンチを探す。
だが、紫のローブを纏った少年の姿はどこにもない。
「うーん……でも、お姉ちゃんは今こっちにいるのに……そもそも、アカネちゃんを本当はどこに送ればいいのかも分からないのに……結局、警察に通報……ってわけにはいかないんだよね」
友奈はスマホを見下ろしながら言った。
いつでもアカネのことを警察に連絡してもいいが、トレギアが絡んでいる以上、下手にアカネを関わらせてしまえば、より多くの人に危険が及ぶ可能性がある。何より。
「うん……わたしたちのこと、えっと……餃子キカンに聞かれちゃいけないんでしょ?」
「ぎ、餃子? 友奈ちゃん、そんなに餃子食べたかったのか?」
「ち、違うよ! ほら、警察とか、消防とか……」
「ああ! 教会キカン……あれ?」
「行政機関ですか?」
その言葉は、友奈の背後からだった。
いつの間にやってきたのだろうか。
友奈を完全に覆いつくせるほどの紫の巨体。友奈の肩幅を大きく上回る紫の帽子の下の肌色で、友奈はようやくそれが婦人だと気付く。
「こ、こんにちは。美輝さん」
「ええ。こんにちは友奈さん」
このアパートの管理人であり、その外見や素性に至るまで全てが謎の女性である。
その目に妖しい光を灯しながら、彼女は真司が背負う少女を見つめた。
「ああ、えっと……その……」
どこから聞かれていたのだろうか。
友奈は目を点にしながら、あたふたと腕を振る。
だが、そんな友奈の姿を見ながら、美輝はほほ笑んだ。
「何も心配することはありませんよ」
彼女は「おほほ」と笑い声を上げた。
「行政に頼めない人なんて、この寮では珍しくないですから。時々いるんですよ。様々な事情があって、行政に頼れない方も……」
「あ、あはは……」
友奈と真司はそれぞれ身を強張らせて苦笑いを浮かべる。
だが、美魔女はにたりと笑む。
「どんな事情があろうとも、詮索してはいけない。それは、このアパートにおける裏ルールですよ?」
「た、助かるぜ」
真司は安堵の息を付いた。
そのまま去っていく美輝を見送り、友奈と真司は勢いよく顔を見合わせた。
「よ、よかった~……」
「取りあえず、これならここにアカネちゃんを保護していても怪しまれずに済みそうだな」
美輝が自らの部屋に戻っていったのを見届けた真司は、ゆっくりとアパートの階段を昇り始める。友奈も彼に続いて階段を昇り出す。アカネの体を支えながら真司はやがて二階の踊り場に辿り着いた。
そのまま、借りているドアを開け、部屋に戻る。今朝この部屋を発つ時と比べれば、ゴミ掃除をしに行ったら女の子を連れ帰ることになった二人。
別れ際の真琴も当然驚いていたが、「元気になれるお薬です」ということで、巾着を渡された。中を確認してみると、茶や黒といったおどろおどろしいものが見えたため、友奈は真司とともにその封を切ることは決してないと心に誓った。
「うっし……それじゃあ、まあまずはアカネちゃんを休ませないとな」
「ちょっと待ってて。それじゃあ、わたしの布団を用意するね」
友奈はそう言って、襖を開ける。格安の中古で購入した布団を取り出し、手慣れた流れで敷いていく。
掛布団を用意したところで、真司は友奈を布団に寝かせた。
「なんかこうしてみると、ますます誘拐っぽいよな」
「だ、大丈夫だよ! 第一、あの洞窟ででそのまま置いていった方が危ないよ! それに、山田とこの時間今寒いし!」
「でも、親御さん心配してるだろうしな……友奈ちゃん、この子の持ち物になんか連絡できるものない?」
「うーん、携帯電話でもあればなあ……」
友奈は掛け布団をかけようとする手を止め、彼女のポケットを探る。だが、この時代の誰もが持つ電子機器は見当たらなかった。
「ないかも……おかしいな」
友奈はスマホを探している最中、彼女の右手に触れた。その手首に触れ、持ちあげてみる。
「令呪……」
それは、彼女が聖杯戦争の参加者という証である呪印。だが、それを一目見た途端に、違和感を覚えた。
「令呪……なんか、大きくない?」
「ああ」
真司もそれに同意した。
友奈の記憶にある令呪。可奈美やハルトといったマスターたちの令呪と比べると、それはまるで二つの令呪が上下に重なっているようにも思えた。
「多分、トレギアのはこっちだよな?」
真司は手首に付いている令呪を指差す。どことなくトレギアの仮面を連想させる形をしており、場所も他のマスターたちと同じだった。
「そうだと思うけど……じゃあこっちのは何だろうな?」
真司は、二の腕に至るまでに伸びている令呪を指差した。正六角形が無数に組み合わさったような形のそれ。真っ先に亀の甲羅を思い出した友奈だが、それを口にすることはなかった。
「それとも……あのムーンキャンサーってのが、もしかしてサーヴァントなのかな?」
「ムーンキャンサーが?」
真司は額を睨み上げた。
「あんなのがサーヴァントなのか? そもそも、ムーンキャンサーって何だよ?」
真司が顎をしゃくった。
「あの化け物の名前か? それとも、サーヴァントだってんなら、それがクラスなのか?」
「そうなんじゃないのかな?」
「だって、サーヴァントのクラスって、分かりやすい名前ばっかだったじゃないか?」
真司の指摘に、友奈は思い返す。
今いるサーヴァントと、これまで戦ってきたサーヴァント。
そして、友奈がまだ出会ったことのないが、その存在だけは連絡を受けた
真司は続けた。
「上手く言えないけど、そんなに長い名前じゃないじゃんか。クラス名って」
「うーん……カタカナばっかりだから、わたしには違いがよく分からないなあ」
「英語がまるでダメな俺だって分かるぜ? だって、ムーンキャンサーのムーンって月だろ? キャンサーで二単語だぜ?」
「凄い発想だった! わたしには思いつかないよ!」
「へ、へへっ! 俺だって頭いいところあるんだぜ?」
真司は赤面になりながら鼻を擦った。
「何より、サーヴァントって一人までだろ? いくらなんでも、一人が二人のサーヴァントと契約しているなんて……」
真司はそこまで言って、口を閉ざした。
やがて友奈に聞こえないぐらいの小声で、その口を動かす。
「いやまさかそんな、浅倉みたいなこと……」
「……真司さん?」
「あ、悪い。何でもない。結局、詳しいことは今はこの子が目を覚ますまでどうしようもないな」
真司はそう言って、冷蔵庫を開けた。
「うっし。ありあわせの材料で餃子一人前くらいは作れるな」
「ああっ! 真司さんがまた餃子を布教しようとしてる!? 今回は、わたしがうどんをご馳走するよ!」
友奈が真司の前に立ちふさがる。
「大丈夫! 今度はわたしがうどんをご馳走する番だよ!」
友奈はそう言って、台所の収納からそれを取り出した。
うどんのパック。袋が潰れる音とともに、友奈はそれを台所のまな板に置いた。
その時。
「うっ……」
聞こえてくる、アカネの苦悶の声。振り向くと、気を失っているアカネがゆっくりと首を振っていた。全身から汗を吹き出しながらもがいている。
真司は彼女を見下ろしながら、頭を掻きむしる。
「何か、すげえ汗出てるぞ! どうすんだ?」
「分からないよ! もしかしてさっき、ムーンキャンサーに何かされたんじゃ……!」
「クソッ! なんで色々知ってそうな子が真っ先に帰っちゃうんだよ……!」
真司は嘆きながら、部屋の中を左右に歩き回りだした。
友奈はアカネの傍で腰を落とす。
どんどんアカネの汗が増えていく。そして、汗の量が増えるのに比例して、アカネの表情の苦悶が増していく。
「と、とりあえず拭こう! こういうのは、まず拭けばいい気がする!」
友奈はアカネの額に乗せたタオルを掴み、再び水道で濡らす。絞り、余分な水分を押し出した。
即座にアカネの顔の汗を拭きとったが、それでも彼女の容体は変わらない。
友奈は掛布団を開き、彼女の襟元のボタンに手をかける。だが、即座にその手を止めた。
「……あ」
「ん?」
絞ったと同時に、友奈は凍り付いた顔で真司を見つめた。
「し、真司さん! 今からアカネちゃんの体を拭くから!」
「お、おう……?」
「だから! ちょっと、ここにいたらまずいよ!」
「へ? ……て、ああっ!」
合点がいった真司は、慌てて立ち上がる。
「わ、悪い!」
「本当だよ!」
友奈は顔を赤くしながら叫んだ。
友奈はアカネにべっとりとつく汗を拭いとる。だが、どれだけ拭っても汗は切れない。
シャツを襟元から下まで開き、引き続き汗を拭きとっていく。
その中で、アカネの胸元にそれを見つけた。
「これは……?」
アカネの首から下げられているペンダント。彼女が文字通り肌身離さずに所持しているそれは、果たして量産品とは思えない神聖な雰囲気を宿していた。
それは勾玉と呼ばれる、古来日本の伝統品。友奈は彼女の首から、そのペンダントを外してみた。
「何だろう……これ?」
石でできた勾玉だが、それは明らかに自然の石とはまた別のもので作られていた。アカネの体温に触れて温まっていたはずなのに、それは氷のように冷たかった。
その時。
「うわっ! 牛鬼!? どうしたの!?」
友奈は反射的に両手で勾玉を挟んで掲げた。
スマホから飛び出してきた白い妖精、牛鬼が友奈の手から勾玉を奪い取ろうとしていた。
単純に見たい程度の好奇心ではない。無表情なのに、牛鬼の雰囲気からはその勾玉を破壊しようとする意図が感じられた。
さらに、牛鬼は友奈の手を引っ張り___それも、今までの牛鬼からは想像もつかないほど強い力で___、その手から勾玉を取り上げる。
「あっ!」
牛鬼は勾玉を掲げ、そのまま流れるように床に叩き落とす。
すると、小さな勾玉は、いとも簡単に砕け散った。
「ああっ!」
人の物を勝手に壊した。
牛鬼を持ち上げ、友奈は勾玉の残骸たちに伏せた。
「牛鬼……! なんてことを! 人の物を勝手に壊しちゃダメなんだよ!」
友奈はそう、牛鬼を叱りつけた。
「ん? どうした?」
すると、騒ぎを聞きつけた真司が、ドアを開いて様子を窺っていた。
当然中にいるのは、友奈、牛鬼、そして友奈によって服を脱がされているアカネ。
「うわあああああああっ! 真司さん、何で入ってきちゃうの!?」
友奈はそう言って、思わず濡れたタオル(アカネの汗を拭きとっている最中の)を真司へ投げつける。
投げながらも見事な形でそれは大きく開き、「バチン!」と大きな音を立てて真司の顔に張り付く。
「あ」
投げてしまったらもう後の祭り。
水の勢いを乗せた友奈の一撃は、あっという間に真司の意識を刈り取り、その場で気絶させてしまった。
「し、真司さあああああああん!」
友奈の悲鳴が、アパートの中に響いていった。
コウスケ「ああ……春休みだっつうのに、何で大学に行くことになるんだか」
コウスケ「ん?」
???「あ」
コウスケ「お、星野みやこじゃねえか。久しぶりじゃねえか」
みやこ「おお、唐突なフルネーム呼び」
コウスケ「どうした? とうとう退学になったか」
みやこ「いや、普通に単位取得してるし」
コウスケ「……お前退学していなかったのか」
みやこ「してないよ?」
コウスケ「にしてもお前、前に比べて良く喋るようになったな。前は全然大学で喋ったことねえのに」
みやこ「そ、そうかな? それじゃあわたし、もう行くから」
コウスケ「ああ。じゃあな……ん?」
???「みゃー姉どこだー?」
コウスケ「こ、子供? おい、どうした?」
???「みゃー姉はどこだ?」
コウスケ「みゃー姉って誰だ?」
みやこ「ひなた!?」
コウスケ「お前の妹かよ!」
___あなたのすぐそばにいるよ 気ままな天使たち 雨ふりさびしい時には 笑顔で手を叩こう!___
コウスケ「お、カンペが出てきた……私に天使が舞い降りた! が今回のアニメか」
コウスケ「2019年1月から3月まで放送していたアニメだな」
コウスケ「校門でやってるように、引きこもり大学生の星野みやこが、妹のひなたちゃんと、その友達の白咲花ちゃんや姫坂乃愛ちゃんと交流していく……と。小さな女の子ばかりだな」
みやこ「待って!」
コウスケ「うおっ! びっくりした」
みやこ「もっと紹介するべきことがありますよ……!」
コウスケ「な、なに……?」
みやこ「それは……いつの間にかわたしの背後にいる……」
???「みやこさん……」
みやこ「この松本よおおおおおおおおおおおっ!」
コウスケ「ホラーじゃねえよなこれ!?」