Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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制作難航……
お待たせしました!


”Liar mask”

「追いついた!」

 

 背を向けて走るアカメ。彼女の長い黒髪に、可奈美は速度を上げる。

 壁を伝い、アカメの前に回り込む。

 

「アカメちゃん!」

 

 振り向きざま。可奈美とアカメは、剣士同士の挨拶を交わした。

 互いの剣が織りなす、甲高い音。可奈美の手には、アカメの村雨が伝わってきた。

 

「……アカメちゃん。マスターのところに行くの?」

「令呪で呼ばれたらしい」

 

 彼女の腕が、プルプルと震えている。強張った表情から、彼女の意志と体の行動が真逆なことが理解できた。

 

「どうやら、マスターの敵を全て斬れという命令らしい」

 

 しばらく震えていた村雨は、やがて可奈美に焦点を当てて停止する。

 

「どうやら、私の体は、お前を敵だと認識したらしいな」

「みたいだね」

 

 可奈美は、アカメへ切っ先を合わせる。まさに、試合前の相対する選手となった。

 

「他人事だな」

「私もそれなりの修羅場は潜りぬけてきたからね。多少の覚悟とかはしてあるよ」

「そうか」

 

 アカメが臨戦態勢となる。新陰流の構えをしながら、可奈美は千鳥を握る手に目線を投げた。

 

「……あの白い光は使わないのか?」

「使えないんだよね。もう」

 

 さすがに気付かれたか。可奈美は、口を吊り上げた。

 

「ここに来てから連戦だったからかな。もう、写シを張る体力も残ってないみたい」

「……この村雨の能力は、分かっているな?」

「うん。斬られたら、死んじゃうんでしょ。昨日ひび……ランサーから聞いた」

「そうか」

 

 彼女は村雨を身構える。一切無駄のないその構えが、彼女が卓越した暗殺者であることを物語っていた。

 これまで戦ったことのない、剣の使い手。

 

「逃げるなら、今のうちだ」

「逃げる?」

 

 その言葉に、可奈美は鼻で笑った。

 

「冗談でしょ? アカメちゃんの本気と戦えるんだよ? 逃げるわけないじゃん」

「死の恐怖もないのか?」

「ないわけではないけど……それより、戦いたいって気持ちの方が大きいかな」

「……狂ってるな」

「自覚はある」

 

 可奈美は頷いた。それを見てアカメは、こう言ってくれた。

 

「だが……嘘の仮面をつけているわけでもない。そういう奴が、一番危険だ」

「嬉しいこと言ってくれるね。本当に、私はアカメちゃんと戦いたいだけだから!」

 

 一瞬の静寂。

 そして、可奈美とアカメは、同時に跳び上がる。空中で交差した剣により、天井が崩落。朽ち果てた、燃える月のアートを模る。

 着地と同時に、アカメの振り向きざまの斬撃。それを受け流した可奈美は、しゃがんで突く。しかし、体を反らして回避したアカメは、そのまま背後にそっと近づく。

 

「闇に落ちろ」

 

 しかし、死角からの一撃を、可奈美は千鳥を背中に通して受け止める。

 

「お前……よく笑えるな」

「笑ってる? 私」

「ああ。お前、最近それほど笑ってないな」

「そうかもね。……もしかしたら、ここ半年くらいで一番笑ってるかも」

 

 可奈美は体を回転させ、アカメと向き合う。そのまま村雨を打ち返し、攻め入るが、アカメも当然防衛。反撃。

 そのまま何度も何度も、二人の剣薙ぎは続く。

 

「お前の剣は、悲劇を経験しているのか?」

 

 鍔迫り合いの最中、アカメが問う。

 

「お前の言葉を借りるなら、お前からも悲しみが伝わる。なぜお前は戦う? 聖杯戦争に、なぜ?」

「無くさないためだよ」

 

 もう少しで頬を掠めそうになった村雨を蹴り飛ばす。

 

「何一つ、無くさないために! それが、私の今の剣術!」

 

 さらに、二人の剣士の戦いは続く。互いに移動しながらの剣術勝負となり、周囲の環境をどんどん傷つけていく。

 可奈美の袈裟切りを突破したアカメの三連突き。見切り、受け切ったかと思えば、アカメは頭上に跳び上がり、重い刃が両断しようと迫る。

 

「アカメちゃん」

「敵と会話する余裕があるのか?」

 

 アカメの剣を受け止める。

 

「本心じゃないんでしょ? 剣が教えてくれてる」

「……だったら、どうだというんだ⁉」

 

 彼女の剣に、重みが増した。ずっと無表情だった彼女の表情に、変化が訪れた。

 目を大きく見開き、歯を軋ませる。怒りを示すその表情に、可奈美は千鳥を握る力を強めた。

 

「ずっと暗殺者として育てられ、信じていたものが悪だと知り、結果最愛の妹も敵となり、世界を良くしたいと多くの人をこの手にかけ、死でようやく救われると思った矢先にあのマスターに召喚されて、どうだというんだ!」

 

 いつしか赤い眼差しは、潤いが宿っていた。

 

「結局私は、殺人者の手先として殺すことしかできない……ナイトレイドにいた時だけが、私が平和のために戦ってると思った……」

「……」

「私は、あんな奴らの汚れた笑顔のために戦っていたんじゃない! このやり場のない怒りは、どうすればいい! 本心で、お前に剣を振れるわけがない!」

 

 嘆きを続けながらも、無情にも令呪に操られたアカメの体は、アカメへの攻撃を止めない。一手一手、可奈美にとって脅威となる攻撃方法で、その命を刈り取ろうとしてくる。

 可奈美は距離を置き、新陰流、蜻蛉の構えを取る。

 

「アカメちゃんが、どれだけの血と涙を流してきたのかなんて、私には分からない。それで、どれだけ苦しんだのかも。さっきの子を殺されて、何も無いような顔して、その心ではどれだけ苦しんだのかも。私には、そんな経験ないから。でも……」

 

 可奈美は、深く深呼吸した。

 

「だからこそ! 私は、アカメちゃんに、他の剣の道を示したい!」

 

 同時に、千鳥と村雨がぶつかる。ほとんど同じタイミングで繰り出された、互いの技。角度も、速さも、全く同じ。

 結果を分かつのは、その重さだった。

 

「あ……」

 

 その手を離れた千鳥が、キリキリと宙を舞う。深々と可奈美の背後に突き刺さった千鳥。それは、可奈美の敗北と直結していた。

 

「葬る!」

「!」

 

 容赦なく可奈美を狙う村雨。その時、可奈美は笑む。

 

「アカメちゃん。その剣は見えてる!」

 

 傷一つ付けば即死。そんな刀を、可奈美は真剣白刃取りで受け止めた。

 

「何⁉」

「アカメちゃん!」

 

 驚くアカメへ、可奈美は言い放った。

 

「そんな魂のこもっていない剣じゃ、何も斬れない!」

 

 その言葉とともに、可奈美はアカメの手を折り、村雨から引き離す。そのまま村雨を反転させ、自らの手に加える。

 すると、可奈美の全身に麻痺の毒が流れる感覚が襲い来る。だが、歯を食いしばりながらそれに耐え、村雨を振るう。

 

「でりゃあああああああああああああ!」

 

 呪われた刀がアカメを斬る。

 右肩から左腰にかけて、刃物が人体を斬り裂く。

 肉を傷つける感覚と、足場さえままならない感覚が可奈美を襲う。力が抜け、村雨が音を立てて地面に落ちた。

 フラフラとアカメの背後に体が運ばれ、そのまま後方へ倒れこむ。だが、同時にアカメも倒れようとしたため、背中合わせで座る形となった。

 

「……魂のこもっていない剣か……」

 

 そう、アカメが呟いた。消え入りそうな声は、殺し屋の迫力が一切なかった。

 

「アカメちゃん……」

「……もう、分かる。私は終わりだ」

 

 村雨の傷は浅い。致命傷にはならないものだった。つまり、彼女のその言葉は、村雨の持つその呪いが起因することだと理解できた。

 

「二度目の生を終わらせるのが、私自身の村雨か……」

「アカメちゃん……」

「私の剣より、お前の剣が上回っていた。それだけの話だ」

「……違うよ」

 

 可奈美は静かに首を振った。

 

「試合の剣と殺しの剣。だけど、もしこれが試合だったら、千鳥が私の手を離れた時点で私の負けだったよ。私がたまたま白刃取りできただけで……言ってみれば、試合に勝って勝負に負けたってところかな」

「面白い言い回しだな」

 

 可奈美の肩にかかる重さが増した。アカメがすでに、力さえも残っていないということだ。

 可奈美は続ける。

 

「それに、アカメちゃんは令呪で体を操られていたでしょ? さっき戦った時より、明らかに剣のキレが悪かったよ。だから、私が勝てたのは、ただのまぐれ」

「謙遜するな。ここに突入してからの疲労は、見てわかる」

「あはは……」

「……私がいた世界では、剣は殺しの道具でしかなかったな。純粋な勝ち負けを決めるなど、思いもしなかった」

「そっか……」

 

 可奈美は天井を見上げる。赤黒い空間はとても静かで閉鎖的で。世界には、自分とアカメだけしかいない錯覚にも陥る。

 

「……ねえ。一つ、お願いしてもいい?」

「何だ?」

 

 可奈美の視界の端に、紫の粒子が映る。キラキラ光るそれは、地上に落ちた星を眺めているようだった。

 

「もし……さ。また会えたら……友達になってくれない?」

「友か……」

 

 それが無理な話だと、可奈美自身にも分かっていた。だが、アカメとの沈黙を許しておけず、言葉を継ぎ足す。

 

「そう。……そうだよ!」

 

 思わず、アカメの腕を握る。鍛えられた筋肉の腕が、可奈美にアカメの存在を確固たるものにする。

 

「そうしたらさ。私、アカメちゃんに毎日試合を申し込むよ。アカメちゃんの太刀筋、もっと見たいから!」

「……そうか」

 

 今度は、アカメの体が軽くなっていく。背後を向いたままの腕が、どんどん感覚が薄くなる。

 

「殺しではない、試合としての剣か……それはとても……楽しそうだな」

「うん。きっと楽しいよ。だからさ」

 

 その言葉は、可奈美が多くの対戦相手へ口にした言葉だった。

いい試合をして、また再戦を誓い合うその言葉。

これまでも、そしてこれからも、破られたくない約束のためのその言葉。

 

 

 

___今度。また、試合しようね!___

 

 

 

 それがアカメに届いたのか否か。それは分からない。

 支えを失った可奈美の体は、ぐったりと仰向けに倒れた。紫の粒子が可奈美の風圧に吹き散らせながら、可奈美の頭上より昇っていく。

 

「アカメちゃん……私が戦った、最高の……

 

 少しずつ薄れていく粒子たちを最後に、可奈美は意識を手放したのだった。

 ガルーダがその頭上を心配そうに旋回していることなど、可奈美が知る術もなかった。




アカ斬るファンの方も納得していただける……かな?ごめんなさいしなければの内容でしょうか?

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