Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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泥棒

「ああ? どうした?」

 

 ラビットハウスを飛び出したまずハルトが訪れたのは、見滝原公園。

 何かと戦場になることが多いこの場所に無意識に来てしまうことに自己嫌悪しながら、目の前のテントから顔を覗かせた青年は怪訝な顔を浮かべた。

 

「悪いコウスケ! 怪しい奴見なかったか!?」

「ああ? 怪しい奴?」

 

 コウスケは欠伸をしながら返す。

 

「朝っぱらから大騒ぎしているお前が一番怪しいんじゃねえの?」

「そういうボケはいらないから!」

「何だよ。折角の休みなんだから、のんびりさせてくれよ」

「テント生活の奴がのんびりって何だよ……? じゃなかった!」

 

 ハルトは咳払いをして、話を続ける。

 

「盗まれたんだよ! ウィザードの指輪!」

 

 ハルトはそう言って、腰のホルスターを見せつける。

 普段は色とりどりの指輪が設置されていたホルスター。だが今は悲しいかな、指輪の位置には空洞しかない。

 

「お前、管理がなってねえだろ?」

「泥棒に入られたんだよ! 今朝ラビットハウスに来た男に!」

「泥棒? 指輪泥棒……ってことは、そのうちオレのも盗もうとかしたりすんのか?」

「可能性はあるよね」

 

 ハルトは頷いた。

 コウスケは面倒そうに頭を掻き、「だあああっ!」と叫んだ。

 

「だったら、オレの指輪貸してやるよ。今協力できねえんだ」

「何で?」

「オレ今から大学のダチと会う約束があるからなあ」

「俺の指輪の方が大事じゃないの!?」

「いやこっちのプライベートだって大事だろ!」

 

 コウスケはそう叫び、彼の指輪を差し出した。ハヤブサが描かれたオレンジの指輪。

 それを掲げながら、

 

「……俺、この指輪使えるの?」

「オレは一応変身してない状態でも使えんぞ?」

 

 コウスケはそう言いながら、イルカの指輪をベルトに差し込んだ。閉じた扉の形をしたバックル、その端に接続されているソケットが指輪を読み込み、彼の背中に紫の魔法陣を発生させた。

 

『ドルフィン ゴー』

 

 魔法陣がコウスケの背中に装備させる、紫のマント。彼の脊髄にはさらにイルカの装飾も装備されている。

 

「簡易的だけど、魔法だって使えるぜ。こんな風にな」

 

 コウスケが足踏みすると同時に、その体は公園の底に沈む。あたかもそこが水面であったかのように水しぶきが舞い、ハルトの背後にコウスケが跳びあがった。

 

「ふうん……まあ、貸してくれるならありがたく使わせてもらおうかな」

 

 ハルトはそう言って、ハヤブサの指輪を見下ろす。

 右手に付けて、そのままバックルにかざした。

 すると。

 

『ビースト プリーズ』

 

 すると、ハルトの背後にオレンジ色の魔法陣が出現する。

 それはハルトの肩に触れると、オレンジ色のマントと、ハヤブサの彫刻を生み出した。

 

「これは……」

「そのマントを摘まんで動かせば、空飛べるぜ」

「そう? どれどれ……」

 

 ハルトはマントの端を動かす。

 すると、魔力を込めた風が吹き始め、ハルトの体が上昇し始める。

 

「おおっ!」

「泥棒探すのには便利だろ? 響にも手伝うように言っておくぜ」

「ありがとう!」

 

 ハルトは礼を言って、滑空。

 ハヤブサの魔法により、索敵範囲が大幅に増えた。

 見滝原の街を回りながら、ハルトは今朝の男を探す。

 顔が覚えていられる自信がないが、それでもなけなしの記憶を頼りに、あの男の姿を探す。

 公園から出て、見滝原中央のビル群の合間を探し、西の木組みの街地区を見渡し。やがて、他の地区にも探索の目を光らせていった。

 

 

 

「……見つけた!」

 

 いた。

 見滝原西、木組みの街地区から離れた、とある川岸。

 そこに、あの泥棒はいた。

 ベンチに腰掛け、満足そうに指輪の箱を開けている彼。その前に着地し、同時にハヤブサのマントは消滅した。

 

「お前! さっきの……!」

「なんだい?」

 

 ハルトの声に、泥棒は振り向く。

 彼はしばらくハルトの顔を見つめていたが、やがて思い出したかのように「ああ!」と叫んだ。

 

「やあ。お宝は頂いたよ?」

 

 泥棒はそう言いながら、ウィザードリングを収納した箱を指からぶら下げる。

 

「もう十分でしょ。そろそろ俺の指輪を返してもらうよ」

「そう言われて返す泥棒はいないよ」

 

 泥棒はそう言って、手に持った何かを回転させた。

 それは、青い銃。シアンカラーの本体に、白、黒、金の装飾が施されたそれは、他では見ない泥棒のオンリーワンのものに思えた。

 彼はそのまま、ハルトの足元に発砲、ハルトの動きを止める。

 

「銃……! しまった、こんなことならウィザーソードガンを持ってくればよかった……!」

 

 普段ウィザーソードガンを取り出すのに使っているコネクトの指輪は、今、あの箱の中だ。

 すると、箱が勝手に開いた。中から指輪が散らばり、ゴーレムもまたその中から投げ出された。

 

「ゴーレム!」

「おいおい、邪魔しないでくれたまえ」

 

 駆け寄ろうとするハルトよりも先に、泥棒がゴーレムの頭を摘まみ上げる。

 首が回転する機構が逆に作用し、体が回転している。

 泥棒は顔を反らしながら、面倒そうな顔をした。

 

「これはいらないかなあ。返すよ」

「なっ!?」

 

 泥棒はそう言って、ゴーレムを放り投げた。

 ハルトは慌てて両手を差し出し、ゴーレムをキャッチ。

 ゴーレムは、ハルトの顔を見て、喜ぶように両手を上げて顔を回す。

 

「大丈夫だゴーレム。もう怖くないからな」

 

 ハルトはゴーレムの頭を撫でた後、頭の指輪を叩く。

 すると、ゴーレムはその体を消失させ、頭部の指輪だけになった。指輪をポケットに入れたハルトは、散らばった指輪を回収し、全て箱に入れ直した泥棒を睨む。

 

「お前……! 俺の指輪を盗んでどうするつもりだ!?」

「別にいいじゃないか。僕のコレクションさ」

「コレクション? 冗談じゃない! 俺の指輪を返せ!」

「ハルトさん!」

 

 その声に、ハルトは振り向いた。

 

「響ちゃん!」

 

 それは、立花響。

 ランサーのサーヴァントは、ハルトと泥棒の二人を見る。

 

「コウスケさんから大体の事情は聞いたよッ! 手伝うよッ!」

「手伝うっていうか、もう犯人見つけてるんだけど……」

 

 ハルトはそう言って泥棒を指差す。

 泥棒は、ハルトではなく響を見つめ、口角を吊り上げた。

 

「立花響……つまり、ガングニールか。なるほど、それもいいお宝だね」

 

 泥棒はそう言いながら、懐よりカードを取り出した。

 青い戦士がアップで描かれたカード。そのカードデザインは、どことなくあの___ディケイドが使うカードとよく似ていた。

 泥棒はそれを、銃の側面にあるスロットに装填する。

 

『カメンライド』

 

 カードの存在によって拡張した銃身。そして浮かび上がるのは、無数の縦線が並んだクレストマーク。

 そして、カメンライドという音声。つい昨日同じものを聞いたことがあるハルトに、嫌な予感が走った。

 銃口を空へ向けた泥棒は。

 叫んだ。

 

「変身」

『ディエンド』

 

 アナウンスボイスとともに、泥棒は引き金を引いた。

 すると、発生した青いエネルギーがカードの形となり、黒いボディとなった泥棒へ突き刺さる。カードのエネルギーより青い色が全身に行き渡り、その姿は青と黒の戦士となる。

 

「……ディエンド?」

「ディケイドに似ているような……? 仲間かな?」

「へえ……士とは面識があるんだね」

 

 ディエンドはそう言いながら、その銃を響へ向けた。

 

「僕の邪魔をしないでくれたまえ」

「だめだよッ! 泥棒はよくないから、ハルトさんに指輪を返してッ!」

 

 響が叫んだ。

 だが、ディエンドがその言葉を聞く道理はない。

 容赦なく発砲してきたディエンドの銃、ディエンドライバー。

 それをバックステップで避けた響は、それを口にした。

 

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

 

 それは、唄。

 彼女の首から下げられる赤い首飾りが黄色に発光し、その体を包んでいく。

 そして、響の体に一つ一つ装備されていくそれは。

 シンフォギア ガングニール。

 演舞を舞いながら、響はその変身を完了した。

 

「シンフォギア……見るのはなかなか久しぶりだね」

「へ? シンフォギアを知ってる?」

「このパターンデジャヴが……」

 

 思わぬディエンドの発言に、響はきょとんとした。

 ハルトはさらに、警戒を深めた。

 

「お前、一体何者なんだ?」

「僕はただの……通りすがりの怪盗さ。立花響……君のことは知ってるよ?」

「やっぱりこのパターンッ!?」

「まあ、僕が知っているのは、君ではあって君ではない。あの時は取り逃したけど、改めて君のガングニールをもらおうかな」

 

 ディエンドはそう言って、カードを引っ張り出した。

 それは、ディケイドが使っていたカードと同じ規格のカード。それを、変身の時に使った銃、ディエンドライバーへ差し込む。

 

『カメンライド カイザ』

 

 さらにもう一枚。別のカードをディエンドライバーに装填すると、また別のクレストマークが銃に浮かび上がる。

 

『カメンライド スペクター』

 

 ディエンドがその銃口を響に向けて放つ。すると、先ほどと似た、無数の虚像が現れる。マゼンタ、シアン、イエローの三原色が重なり、それは実体となっていく。

 やがて現れたのは、χ(カイ)の記号を頭に刻んだ戦士。黒をメインにしたアーマーに、黄色のアクセントを入れたそれは、とても特異なデザインをしている。χの顔の合間の紫が、彼をより紫がメインと主張させている。

 そしてもう一体。黒い素体をベースに、水色のアクセントが入っている。フードを脱いだそれは、鬼のような形相で響を見返していた。

 それぞれの名を、カイザ、スペクターと呼ぶ。

 

「な、なんか出てきたッ!?」

「さあ、いってらっしゃい。僕の人形たち」

 

 ディエンドの命令とともに、二人の仮面ライダーは響へと接近していった。


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