Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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攫われたハルト

「ハルトさん、出ないなあ……」

 

 可奈美は口を尖らせながら、スマホをポケットにしまった。

 朝起きてから、ハルトの姿がない。

 今朝の朝食当番であり、その用意もしっかり終えられていたことから、少なくとも朝方にはラビットハウスにいたことが推測できる。

 だが、今は影も形もない。

 ココアとチノは学校に行き、タカヒロは休んでいるこの時間。

 本来今日はハルトと二人体制なのに、時間になっても彼は戻ってこない。

 

「ハルトさん、まだ……?」

 

 口を尖らせながら、可奈美はカウンター席に座り込む。

 スマホのメッセージにはいまだに既読も付かず、何かあったのではないかと不安さえ襲ってくる。

 

「あ、ユニちゃんにゴーレムちゃん。……心配だよね」

 

 ハルトの使い魔たち。

 そのうち、ガルーダとクラーケンが見当たらない。いつもの通り、ファントムや参加者を探しているのだろうか。

 

「そういえばユニちゃん、いつもラビットハウスじゃなくてもハルトさんのところに来てるよね? ハルトさんがいる場所、分かるの?」

 

 可奈美の問いに、ユニコーンは困ったように首をひねった。

 不安を押し切るように、三回目の掃除を終えたころ、ラビットハウスのベルが鳴った。

 

「いらっしゃいませ!」

「あらあら。本当にいましたのね。衛藤可奈美さん」

「あなたは……!」

 

 来客の姿に、可奈美は思わず身構える。

 一見、平日の日中には似つかわしくない女子高生。

 長い髪を二房に分けて前に出すその姿は、可奈美は初めて見る。だが、その長い前髪で隠れている左目に薄っすらと見える金色の眼から、可奈美は以前戦った参加者のことを思い出した。

 

「狂三ちゃん……?」

「きひひっ! あらあら、一度戦っただけなのに、覚えていただけて嬉しいですわ」

 

 制服姿の狂三はスカートをたくし上げ、お嬢様のように頭を下げる。

 

「どうしたの?」

 

 仕事中は、千鳥が手元にない数少ない時間である。

 可奈美は懐に手を伸ばす彼女の一挙手一投足を注意していた。

 やがて彼女が取り出したのは、銃。

 だが、狂三自身が戦闘で使う古めかしい銃ではない。銀で作られたそれは、可奈美もよく知るものだった。

 

「それって……!」

「今、これの持ち主は行方不明ではなくて?」

 

 狂三はトリガーに指を通してウィザーソードガンをぶら下げる。ゆらゆらと揺れるそれを、可奈美は驚愕の眼差しで見つめた。

 

「狂三ちゃんが、なんでそれを持ってるの……?」

 

 同時に、ユニコーンがその角を狂三に向けている。

 警戒を見せるユニコーンは、そのまま突撃を放ってくる。

 だが。

 

刻々帝(ザフキエル) 二の弾(ベート)

 

 即、ユニコーンへ発砲された銃弾。

 それはユニコーンの動きを極限まで遅くさせ、空中に固定した。

 

「ユニちゃん!」

「あらあらあら。折角落とし物を拾ってあげたのに、あんまりではありません? そうそう、こちらは拾い物としていただきますけど、こっちは返して差し上げますわ」

 

 狂三はそう言って、折りたたまれた手紙を手渡す。

 受け取った可奈美がそれを開くと、『お誕生日おめでとう ハルト君』という綺麗な文字が現れた。

 

「誕生日って……ハルトさん、今日誕生日だったの!?」

「……まあ、知らせていないでしょうね」

 

 狂三は小声で呟く。

 可奈美は頭を抑えながら、狂三へ詰め寄った。

 

「何があったの? ハルトさんに、何かあったの?」

「さあ? 答える義理なんてありませんが……そうですわね」

 

 狂三はにやりと笑みを浮かべ、ウィザーソードガンを可奈美へ向けた。

 

「!」

「わたくしが勝ったら、教えて差し上げますわ。賭け金(ベット)は可奈美さん、あなたの命で……いかが?」

「いいよ。やろう」

 

 可奈美は顔を強張らせる。

 すると、大きく口角を吊り上げた狂三は、その全身から赤黒い光が溢れ出していく。

 狂三を包み込んでいくそれは、やがて彼女をオレンジのドレスに仕上げていく。

 

「……っ!」

 

 この姿の狂三を、可奈美は知っている。

 黒とオレンジのツートンカラーのドレスを着こなし、左右非対称のツインテールは前髪で左目を隠すことなくたくし上げている。

 口角を高く吊り上げながら、狂三は銃口を可奈美へ向けていた。

 

「さあ、まずは刀を手にするまで、生き延びられますかね?」

「……!」

 

 千鳥を取ってくるのを待つつもりはない。

 その意図を汲み取った可奈美は、バク転と同時にウィザーソードガンを蹴り上げる。

 思わぬ方向へと腕を動かされた狂三は笑みを張り付けたまま動かない。

 そのまま、大急ぎで、バックヤードへ続くドアを開けようとするが。

 

「おっす、ハルト! いるか?」

 

 突然の来客ベルによって、狂三が入口へ銃口を向けた。

 

「いけない!」

 

 可奈美は足を止め、狂三を飛び越えて入口に割り込む。ウィザーソードガンを蹴り飛ばし、入って来た客の前に立つ。

 

「ごめんなさい、今取り込み中で……真司さん!?」

「お、可奈美ちゃん。どうしたんだ、そんな必死そうな顔をして」

 

 驚いた表情を見せるのは、城戸真司だった。

 彼は可奈美と、銃口を向ける狂三を見比べて驚いた。

 

「あっ! ええっと……この前、ムーンキャンサーと戦った時に助けてくれた人!」

「城戸真司……ライダーのサーヴァント、ですわね?」

 

 真司と狂三に面識はない。

 接点そのものは、今真司が言った通り、邪神イリス(ムーンキャンサー)と戦った時同じ場所にいただけだ。

 

「いいですわ。いいですわ! この街は本当に参加者であふれていますのね!」

「おい、ちょっとこれって……!」

 

 狂三がトリガーにかける指に力が入る。

 だが真司は、咄嗟にポケットからカードデッキを取り出し、その中からカードを抜き取る。

 

「ドラグレッダー!」

 

 銃声。

 だが、それよりも大きな咆哮が響いた。

 ラビットハウスの窓ガラスより現れる赤い影。ドラグレッダーは、向かいの窓へ飛び込む道中、その長い体で銃弾を弾いていた。

 

「あらあら……」

「おい、何のつもりだ!?」

「何のつもりも何も……? わたくしたちは聖杯戦争の参加者同士。殺し合うのが当然ですわ?」

「結局……アンタもそうなのかよ……!」

 

 真司は唇を噛む。

 

「戦わないってことは、できないのかよ!」

「当然ですわ、ライダー。わたくしたちは願いのためにこの世界に召喚され、願いのために命がけで戦う。あなたにも願いがあるのではなくて?」

 

 狂三の問いに、真司は堂々と答えた。

 

「ああ。俺にも願いはあるさ」

「やはり……!」

「俺は……こんな、戦いを終わらせる! 聖杯戦争を終わらせることだけが、俺の願いだ!」

 

 そう叫んで、真司はカードデッキを突き出す。

 すると、窓ガラスより銀のベルト(Vバックル)が出現、真司の腰に装着された。

 

「……俺は戦いを止める。そのために、この聖杯戦争に参加したんだ!」

「矛盾してますわね」

 

 狂三は吐き捨てる。

 

「戦いを止めるために戦う? どうしてそんな頭の悪い結論に達するのでしょうか?」

「俺、バカだからな。一年間あれこれ考えても、結局答えなんて、他になかったんだよ」

 

 一年間。

 その単語に、可奈美は疑問符を浮かべた。

 ハルトが真司を召喚したのは、昨年の秋。春の今に至るまで、まだ半年しか経っていない。

 それなのに、なぜ一年なのだろうか。

 疑問に思った可奈美のことなど、真司は気にすることもなかった。

 

「変身!」

 

 右手を斜めに突き伸ばし、ベルトに装填。

 無数の鏡像が真司に重なり、赤い仮面ライダー、龍騎へと変身を遂げる。

 

「っしゃあ!」

 

 気合を入れた龍騎は、身構える。

 

「闘いたいなら、俺が相手になってやる!」

「あらあら……」

 

 首を振った狂三は、口角を吊り上げる。

 

《/darkorange》「刻々帝(ザフキエル)

 

 狂三の言葉により出現する、ローマ数字が刻まれた時計盤。ラビットハウスの天井にも届かんとするそれは、大きくその存在感を放つ。

 時計盤の数字、そのどれかから赤黒いエネルギーが狂三の銃に注がれようとする、

 そのとき。

 赤い魔法陣が出現した。

 どう見てもウィザードの魔法陣のそれ。

 狂三の傍に出現したその中心からは、黒い手が出現する。

 

「あれは……!」

「ハルトさん!」

 

 中指に指輪を嵌め込んだ手。明らかにウィザードのものである手。

 そしてその手は、きっとコネクトの魔法でここに繋がったのだろう。

 ウィザードの手は、真っ直ぐ狂三が持つウィザーソードガンを掴み、彼女の手から取り上げ、魔法陣の奥へ引き込んでいった。

 

「ま、待って! ハルトさん!」

 

 叫んでももう遅い。

 ウィザーソードガンを奪っていった魔法陣は、そのまま消失。その空間には、もう何も残っていなかった。

 

「コネクト……それに、ウィザードの手っていうことは、今はハルトさん、戦っているんだ!」

「そうなりますわね」

 

 冷淡に頷く狂三。

 カードデッキを外し、龍騎の変身を解除した真司も、青ざめた表情で可奈美を見下ろした。

 

「なあ、ハルトは今どこにいるんだ? そもそもアイツ、今日シフトじゃないのか?」

「探さなきゃ!」

 

 店を飛び出した可奈美。だが、その前に、影を伝って回り込んだ狂三が割り込む。

 

「まあまあお待ちになって、可奈美さん。どこを探すおつもりですか?」

「どこって……とにかく、片っ端から!」

 

 可奈美は狂三を押しのけようとする。だが、狂三は可奈美の腕を掴み、そのまま地面に押し付けた。

 

「うわっ!」

「お待ちになってと言っているじゃないですか。刀も持たないあなたに、一体何ができますの?」

「……!」

「可奈美ちゃん!」

 

 真司も遅れて駆け寄る。

 だが、それ以上の接近を狂三は許さない。手にした長い銃を、生身の真司に突き付ける。

 

「……っ!」

「動かないでくださいまし、ライダー」

 

 言われた通り、真司は体を硬直させた。

 

「あらあらあら……さて、いかがいたしましょうか」

 

 その時。

 ハルトの使い魔___ガルーダが、狂三へ体当たりを続けてくる。

 突然の小さな乱入者にペースを乱された狂三は、そのまま可奈美から離れる。

 

「何なんですのこれは!?」

「ガルちゃん!」

 

 ガルーダは可奈美の姿を認めると、すぐに可奈美にすり寄って来た。

 

「どうしたの? もしかして、こんな時にファントム!?」

 

 可奈美の声に、ガルーダは首を振る。

 さらに、続けてクラーケンもガルーダに追随する。可奈美と真司の前でガルーダと並び、狂三に対峙している。

 

「ガルちゃんに、クラちゃん……!」

「あら……あらあら、きひひっ!」

 

 狂三は二体のプラモンスターを見て笑い出す。

 

「そういえば、その二匹もいましたわね、ウィザードが攫われた時に」

「!?」

「攫われたって……ハルトがか!?」

 

 その事実に、真司が目を白黒させている。

 彼はそのまま、ガルーダとクラーケンに詰め寄った。

 

「なあ! それじゃ、ハルトがどこにいるのか知っているのか!?」

 

 頷いたガルーダとクラーケン。だが、それぞれが道案内しようとした途端、その体を構成するプラスチックが消滅した。

 

「え!?」

 

 目を大きく見開き、可奈美は慌てて手を伸ばす。可奈美の手のひらに落ちてきたのは、二体の指輪だけだった。

 

「そんな……ここで魔力切れだなんて……」

 

 二つの指輪を見下ろしながら、可奈美は打ちひしがれた。

 すると、狂三がクラーケンの指輪を摘まみ上げる。

 

「狂三ちゃん!」

「おい、返せ!」

 

 真司がタックルで指輪を取り返そうとするものの、体を回転させて真司を避けた狂三。

 彼女はそのまま、銃をクラーケンの指輪に直接押し当てた。

 

「ダメ!」

《darkorange》「刻々帝(ザフキエル) 一〇の弾(ユッド)

 

 可奈美が止めるのも間に合わず、狂三の引き金が引かれる。

 だが、指輪にはいかなる衝撃もない。

 唖然としている可奈美と真司へ、狂三は高笑いをし出した。

 

「ご安心ください。ユッドは対象が持つ記憶を伝える弾。それそのものにはダメージはありませんわ」

「記憶……」

「ええ。この子たちは、ウィザードがどこにいるか知っているのでしょう? なら、わたくしが読み取って差し上げますわ」

 

 狂三はそう言いながら、指輪を自らの右手に___丁度、ハルトがしているのと同じように中指に付ける。

 

「……まあ、わたくし以外がこれの記憶を見るのも、酷でしょうし」

「狂三ちゃん?」

「きひひっ!」

 

 大きく目を見開いた狂三。その時計盤の形をしている金色の左目が、強く印象に残る。

 

「なるほど……見滝原山のふもとにある川原___以前、ムー大陸関係の遺跡があった場所の近くにある廃教会のようですわね」

「ムーの遺跡!? それだったら……!」

「響ちゃんとコウスケさんが場所を知ってるはず!」

 

 可奈美と真司は頷き合う。

 可奈美は二階に駆け込み、一分も立たないうちに美濃関学院の制服に着替え、千鳥を携えて戻って来た。

 

「助けに行くんですの?」

「当たり前だよ! 場所を教えてくれてありがとう、狂三ちゃん!」

「助かったぜ! あ、あと、アンタももう参加者同士の戦いはやめろよな! 可奈美ちゃん、乗って!」

 

 真司が一言だけ釘を刺しながら、スクーターに跨る。そのまま、真司がアクセルを入れると、可奈美は、真司とともに見滝原公園にいるコウスケ、響のランサー組のところまで急いだ。

 

 

 

 誰もいなくなった店内で。

 狂三は、静かにラビットハウスへ背を向けた。

 

「せめて、後悔のないことを祈りますわ」

 

 そう言いながら、去り際に玄関の標識を「Close」に切り替えたのだった。

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