Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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かなり遅れてしまって申し訳ありません……
リアルが忙しくなってきてしまった……


結梨

 ハルトの大学での手伝いは、翌日より早速始まった。

 朝起きて、まずはラビットハウスの当番や手伝いをこなす。その後、午前中はシフトとして業務に入り、夕方ごろにラビットハウスから見滝原大学へ移動。

 コウスケと合流し、その足で教授が待つ地下の研究室で、彼の手伝いを夜まで行う。

 そんな生活が、一週間続く。

 

「つ、疲れた……」

 

 大学のベンチで、ハルトはぐったりと座り込む。

 

「おう。マジでお疲れ」

 

 隣に腰かけたコウスケが、ハルトの肩をポンポンと叩いた。

 

「この一週間、お前マジで毎日大学来てたな」

「土日も関係ないとかどうなってるの教授職……?」

「大学はお前が知ってる学校とは違えからな。教授によっては、研究のために何泊でもする可能性だってあるわな」

 

 ハルトは「うへえ」と息を漏らし、天を仰ぐ。

 すでに太陽は沈んで久しい。これからハルトが眠りにつくまでの間にすることと言えば、夕食と入浴と歯磨きくらいだろう。

 

「大学って、小中高の延長線上だと思ってたけど、全然違うじゃん……」

「ああ、それオレも最初思ったぜ。授業___講義っつうんだけど、それも自分で選ぶんだ。同級生と受けるの全然違うなんてザラだぜ」

「そうなんだ……」

 

 ハルトは空返事をしながら、しばらく口を閉じる。

 

「あ! お兄ちゃんたちいた!」

 

 すると、大学のキャンパス内を明るい声が飛んできた。

 見ると、結梨がこちらへ駆け寄ってきていた。

 

「結梨ちゃん?」

「それにえりかも来たな」

 

 コウスケの言う通り、結梨の後ろにはえりかもゆっくりと歩いてきていた。

 

「松菜さんに多田さん。先ほどぶりです」

「どうしたの?」

「教授が、どうやら今日のリモートミーティングが長引くそうなので、私たちで別に晩御飯を食べることになったんです。ご一緒にいかがですか?」

「ああ! いいぜ。ハルトもどうだ?」

「そうだね。いいよ。その前に、可奈美ちゃんにも連絡しておかないと……」

 

 今日の夕食の当番を思い返し、ハルトは可奈美へ夕食を外食で済ます旨を伝えた。数分置いて、可奈美からの了承を受け取り、疲れた体に勢いをつけて立ち上がった。

 

「よし。俺も大丈夫。結梨ちゃんはどういうのが好きなの?」

「何でも好き!」

 

 元気に答えた結梨。

 ハルトとコウスケは互いに見合わせ、苦笑する。

 

「よし。それじゃあ、ちょっと外に行こうか。お父さんからはちゃんとオッケーもらった?」

「あ、それは蒼井が確認しています。料金も全員分蒼井が預かっているので、どこでも費用は気にしないでいいですよ」

「本当!?」

「そいつはありがてえ!」

 

 ハルトとコウスケは同時に目を輝かせた。

 

「それじゃあどこにするよ? この辺りには普通に旨い店も多い……ぜ?」

「どしたの?」

 

 そこまで言いかけたコウスケが、ハルトの顔を見て申し訳なさそうに顔をそむけた。

 

「悪い。お前への配慮が足りなかった……」

「……気にしないでよ。俺自身は今までずっとこうだったんだからさ。むしろ、変に気を使われる方が嫌だよ」

「ああ……」

 

 コウスケが身を固めながら頷いた。

 まあ、仕方ないよな、とはハルト自身も思う。

 ファントムであるこの肉体。味覚がなく、誰かが幸せだと感じる気持ちを共感することができない。一緒に食べた「美味しい」という感覚をハルトが知ることは、これまでも、そしてこれからも永劫ない。

 だが、ハルトはそんなことは気にせずに、結梨の前に屈んだ。

 

「それじゃあ、俺たちがいるお店に来る?」

「お店?」

 

 結梨が首を傾げた。

 

「そうそう。俺の友達も一杯いるから、結梨ちゃんも楽しいと思うよ」

「ラビットハウスか……確かに困ったときはあそこがいいかもな」

 

 コウスケが同意した。

 

「木組みの街だったら、電車で三十分もかからねえよな」

「そうだね。えりかちゃんもこの前来てくれてたし」

「はい。行きましょう!」

 

 えりかの同意も得られて、ハルトは改めて、これから四人で向かう旨を可奈美へ送信したのだった。

 

 

 

「結梨ちゃんいらっしゃい!」

 

 ラビットハウスの扉を開けた途端、ココアの明るい声が真っ先に出迎えた。

 明るい表情のまま、彼女はえりかと手を繋いでいる結梨のもとへ抱き着いてきた。

 

「初めまして! 私、保登心愛(ココア)! お姉ちゃんって呼んでね!」

「結梨です。お願いします、お姉ちゃん」

「わ、わわわ……!」

 

 素直な反応に、ココアの体が震えている。その腕が何度か空を泳ぎ、ハルトの袖を掴んだ。

 

「ハルトさんハルトさん、何この子……? すっごい可愛い……!」

「前話した、大学教授の娘さん。さっき自分で名前覚えてたじゃん」

「そうだけど……すっごく可愛い!」

 

 語彙力を失ったココアが、両手を広げて結梨へ飛び掛かる。

 だが、その身代わりとなったのは、結梨をその身に引き寄せたえりかだった。

 

「きゃああっ!」

「お? えりかちゃん! えりかちゃんモフモフ……」

「ほ、保登さん……!」

 

 標的が入れ替わったことに一瞬だけ驚いたココアだが、そのままえりかへ頬ずりを始めた。えりかは困った表情を見せながら、決して突き飛ばすことはしない。

 放っておいてもいいかと判断したハルトは、次にやってきた可奈美へ向き合う。

 

「お待たせ可奈美ちゃん。四人席なんだけど、空いてるかな?」

「ううん。ごめんねハルトさん。今日いつもよりも繁盛してて、空いてないんだよね」

 

 確かにと、ハルトはラビットハウス店内を見渡す。

 

「思っていたよりも人数多いな」

 

 夕食時だということもあり、家族連れやカップルが複数組いる。それぞれ笑顔溢れる食卓を囲み、ハルトにとっては眩しく、また居心地が悪く感じてしまう。

 そんな家族連れが多い中、ハルトにとって見覚えのある客の姿もある。

 

「おっ! ハルトにコウスケ! それにえりかちゃん!」

「こっちこっちッ!」

「一緒に食べよ!」

 

 真司、響、友奈の三人。

 テーブル席で、真司のみが向かい席に座っていたが、ハルトたちの姿を見て、友奈の隣に移動する。それに伴い、響と友奈が壁へ詰めた。

 

「……俺たちあそこの座席だね」

「だな。響の奴、ここでメシのつもりだったのか」

「あ、でも四人座れるかな?」

 

 可奈美が首を傾げた。

 コウスケが先に真司たちの向かい席に着き、壁際まで詰める。

 続いて、えりかが腰を掛けた。

 

「結梨ちゃん、こっち」

「うん!」

 

 えりかが膝の上を叩くと、その上に結梨がこちょんと乗った。

 

「「おおーっ!」」

 

 響と友奈が、同時に興味ありげに結梨を見つめる。

 

「か……」

「可愛いが過ぎる……ッ!」

 

 友奈、響がそれぞれ評する。

 結果的に一番通路側が開いたので、座席問題が解決したところで、ハルトは可奈美へ尋ねた。

 

「手伝おうか? 少なくとも結梨ちゃんが注文するのは俺が作るよ?」

「平気平気! 私に、ココアちゃんに、チノちゃん、あとチノちゃんのお父さん(タカヒロさん)も厨房にいるから」

 

 可奈美はそう言って、えりかの膝上の結梨へ話しかけた。

 

「私、衛藤可奈美! よろしくね!」

「初めまして。結梨です」

 

 結梨はペコリとお辞儀をする。礼儀正しい彼女へ、可奈美はにっこりとほほ笑む。

 

「うん! うん! 後でゆっくりお話ししようね!」

 

 可奈美はそう言って、厨房へ戻っていく。

 彼女を見送り、ハルトは落ち着いて通路側の席に腰を下ろした。

 同時に、真司が手を上げた。

 

「よっ! お疲れ。今日、例のバイトだったんだってな?」

 

 例のバイト。

 間違いなく、見滝原大学にて教授の手伝いとして駆り出されていることだろう。

 

「そうだよ。書類整理とか雑用とか色々大変だったよ」

「でもよかったじゃん。結構協力的なマスターだったんだろ?」

 

 真司がえりかを見ながら言った。

 響、友奈と談笑を繰り返す彼女は、とても敵意があるとは思えない。時折彼女は膝元の結梨の頭を撫で、その都度結梨はえりかへ体を寄せている。

 一方、隣のテーブルを片付けているチノは、じっと結梨に夢中になっている響をジト目で見つめていた。

 

「響さん……ちょっとは私のことを見てくれてもいいのに……」

「ん? チノちゃん何か言った?」

「何でもありません……」

 

 チノはぷいと向き、自らの業務に集中する。ハルトの目算が間違っていなければ、彼女はテーブルの同じところを何度もぐりぐりと磨いている。

 

「ウサギさん……?」

 

 結梨がふと呟いた。

 響と友奈の目線に気付かず、結梨の目線はチノの頭に静止している毛玉に向けられていた。

 それは、ラビットハウスの看板ウサギ、ティッピー。

 結梨の目線に気付き、少し怯えるように身の毛を逆立たせている。

 

「おっ! お目が高いねえ!」

 

 だが哀れ毛玉は、いつの間にかやって来たココアに捕まり、さっと結梨の前に差し出された。

 

「はい! 結梨ちゃん! もふもふしていいよ! 終わったら、私のことをお姉ちゃんって呼んでね!」

「ココアさん、仕事して下さい」

 

 チノはジト目でココアを見つめながら、テーブル掃除を終える。そのままティッピーを回収することなく、皿を片付けて厨房へ戻っていった。

 実質飼い主から許可をもらえたようなもので、結梨は両手でティッピーをわしわしと掴んでいく。彼女の手がティッピーの頭を変形させる度に、ティッピーからは「ふおおおおおっ!」と喘ぎ声のようなものが聞こえてくる。

 

「チノちゃんの腹話術、遠隔からでもできるの凄いな」

「え? これ、どう見てもこのウサギから聞こえるように思えるのですが!?」

 

 えりかのあり得ないツッコミをスルーしていると、真司がハルトに尋ねて来た。

 

「ハルト、もしかして……この子がマスターなのか?」

「ううん、この子のお父さんがマスターだよ。大学の教授」

「大学の教授で……子持ち……」

 

 真司はゆっくりと頷きながら額に手を当てる。

 

「真司? どうしたの?」

「いや、昔その特徴に当てはまる知り合いがいてさ、ちょっと大変だったことを思い出した」

「……? コウスケも言ってたけど、大学教授って偏屈な人ばっかりなんでしょ? よくあることだよきっと」

「可愛い! ねえねえハルトさん! この子本当に可愛い! このままラビットハウスの妹にしようよ!」

「チノちゃんはええんかい」

 

 思わずツッコミを入れたハルト。

 またその頃合に、丁度可奈美がお盆を手にハルトたちの席にやってきた。

 

「ココアちゃん、それはちょっとサイコパスじゃない?」

 

 可奈美は苦笑しながら、お冷を四つ、ハルトたちの前に置いた。

 

「チノちゃんが、ココアちゃんを呼んでるよ。早く厨房に来て欲しいって」

「はーい」

 

 ココアは名残惜しそうに結梨から離れていく。

 彼女を見送り、可奈美は盆から料理を手に取った。

 

「まあ、気持ちは分かるけどね。はい、響ちゃんにはウサギさんごはんセット大盛り」

「待ってましたッ!」

 

 可奈美は手にしたお盆に乗せた料理を、最奥の響から置いていく。

 

「友奈ちゃんはウサギさんうどんだよね」

「うどん! やっぱりこれだよね!」

「で、真司さんはウサギステーキだよね」

「おおっ! これこれ! ……ウサギさんステーキってメニューだけどホントにウサギなのかこれ?」

「違うけど、細かいことは企業秘密だよ」

 

 可奈美は悪戯ぽく微笑み、えりかと結梨の前にコップを置いた。

 

「はい、えりかちゃんと結梨ちゃんには私からサービスだよ。紅茶どうぞ」

「あ、はい。ありがとうございます。衛藤さん」

「ありがとう!」

 

 結梨は両手でコップを手にし、「フーフー」と息を吐きかける。ゆっくりと口にし、「温かい……」と安心したように言った。

 

「すみません! 注文お願いします!」

「はいただいま! それじゃ皆、また後で!」

 

 可奈美はまた忙しなく、他の座席へ注文を取りに行く。

 入れ替わりでやって来たチノが、盆に乗せて今度はハルトたちの料理を持ってきた。

 ガッツリとしたかつ丼を注文したコウスケ、カレーを頼んだえりかと結梨。一方ハルトに置かれたのは、簡単な豚汁だった。

 

「ハルトさん、それだけでいいんですか?」

「ああ。平気だよ。あんまりお腹空いてないから」

 

 ハルトはそう答えて、豚汁を啜る。

 やはり、味は感じない。それに伴い、美味しいという感覚を分け合う皆が、少し遠くに感じてしまう。

 

「お兄ちゃん?」

 

 突如、隣の結梨が丸い目でこちらを見上げてきた。

 

「どうしたの?」

「どうしたのって、何が?」

 

 手慣れた平静を装う顔。

 十年以上、怪物であることを隠して人間として生きてきたハルトにとって、これで誤魔化しが利かなかったものなど、そうそういない。

 だが。

 

「お兄ちゃん、ちょっとだけ寂しそうだから」

 

 その時。

 ハルト、真司、コウスケ、響、友奈。

 ハルトの正体を知る者たち(ファントム・ドラゴン)の間に、沈黙が走った。

 それは、ココアが再び結梨を妹にしようとしにくるまで続いた。

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