Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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ウサ耳

「もうすっかり話題も持ち切りだね」

 

 ラビットハウス。

 見滝原の西側、木組みの街と呼ばれる地区にある小さな喫茶店で、衛藤可奈美(えとうかなみ)は天井に設置されているテレビを見上げていた。

 

『見滝原に巨人出現か?』

 

 目撃者が録画した映像が、何度も繰り返し映し出されている。

 学校の理科室でも見る人体模型が、小さな町を破壊する光景が繰り広げられていた。

 建物が軽い素材だったかのように宙を舞い、また同じく簡単に落ちていく。映画のワンシーンとしてならばよく出来たものだと褒めたいところだが、現実の光景だと考えればそれはぞっとするものでしかない。

 あの巨人___俗に超大型巨人と名付けられたそれは、現れた周囲を破壊したあと、煙となって消えていった。

 あれが超大型巨人なら、超大型ではない巨人はいるのだろうかという疑問も生じてしまうが、それは可奈美以外誰も気に留めていないようだ。

 破壊した建物の多くが、見滝原でも有数の巨大企業ということもあって、それまでの株価も大きく変化している。ニュースが、そんなこの一連の流れによる市場変動の話題に切り替わったところで、可奈美は振り向いた。

 

「ハルトさん、体は大丈夫?」

 

 松菜ハルト。まさに、このニュースの巨人を止めるために一人果敢に挑んでいった彼は、その戦いに敗れ、重傷を負った。

 

「うん……何とか。あと少しで完治するんじゃないかな」

 

 ハルトはそう言って、包帯で巻いた右手を挙げる。

 人間だったら間違いなく死んでいたであろう傷だったが、帰って来た彼はたった一日寝ただけで、立ち上れるまでに回復している。もっともラビットハウスの業務さえも難しいため、今はカウンター席で座っているだけしかできない。

 

「すごい回復力だね」

「ファントムだからね。魔力で治癒能力を高められるんだ」

「へ、へえ……」

 

 反応(リアクション)し辛い。

 可奈美は顔を引きつらせながら、再びニュースを見上げる。

 

「おそらく、あの巨人も参加者だろう」

 

 そう言うのは、コーヒーを口にする客。

 その姿のどこを視界に入れたとしても、誰もが白いと印象を抱くだろう。

 もっとも特徴的なのは、頭から生えているウサギの耳だろう。所謂ウサミミだが、作り物ではなく、彼女の頭部組織から直接生えている。

 

「フロストノヴァさんは、あの巨人を知ってるの?」

 

 フロストノヴァ。

 先月、ハルトとコウスケから幾度となくその名を耳にしていたが、実際に顔を合わせるのは今日が初めてだ。

 可奈美の問いに、フロストノヴァは首を振る。

 

「腕だけを見かけた程度だ」

「腕だけ?」

 

 ハルトも首を傾げる。

 フロストノヴァは右手を挙げ、「こう……」と掌を見せつける。

 

「いつだったか。別の参加者を、こう張り倒すのを見かけただけだ」

 

 フロストノヴァは、その時のことを再現するように、掌で机を叩く。哀れ叩き付けられるティッシュは、彼女の低い体温により、氷のように固くなり、粉々に砕けた。

 

「手だけ?」

「ということは、部分的な変身もできるのか」

 

 ハルトは「こんな感じに」と比較的傷が少ない左手を胸元に上げる。

 彼の手は、人間のものとは異なる物質に変化していた。するどい鉤爪を持つ、灰色の人外。今この場に、可奈美とフロストノヴァ以外誰もいないからこそ、彼もこんな無茶ができるのだろう。

 

「ファントムか……」

 

 フロストノヴァは目を細める。

 

「改めて話を聞くと、おかしな生態だ。魔力を持つ人間が絶望し、変異するという怪物……」

「……うん。でも、俺が部分的な変身が出来るようになったのも、何年も経ってから。もしあの巨人も参加者だったら、相当な熟練者だよ」

 

 ハルトは険しい顔で、ニュースを見上げた。

 真昼間に現れた怪物ということで、超大型巨人のニュースは何度も繰り返されている。だが、この半年、見滝原は何度も巨大な怪物によって壊滅の危機を迎えてきた。その都度人々は恐怖していたが、流石に慣れたのだろうか。ラビットハウスの前を行き来する人々は平然と歩き回っていた。

 その時、ラビットハウスの呼び鈴が鳴る。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 可奈美は元気よく挨拶を飛ばした。

 

「邪魔するわよ」

 

 不機嫌そうな顔で店内に入って来たのは、長い金髪の女性だった。

 ロングコートで身を隠してはいるが、その内側に機械的なパーツが人体と融合しているのを確認できる。モデルのようにすらっとした体形なのに、頭についている突起物が、彼女を普通の人間ではないことを際立たせる。

 そして、目が覚めるような美しい顔立ちの彼女は、勝手知ったると言った様子でテーブル席に腰かけた。

 

「リゲルさん! 久しぶり!」

 

 リゲル。

 可奈美にとってもまあまあの付き合いになる彼女は、ぶっきらぼうに「ブラック一つ」と注文し、フロストノヴァから見て通路を挟んだ向かい側のテーブル席に着いた。

 

「はい。ちょっと待っててね」

 

 可奈美はいそいそとカウンターに入り、リゲルへブラックコーヒーを持っていく。

 

「どうぞ!」

 

 コーヒーを受け取ったリゲルは、にこりともせずにそれを口に運ぶ。

 やがて、通路を挟んだ向かい側のフロストノヴァを認め、目を細めた。

 

「……ゲートキーパーね」

「私を知っているのか?」

 

 首を動かし、目を細めるフロストノヴァ。

 リゲルは鼻を鳴らし、「ええ」と答えた。

 

「ゲートキーパーのサーヴァント、フロストノヴァ。マスターは見滝原大学の学生、加賀香子。基本的には加賀香子の付近に待機していることが多いけど……今回は一人にさせているのね」

「今彼女は大学だ。傍にビーストがいるなら問題ない。……お前は? その口ぶりからすると、参加者のようだが」

「話すと思う? 別の参加者に……」

「……」

 

 徐々に店内の気温が下がっていく。

 フロストノヴァが纏う冷気が、少しずつ白味を増していった。

 可奈美は慌てて二人の間に割り込み、「二人とも、大丈夫大丈夫!」と制した。

 

「フロストノヴァさんは、もう戦うつもりはないんだよね? それにリゲルさんだって、私達にいろいろ協力してくれるし、もう戦いを止める協力してくれてるも同然だよね!」

「私は願いを諦めてはいないのだけど……」

 

 リゲルは眉をひそめた。

 リゲルとフロストノヴァが険悪な雰囲気になるのも無理はない、と可奈美は内心頷いた。

 彼女たち___そして可奈美、ハルトが共通している事柄が、この戦いを延々と繰り返させているのだから。

 聖杯戦争。

 万能の願望器である聖杯を求め、マスターとなった参加者たちが異世界より英霊(サーヴァント)を召喚し、最後の一組になるまで争い合う。

 フロストノヴァは先日の敗北により聖杯を求めることを止め、リゲルはマスターの方針により逃げの戦術を取っている。両者とも基本的には戦うことはないだろうが、実際に対峙すれば話は別。

 幸いこの場には、それなりの力を持った戦いを止めたい者がいる。怪我をしているハルトには魔法使いと怪物(ファントム)の二つの力を持ち、可奈美は刀使(現代の災いを治める巫女)であ___

 

「……」

 

 可奈美は、右腕を掴む。

 ほんの数日前、全身を切り刻まれた痛みが蘇ってきた。

 刀使(とじ)と呼ばれる異能者として戦い、受けた痛み。幾ばくか日が明けても、未だに可奈美の体を蝕んでいる。そのせいで、今行いたい調査が延期を繰り返している。

 一方、リゲルはいつの間にか手に出現させた青い剣を消滅させ、ため息を付いた。

 

「……まあいいわ。ともかく、要件は……それよ」

 

 リゲルは天井に設置されているテレビを指差した。

 未だに超大型巨人がビルを破壊している映像が繰り返されており、見るだけで不安を煽ってくる。

 

「……! それは鈴音(れいん)ちゃんからってこと?」

 

 息を呑んだ可奈美は聞き返す。

 柏木鈴音(かしわぎれいん)。ガンナーのサーヴァントであるリゲルのマスターであり、とにかく逃げることをモットーとしている。

 

「そう。詳しいことはマスターが直接伝えたいらしいけど……それにしても、あなたも相当ひどくやられたわね……」

 

 リゲルはハルトの怪我を見つめる。

 

「あ、あはは……もしかしてリゲル、俺の怪我の容体分かったりするの?」

「ええ。肋骨三本折れてるし、内臓も損傷あり。……これ、人間だったら間違いなく死んでるわね」

「ああ、やっぱり」

 

 ハルトはどこか誤魔化すように笑顔を浮かべていると、リゲルが続ける。

 

「ある程度の情報を入手したそうだから、あなたたちに接触して確かめてほしいそうよ。あなたたちからしても、こんな危険な参加者、放っておかないでしょ?」

「うん……」

「そうだね。あの巨人……フロストノヴァの情報通りなら、変身前があるってことだけど、その変身前に接触できるなら___」

 

 ハルトが話している最中に、また呼び鈴が鳴った。

 可奈美が慌てて「いらっしゃいませ!」と応じると、「ただいまー!」と元気な声が返って来た。

 

「可奈美ちゃん! 私の可愛い妹よ!」

 

 何よりもまず、可奈美に抱き着く明るい顔付の少女。笑顔を見せるだけで太陽のように空間が照らされる彼女は、保登心愛(ほとここあ)。このラビットハウスでハルトたちよりも一足先に下宿している少女だ。

 彼女はすりすりと可奈美に頬ずりを行い、可奈美も抵抗することはなくなされるがままになっていた。

 

「帰りました」

 

 続いてラビットハウスに入って来たのは、ココアとは対照的に落ち着いた表情の少女。水色の髪色を肩まで伸ばし、常にジト目でココアを見守る彼女は、二人の客の姿を認め、お辞儀をした。

 ラビットハウスの看板娘、香風智乃(かふうちの)

 

「リゲルさん、また来ていただいたんですね。嬉しいです」

「え、ええ……」

 

 リゲルはぎこちない動きで返事をする。

 一方、好奇心に駆られたココアは、白い新規客へ目を輝かせて近づいて行く。

 

「あ、その人は……」

 

 ハルトが止める前に、ココアがフロストノヴァへ顔を近づけている。

 

「ねえ! お名前は何ていうの?」

「……」

 

 ココアの急接近に、冷めた顔つきのフロストノヴァが、茫然としていた。

 

「は?」

「お名前! 私、保登心愛! 気軽にお姉ちゃんって呼んでね!」

「何を……いや……姉?」

「そのウサ耳凄い似合うね! ウサギが好きなの?」

「ああ……」

「肌白くてきれいだね!」

「……あ、ああ……」

「私の妹にならない?」

「……あ……あ……」

 

 だんだんとフロストノヴァが気圧されていく。

 つい先日まで、彼女はハルトや、この場にいない仲間のコウスケと激戦を繰り広げてきていたと聞く。そんな彼女を、ココアはいとも簡単に丸め込んでいる。

 

「クス……」

 

 その様子に、ハルトは少し笑みを零した。

 彼から聞いていたフロストノヴァの話では、彼女は常に冷静に氷の力で牙を剥いてきたと聞く。そんな彼女が、あんな面白い表情をしているのだから吹き出すのも無理ないだろう。

 ハルトは一通り楽しんだ後、口を開いた。

 

「その人は、フロスト……」

「エレーナだ」

 

 突如、フロストノヴァの口から耳に覚えのない名前が告げられた。

 ハルトと可奈美は同時に「え」と声を上げたが、ココアには聞こえていないようだ。

 

「エレーナさん! よろしくね!」

 

 ココアは笑顔で手を差し出す。

 厚手の手袋をしたフロストノヴァは、その手を握り返した。

 すると、今度はチノが割り込んできた。

 

「すみません、エレーナさん……でいいんですよね。ココアさんがご迷惑を」

「ああ……気にするな」

 

 だが、チノはそうは言いながらも、じっとフロストノヴァのウサミミを見上げている。

 

「……」

「……」

「……」

「……どうした?」

「はっ! す、すみません」

 

 フロストノヴァのウサミミに呆然としていたようだ。

 チノはお辞儀をしながら、フロストノヴァのウサミミを何度も盗み見ている。

 やがてそれはフロストノヴァにも伝わったのか、「これか?」と自らの頭を指差した。

 

「これが気になるのか?」

「は、はい。あの、これ……作りものですよね? 本物みたいに似合っててビックリです……」

「……作りものだ」

 

 本物だろうな、と可奈美は確信した。心なしか、フロストノヴァのウサミミが微かに震えていた。

 おそらくフロストノヴァの方は、このようなことを聞かれた際の対策は予め用意していたのだろう。スラスラと、お決まりであろう文言を告げた。

 

「悪いがこれは私にとってこの上なく大事なものなのでな。外したり触られたりするのは遠慮してくれ」

「は、はい」

「でも本当に似合うね、ウサミミ!」

 

 ココアはチノの頭に顎を乗せながら笑顔で言った。

 

「まさにラビットハウスの名前に相応しいよ!」

「そうですね。あの、エレーナさん……よかったら、このお店で働いてみませんか? 何だったら、ココアさんを差し出しますので」

『即採用じゃ』

「私またリストラ!?」

 

 チノの胸元に飛び込んでいったウサギから発声し、ココアが悲鳴を上げる。

 そんな彼女たちを眺めながら、可奈美は笑顔になった。

 

「ココアちゃん、楽しそう」

 

 可奈美がほほ笑んでいると、コーヒーカップを持ったリゲルがカウンター席へ移動して来た。

 

「さっきの話の続き、いいかしら?」

「あ、うん。巨人のマスターだよね。小さい声でお願い」

「……奴の正体も分かってる。ジャイアントのサーヴァントよ」

 

 リゲルは確かに声を細めた。

 だが、彼女が口にしたクラス名は、可奈美の耳にも確かに届いた。

 

「ジャイアント……文字通り、巨人のサーヴァントか……」

「そのまんまだね」

「聖杯戦争って登場人物は英霊って話じゃなかった? なんで毎回大怪獣ばっかり出てくるんだよ……」

「でも戦いの最初から巨大な相手になるのは初めてだよね。話が通じる相手だといいけど……」

「あれだけ建物を滅茶苦茶にした奴に、話が通じるかな?」

 

 ハルトはテレビを見上げた。

 そこでは超大型巨人が蒸気とともに消滅した話題に切り替わっており、コメンテーターがあのような大きな質量が瞬時に消失することはあり得ないと述べている。

 

「そもそも、俺を倒した後、何で消えたんだ? 俺の使い魔みたいに一時的な出現だったのかな」

「あんなに大きいのに、そんな一瞬で消えたり出たりできるの?」

「あのコメンテーターの言う通り、物理的に不可能な話よ。まさに雲を掴むような話だけど、マスターが別アプローチで巨人のマスターを割り出したのよ」

「……また、戦うことにはなるよね」

「当然でしょ。倒すにしろ、止めるにしろ」

 

 リゲルが返答すると、ハルトがじっと可奈美を見つめた。彼の視線を追うと、それは可奈美の腕に注がれていた。

 彼なりのマスターの手がかりがあるということだろう。そして、それはおそらく……

 可奈美はハルトが凝視する腕をさすった。

 あの日、見滝原公園で切り刻まれた全身が疼く。




コウスケ「ああ。ああ。……了解」
祐太「コウスケ、次の講義行こうぜ」
コウスケ「だな」
祐太「誰と電話してたんだ?」
コウスケ「ハルトだ。まあ、あっちの話だ」
祐太「ああ……その……俺に協力できることがあったら、何でも言ってくれな」
コウスケ「そうだな。加賀からもフロノヴァに手伝ってもらっていいって許可貰ってるし、お前にもその内なんか頼むかもしれねえ」
祐太「部外者の俺がこんなことを言うのも変かもしれないけどさ、あんま無理すんなよ」
コウスケ「オレは無理したかねえよ。無理させないでいてくれねえんだよ」
祐太「俺もお前の苦労の一因になったことがあるから偉そうなこと言えないなあ」
コウスケ「全くだぜ。何でもっと早く言ってくれなかったんだよ」
祐太「だから悪かったって」
コウスケ「それより、そろそろ今回のアニメ紹介行くか」
祐太「俺は初だな」



___生きてる ただその実感が欲しかった 転んだあとのこの痛みすら愛おしい___



コウスケ「デカダンス!」
祐太「芸術の退廃的な……」
コウスケ「違えよ! 2020年7-9月放送のアニメだよ!」
祐太「文明が荒廃した世界、所謂ポストアポカリプスの世界観で、デカダンスって巨大な移動要塞で機械工として働く少女、ナツメが元歴戦の戦士だったカブラギに教えを乞うって話だな」
コウスケ「は?」
祐太「んだよ」
コウスケ「お前別のカンペ見てねえか?」
祐太「ちゃんともらった台本読んでるけど?」
コウスケ「え?」
祐太「え?」
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