Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
・市役所組
ハルト 市長室突入、ウォッチャー戦
コウスケ ベルトルト→巨人戦
・見滝原テック組
真司 ミラーワールドにて戦闘不能
リゲル 会議室に潜入中、巨人出現→巨人戦
その他→巨人戦、可奈美は戦闘不能
巨人戦は前回終わっていますが、その一方で……
「可奈美ちゃん……!?」
リゲルと合体した姿だったが間違いない。
今、外で可奈美が落下していった。普通に超大型巨人にやられての落下ならば心配は無用だが、彼女がこの部屋を見た途端、無抵抗に落ちていったようにも見える。
ウィザードは無意識に、ずっとこちらに背を向けているキング・ブラッドレイに目を向ける。彼の姿を目撃してしまい、戦意を喪失してしまったのではないか。
彼女を助けに向かいたいが、キングが、そして向かい合っているウォッチャーがそれを許すとは思えない。
合体しているリゲルや、ほかのみんなが彼女を助け出したことを祈りながら、ウィザードは向かい合う二人の動向を伺う。
キングはまるで石像のように微動だにしない。彼の片目は、果たして何を見つめているのだろうか。今目の前にいた可奈美か、それともすぐ近くで市所と同じ身長を持つ巨人か、それと戦うビーストたちか。
「ふうん……見滝原テックなんだね」
一方のウォッチャーも、もうウィザードを見ていない。
彼女は両手を腰に回したまま、すたすたとキングの隣に歩み寄っている。
「あそこの会社、結構近いから早々始末しないと思っていたけど」
「ずいぶんと関心を持つじゃないか。珍しいな」
「たまにはね」
「見滝原テックって……!」
ウィザードは戦闘中ということも忘れて、彼らから少し下がったところから外の様子を伺う。
超大型巨人が、目下で仲間たちと戦っている。なぜか一緒にこの見滝原市役所に潜入したはずのビーストの姿もあるが、見滝原テックにいるはずの真司の姿がないことに、ウィザードは寒気が走った。
「真司、無事なのか……!?」
今のところ、ウィザードの右腕に刻まれた令呪に変化はない。少なくとも、彼の無事は保証されているということだ。
だが今、見滝原テックの建物には、数フロアをまとめた巨大な穴が開いている。あの場所にいた社員は、どれだけ生存率があるだろうか。
「何を驚いているのかね? 松菜ハルト君」
キングが、ゆっくりとウィザードを振り向いた。
「君は、彼について知りたくて来たのだろう? ならば、巨人と相対することも考慮に入れて然るべきではないのかね?」
「……ウォッチャーが現れた時点で、あの巨人が出てくるとは思わなかったよ」
「ふむ。だが君は、私があの巨人のマスターだと断じて来たのだろう? なぜ人間は、正解だと考えたものに対しても懐疑的になる」
「……どういう意味だ?」
「君だけが特別ではない、ということだ」
キングはゆっくりと右の手袋を外す。
すると、当然彼の手の甲には令呪が刻まれている。あの紋章の意味は分からないが、きっとウォッチャーに関連するものなのだろう。
「君は、サーヴァントを二機所有しているね。ライダーとシールダー……蒼井えりか」
キングはそのまま、左手の手袋を外した。
右手と同じく、ごつごつとした左手が現れる。
そしてそこには。
「二つ目の令呪……!」
「サーヴァントを二人従えているのは君だけではない」
そして、巨人はこちらを……市長室内を覗き込んだ。
巨人とウォッチャー。二人のサーヴァントが、ウィザードをじっと睨みつけている。
「……!」
「さて。彼には外の羽虫を任せるとして。君の相手は引き続きウォッチャーに任せるとしよう」
その言葉とともに、ウォッチャーがぐるりとこちらを振り向いた。
その特徴的なグルグルと無数の瞳があるような目は、ウィザードを見ているようで決して見ていない。
いつの間にか彼女の手には、キングより手渡された剣が握られており(さっき一本破壊したのに、何本予備を持っているんだろうか)人間離れした速度で切り付けてきた。
「ぐっ……!」
速度が人間業でなければ、その威力も当然それに匹敵する。
ウィザーソードガンの防御を潜り抜けて、彼女の細く鋭い斬撃は、ウィザードの肩口をばっさりと切り裂く。
痛みなど感じている暇はない。
即座にウィザードは、両手の掌底を押し付けた。手放したウィザーソードガンが音を鳴らすのと同時に、両手から炎が噴き出した。
「はああああああッ!」
噴火のような炎は、彼女の人体を紙のようにふき飛ばす。
ゴロゴロと転がり、そのまま市長室の壁に激突。土煙が立ち込め、キングの姿も一瞬見えなくなった。
「やりすぎたか?」
彼女がどれだけ人の道を外れた力を得ているか分からないが、咄嗟とはいえ、今の炎は生身の人間ならば死に至るほどの威力だったかもしれない。
だが。
「君のその気遣いは慢心というものだよ」
キングが吐き捨てた。
「ただの人間にならば、君が遅れをとることは決してないと? 同じことを考えていた衛藤君があの様だ」
「お前たちは……あの巨人以外は、生身の人間だっていうのか?」
「ふん」
だが、キングはそれには答えない。
そして、その答えはもうウィザードの前に現れていた。
「熱いね。本当に」
粉塵の中から現れた、まったく無傷のウォッチャー。
ウィザードの炎は確かに、彼女の全身を焼き焦がした。だが実際は、彼女の正装を少し焦がしただけに過ぎない。
「驚いている? その顔じゃ表情はわからないけど、きっとびっくりしてるよね」
「……まあ、あれぐらいで倒れてくれるとは思ってなかったけどさ」
「だったら本気で来たほうがいいよ? 出ないと、君死にますから」
彼女は手の指を銃の形にする。
ドラゴンの翼を穿った銃弾だ。
ウィザードは大きく回避し、ウォッチャーの銃弾を回避する。
だが。
「バン。バン」
一切焦る様子もない。あたかも楽しんでいるかのように、ウォッチャーの銃が付近の壁を穿つ。
だが。
「はい、残念」
ウォッチャーはくいっと指を揺らす。
すると、市役所のフロアがまるでゴム製だったかのように揺れる。さらに、ウォッチャーはその手をウィザードの首に向けて伸ばした。
すると、ウィザードの動きが完全に静止する。ウォッチャーの手はそのまま見えない握力となり、ウィザードの首を絞めていたのだ。
「ぐっ……!」
「うん。本気で戦えば、君はたぶん強いね」
「ぐ、あっ……!」
ウィザードの体は、生身の肉体から強固な装甲に変形されている。
ウォッチャーは表情をまったく変えないまま続ける。
「私の能力を受けない。さすが、さっきの怪物の姿が正体だけはあるね」
彼女はそれ以上ウィザードとの対話をするつもりはない。
不可視の右手でウィザードの首を掴んだまま、左手であの銃を形作る。
至近距離であの威力はまずい。
『ディフェンド プリーズ』
「バン」
生成された炎の防壁が、ウォッチャーの銃弾により大きくその形を崩す。
だが。
「バン バン」
また、ウォッチャーの銃はノーリスクで連射される。
ただでさえ形を崩していた炎の防壁は、早い段階ですぐに消滅してしまった。彼女の銃弾は、ウィザードの体に中心から命中。その体を大きく曲げた。
「あ……がっ……!」
そのダメージは、ウィザードを変身解除させるには十分の威力だ。
ウォッチャーの拘束より放たれたハルトは、その場で膝から崩れ落ちた。
そのとき、ハルトのポケットから指輪がころころと転がり、ウォッチャーの足元まで渡っていった。
「……!」
その指輪を見た途端、ハルトは目を見開いた。
あの指輪は。
「これは戦利品としてもらっておくね」
ウォッチャーは、ほとんど無表情のままそれを拾い上げた。
シンプルな淡い赤の指輪。他の指輪と違い、複雑な紋様は何も記されてはおらず、ハルト自身、それから魔力を感じることもない。
だがそれを、ハルトは手を伸ばして強く求めた。
「返せ……!」
「これはどうやら大事なものみたいだけど……ごめんね」
ウォッチャーはそれを挑発的に右手中指に通す。
「似合うかな?」
ウォッチャーは挑発的に笑みを浮かべた。見せつけるように指輪を突き出した彼女の目は、一切笑っていない。
その指輪は。
かつて、ホムンクルスの少女へプレゼントし、今は彼女の遺品としてハルトが肌身離さずに持っているものだ。
その途端、ハルトの目が赤くなる。
ファントムの力を全身に漲らせながら、ウォッチャーへ襲い掛かる。
だがウォッチャーは、まっすぐハルトを見据えることはない。
人並外れた動きのハルトの手をかいくぐり、蹴りでハルトの腹を抉る。
「がっ……!」
痛みに唾を吐いたハルトは、その場で動きを止める。
そのまま回転蹴りをはなった彼女の足により、ハルトの体はバウンドし、壁際に置かれていた絵画を押しつぶした。
「そんなに大切なものなんだ。ふうん。まあ、綺麗だものね」
指輪を眺めている彼女の目には、何の感情も読めない。ハルトは怒りの形相で睨むが、彼女は全く意に介さなかった。
だが、そんなウォッチャーにキングが釘を刺す。
「あまり挑発するな。聖杯戦争を生き抜いてきた男だ。面構えが違う。油断はできん」
「そうだね……」
ハルトへのウォッチャーの視線が、すっと寒くなった。
彼女は何か、儀式でもするかのように、ハルトへ両手を向ける。
「このまま君を倒そうと思えば倒せるけど……それよりも、こっちの方がいいかな?」
両手で三角形を作り上げ、彼女はその中にハルトの姿を入れた。
そして、唐突に三角形を崩して手を組む。
「はい。おしまい」
「な、何をしたんだ?」
「ふふ」
ウォッチャーは何も答えない。ただ、薄ら笑いを浮かべたまま告げた。
「今、この街の人間は全員、君の敵になった」
「な……に?」
言葉の意味が分からない。ただ、彼女のその言葉は、頭に血が上ったハルトを平静に戻す役割を果たしてくれた。
だが、その真意を問いただす前に、市長室の外側が騒がしくなっていった。
扉を蹴破る音とともに、無数の警備員が市長室になだれ込んできたのだ。
きっと、この戦闘の間にキングが呼び寄せたのだろう。
彼らは市長室に入るや否や、即ハルトへ銃口を向けていた。
「……!」
果たしてこの国で、一般の人間が銃口を向けてノータイムで発砲するのだろうか。
警備員たちは即、引き金を引いた。無数の銃弾がハルトの体を狙うが、ハルトは全身から放つ熱気で鉄の玉を弾き飛ばした。
「くっ……」
どう見ても、市長とその親しい人と相対している素性の知れない者。今のハルトは、確かに不審者極まりないだろうが。
「そんな有無を言わさずに発砲するか普通?」
ハルトはそのまま、銃弾の雨をよけながら市長室を横断する。市長とウォッチャーに流れ弾が当たる可能性があるのに、彼らは目を血走らせながらハルトを狙っていた。
「ふむ。ハルト君。君ならばこの状況、簡単に突破できるだろう」
キングはこちらを直接見ない。窓ガラスの反射だけで、状況を確認している。
「生身の人間へ、その能力を行使すれば」
「出来るわけないでしょうが……」
ハルトはキングと、ウォッチャーに奪われた指輪、そして警備員たちを見渡す。
今は、何よりも結梨の指輪を取り戻したい。だが、あれだけの警備員の銃弾をかいくぐることなど不可能だ。
「……仕方ないっ!」
ハルトは唇を噛み、指輪を発動させた。
『グラビティ プリーズ』
重力の魔法が、警備員たちの頭上から落下した。
それは、警備員たちを床にへばりつさせ、一時的にその動きを封じる。
「ほう」
「なるほど。重力を操ることもできるんだね」
ウォッチャーが観察している。
ハルトは彼女を睨みつけ、彼女がいつでもハルトへ臨戦態勢を保っていることを確認する。そのままキングへ目線を映し、唇を噛んだ。
「あんたの目的はよくわからないけど……聖杯戦争で戦いを続けるっていうのなら……そのせいで、人々を傷つけるのなら、俺はあんたを止める……! たとえ、
「正義を旗印に人間は暴力を振るう。人のために戦うとしても、ファントムという怪物である君も、その例に漏れないか」
「目的は手段を正当化させる。このジレンマは、いつだって人間が背負うものだね。いや、むしろそれをするからこそ、君も人間らしい、というべきなのかな」
ウォッチャーは目を細めた。
今この時初めて、ハルトは彼女の視線を感じたようにも思えた。
そして、さらに続く足音。
あの巨人が暴れていたのに、こんなに警備員が残っていたのか。
第二陣の警備員たちが、ハルトの姿を見るや否や発砲してきた。
ハルトは銃弾の雨をよけながら、全身で窓ガラスに激突。
頑強な防犯ガラスだが、ファントムの体当たりには耐えられず、ハルトを通すトンネルを開けた。
そのままガラスの破片を散らしながら、ファントムとなったハルトは市役所を離脱していった。