Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
巨人のマスターがキングだと判明した
でも、彼のもう一人のマスター、ウォッチャーに大切な指輪を奪われた上、状況が悪化してハルトは一時撤退したが……?
市役所からそれなりに離れた。
人目につかない木陰に着地したハルトは、ファントムの力を完全に解除する。もともと半分人間、半分怪物の姿だったが、今は少しボロボロになった青年の姿だ。
「みんな、無事かな?」
市役所を飛び出したとき、目下に巨人の姿はなかった。
仲間たちも無事だと思いたいが、市長室から確認できた可奈美や、見えた破壊跡から、間違いなく戦闘は発生している。
ハルトはグループチャットに、自らが市役所を脱出したこと、キング・ブラッドレイ市長が、巨人だけでなくウォッチャーのマスターであること、また彼がホムンクルスであることを伝えた。
だが、待てど暮らせど既読は付かない。
「……誰か負傷したのかな」
数棟のビルの先にある見滝原北の広場を見返しながら、ハルトは呟いた。
あの巨人が破壊した跡は、今でもありありと残っている。あの中に誰かが巻き込まれていたとしたら……。
不安が脳裏を過る。
状況を探るべく、メッセージと電話を飛ばすが、誰も返事をすることはない。
ハルトは急ぎ足で車道へ向かい、マシンウィンガーでラビットハウスへ急ごうと……。
「……ん?」
その途端、ハルトは言いようのない違和感を覚えた。
思わず足を止め、違和感の正体を探る。
するとそれは、すぐに明白になった。
「なんか、妙に視線を感じるような……?」
今のハルトは、ウィザードでもファントムでもない。多少疲労を見せているとはいえ、普通の青年のはずだ。
それなのに、なぜか待ちゆく人々がハルトをじっと睨んでいる。同年代の青年や、放課後の子供たち、主婦やサラリーマン、はては老人まで。
その視線に不快感を覚えながら、ハルトは車道でマシンウィンガーにまたがる。そのままラビットハウスに向けてアクセルを入れると。
「あー面倒くせえ。とにかくどいつもこいつも絶望しろ!」
その声に、ハルトはアクセルから足を放した。
人の形をしたネコの怪物___まさに化け猫のような怪人が、その腕についている刃を振るい、人々へ恐怖を振りまいていたのだ。
「ファントム……! こんな時に……!」
だがそれはあくまで例外中の例外だ。ファントムとよばれる絶望から生まれる怪物は、
あのネコ型ファントム、ケットシーもまたその例外ではない。
ハルトはマシンウィンガーから降り、ケットシーに向かって走っていく。
手頃な人へ刃を振り下ろした彼にタックルで転がし、ターゲットだった人へ呼びかける。
「逃げて!」
いつもなら、襲われた人は一目散に逃げていくところだが、今回は様子がおかしい。狙われていた男性___学生だろうか___は、じっとハルトを睨みつけている。
「? 何してるの!? 危ないから逃げてよ!」
だが、目を細める彼は一切ここから離れようとしない。
ハルトは眉をひそめながら、ファントムに対して指輪を取り出す。
「仕方ない、この場で倒すか……悪いけど、今はあまりファントムにかまっている余裕はないんだ。速攻で終わらせる」
「こっちだって面倒くせえのは嫌いだっての。絶望させたら帰って寝たいんだ」
ケットシーの軽口を受け流し、左手につけたエメラルドの指輪を発動させた。
「変身!」
『ハリケーン ドラゴン』
発生した翡翠の魔法陣。
ハルトの頭上からゆっくりと降りていくそれは、ハルトの体から風でできたドラゴンの幻影を出現させる。
『ビュービュー ビュービュー』
魔法陣とともに再びハルトの体に取り込まれるドラゴン。するとその姿は、風の魔法使い、ハリケーンドラゴンに変化していた。
ウィザーソードガンを身構えるのと同時に、ケットシーはジャンプ。
ジャンプと同時に、それは高速の移動能力も発揮している。瞬時にウィザードの頭上に迫り、その身を切りつける。
だが、風のウィザードもまたスピードには自信がある。咄嗟にウィザーソードガンを繰り出し、ケットシーの剣を受け止め、逆に蹴り返す。
「うおっ!?」
怯んだケットシーへ、ウィザードは続けて斬撃を繰り返す。その猫の形をした肉体は、次々に切り刻まれていき、最後に蹴りで地面へ突き落した。
「ああもう……! お前嫌い!」
「奇遇だね。俺もだよ」
ケットシーは引き続き素早い動きでウィザードを切りつけようとする。
だがウィザードは全身から緑の風を解き放ち、空中のケットシーのバランスを崩す。そのまま落下してきたファントムの体を、再び緑の斬撃で切り裂いた。
「うぐあああああああ!?」
この斬撃で、ケットシーの体はソードガンの刃によって動く流れが止まる。その隙に、ウィザードは目にもとまらぬ動きで次々にケットシーを切り裂いていく。
悲鳴を上げたケットシーは体から火花を散らしながら倒れこんだ。全身から生えている棘も数本折れており、満身創痍といっても差し支えない。
「な、何なんだよもう……!」
「さっきも言ったでしょ。急いでいるから、お前にかまっている暇はないんだって。連戦もしたくないしね」
『キャモナスラッシュ シェイクハンド キャモナスラッシュ シェイクハンド』
ウィザードはそのまま、ソードガンにつけられている手のパーツを開く。
ウィザーソードガンそのものが発動する魔術詠唱。
そしてそこに、エメラルドの指輪を読み込ませた。
『ハリケーン スラッシュストライク』
ウィザーソードガンの刀身に宿る翡翠の魔法陣。
ドラゴンの力を混ぜ込んだ斬撃は、そのままケットシーの体を真っ二つに……。
「……ど。……ど」
「?」
いつからか、ウィザーソードガンの詠唱を、周囲の声が塗りつぶしていった。
「うぃざーど……うぃざーど……!」
まるで呪詛のように、ウィザードの名前が空間を支配していく。
見れば、ウィザードを囲むように人々が人垣を作り始めていた。もうスラッシュストライクの射程圏に入り、ケットシーを攻撃すれば彼らを巻き込む勢いになっている。
ウィザードは慌てて発動中の魔法を消滅させ、周囲の人々を見渡す。
そして。
「「「ウィザードッ!」」」
誰が叫んだのだろうか。
その声を合図に、彼らは一気にウィザードに群がっていく。その腕を、足を掴み、とにかくありとあらゆる手段でウィザードへ攻撃の手を加えてくる。
「な、何だ何だ痛い痛いッ!」
全身を殴り、引っ張り、引っ掻き回す。
完全に動きを封じられた状態で、しっかりとケットシーの一言だけが聞こえてきた。
「ち、チャンスだ! ここは逃げるが勝ち!」
「ま、待て!」
ウィザードの声もむなしく、ケットシーの姿は、一瞬人々の姿に隠れたと思ったら、いなくなっていた。
「くっ……どいて! どいてくれ!」
だがウィザードの懇願もむなしく、人々の圧は決して消えることはない。
「くっ……仕方ない……!」
『ディフェンド プリーズ』
反則だが魔法を使うしかない。
そう判断したウィザードは、群衆のうち目の前の方向に、防壁の魔法を発動させた。
発生した風の防壁。空気の圧力に押された彼らは、防波堤の波のように左右に転がっていく。
残りの方向から掴みかかってくる人々を最低限の力で振り払い、ウィザードは防壁を貫通して走り去る。次々につかみかかる人々を躱しながら、ウィザードは何とか包囲網を突破した。
「なんなんだよもう……!」
ウィザードは風の力を生かし、高速で駆けていく。
だが進行方向からも、別の集団が迫ってきている。
「まだ来るの!?」
ウィザードは驚きながら、指輪を差し替える。
こういう暴徒相手に有効な魔法は。
『スメル プリーズ』
悪臭の魔法。
指輪の魔法使いの尊厳を犠牲に、一時的に人々の嗅覚へ大ダメージを与える。呻いている彼らをしり目に、ウィザードはウォッチャーの言葉を思い出した。
___今、この街の人間は全員、君の敵になった___
「まさか、本当に見滝原の人全員が敵になったとでもいうのか……?」
だが、ほかにこの唐突な状況を説明できない。
ウィザードはそのまま、停車したマシンウィンガーを手元に召喚。そのまま飛び乗り、歩道から車道へ走らせた。
だが、これだけで暴徒の動きが止まるわけではない。
「うわっ!」
破裂音が目の前のアスファルトをかき鳴らす。
原因は頭上。
「ヘリコプター!?」
プロペラ音を高らかに鳴らしながら、巨大なヘリコプターがその船首をこちらに向けている。
ご丁寧に機関銃まで備え、ウィザードを空中から狙っていた。
「あんなものまで引っ張り出してるの!?」
ウィザードの悲鳴も構うことなく、ヘリはそのまま銃声を鳴らし続ける。マシンウィンガーを操作しながらそれをよけ続け、ウィザードは見滝原の道路を駆け抜けていく。
「あのヘリを振り切るには……あれだ!」
ウィザードはマシンウィンガーで大ジャンプ。即座にコネクトの空間にバイクを収納し体を縮めて目の前のビルとビルの隙間に滑り込む。
風のウィザードになっていることが幸いした。ヘリはその巨体で接近することができず、ビルの前で立ち往生している。
『フレイム ドラゴン』
着地と同時に、ウィザードはフレイムドラゴンに変身。
「やっぱり来た……!」
まだ、暴徒たちの動きは止まらない。ビルをかいくぐってきた彼らは、まるでゾンビのようにウィザードへ手を伸ばしてきた。
ウィザードは腕を大きく振る。
すると、深紅の肉体より放たれた薄く小さい炎が、暴徒たちの目の前まで走る。
いくら洗脳されていようとも、生物は炎を本能的に恐れる。彼らは一瞬足を止め、ウィザードが彼らを飛び越えるチャンスを与えてくれた。
「よし……!」
ウィザードはそのままダッシュし続ける。
続いてくる暴徒の数は、雪だるま式に増えていき、だんだん奥が見えなくなってきた。
「な、何人追いかけてくるんだよおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「はあ、はあ……!」
ようやくラビットハウスについたときは、すでに夕方になっていた。
息も絶え絶えになりながらドアを開くと、冷房の澄んだ空気がハルトを迎えた。
「た、ただいま……っ!」
だが、ラビットハウスには可奈美や真司といった聖杯戦争の関係者の姿はなかった。
店内にいるのは、日常でハルトたちを支えてくれる少女たち。
ココアとチノが、まるで本物の姉妹のように仲良く業務にいそしんでいる。
そして客にも、ハルトにとって親しい人物がいた。長いウェーブかかった髪の少女、氷川紗夜。
「いらっしゃいませ……あ」
ハルトの存在に気付いたココアが声を上げる。
問題なさそうな自身への認識に、ハルトは安堵の息を吐いた。
「よかった、ここまではウォッチャーの能力は及んでいな……」
そこまで言いかけたところで、ハルトは口を閉じた。
ココア、チノ、紗夜。彼女たちはそれぞれ虚ろな目をハルトに向け、ゆっくりと口にした。
「松菜……ハルト」
彼女たちがハルトをフルネームで呼ぶことなどまずない。
これを見た途端、ハルトは呟いた。
「……嘘でしょ」
だが、ハルトの予感は現実となった。
彼女たちはすでに、各々店内の凶器___フォーク、箸、ガラス___を振り上げ、ハルトに投げつけてきている。
『ディフェンド プリーズ』
ハルトは咄嗟に防御の魔法でそれらを防ぐ。だが___そんなに運動神経があったことに驚きだ___ココアのタックルをまともに腰に受け、バランスを崩した。
「ココアちゃん! ココアちゃん!」
だが、ハイライトのないココアはハルトの言葉に耳を貸さない。
ハルトは下半身に力を込めながら、続く紗夜___最悪なことに、ナイフを振り上げている___の手首を捕まえた。
「ぐっ……! 紗夜さん! 目を覚まして!」
だが、ハルトの声もむなしく、紗夜はハルトへ殺意を向けたままだ。左右に揺れるたびに、彼女のロングヘアーが激しく乱れていく。
「ココアちゃん!」
変わらず、ハルトの腰にしがみつき、押し倒そうとしてくる。
「紗夜さん!」
少しでも気を抜けば、彼女のナイフが突き刺さってしまう。
「チノちゃん!」
じっとハルトを睨み、隙あらば手にした備品を投げつけようとしてくる。
もうこの三人も、外にいる暴徒と何ら変わりはなかった。
「……仕方……ないのか……っ! うおおおおおおおおおおっ!」
生身のままでは危険だ。
ハルトの体がファントムとなった途端、首筋に紗夜のナイフが突き刺さる。
ファントムの丈夫な体表に阻まれ、ほとんどダメージはない。それなのに、今紗夜に刺された箇所は、ずっと感覚として残り続けた。
「__________________」
ドラゴンはそのまま、咆哮を上げた。
ラビットハウス全体を揺るがしかねない大きな音量。
それは、人体が直接耳にすることを拒む威力だ。
ココア、チノ、紗夜の三人はそれぞれ同時に耳を塞ぐ。彼女たちに後遺症が残らないように注意しながら、ドラゴンはその声に魔力を込めた。
すると、やがて三人は次々に気絶していく。
「はあ、はあ……」
人間の姿に戻り、三人をテーブル席に寝かせながら、ハルトは大きくため息をついた。
紗夜に刺された首筋を撫で、静かに呟いた。
「……今までの、どんな攻撃よりも堪えるよ」