Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
ラビットハウスでも、ココアとチノ、そして紗夜から敵として猛攻を受け、逃げた先では……?
「本当にこの街の人が全員敵になったのか……?」
ハルトは左右を見渡す。
隠れているおかげで、周囲の人たちはハルトに気付いていない。
すでに木組みの街と呼ばれる地区の中でも人通りが少ない場所。河原の手すりに寄りかかりながら、ハルトは手元の小さな動く者たちに目を落とした。
赤い鳥、青い馬、黄色のタコ、そして紫のゴリラ。それぞれプラスチックで作られているようなその姿だが、それぞれ体の中心部には指輪が埋め込まれている。
使い魔、プラモンスター。
「ゴーレム、悪いけど今は緊急事態だ。ちょっとラビットハウスに戻れそうにない」
ハルトの言葉に、ゴーレムは不満そうに首を振る。だが先輩たるプラモンスター、ブルーユニコーンがそんな彼をたしなめた。
「ありがと。ユニコーン。えっと、みんな俺の魔力を通じて知ってると思うけど。……多分、ウォッチャーの力で、俺は見滝原の人間みんなから狙われるようになってしまった」
その言葉に、ガルーダ、ユニコーン、クラーケン___昔からハルトとともに行動し、見滝原でも積極的に探索を行っている使い魔たちが怪訝そうに顔を上げた。
ここからどう行動したものか。
だが、言葉を持たぬ使い魔たちは、ジェスチャーでしかコミュニケーションを取る手段がない。
彼らは音を鳴らしながら、それぞれ動きを続けている。
ハルトが考えていると、物音がハルトの意識を呼び戻した。
「はーい、ハルト君」
誰かの肉声が、頭上から降ってきた。
見上げると、近くの建物の屋上に、緑のストールと帽子が特徴の青年が手すりに乗っていた。
「ハロー」
「グレムリン……!」
瞬時に、ハルトの目が血走る。
すると彼は、建物の屋上から戸惑いなく飛び降りる。音もなくハルトの目の前に着地すると、ゴーレム以外の使い魔たちが警戒するように騒ぎ出した。
グレムリン。
彼もまた、ファントムだ。
だが彼は、自らをファントムであることは認めず、ソラという人間だと主張している。現実として彼は今ファントムではあるが、人間になることを目的としている。そしてそのために、賢者の石___聖杯そのものを構成している物質___を追い求めていた。
「そんな怖い顔しないでよ。どうしたの?」
ソラはハルトの顔を覗き込む。
今までの彼は、ハルトに付きまといながらも敵対関係は維持していた。ウィザードとして、ファントムの彼とは何度も激突を繰り返している。ウォッチャーの能力を受けているのならば、彼は間違いなくハルトに襲い掛かってくる。それも容赦なく。
だが。
「……お前は、襲ってこないのか?」
ココアたちや町の人々の様子と比べて、ソラは明らかに穏やかだった。
ハルトは使い魔たちを制し、じっとソラの様子を伺う。
すると、ソラは眉を吊り上げた。
「やだなあ。僕が君と仲良くしたいの、知ってるでしょ?」
その態度は、まさに平然としている。この見滝原に来て、彼と遭遇した時とも全く変わらない。
同時にそれは、ハルトにウォッチャーが口にしたこの状況の条件について思い出させる。
「全ての人間……ウォッチャーの効果があるのは人間だけってことなのか?」
「ハルト君?」
気心が知れた仲かのように顔を近づけるソラ。
ハルトは彼の顔を押し返し、吐き捨てた。
「……今、お前にかまう気力はない。消えてくれ」
「いやだなあ、僕たち長い付き合いじゃないか。戦わないなら、お話しようよ」
ソラはそう言いながら、顔に不気味な文様を浮かび上がらせる。それは、先ほど市長室でハルトが浮かべていたものと全く同じだ。
「お互いファントム同士、仲良くさ」
「黙れって言ってるだろ!」
ハルトはウィザーソードガンの銃口を向けた。
すると、ソラはおどけたように手を上げた。
「おおっと。ご機嫌斜めだねハルト君」
これ以上付き合っていられない。
ハルトは歩き去ろうとするが、付きまとうようにソラは離れない。ハルトの前に先回りし、ハルトの目線の先に笑顔を設置した。
ハルトはいら立ちを隠せなくなるのを感じ、疲れた体に鞭を打って変身しようと腰の指輪に手を伸ばした。
だが。
「見つけた……!」
二人の声が、重なってハルトの耳に届く。ソラの陰に隠れていたが、通路の先には、見覚えのある二人の姿があった。
「響ちゃんに、友奈ちゃん……!」
これまで聖杯戦争で、共に戦いを止めるために苦楽を共にしてきた二人のサーヴァント。先ほどまでともに見滝原市役所で参加者を探していた二人がいた。
「よかった、無事だった……ん……だ」
駆け寄ろうとしたが、ハルトはその足を止めた。
彼女たちの表情は、これまでハルトが見知った二人のそれではない。
憎々しい表情を浮かべており、あたかも怨敵を目にしているようにも見えてしまう。
「まさか……」
それに、友奈の傍らには牛鬼が現れている。少し戸惑っているようにも見えるが、友奈の一瞥で彼女に従うように並んだ。
ハルトと対峙する形で。
「行くよ、牛鬼」
『Ballwisyall Nescell gungnir tron』
そのプロセスは、ハルトもよく見知ったもの。
黄色の唄と桃色の花びらが、二人をそれぞれ変えていく。
シンフォギアシステムと勇者システム。
これまで、ハルトと幾度となく肩を並べてきた光が、ハルトに向けて放たれた。
「冗談でしょ……」
「おやおやこれは」
一方、隣に並ぶソラは面白そうにせせら笑った。
「ハルト君。彼女たちに何かしちゃったの?」
「……」
ハルトに、ソラの冷やかしに反応する余裕はない。
すでに、響が歌を纏いながら、ハルトに迫ってきていたのだ。
「だりゃああああああああッ!」
響の強力な拳が、これを現実だと訴える。
響の直線的な動きが幸いし、それを回避するのはさほど難しくはない。だが、彼女の拳が砕いたアスファルトの惨状から、本気なのは明白だった。
「響ちゃん……!」
「ぶっ飛ばすッ!」
シンフォギアと呼ばれる武装を纏った姿。ガングニールの名を持つ黄色の装甲をもって、響は素早い動きでハルトを襲う。
「ぐっ……!」
彼女の拳を何とか回避しながらも、ハルトは響の背後から飛び出してきた友奈の拳も受け流す。
彼女の腰の入った蹴りは、押し出された空気だけで、その威力を察せられる。
「響ちゃん友奈ちゃん! やめてくれ!」
「うおおおおおおおッ!」
だが、友奈はその流れのまま回転蹴りを放つ。
近くの時計台ごとハルトを蹴り飛ばそうとしたそれは、しゃがんだハルトの頭上をかすめ、時計を粉々に粉砕した。
「くっ……!」
『バインド プリーズ』
友奈の拳を無数の鎖が掴み、地面に縛り付ける。
確かに彼女の動きはそれで鈍ったが、すぐさまそれは引きちぎられる。吠えながら、ハルトへ殴りかかってくる。
防御しきれない。
ハルトはドラゴンに変異し、両腕を重ねてガードする。友奈の拳が腕に炸裂し、体が大きく吹き飛ぶ。
両翼を広げて勢いを殺して着地し、ドラゴンは腕に走った痛みをさする。
「久しぶりに見たね、その姿」
ソラが、顔にファントムの文様を浮かべながら言った。
ハルトが見滝原に来る前から、その正体を知っていた唯一の存在。
ソラは近くの街頭の上で頬杖をついた。
「本当にその姿を嫌わなくなったんだ。びっくりだよ」
ソラは街頭から飛び降りて、ドラゴンの目の前でその姿を変質させた。
緑色の妖精。グレムリンと呼ばれるファントムは、ドラゴンと響たちの顔を交互に見つめた。
「でもこれはなんだかあれだね。僕たち悪いファントムをやっつけるヒーローだね、向こうは」
「……」
「なんだか可哀想だし、僕が味方になってあげるよ」
「ふざけるな。お前なんかが味方になるなんて、まっぴらごめんだ」
ドラゴンはグレムリンを突き飛ばす。丁度その時、響と友奈が同時に飛び掛かってきていた。
「くっ……!」
ドラゴンは体を回転させ、その大きな尾で二人の拳をはじき返す。二人はそのまま尻餅をつき、その隙に小さな火球を吐き出した。
軽い火傷を狙ったもの。
だが、それぞれの異能の力に守られた二人には、まったく効果はない。
ドラゴンは息を吐いて人間の姿に戻る。
「これは……仕方ないか」
さっきまではグレムリンに使おうとしていたが、よりにもよって仲間に使うことになるとは思わなかった。
ハルトは唇を噛みながら、ルビーの指輪を左手中指に嵌めた。
「……っ、変身!」
『フレイム ドラゴン ボー ボー ボーボーボー』
発動する、深紅の魔法陣。
ハルトの姿がウィザードへ変わるが、二人の攻撃に変化はない。
深紅のウィザードは、そのまま二人の攻撃をかわし続ける。拳を掌で受け流し、蹴りを腕で受け止める。
だが二対一の上、二人は格闘のエキスパートである。
すぐにウィザードの体術は適応できなくなり、その体に何度も火花が散らされていく。
「くっ……」
『ビッグ プリーズ』
ウィザードは手を巨大化させ、響と友奈に距離を作る。
「手加減したら……こっちがやられる……!」
ウィザードは身構える。
二人はそれぞれ息の合った動きでウィザードを追い詰めていく。
ウィザードは回避しながら、コネクトでウィザーソードガンを取り出す。
大きく後退しながら、彼女たちの足元に向けて発砲。その動きを一時的に止めると、即ルビーの指輪を読み込ませる。
『フレイム シューティングストライク』
放たれた、ドラゴンの頭部を形作った炎。彼女たちを変身解除できればいいと思って放たれたそれはそのまま響と友奈に迫るが。
「迅位斬!」
それは、紅の斬撃によって打ち消される。
響と友奈の間に割り込んだそれ。ハルトにとっては、自らのサーヴァントである真司以上に信頼する者であり、同時にハルトを闇の中から救い出してくれた大切な人。
「可奈美ちゃん……!」
衛藤可奈美が、敵意の刃を向けていた。
可奈美ちゃんまで……!」
「二人とも、手伝うよ!」
残酷なまでに、真実は可奈美の声となってウィザードの耳に届く。
可奈美はウィザードをあたかも仇敵のように鋭い眼差しで貫いている。
「ウィザードを……!」
「倒そうッ!」
「うん!」
明るい表情で同意する三人。
これはまるで。
「俺が、倒されて当然の敵みたいじゃないか……!」
ウィザードはソードガンを握る手の力を強める。
可奈美、響、友奈。
三人の能力はウィザードも知り尽くしている。
だが、本気の敵として対峙している今はどうだ。
可奈美は目にもとまらぬ迅位でその日本刀を振るい。
響の歌がウィザードに対する拳となって地面を砕き。
友奈の蹴りがウィザードを狙ってアスファルトにクレーターの花を咲かせる。
「はああああっ……!」
三人の攻撃を回避し、ウィザードは両手から炎を放った。
だが、炎の奔流は、友奈が繰り出した花びらと激突し、そのまま消失していった。
「……っ!」
友奈は格闘がメインではあるが、動きの都度花びらが舞う。それは攻撃能力だったり防御能力だったりと、多彩な能力を見せてくれる。
味方の時は心強さを感じさせてくれるが、今こうして敵になったら厄介この上ない。
ウィザードの炎を阻み、視界を大きく遮っていく。さらに、そうして動きが鈍ったところを、この半年間で連携を強めた可奈美と響の攻撃がウィザードの体から火花を散らす。
「ぐっ……!」
ウィザードは大きく後退するが、それでも友奈の花びらの嵐は収まらない。
「あらあら、こりゃ本当に倒されるかもしれないね」
グレムリンはせせら笑った。
両手に彼の武器である短剣が握られる。
「ちょっと僕も遊ばせてよ」
グレムリンはそう言って、三人に次々に切りつけていった。
ウィザードは止めようとするが、彼の速度はウィザードではとても追いつけない。気づいたときにはもう、三人は切り傷とともに突き飛ばされていた。
「ふふ、なかなか僕も捨てたものじゃないね」
「やめろ、グレムリン!」
ウィザードはグレムリンの腕を掴むが、グレムリンは首を傾けた。
「なんだよ、ハルト君。僕は君を苦しめる悪い女たちを懲らしめているんだよ?」
「やめろって言ってるだろ!」
「我流・大地浸透頸ッ!」
だが響の技が、グレムリンごとウィザードを打ち払う。
地面にたたきこまれた拳から放たれる歌が、大地を通じてウィザードとグレムリンを地下から打ち上げたのだ。
地面に投げ出されたと同時に、可奈美が再びその最高速度が発揮される。
「っ!」
ウィザードは、極限までその感覚を引き延ばす。
ウィザーソードガンを盾にし、何とか可奈美の剣劇を受け流した。
「やっぱり君、面白いね。なら、僕も……」
一方、それを見上げていたグレムリンもまた、可奈美に匹敵する速度を披露した。それぞれ、たとえウィザードやファントムの強化された五感をもってしても、肉眼で捉えることはできない。
二人はやがて周囲に音を鳴らす舞台装置となり、二人はひたすらに剣を響き合わせた。
『ダインスレイフ』
「イグナイトモジュール、抜剣ッ!」
だが、彼らに気を取られていることは許されない。
業を煮やしたのか、響は胸元の赤い部品を取り外し、起動させていた。
「イグナイト……そこまでするのか……」
黄色の鎧が黒く染まっていく。
彼女の黒いガングニールが見せる異常な瞬発力は、瞬時にウィザードとの距離を詰めた。
ウィザードは反撃に炎を放つが、それは友奈の花びらによって遮られてしまう。
「これは……普通にまずいかな」
背後からグレムリンの声が聞こえてきた。可奈美との斬り合いを止めた彼は、懐から小さな部品を取り出した。
それは、丸い懐中時計。
それを見た途端___今回、その矛先が自身には向けられないことにどこかで安堵しながら、ウィザードの背筋に緊張が走った。
「お前、それは……!」
「僕もやられたくないからね。悪いけど、本気で行くよ」
『ヤマタノオロチ』
鳴らされるガイダンスボイスは、凶悪な怪物を呼び起こした。
懐中時計がグレムリンの体に埋め込まれると、緑色のその体色が紅蓮に染まっていく。
やがて、その腰から八本の蛇が皮膚を突き破ってきた。
「ヤマタノオロチ……!」
「心強いだろ、ハルト君。こんな怪物が味方になってくれるんだから」
アナザーヤマタノオロチとなったグレムリンは、見せつけるように蛇の体をウィザードのそばに這わせる。
だが。
「大丈夫、私たちだったら!」
「うんッ! ウィザードだろうとヤマタノオロチだろうと……ッ!」
「やっつけられるよ!」
可奈美、響、友奈はそれぞれ豪語した。
本来ならば、彼女たちのその言葉は、ウィザードが隣で聞くものなのだろうが、今は対峙して放たれている。
そして、今でも敵対しているはずのヤマタノオロチ___グレムリンが、自身の隣にいる。
ウィザードは完全に動きが止まってしまった。
そして。
「太阿之剣!」
「我流・打々炎爆挙ッ!」
「勇者ばくれつパンチ!」
完全に、意識を手放していた。
ヤマタノオロチの太く丈夫な首を突き飛ばし、三人の主力技がそれぞれウィザードに迫る。
三人が、
走馬灯のように、あの時の言葉がウィザードの脳裏を横切った。
そして。
「ぐああああああああああああああっ!」
容赦なく、三人の攻撃がフレイムドラゴンの装甲から火花を散らす。強化された形態が耐えきれる威力を優に超え、ウィザードの姿が維持できない。
ハルトはそのまま、ヤマタノオロチの肉体を転がり出て。
手すりを破壊し、川に沈んでいった。
「……あーあ」
ヤマタノオロチを懐中時計に戻したグレムリンは、ただ一言呟いた。
「ひっどいなあ。三人とも」