Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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ウォッチャーによって孤立したハルトだが、見滝原南では狂三を味方にすることに成功


蒼井と蒼井

 見滝原南は、一部の船の往来くらいしか交通の手段がない。頭上を通過する大きな橋との接続もなく、実質見滝原のほかに地域とは断絶されている。

 よって見滝原南から出ていくには、ハイウェイに飛び乗るか船に密航するくらいしか一般人にはできない。

 コネクトでマシンウィンガーを引き出したハルトは、ハイウェイを見上げて顔をしかめた。

 

「あそこに飛び乗れば、見滝原に戻れるか……」

「ええ。前回来た時も、あそこから戻ったのでしょう?」

 

 傍らに立つ狂三。彼女は黒とオレンジのドレスではなく、前にも見かけた女子高生の姿だ。特徴的なツインテールは一度解いておさげのように下げており、金色の左目も前髪に隠れている。

 

「なら、行くのも簡単でしょう?」

「まあね。問題は、あの橋の上でも狙われないかってことだ」

 

 昼下がりの時間帯、見滝原内外を繋ぐ経済の血管だけあって、交通量は見滝原のどの場所の比ではない。万一運転手がハルトへ対する暴徒となった場合、玉突き事故では済まない事態になりかねない。

 

「だから、比較的人の流れがなくなる深夜帯に行こうと思う」

「お優しいのですね。人間のことなど気にする必要ありませんのに」

 

 ハルトは狂三の冷笑を無視し、周囲を確認する。

 橋を支える巨大な柱でありながら、この周囲に人影はない。よじ登って見滝原に戻ろうとする者もいないのだろう。取り締まる必要さえないのだろうか。

 

「ううう……があああああああ!」

 

 そんな考えを、突如背後からのうなり声に中断された。

 狂三に羽交い締めにされたままの晶が、ハルトへ殺意の声を上げた。

 すでに狂三が放った時間停止の拘束は解かれ、狂三の腕がなければハルトへナイフを放っていただろう。両腕両足を紐で縛り、おおよそともにデスゲームを切り抜けていく間柄とは思えない扱いだ。

 

「マスター、いい加減に落ち着いてくださいまし。こんなことでわたくしも霊力を使いたくないのですわ」

「うるせえ! 狂三、放しやがれ!」

「マスターが逆立ちしてもウィザードに傷を負わせられるとは思えませんわ。逆に負傷されるのも困ります」

「狂三、てめえ!」

 

 晶の牙は、次は狂三に向けられる。血走った目とゆがんだ顔つきは、まさに獣のようだと印象付けられた。

 一方、狂三は面倒臭い、といった以上の表情はない。

 聖杯戦争に食らいついてでも参加し続ける上に、このアウトローな見滝原南でもサバイバルを続けていた彼女だ。

 狂三の考えでは、このまま近くの小屋に縛り付けて閉じ込めておけば、拘束が解けたころにはハルトも本土に戻り、もう問題なくなっているだろうとのことだったが、この様子ではその考えを実行するのに骨が折れそうだ。

 ハルトは彼女の手を掴み、弾き、受け流しながらも、彼女の苛烈さはとどまるところを知らない。

 

「ねえ、何がこの子をここまで攻撃的にさせてるのさ……!」

「どうしましょうか。一々二の弾(ベート)を使うのも面倒ですし……」

 

 暴れる晶に対し、ハルトと狂三はそれぞれ頭を悩ませる。

 その時、青い光がハルトたちの前に差し込んできた。直後、あたかもテレポートでもしてきたかのように、光は人の形となっていく。

 

「松菜さん! 見つけました!」

「えっ?」

 

 人影を見て、ハルトは反射的に警戒をしてしまう。だが、現れた人物がこちらへ純粋な笑顔見せたので、思わずハルトはその名を口にした。

 

「えりかちゃん……!?」

「はい、松菜さんのサーヴァントの蒼井です!」

 

 蒼井えりか。

 彼女はにっこりとほほ笑むと、背後の晶の存在に顔をこわばらせる。

 

「無事でよかったです! 松菜さんが川に落ちたって聞いて、流れから計算して多分見滝原南だと思いました!」

「計算って……」

「ごちゃごちゃと!」

 

 だが、晶は乱入者にも牙を剥く。

 振るわれたナイフに対し、えりかはその手首を掴み、動きを封じた。

 

「止めてください! いきなりなんですか!?」

 

 その見た目とは裏腹に、えりかの格闘技は明らかに鍛えられたものだ。

 晶の右腕を掴んだまま、その背後に回り込む。結果晶は自らの右手によって首を締めあげられる形となったのだ。

 

「ぐああっ……!」

「え、ええっと……しばらく大人しくしていてください!」

 

 明らかに何を言うのか決めていなかったのだろう。

 顔ではおろおろとしていたが、晶の細腕はえりかを振りほどくことはできなかった。

 

「ええと……ここまで場を制圧しておいて何ですけど、この方は……?」

「わたくしのマスターに手を出すことは許しませんわよ、シールダー」

 

 だがその途端、えりかの頭に銃口があてられる。

 

「あなたは、時崎さん……」

「覚えていただけて光栄ですわ、シールダー……蒼井、えりか」

「あ? 蒼井だあ?」

 

 晶の顔つきは変わっていない。

 だが、自分と同じ姓に、少しだけ顔を向けた。

 

「退け! そいつを殺させろ!」

「させません! おとなしくしてください!」

 

 えりかは暴れる晶を制する。

 すると、今度は狂三がより強くえりかにあてる銃口を強める。

 

「傷一つでも付けたら……分かっていますね?」

「あ、蒼井はそんなつもりはありません……!」

「一人称が蒼井……マスターも蒼井、あなたも蒼井……蒼井と蒼井がいるからややこしいですわね。あなた、自分のことを蒼井って呼ぶのやめてくれません?」

「ご、ごめんなさい。蒼井、頑張ります」

「だから蒼井っていうのをやめ……蒼井がゲシュタルト崩壊してきましたわ」

 

 狂三は毒素を抜かれたように、銃を下げる。

 えりかは苦笑し、ハルトに目線を戻した。

 

「彼女も、松菜さんを狙っていたんですね」

「……うん」

 

 ハルトは頷きながら、じっとえりかの顔を見つめる。

 可奈美、響、友奈。ココア、チノ、紗夜。ハルトにとって親しい仲の相手も、そうでない人々も、ハルトの命を狙おうと躍起になっていた。

 そんな状況だからこそ、ハルトの内には必然的に疑問が生じてくる。

 

___なんでえりかちゃんは、ウォッチャーの影響を受けていないんだ?___

 

 時折晶が暴れるが、えりかは彼女の腕をがっちりとホールドしている。

 

「暴れないでください! 蒼井は、あなたを傷つけるつもりはありません!」

「蒼井蒼井ってうるせえんだよ! 自分のことを呼ばれてるみてえで腹立つ!」

「そういうわけでは……」

刻々帝(ザフキエル) 八の弾(ヘット)

 

 彼女が唱えると、彼女の影が伸びていく。人が入れそうな大きさになったと思った途端、その内からもう一人の狂三が姿を現した。

 

「一度戦ったこともありますわよね。わたくしの分身体ですわ」

「分身……」

 

 本体の狂三とは違い、見慣れた黒とオレンジのドレス姿の狂三。彼女は社交界のようにハルトへお辞儀をして、紹介にあずかる。

 

「正確には過去のわたくし。町の様子を見るのにももってこいですわ」

「よろしくお願いしますわね。松菜ハルトさん。蒼井えりかさん」

 

 分身の方の狂三が礼儀正しく挨拶をした。

 ハルトは「あ、うん。よろしくね」とあいまいな返事をしながら、本体の狂三に向き直る。

 

「それじゃあ、本体はこのままこの見滝原南に残るんだ」

「ええ。暴れているマスターが何をしでかすかわかりませんし。ご武運を祈りますわ。……マスターの身柄をこちらに渡してくださいますか? シールダー」

「あ、はい」

 

 えりかは頷き、晶の拘束を解くと同時に背中を押す。

 バランスを崩した晶は、抵抗する間もなく狂三に抱き留められる。サーヴァントの関節を駆使した拘束により、晶は再び動きを封じられてしまった。

 分身を生み出した影は、いまだに狂三の足元に残ったままだ。

 狂三がワンステップ、影の内側に足を踏み入れる。すると、彼女の体は徐々に影の中に沈んでいった。

 

「おい、狂三! 放せ、放しやがれ!」

 

 そしてそれは、晶を捕縛したままだ。

 結果、フォーリナーのマスター、サーヴァントは共々、暗い影の中に沈み、消えたときは何も残ることはなかった。

 

「なんか、ちょっと怖いんだけど……蒼井晶は大丈夫なんだよね?」

「ええ」

 

 ハルトの元に残った狂三の分身体は、つまらなさそうな顔をしていた。

 

「わたくしのマスターにも、困ったものですわ」

「その様子だと、あの影で連れ帰るのは今回が初めてじゃないんですね」

 

 えりかも少し心配そうな顔を浮かべた。

 だが、狂三の顔は変わらない。

 

「ええ。まさか、マスターを自ら始末するサーヴァントなんてこの世にいないでしょうに」

「……」

 

 ムー大陸にいたんだよな、というコメントは心の中にしまい、ハルトは狂三に向き直る。

 

「それじゃあ、夜まで少し休んでから、行動しよう」

「そうですわね。……ん?」

 

 その時。

 狂三は顔をしかめた。

 

「どうやら、ごゆっくりと南を観光する、というわけにはいかないそうですわ」

「え?」

「どういうことですか?」

 

 ハルトとえりかが疑問符を浮かべていると、やがて狂三が感じ取った異常はハルトにも感知できるようになる。

 

「何か……来る……!」

「えっ?」

 

 それは、空気を震わせる音。ソニックブームともいうべき、物体が音速で迫ってきているような。

 そしてそれは、すぐに視覚情報としても露になる。

 

「あれは……?」

 

 その姿を見た途端、ハルトはそれをどう形容すればいいのか分からなかった。

 虚空から一直線に飛んでくるそれ。

 まず目に入るのは、その目元だ。赤いサングラスで覆われており、見ただけで真っ先に「悪い奴」というフレーズが浮かんできた。

 

「サーヴァント……?」

「あんな人間から外れた姿のサーヴァントがいますの? ……ムーンキャンサーがいましたわ」

 

 ハルトと狂三がそれぞれそんな馬鹿なことを言っている間に、それはハルトたちの目の前に着地した。

 その緑の体色は、ハルトたちの倍ぐらいの大きさ___身長三メートルほどを誇っていた。体の中心部分を鋸が走っており、時折回転し、その脅威をハルトたちに示している。両腕の大鎌も相まって、全身凶器の恐竜、といった言葉がいいだろうか。

 

「なんなんだよ、こいつ……!」

「聖杯戦争とは関係無さそうな怪物を脈絡もなく出すのは遠慮してほしいですわね」

 

 怪訝な顔をした狂三は、怪物へ警戒を向ける。

 やがて、怪物の赤い目が発光。金切り声のような咆哮が響いた。

 

「うっ……」

 

 その唸り声が響いた途端、ハルトの脳が振動する。

 その衝撃により、ハルトは思わず膝を折り、頭を抑える。

 

「松菜さん!?」

 

 えりかが心配してくれる声が遠くに聞こえる。

 耳鳴りのように、世界が幾重にもゆがみ、消失しては現出していく。

 そして。

 

「ガ……イ……ガン」

 

 ガイガン。それが、あの怪物の名前だ。

 自分でもわからない。

 なぜ、あの怪物の名前を知っているのか。ガイガンという名前さえ、聞いたこともないのに。

 

「ガイガン……? 松菜さん、何を言っているんですか?」

「あなた何を知っているというの?」

「わからない……俺も、なんであの怪物のことを知っているのかも……」

 

 えりかと狂三の質問には、それ以上に返せそうにない。

 痛む頭が認識しているのは二つ。

 目の前で、咆哮を上げるガイガンと。

 どこかの山の中、結晶に封印された黄金のドラゴンの姿だけだった。

 いつ、どこで見たのか、まったく思い出せないのに。

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