Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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ガイガンを倒し、とうとうハルトたちは見滝原に帰還する


松菜ハルトギャル化計画

「……んっ……」

 

 木漏れ日に、ハルトは薄く目を開けた。

 すでに太陽は東から昇っている。見滝原公園に生い茂っている森のおかげで、一旦は人目を気にせずに休息をとることができた。

 夕べ、深夜に橋を渡り、ハルトたちはこの見滝原に戻ってきた。

 

「ふぁあ……」

 

 大きなあくびをして、ハルトは周囲を見渡す。

 何度も聖杯戦争の戦場となった見滝原公園だが、今回はお尋ね者であるハルトたちの隠れ家となってくれた。もっとも、見回りもある可能性があるので、頻繁に使うことはできないだろうが。

 そうしていると、すぐ近くの木陰がより濃くなっていく。

 影が広がる、という現象に警戒しなくなったということは、一日ともに過ごした影響というのは強い。影から頭を出した時崎狂三に、ハルトは平常心であいさつした。

 

「おはよう、狂三ちゃん」

「ええ、おはようございます」

 

 狂三は完全に影から体を出す。

 影の中で休眠できるのか、ハルトと違い彼女の体にはほとんど汚れがない。このまま町にでていけば、通学中の学生だと思われるだろう。

 

「最悪の恰好ですわね。あなた、いっそのことウィザードか化け物に変身した方がまだ外を出歩けますわよ」

「冗談きついよ。そんなにひどい恰好かな俺?」

 

 ハルトはそう言って、スマホを取り出す。

 すでに電源は落ちており、今は手鏡としか役割を果たせない。黒く染まったスマホには、ハルトの爆発した寝ぐせが映し出されていた。

 

「うわ……本来は今日シフトだったから、この顔じゃ確かに出られないな」

「だからウィザードになさいな。そのみすぼらしい姿を隠すためにも」

「それは町のみんなに俺がここにいるってアピールにしかならないよ。……えりかちゃんは?」

 

 昨夜、影に潜った狂三はともかく、ハルトと同じく自然のベッドにて眠りについたはずの蒼井えりかの姿がない。

 だが、狂三はけろっと答えた。

 

「少し買い足しに行かれるそうですわ。まあ、彼女が出かけたのもつい先ほどですし、戻ってくるまでまだ間があるでしょう。顔でも洗ってきなさいな」

「そうするよ」

 

 ハルトはストレッチをして、森から歩き出す。周囲で散歩している人間たちに見つからないように注意しながら、公衆便所へ駆け込む。

 

「ふう……見滝原に来る前に戻った感じだよ」

 

 顔を洗い、寝ぐせをに水を当てる。だが、跳ねた髪はなかなか元に戻らない。

 

「うーん、どうするか……あ、そうだ」

 

 ハルトはコネクトでウィザーソードガンを召喚。近くに人がいないことを確認し、サファイアの指輪を手にかけた。

 

『キャモナシューティング シェイクハンド キャモナシューティング シェイクハンド』

 

 ウィザーソードガンの手を開き、サファイアの指輪を軽く充てる。すると、生成された魔力が水となり、その銃口に集まっていく。

 

『ウォーター シューティングストライク』

 

 水が銃口に集まっていく。だがこれは、普段敵対する相手に大きなダメージを与えるためのもの。

 ハルトはさらに合わせて、右手に別の指輪を取り付けた。

 

『スモール プリーズ』

 

 縮小の魔法。

 それを銃口に何度も使い、水の銃弾は見る見るうちに小さくなっていく。

 

「よし、これでオッケー」

 

 ハルトは銃弾を直上へ打ち上げた。

 ドラゴンの形をした銃弾が天に伸び、すぐに吸い込まれるようにハルトの頭上に戻ってくる。一気にハルトの全身に浴びられた水により、しつこい寝ぐせはとうとう撃沈した。

 続いて今度は、ウィザーソードガンへルビーの魔法を発動させる。水の次は炎。

 先ほど以上に縮小の魔法を重ね掛けさせ、小さな炎を銃口に保たせる。その状態で顔を近づければ、ウィザーソードガンの炎がハルトの髪を乾かしていく。

 

「松菜さん、何をされているんですか?」

 

 その声に、ハルトは振り向いた。

 手に大きな紙袋を手にした彼女は、困惑した目線でハルトを見つめている。

 

「あ、えりかちゃんおはよう……えっと、魔法の有効活用」

「おはようございます。魔法をドライヤー代わりに……もったいないというか他に使い方がないかというか」

「でもこれ、結構便利だよ。俺の魔力次第でいくらでも動くから。昔旅してた時は、大体これで整えてた」

「そ、そうなんですね」

 

 えりかは何とも言えない表情を浮かべている。

 

「そ、それでは時崎さんのところに戻りましょう。買ってきたものもありますし」

 

 えりかは紙袋を掲げた。紙袋に書かれているものから、それが有名な服飾系の店だとわかる。

 

「それは?」

「今、この町のみなさんは松菜さんを敵視するよう洗脳されています」

「……そうだね」

 

 改めて言葉にされると、何度も気まずくなる。

 可奈美たちに牙を剥けられ、ココアたちからは拒絶される。ともに生活し、誕生日も祝ってくれたのに。

 ハルトはずっと着たままの上着を掴む。彼女たちからプレゼントとして贈られた上着を。

 えりかは続けた。

 

「そこで、皆さんに松菜さんが松菜さんだと気づかれない策を思いつきました」

「……」

 

 そこで、その紙袋が登場するのか。

 ハルトは少し嫌な予感がした。

 そしてえりかは、その中身を伝えた。

 

「それは、ギャルです」

 

 

 

「ええ、ええ。よく似合っていますわよ、松菜ハルト……いや、ハル子(・・・)さん」

 

 ハル子。それが、今ハルトが変装したこのギャルの名前らしい。

 金髪のウィッグがカールを巻いており、肩までかかってきている。その上にはサングラスがかかっており、より存在感を醸し出している。胸元まで半開きにしたシャツには桃色のアウターがかかっており、その指先には拳を握ることができなくなるほど長い付け爪がある。ハルトにとっては二回目のスカートだが、かなりミニスカートにそろえられており、足を支える厚底ブーツはどうにも落ち着かない。

 

「こ、これは一体……!?」

「蒼井が町の皆さんを観察したところ、松菜さんと同じ服装の人も、ある程度は警戒されていました。ですから、おそらくウォッチャーの能力は、影響を受けた個々人の認識に依存していると考えられます」

「は、はあ……」

「ですから、松菜さんをギャルに変身させます」

「さっきまでといきなり飛躍がしすぎないかな!?」

 

 狂三は堪えられなくなっている。

 

「ぎゃ、ギャル……傑作ですわ。ええ、ええ。それがいいでしょう」

 

 狂三はにやにやと笑いながら頷いた。

 一方えりかは狂三の言葉に反応せず、指を立てて先生のように語っている。

 

「ならば! 普段とは異なる姿なら、誰にも知られることはないということです!」

「そんな無茶苦茶な」

「きひひっ、きひひひひひひっ!」

 

 狂三は苦笑から爆笑となっている。ケラケラと笑い声を上げながら、ハルトを指さしている。

 

「いいのでは? ハル子さん」

 

 もう狂三は笑うのを隠さない。肩を震わせながら、ハルトを指さしている。

 

「ええ、ええ。やはり人目に付かれないときは女装に限りますわね」

「いやあんた受けすぎだろ!」

 

 ハルトは叫ぶ。だが、狂三は止まらない。

 えりかは続ける。

 

「松菜さん、いけません」

「何が!?」

「ギャルが使っていい言葉は二つだけ。『ヤバい』と『ウケる』のみです」

「コミュニケーション能力が消滅しないかな!?」

 

 相変わらず、狂三は大爆笑の最中だ。

 一方、これまでの引っ込み思案の印象はどこへやら、えりかは「いいえ」と首を振った。

 

「まず、『ヤバい』の意味はすごい、ですね?」

「うん」

「『ウケる』は、面白いっていう意味ですね?」

「そうだね」

「これは、相手を肯定して元気づけるって言葉ですよね?」

「まあ、そうなるかな……? あれ? 俺、今ギャルになる方向で説得させられてない?」

 

 ハルトの疑問は聞こえていないのだろうか。もしかしたら、ここで令呪を使ってでも彼女にハルトの話に耳を貸すよう訴えるのも一考するべきかもしれない。

 

「つまり、これで相手を肯定し続けることができる、つまりコミュニケーションもいい方向にいくんです! 何も問題ありません!」

「問題しかありません!」

 

 彼女と同じ口調で訴える。

 だがえりかは止まることなく、追加の条件も加えてきた。

 

「あと、状況に応じて『ヤバッ』というのも加えてください」

「今のえりかちゃんが一番ヤバッ、だよ!」

「蒼井、松菜さんを立派なギャルにしてみせます!」

「いや俺別にギャルになりたいわけじゃないんだけどォ!?」

 

 ハルトの叫びは、もう何の意味もない。

 何がえりかのスイッチを点けたのか、彼女は続けて両手にVサインを作る。

 

「ギャルのピースはこうです!」

 

 そうして彼女が示したVサインは逆方向。いわゆるギャルピースというものだが、ハルトは「だから!」とえりかを止めようとする。

 

「ハル子さん、もう諦めなさい」

 

 狂三は、ハルトの肩を叩いていた。彼女は目を閉じ、落ち着いたように口を動かしているが、それでも微動し続けている彼女の体をハルトは見逃していない。

 

「彼女の言うことにも一理ありますわ。この全市民の目を逃れるためにも、ぜひ、じょ、女装を……お楽しみください」

「君絶対楽しんでるでしょさっきから!」

 

 だが、ほかにいい策がないのも事実だ。

 ハルトは口を震わせながら、ギャルピースを作る。

 

「こ、こう?」

「はい、そうです!」

 

 彼女の満足気な表情で、少しハルトは肩の荷を下ろした。

 

「そういえば俺、前に可奈美ちゃんと入れ替わったことあるんだ。女装どころか女の子になったってことだけど、あの時の経験って何か生かせないかな?」

「衛藤さんはギャルではないので、まったく別です。あと、ギャルはそんな長い文章を言えません。だから!」

「だから!」

「さっき言いました!」

「……」

 

 ハルトはえりかの意図を察し、少し黙る。

 そして。

 

「う、ウケる……」

「はい、そうです! それでこそ、ギャルです」

「ヤバッ……」

「はい!」

 

 にっこりと笑顔のえりかに対し、ハルトは小声でつぶやいた。

 

「えりかちゃんのギャル像、絶対に極論になってるよ……!」




ハルト「大体ギャルってなんだ、どういうのがギャルなんだよ……」
えりか「ギャルはそんな長文言いません。ウケる、ヤバッの二つで」
ハルト「絶対にそれ間違ってるよ! でも確かに、この格好で行くしかないか……」
狂三「なら、少し街で野生のギャルでも観察してみてはいかがですか?」
ハルト「なんだよ野生のギャルって」
えりか「時崎さん、ナイスアイディアです。松菜さん、それでは街を探してみましょう」
ハルト「その場合まだ公園から出たくないから茂みに隠れて探すよ」
狂三「面倒ですわ」
ハルト「おっ! あれなんかギャルじゃない? ……なんで俺積極的に探しているんだろ」
えりか「どれですか? あ、あの子ですね!」
ギャル「ほらリュート。早く行こっ!」
リュート「ま、待ってよ!」
ギャルが彼氏(リュートって呼ばれてた)と腕組み
リュート「あ、あのその……っ!」
ギャル「リュート、大丈夫。このまま手つないでいよ!」
ハルト「……えりかちゃんのギャル語録、あの子全然使ってないじゃん!」
えりか「そんなはずは……!?」
狂三「まあ、個人差もあるでしょう」
えりか「ぐっ……! 不徳の致すところです」
ハルト「よし、じゃあこのまま今回のアニメどうぞ!」
えりか「松菜さん、ギャルで!」
ハルト「ええっと……ヤバッな歌!」



___ラララ ラブ・ユー ラブ・ユー ラブ・ユー・テンダー 見つめているの 曖昧は嫌 そばにいて____



えりか「経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話。です」
狂三「2023年10月から12月放送のアニメですわ」
ハルト「いわゆる陰キャの男子高生が、高嶺の花のギャルに勇気を出して告白したら、そのまま本当に付き合えたってお話だね。すごい勇気あるね」
えりか「松菜さん、ヤバッ、ですよ!」
ハルト「ヤバッ! でも、このギャルにとってこの男の子は、数少ない自分を本当の意味で大切にしてくれる人なんだね。初体験かどうかって、そこまで引け目を感じることでもないとは思うけど、女の子にとっては違うのかな」
狂三「でもこのギャルヒロイン、えりかさんが言ったギャル語録全く使いませんわね。本当にアテになりますの?」
えりか「うっ」
ハルト「ああ、えりかちゃんに流れ弾が……」
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