Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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ハルトたちはウォッチャーの強襲を受けるが、コウスケとリゲルによって救われた。


支配者

 コウスケとリゲルに案内されたのは、街角にある廃墟だった。

 どれだけ前に持ち主から捨てられたのだろうか。ボロボロになった壁には蔦が絡まっており、電気の通っていない内側は、夜の今となってはもはやほとんど明かりはない。リゲルが用意した青い光源がなければ、暗いのも相まって決して目視で認識することはできなかっただろう。

 

「ふう……」

 

 屋上に着地したウィザードは変身を解除する。

 救いの手を差し伸べてくれたビースト___丁度変身を解除してコウスケに戻っている___とリゲルに向き直り、礼を言った。

 

「助かったよ。ありがとう」

「ああ。皆まで言う……なんじゃそりゃああっ!?」

 

 コウスケが人の顔を見た途端、素っ頓狂な声を上げた。

 彼の様子を見てから、ハルトは自身がはえりかプロデュースのギャル姿をしていることを思い出した。

 

「お前、どうしたんだよその恰好!?」

「……まさか、逃げてる最中に女装趣味に目覚めたの? 正直キモイわよ……」

「いや変装だよ変装!」

 

 ハルトは弁明しながら金髪のウィッグを外した。

 髪を固定していた網を外し、髪型だけは本来のハルトのものとなる。

 

「この姿だと、普通の人から襲われないの!」

「そんな馬鹿みたいな手で回避できたってこと?」

 

 リゲルの表情にきっかりと「信じられない」と書かれている。すると、それに対するのはえりか。

 

「はい。ギャルは全てを解決します。蒼井の目に狂いはありません!」

「……マジか?」

「マジだ」

 

 目を丸くしたコウスケに、ハルトは頷いた。

 

「肝心のウォッチャー本人には通じなかったけどね。……それより」

 

 ハルトは手で顔を拭い、化粧を落とす。結果、服装はギャルのままなのに顔だけはいつものものに戻ってしまうというアンバランスなものになった。

 

「お前は平気なんだな」

 

 通常の松菜ハルトとして、ハルトはコウスケと向かい合う。

 コウスケは「何がだ?」と眉を吊り上げている。

 

「……今のウォッチャーの影響を受けるのは、えりかちゃんを除けば人間だけだ。えりかちゃんは俺と令呪で繋がってるから受けないんだろうけど……」

「なるほど。人間だけ、ね。だからゼクスである私は影響を受けないと」

 

 リゲルが相槌を打った。

 

「可奈美ちゃんたちやフロストノヴァも、今の俺の敵に回ってる。お前はなんで無事なんだ?」

「そりゃああれだろ。オレたちの友情が、ウォッチャーよりもすげえってことだろ」

 

 コウスケは胸を張った。

 だが、この場にいる全員が返すのは沈黙。

 ただ一人、えりかだけは反応した。

 

「すごいです、多田さん! 友情が洗脳を解き放ったんですね!」

「おう! すげえだろえりか! もっと褒めてくれてもいいぜ!」

「はい! 素晴らしいです、多田さん!」

「おうおう、みなまで言ってくれ! 洗脳なんかに負ける多田さんじゃねえわけよ!」

「つまらないジョークを言ってる場合じゃないわよ」

 

 やがて、彼の隣に立つリゲルがその肩を叩いた。

 コウスケはぶすっと口を窄め、ため息をつく。

 

「ジョークじゃねえんだがな……でも、他に思い当たる節なんてねえよ」

「……」

 

 ハルトはじっとコウスケの顔を見つめる。

 やがてコウスケは「な、何だよ。もしかして、本気か? 照れるじゃねえか」といっていたが、それらは全て無視するものとする。

 

「コウスケ。お前、ビーストの力は昔遺跡で見つけたって言ってたよね」

「おーい、無視されると何かオレ悲しくなってきたぜ?」

「もしかして……ベルトによって、体を書き換えられたとかそういうことか?」

「ふん。オレとこいつの出会いか? それはそれはドラマチックな話だぜ? いかんせん……」

 

 ハルトはコウスケの武勇を聞き流しながら考え出す。

 

「そういえば、ベルトにファントムが宿っているとか言ってたっけ。もしかしたら、体が半分ファントムになっているから、ウォッチャーの影響も受けなかったのかもしれない」

「おい、お前なんか失礼なこと考えてねえか?」

 

 コウスケに小突かれるが、ハルトは気にせずに話を続けた。

 

「えりかちゃんがいるから、条件が全く同じ真司も無事なはずだけど……真司は? 合流してないの?」

 

 だが、ハルトの問いにコウスケとリゲルは答えない。

 これまでウォッチャーに操られた者たちから考えれば、今回ハルトの敵に回ってしまうのは、通常の人間や猫といった動物たち。

 唯一の例外は、おそらくえりかのようにハルトのサーヴァントであることだけ。ならば、同じ条件の真司もおそらく無事ハルトの味方であるはず。

 だが、この廃墟には彼の姿がない。

 コウスケとリゲルは互いに顔を合わせ、ばつが悪そうな顔を浮かべた。

 

「それが……分からねえ。会社に突入してから、いまだに行方不明だ」

「行方不明?」

「令呪が残っているのなら、生きてはいるのでしょう?」

 

 ここで、外を警戒していた狂三が口を開いた。

 彼女は決してこちらに目を向けず、窓から外に注意している。

 

「ならば、令呪を使ってここに呼び出してはいかがですか? 聖杯戦争を認めたくないから令呪を使いたくない、なんて贅沢を口にする余裕はないはずですわ。……敵であるわたくしたちがあなたに協力している以上」

「そうだな……」

 

 確かにハルトの手には、聖杯戦争に参加した当初から刻まれている龍騎の令呪がいまだに刻まれ続けている。

 もう他に合流する手段は思いつかない。

 ハルトは右手を掲げる。そして、令呪へ念じた。

 

「真司、来てくれ。……頼む、今すぐ俺たちの前に顔を見せてくれ。令呪をもっての……命令だよ」

 

 ハルトが命令する。

 すると、令呪は赤い光をともしていく。それは、リンクしているサーヴァントに届き、いかなる困難な命令であろうとも叶える、いわば聖杯戦争における切り札だ。

 だが。

 

「……あれ?」

 

 令呪の輝きは、みるみるうちに消えていく。やがてハルトの手に残る令呪は、普段のものと変わらないものとなった。

 

「命令が消えた? どういうことだ?」

「そもそもお前使い方知らねえんじゃねえの?」

 

 二度も令呪を使っているコウスケもまた令呪を覗き込んでいる。

 ハルトの令呪は、サーヴァント二人と契約していることもあって、その数も通常の倍。手の甲には龍騎のライダークレスト、その直下にはえりかが所属していたという部隊のマークが刻まれている。

 ハルトは龍騎の令呪を撫でなががら尋ねた。

 

「じゃあ、お前どうやって使ったのさ」

「そりゃあお前……」

 

 コウスケは自らの令呪を掲げた。彼が持つ、響の令呪___フォニックゲインの形をしたそれは、すでに大部分が失われており、残るのは三分の一だけだ。

 だが、数秒の沈黙の後、こう答えた。

 

「……どうやったんだっけ?」

「おい」

「いや、仕方ねえだろ! 俺が今まで使った二回とも、絶体絶命の大ピンチだったんだぜ! ほとんど意識してねえで必死になってたんだよ! それより、お前だって令呪が使われるところは見てるだろ!」

「うーん……今まで何度か令呪が使われるのを見たことはあるけど、特にこれといって特別な手順はなかったと思うんだよね」

 

 えりかのもともとのマスターであるボンドルドは、令呪を使ってはいないようだった。一方、狂三のマスターである蒼井晶はどうだろうか。狂三と契約する前、スイムスイムというアヴェンジャーのサーヴァントにも何かしら命令した可能性はある。

 他にもアサシンなど、思い返そうと思えば、令呪を使う場面に幾度か遭遇している。だが彼らも、特別な手順を踏んでいたように思えない。

 

「そもそも必要な詠唱とかあったら、契約したときにインプットされたしなあ。えりかちゃんとの途中の契約もそれだったし」

「私たちサーヴァントにとって、令呪の命令は何よりも優先される。それをブロックできるとは到底思えないけど……」

「……でも」

 

 真司のことは心配だが、少なくとも生きてはいる。

 ここは、彼のことは一度置いておいて先のことを考えた方がいいかもしれない。

 

「……可奈美ちゃんたちは今どうしているの? 洗脳された人たちは俺を狙っているけど、四六時中活動しているわけ?」

「……酷いもんだぜ」

 

 コウスケは首を振った。

 

「まるで人形劇を見ているみてえだ」

「人形劇?」

「ああ」

 

 コウスケは腕を組む。

 その先は、リゲルが引き継いだ。

 

「ウィザードを狙っていないときの人々は、いつも通りの活動をしているわ。ただ、死んだような目をしてね」

「死んだような目?」

「ああ。本当に生きているだけだ」

 

 コウスケが説明に付け加えた。

 

「社会生活はしっかりと守ってるけど、その代わり誰も楽しそうな顔なんてしてねえ。あんな顔したココアたちなんざ見たことねえぜ」

「それこそ人形のようにね。感情もなく、違和感もなく。ただただ、棒読みみたいな言葉を並べて日々を生きているわ」

「……それって普段通りってことでは?」

「可奈美も今はラビットハウスに戻ってるぜ。ただ、笑顔なしのロボットみてえな接客だけどな」

 

 狂三のブラックジョークを流しながら、コウスケはリゲルの話を補完する。

 その話を聞きながら、可奈美が無表情になって「いらっしゃいませ」とあいさつする光景を思い浮かべた。

 他にもどうだ。響の歌声には心がない状態で人助けをしており、きっと友奈も真司が行方不明なことを気にせずに形だけの勇者活動をしているのだろう。

 

「今の可奈美は、剣術さえまともに特訓しねえんだろうな」

「それ、可奈美ちゃんにとって一番つらいことじゃないか」

 

 ハルトはぎゅっと拳を握った。

 

「早く、ウォッチャーを止めないと……俺が狙われるからじゃない。みんなから希望を奪ったアイツを止めないといけない……!」

「……ああ、そうだな」

 

 ハルトは自らを目の敵にする仲間たちの顔を思い浮かべた。

 みんなを守るために使う剣や拳を向けてきた。

 日常そのものである笑顔が、自分相手には敵意となっていた。

 

「私のマスターも同じよ」

 

 もう、リゲルの説明が少し遠くに聞こえてきた。

 

「聖杯戦争の戦略を考えるはずのリソースを全て、ウィザードを追いかけるために注力しているのよ。監視カメラは全て、彼女の目だと考えていいわ。そのうえ、見つけたら妙に早い連携で衛藤可奈美たちを差し向けたのよ」

 

 前回タイミングよくハルトの前に三人が現れたのはそれが原因か、とハルトは思った。

 すると、えりかが結論付ける。

 

「まるで社会主義ですね」

「それは確かに言い得て妙ね」

 

 リゲルがと賛同した。

 あまり笑えない。

 ハルトたちの間にしばらくの間沈黙が流れた。やがてリゲルが話を仕切りなおす。

 

「あれから、私もウォッチャーのことを調べたわ。ウィザード、あなたが潜入した後メッセージを送ってくれて助かったわ。おかげで奴を調べる理由ができた」

「何かわかったのか?」

「それほど多くはないけど、彼女の名前は分かったわよ」

「……!」

 

 直接ウォッチャーと対面した面々の顔に緊張が走る。

 

「彼女の名はマキマ。今はキング市長の秘書という肩書きだけど……この短期間に召喚された割には、ずいぶんと街で暴れているわ」

 

 ウォッチャー。真名マキマ。

 ハルトがその名を口にした途端、頭に彼女の顔が思い浮かんでくる。

 名前を口にしただけで、彼女に自身の居場所を知られてしまう。そんな気さえしてきた。

 リゲルは続ける。

 

「彼女の能力。……おそらく、彼女の持つほんの一片でしかないと思うけど……その能力は、支配、としか言えないわ」

 

 支配。

 この町は、すでにウォッチャー、マキマに支配されている。そういうことだろうか。

 だが、リゲルはハルトの考えを読み取ったように「あなたが考えていること以上よ」と前置きした。

 

「彼女は、本当に手段を選ばないわ。……キング・ブラッドレイのサーヴァントだから、実質は彼が支配者だと考えるのが普通でしょうけど……マキマは、いつでも奴の首を狩れる。私たちの共通の敵は、巨人でもキングでもない。……マキマよ」

 

 

 

 常に聖杯戦争を行っているわけではなく、時には見滝原を預かる一公務員として、外部組織の者と交渉を行う必要もある。

 すでにウィザード相手に、この街全員に、彼を敵と認識する暗示をかけている。今はこれ以上は必要ないだろう。

 それよりも、今のマキマには重要な任務がある。

 

「組にいる聖杯戦争関係者の方の名前を全てここに書いてもらいます」

 

 参加者の割り出し。

 その気になれば能力で彼らの記憶から探ることも可能だが、わざわざそんな無駄遣いをする必要もない。

 「ああ、いいよ」と快諾してくれた親頭はマキマからリスト用紙を受け取り、すらすらと名前を並べていく。

 

「あなたの組だけでなく、他の組の方もお願いします」

 

 マキマのその一言で、親頭の眉がぴくっと動いた。彼はタバコを灰皿に擦り付け、吐き捨てた。

 

「お嬢さん、あんた何もわかってねえな。そんなこと知ってても告げ口バレたら、組同士で戦争が起っちまうよ」

「市民の安全のためです。ご協力お願いします」

 

 徐々に親頭の眉間にしわが寄せられていく。やがて彼はタバコをふかし、ドスが利いた声を発した。

 

「嬢ちゃん。必要悪って知ってるかい? 俺たち同士がつぶし合ったら。その間に外からもっと悪い奴らが入ってきちまうんだ。それを、俺たちが防いでいるんだ」

「……」

 

 たとえタバコの煙を浴びされようとも、マキマは微動だにしない。

 ただ、短く告げた。

 

「必要悪とは、悪事を行う自分を正当化する言い訳です。必要悪とは、常に支配者によって首輪を付けられているもののことを言います」

 

 彼は大きく鼻で笑った。

 

「なら、俺たち悪と取引するあんたこそが必要悪だってのかい? 悪いが、はした金じゃあ仲間は売れんよ。……お嬢ちゃん。なかなか素敵な指輪をしているな」

 

 親頭が指摘したのは、マキマの指に輝くもの。

 先日ウィザードを倒したとき、彼から奪った戦利品だ。これを要求しようとするのだろうが、マキマはその隙を与えない。

 懐から持ってきたものを取り出し、静かに机に置いた。

 

「これははした金ではありません」

 

 紙袋。

 中に大量の物品が入っていることを証明するように、紙袋がひしゃげる音が響いた。

 

「ここにいる皆さんの父や母、おばあちゃん、おじいちゃん。兄弟姉妹、恋人奥さんの……」

 

 今この部屋にいる数人が小さな悲鳴を上げた。

 マキマはそれでも、平然と続ける。

 

「目です」

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