Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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廃墟に隠れていたハルトたちはデイダラたちから襲撃を受けてしまった。


前門の蛇後門の刀使

 果たしてどんな流れでこうなったのか、記憶をたどろうとしてももう思い出せない。

 デイダラを始め、無数の参加者たちに見つけた拠点を破壊され、混戦によって分断された。無我夢中で逃げ回っていたら、気付けば来たことのない場所に身を投げ出されていた。

 

「ここは?」

「見滝原西のかなり外れの方ね。……ずいぶんと遠くまで逃げてきたわね」

 

 すぐ背後で味方の声が聞こえた。

 ハルトと同じく、大乱戦から逃げ切ってきたリゲルが顔につけたゴーグルを確認していた。

 

「あまり見滝原の外まで距離も離れていないわね……ここで追いかけられると袋小路よ」

「それは避けたいな……」

 

 それに、見滝原西ということは、ラビットハウスからもそれほど離れていないということになる。

 ハルトはぎゅっと自らの体を抱きしめた。

 

「……どうしたの?」

「いや、何でもない」

 

 この件が解決するまで、ココアたちのあの顔は見たくない。

 ハルトは息を吐いて、逃げてきた道を振り返った。追手の姿はなく、幸い通りすがる人の姿も今はない。だが、女装衣装という隠れ蓑を失い、また誰かに見つかれば、ハルトへ一心不乱に襲い掛かってくることだろう。

 

「結局みんな、バラバラになっちゃったな」

「ええ……全く、こんなことならウィザードの作戦に首突っ込まなければよかった……」

「そう言わないでよ。一緒にいてくれるだけでも俺はかなり助かってるんだからさ」

 

 リゲルは冗談が通じない。

 ハルトをきっと睨んだ彼女に、思わず苦笑してしまう。

 その時。

 赤い影が、ハルトのすぐ近くに飛んできた。

 

「敵っ!?」

「違う……ガルーダ!」

 

 それがガルーダだと認識した途端、赤い使い魔はハルトの手元に飛び込んでくる。

 ガルーダは見滝原南に流れ着いた直後に、監視を頼んである。つまり。

 ハルトに嫌な予感が走る。

 

「まさか……っ!」

 

 ただの人間だったら、間違いなく反応できていなかった。

 召喚したウィザーソードガンが、鋭く素早い日本刀___千鳥を受け止めていた。

 

「可奈美ちゃん……!」

「衛藤可奈美……!」

 

 ガルーダを付けておいてよかった。

 可奈美が、本気の殺意で剣を振るってきていたのだ。

 

「やあああああああああああッ!」

 

 完全に今の彼女は、ハルトを敵として認識している。

 彼女の剣術が狙うのはただ一つ、ハルトの首のみ。

 ハルトは必死にウィザーソードガンで千鳥を受け止めるが、可奈美の勢いは止まらない。

 

「この……!」

 

 リゲルがいつの間にか手にしていた剣を振り下ろす。

 だが可奈美は、卓越した動きでリゲルの腕を受け止め、剣の動きを封じる。そのまま全身を大きく回転させ、足蹴りによってハルトとリゲルの手から得物を弾き飛ばした。

 

「やっぱり可奈美ちゃんに、剣じゃ敵わない……!」

「言ってる場合!?」

 

 そのまま可奈美を纏う全身の白い光が、赤く染まっていく。

 それが何を意味するのか、ハルトはよく分かっている。

 

「来る……リゲル、逃げて!」

「分かって……ッ!?」

 

 リゲルはジャンプしようとしていたが、その動きが封じられてしまう。

 彼女の右腕は、可奈美が掴んで離せなくなっていた。

 

「こんなバカなことが……!」

「っ……!」

 

 ハルトは歯を食いしばり、可奈美の振るわれようとしている千鳥を見下ろす。赤い目となり、その体がファントムに変化していく。

 

「迅位斬!」

 

 明らかに殺意を持った刃が、ハルトたちを同時に切り裂こうとして振るわれる。

 ハルトは慌ててファントムに変身し、リゲルの前で翼と腕で二重に防壁を作る。だが、やはり彼女の剣の威力はよく知っている。爆発により、リゲルとともにすぐに人間態に戻ったハルトは弾き飛ばされる。

 

「ぐあっ!」

「くっ……」

 

 ハルトとリゲルは、さらに追撃を仕掛けてくる可奈美を見上げる。

 

「ウィザード……同盟を持ち掛けてきた私が言うのもおかしな話だけど、ここは衛藤可奈美を倒す以外、切り抜ける方法はないわよ……!」

「分かってるよ……!」

『ドライバーオン プリーズ』

 

 すでに可奈美は千鳥を再び振り上げている。

 だが、それが振り下ろされるよりも前に、リゲルが砲台で受け止めている。

 

「丁度いいわ。衛藤可奈美なら、戦闘データもある。このままあらゆる手段で、マキマの洗脳解除を試みるわ!」

「なら俺が、その間を受け持つよ! 変身!」

『ウォーター ドラゴン』

 

 瑠璃色の魔法陣とともに、ハルトの姿が水のウィザードへと変わっていく。同時にリゲルの砲台を弾いた可奈美の刃先が、ウィザードへ迫ってきた。

 

『リキッド プリーズ』

 

 ウィザードの肉体は液体となり、可奈美の剣は何も切れない。だが、可奈美の対応能力の素早さはさすがだ。

 可奈美は剣を液体のウィザードに突き刺したまま、その身を赤く変化させていく。途端に、ウィザードは自身の体が蒸発しかけていくのを感じた。

 

「まずい……!」

「太阿之剣!」

 

 可奈美が主力として数々の難局を切り抜けてきた刃が、ウィザードの体に大きな穴をあけた。

 

「ぐあっ……!」

 

 液状でなければ、致命的だった。

 元に戻る体は、すでに大ダメージを訴えている。

 だが、可奈美の追撃は止まらない。倒れ込んだウィザードへ、追撃を仕掛けてきた。

 

『バインド プリーズ』

 

 暴走する相手にはこの魔法が最も有効だ。

 水と氷が混じった鎖が、可奈美の手足を縛り付けていく。動けなくなった彼女を横目に、ウィザードはリゲルへ尋ねた。

 

「リゲル、どう?」

「精神脳波共に異常は見られない……何が違うって言うの?」

「だったら、水のウィザードらしく頭を冷やしてもらうかな!」

 

 ウィザードは左手の掌底で可奈美の腹を付く。同時にあふれた水が小さな波となり、可奈美を飲み込み引き離した。

 だが、冷や水程度で元に戻るならば苦労はしない。全身を冷やされた可奈美は怒りの眼差しのまま、ウィザードへ斬りかかってくる。

 

「だめだよな……!」

 ウィザードはすぐさま指輪を切り替える。可奈美の斬撃をしゃがんでよけて、即発動させた。

 

『チョーイイネ ブリザード サイコー』

 

 すでに鎖での拘束は不発に終わっている。

 ウィザードが次に試すのは、完全なる氷結の魔法。

 魔法陣から振るわれる吹雪は、可奈美の体をあっという間に受け止め、抱擁していく。

 いかに写シといえども、氷の冷たさと圧力には動きを封じられる他ないようだ。

 

「可奈美ちゃん。いつも君が言っていることだよ……!」

 

 ウィザードはそのまま、可奈美の腕を蹴り上げる。千鳥が持ち主の手を離れ、キリキリと天を舞った。

 

「そんな魂の籠ってない剣じゃ、何も切れない!」

 

 そして即、変身を解除。

 ハルトの姿となり、可奈美へ蹴りを放った。

 剣を失い、氷によって動けなくなっていた可奈美。その腹へ、ハルトの蹴りが穿った。

 頭の中で謝罪しながら、ハルトは可奈美の華奢な体がくの字に曲がるのを見届けた。

 そのまま勢いよく吹き飛んだ彼女は、壁に激突。

 

「ごめんね、可奈美ちゃん……」

 

 だが、まだ可奈美の闘志は消えていない。

 操り人形のように何も語らず、可奈美はハルトを睨んでいる。

 

「可奈美ちゃん……」

 

 可奈美はゾンビのように、こちらに向かってくる。

 このまま彼女を倒したとしても、体をボロボロにしながらまた立ち上がってくるのだろうか。

 

「もうやめてくれよ……!」

 

 ハルトはそう乞いながら、ルビーの指輪を発動させる。フレイムドラゴンの魔法陣とともにその姿を変え、ウィザードは可奈美が千鳥を拾い上げるのを見守ることしかできなかった。

 

「……リゲル。可奈美ちゃんに何か異常はあった?」

「ないわ。何も。……平時の衛藤可奈美と、何ひとつ違いなんてない」

「そんな……」

 

 もう、彼女はウィザードを葬るまで止まらないゾンビとなっている。

 その時。

 

「あーあ、見ていられないねえ。ハルト君」

 

 その声に、ウィザードの背筋が凍った。

 見上げれば、マキマの影響下にない者の中で、今一番顔を合わせたくない人物がいた。

 

「また手伝ってあげるよ。ハルト君」

「やめろ……お前が関わってくるな、グレムリン!」

「グレムリン……?」

 

 疑問符を浮かべているリゲルの反応なんて見ていられない。

 腰かけていた街灯から着地したソラは、ウィザードと可奈美を見比べながら手にした時計のスイッチを押した。

 

『ヤマタノオロチ』

 

 即座に埋め込まれた時計は、ソラの姿を直接ヤマタノオロチの力を宿したグレムリンにしていく。八つの蛇の顔がかたどられた怪物は、即座にウィザード、可奈美、リゲルへ蛇の顔を放った。

 

「っ!」

「何よこいつ!?」

「ッ!」

 

 三者三様に乱入者の攻撃をよけ、それぞれ邪魔者の姿を睨む。

 

「あらら? ショックを受けた口ぶりの割には、しっかりと冷静だねハルト君」

「お前、何の用だ!?」

「君を助けに来ただけだよ。見て分かるだろう?」

 

 グレムリンはあっさりと吐き捨て、可奈美を見据える。

 一方、グレムリンとは初対面となるリゲルは、その姿に目を丸くしていた。

 

「あれは……何? ファントム、よね?」

「大荒魂であるヤマタノオロチをその身に取り込んだんだ。……詳細はあとで説明する」

「……なんで聖杯戦争と関係ないところでこんな厄介者までいるのよこの街は!」

 

 リゲルの叫びにもっともだと同意していると、グレムリンが八体の蛇を放ってきた。

 ウィザードを手助けするとは言っていたものの、彼が使役する蛇たちは、その意思を尊重することはなさそうだ。

 縦横無尽に動き回る蛇たちは、もはや生ける障害物となり、ウィザードたちへ容赦なく食らい付いてくる。

 

「前門の蛇に、後門の刀使ってことか……?」

「うわっ!?」

 

 そして聞こえてきた可奈美の悲鳴に、ハルトは耳を疑った。

 普段の可奈美ならば簡単に回避できるだろうに、可奈美は蛇の太い胴体に縛り上げられていたのだ。

 

「可奈美ちゃん!」

「ほらほら、余所見しちゃだめだよ、ハルト君」

 

 挑発的なグレムリンは、すでにハルトへ指をさしている。

 その指示に従い、三体の蛇たちがウィザードへ狙いを定めている。

 炎で応戦するものの、大荒魂を再現した蛇たちには効果はない。そのまま食らい付こうとしてくるが、リゲルの砲撃が蛇の牙を押し飛ばしていった。

 

「ウィザード、行くわよ!」

「行くって、可奈美ちゃんは!?」

 

 ウィザードの視線の先には、今まさに蛇に縛り上げられている可奈美の姿があった。耳を覆いたくなるような音が鳴り続いているが、それでも彼女の目からウィザードへの敵意がなくなることはない。

 

「残念だけど、もう諦めるしかないわ! 衛藤可奈美に付き合った状態で状況を打破できるほど、奴もマキマも甘くない!」

「置いていけるわけないだろ!」

 

 ウィザードは怒鳴り、すぐさま指輪を発動させる。

 

『チョーイイネ スペシャル サイコー』

 

 胸につけられたドラゴスカルが吠え、炎を放つ。

 八体の蛇の内、数体は爆発により消滅したが、それも可奈美を縛り上げる蛇には到達しえない。

 そしてウィザードは、気付いてしまった。炎に紛れて、ヤマタノオロチの顔のうち一つが静かに背後に忍び寄り、リゲルを捕えようとしていたことに。

 

「リゲル危ない!」

 

 ウィザードは慌ててリゲルを突き飛ばした。同時に、その身が巨大な蛇に捕まることとなる。

 

「ぐあああああああああああああああああっ!」

「お? これは予想外。ハルト君、どっちも取ろうとする欲張りはあまり良くないよ?」

「ぐ……グレムリン……!」

 

 悠々と構えているファントムを見下ろしながら、ウィザードは毒づく。ウィザードの装甲はメキメキと悲鳴を上げており、可奈美の状態も気になっていく。

 

「せっかくだ。その姿の君、相当魔力が上がってるよね?」

「だったらなんだって言うんだ……?」

「ふふっ!」

 

 グレムリンはほほ笑む。

 途端に、ウィザードの体からがっくりと力が抜けていくのを感じた。見れば、深紅の魔力が紫に変換されて吸収されていく。

 

「こ、これは……!?」

「ヤマタノオロチには、彼女(・・)と同じ能力もあるみたいだね。さすがは蛇」

「ぐっ……!」

 

 もがいても、少しも解放されない。それどころか、だんだんとヤマタノオロチの力が増していくようにさえ思える。

 やがて、ウィザードの力が一段階抜けきってしまった。見て分かるほど、ウィザードは弱体化したのだ。

 

「やっぱりその姿の方が似合っているよ、ハルト君」

 

 グレムリンが嘲笑している。

 そう、彼の言う通り。

 今のウィザードは、フレイムドラゴンの魔力の大半を失った姿___フレイムスタイルにまで魔力を引き下げられていたのだ。

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