Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
ウィザードと可奈美の体が、高く突き上げられていく。
そのまま、二人は地面に叩きつけられる。
大きな痛みとともに、ウィザードは意識が半分飛びかけるのを感じる。ファントムの魔力を失い、フレイムスタイルとなった今のウィザードは、思っていたよりも耐久力が薄れ、衝撃の大部分が直に届いてきていた。
「があっ……!」
「ウィザード!」
そんなウィザードを救出しようと、リゲルが砲台を放っている。だがグレムリンが操る蛇たちは、彼女をあざ笑うように全て避け切っていた。
「君には用はないんだけどなあ」
グレムリンはその場から微動だにせずせせら笑う。
「あまり邪魔しちゃうと、この蛇たちが君に何かしてしまうかもしれないよ?」
「うるさいわね……! 今ウィザードを失うわけにはいかないのよ!」
叫んだリゲルは、何度も砲弾を打ち鳴らす。
太い光の道は、何度も蛇の胴体に命中していく。だが圧倒的な太さを持つ蛇はそれで怯むことなく、リゲルへ狙いを定めていく。
「リゲル……!」
ウィザードの目の前では、はたして 六体のヤマタノオロチの首が攻めてくる。広くない裏路地の密度を上げるように動く蛇たちに対し、リゲルが選択するのは高度上昇からの狙撃。
だが、蛇たちは蛇特有のなめらかな動きで、地面へ落ちてくる青の光を掻い潜っていく。
リゲルは唇を噛み、迫ってくる蛇たちの顔を剣で叩き落とす。そのまま、大きな砲台を掲げた。
すると、青い光が砲台に集まっていく。
そして。
「シャイニングブリッツバースト!」
叫んだリゲルは突撃。砲台をゼロ距離でウィザードを捕える蛇の肉体に押し当てた。
すると、発生した爆発。さすがにヤマタノオロチといえども耐えられず、ウィザードは自由となった。
「ありがとう、リゲル」
「ウィザード、繰り返すけど、ここは引くわよ!」
「だめだ……! ここで逃げたら、可奈美ちゃんが……!」
うめき声を上げる可奈美は、それでも敵意の眼差しをウィザードへ向けている。
防衛本能という大切なものよりも、ウィザードへの殺意。その事実を受け入れるのは、ウィザードにはとても難しく感じられた。
「彼女はもう駄目よ! それより、あの化け物に私たちがやられる可能性の方が高いわ! よしんば助けられたとしても、今度は彼女が襲ってくるのよ……!」
「だけど……!」
体が決して動こうとしない。
一方、それを見かねたグレムリンも顎に手を当てて笑っていた。
「敵になってしまった相手に随分とご執心だね、ハルト君。それとも、僕が壊してあげた方が良いかな?」
その言葉に、ウィザードは血の気が引く。
すでに蛇が高く可奈美を突き上げている。このまま地面に叩き落とされれば、いくら刀使といえども無事ではすまない。
だが。
「……なんだ……?」
グレムリンのうっとおしそうな声が聞こえてきた。
見れば、グレムリンの顔に赤い何かがいる。とても小さく、離れていては見逃してしまいそうな何か。
それは。
「ガルーダ……!?」
可奈美の監視に付けておいたガルーダが、必死にグレムリンの頭に体当たりを繰り返していた。
「ああもう……! 邪魔だよ」
グレムリンはほとんど相手にしないように吐き捨てた。
すると、手が空いている蛇がその頭を振るう。圧倒的な質量差に、ガルーダを軽く殴り飛ばされ、コンクリートに蹴落とされてしまった。
「ガルーダ……!」
「随分と頑張ったね。だけどだめだよ。君じゃどうしようもないんだから」
蛇の大きな口がガルーダを飲み込もうと迫る。
ウィザードはコネクトの指輪を発動。間一髪、ガルーダを手元に引き寄せた。
「悪いかよ……!」
ウィザードはじっとグレムリンを睨む。掌の
「大切なものを切り捨ててきたお前には分からないよ……!」
「へえ……」
その時。
ガルーダの全身が、より強い赤に発光していく。
その光は、ガルーダの指輪ごとフレイムスタイルの指輪へと注がれていく。
「が、ガルーダ!?」
長らくプラモンスターを使役しているが、こんな現象は見たことがない。
驚いている間にも、ガルーダに含まれている魔力は次々にフレイムの指輪に注がれていく。
そして訪れる変化。
フレイムドラゴンとはまた違った、ルビーの指輪。また別の装飾により彩られた指輪を見て、ウィザードはぎゅっと手を握った。
「ガルーダ……行くよ!」
ウィザードはそう告げて、その指輪を発動した。
「変身!」
『フレイム ガルーダ』
それは、ドラゴンとは異なる、更なるウィザードの可能性。
魔法陣から出現する幻影は、ドラゴンではなくガルーダ。
『ボー ボー ボーボーボー』
ガルーダの幻影があふれ出て、ドラゴンの時と同じようにウィザードの周囲を旋回していく。炎が横切るごとに、ウィザードの全身にガルーダのパーツが取り付けられていく。
その頭部にはガルーダの冠が付けられ、手足に炎が固定されていく。そして背中から溢れ出た炎は形を宿し、翼となる。
ウィザード ガルーダショータイム。
体が浮かび上がり、ウィザードは自らの体を見下ろす。
「ガルーダ……行くよ……!」
ウィザードがそう告げると、そのウィザーソードガンの刃先には、赤い魔力が帯び出す。
ウィザードはそのまま、翼とともに駆け出す。
赤い一閃。
それはあっという間に蛇たちの合間を縫い、グレムリンの体を切り裂いた。
「ぐあああああっ!」
火花を散らしたグレムリン。
さらに、ウィザードの追撃は続く。
無限に続く斬撃が、だんだんグレムリンの全身への切り込みが大きくなっていく。
だが、最初は確かに大きな打撃になったものの、やがてグレムリンはウィザードの攻撃に慣れていく。手に持った剣で、ウィザーソードガンを受け流していく。
「確かに機動力はずいぶんと高いけど、それ以外は全然だね」
それはウィザード自身も感じていた。
大荒魂の力を得たグレムリンに対して、ガルーダを纏った今のウィザードでは、決定打が足りない。
折り重なるように圧をかけてくる蛇たちを掻い潜り、上昇したウィザードは第一目標である可奈美を見据える。徐々に全身の白いオーラが薄れつつあり、このままでは命の危険さえも秒読みだ。
「ガルーダ……可奈美ちゃんを助けに行こう!」
ウィザードの言葉に、全身のアーマが強い返事をする。
迫ってくる蛇の首を切りつけながら、ウィザードは一気に可奈美まで接近。
だが。
「はいストップ」
目の前に現れたのは、赤ではない。ウィザードにとって見慣れた、緑のグレムリン。
「ぐっ!」
彼が突き出してきた剣を防ぎ、ウィザードとグレムリンはつばぜり合いになる。
「なるほどね。ヤマタノオロチは強力だけど、今の君みたいな速度重視の相手には本来の僕の方が立ち回りがよさそうだ」
ウィザードはグレムリンの言葉を聞き流しながら、可奈美がどうなっているかを確認する。彼女を捕縛する蛇は、宿主であるグレムリンがいなくなったことで動きが大きく制限されているが、それでも可奈美を捕える任務を放棄するつもりはないようだ。
「この……っ!」
そのままウィザードとグレムリンは打ち合う。
グレムリンのスピードに追い付けるようになり、ウィザードは移動しながらぶつかり合う。
『フレイム スラッシュストライク』
ウィザーソードガンにルビーの指輪を押し当てる。銀の刃に炎が宿り、燃え上がっていく。
やがてそれは、ウィザードを経由し、ガルーダの翼に渡っていく。風のウィザードも素足で逃げ出すほどの速度で、巨大な全身を切りつけていく。
う。
グレムリンの全方位から無数に切れ込みを与えていく。やがて火花が爆発に見紛うほどになっていき、この斬撃はグレムリンからヤマタノオロチを切り離した。
「何!?」
「可奈美ちゃん!」
地面に倒れたグレムリン、ヤマタノオロチ、そして可奈美。
ウィザードはそのまま可奈美を抱き寄せ、離れていく。
だが、可奈美の敵意は決して消えていない。即座にウィザードを振り払い、可奈美は千鳥でウィザードへ斬りかかる。
「くっ……! リゲル! 悪いけど、しばらくの間グレムリンの相手をお願い!」
「はぁ!? ちょっとアンタ、自分がどんな無茶言ってるか分かってるの!?」
だがウィザードは、完全にリゲルから目を離す。
迅位の動きに対抗するべく、ガルーダの速度を最大限に引き出し、ぎりぎり追いつく。果たして人間の目では追い切れないほどの速度で、可奈美と構えていく。
そして。
「……ここだ!」
ウィザードはその刹那、ウィザーソードガンを手放す。
くるくると回転し、地面に突き刺さる銀の銃剣。それを見届けたウィザードは、両腕を開いた。
そして放たれる千鳥の斬撃。散った火花とともに痛みを覚えながら、ウィザードは可奈美の腕を捕まえた。
「っ!」
「もう逃がさない……!」
ウィザードは可奈美の体を捕まえる。肩をがっしりと捕え、千鳥を握る腕も脇に挟んで動かせないようにする。
当然可奈美はもがくが、そこは仮面ライダーの異名を持つ戦士。力量差により、可奈美は完全にウィザードから離れられなくなっていた。
「可奈美ちゃん……目を覚ませええええええええええええ!」
フレイムスタイルとガルーダ。
ウィザードの叫びとともに、全身から炎が沸き上がる。魔力を帯びた炎は渦を巻きながら、全力で可奈美を焼き尽くす。
「うがあああああああああああああああっ!」
可奈美がとうとう悲鳴を上げた。
顔を背けながらも、意識を取り戻させるにはこれしかない。
ウィザードは彼女の体が傷つかないよう注意しながら、可奈美がぐったりとしていく様子を見つめていた。
そして。
「目を覚ませ……!」
その言葉は、他でもない可奈美からだ。
やがて可奈美は、がっくりと頭をもたげた。倒れ込みそうになる彼女を、ウィザードは慌てて支えた。
「可奈美ちゃん? ……可奈美ちゃん!?」
ウィザードは可奈美の肩を揺らす。だが、反応はない。
やりすぎてしまったか。
そんな予感が走ったとき、可奈美が顔を上げた。
「あー、ごめん。ダメっぽいや」
そんなけろっとした声が聞こえてきた。
その出所は、間違いなく可奈美。他人事のように、可奈美は自身の体を見降ろした。
「うーん、本当にどうなってるんだろうね。私には全く効果がないんだけど」
「可奈美……ちゃん?」
声は全く同じ。だけど、口調や声色がウィザードが知るそれと全く異なる。
可奈美は続けた。
「今可奈美の洗脳は、そう簡単には解けないっぽい。あんまり出てきたくないんだけど、この際仕方ないや」
「何、何がどうなっているのよ!?」
すぐ隣に着地してきたリゲルが叫ぶ。
すると、可奈美はリゲルの姿に「うおっ!?」と声を上げた。
「何これ!? すごい武装! 君、えっと……可奈美から聞いたけど、そうだ! 立花響だ!」
「……人違いよ。あなた、衛藤可奈美よね? 何よその反応」
「ん? まあ、何ていうか……」
可奈美は千鳥を両手の間でパスする。ウィザードはこの目でその動きを見たことはない。だが___だが一度、夢の中で会ったことがある。そんな気がする。
「藤原美奈都……」
その名前は、ウィザードのどこから浮かんできたのかは分からない。
だが、はっきりとウィザードの深層心理では、その存在に出会ったことがあると語っていた。
「うーん、なかなかに厳しいよね。人間だったら洗脳されちゃうんでしょ? だけどほら、わたし、今幽霊だからね?」
両手で幽霊のポーズをする
「全く……でも、それなら心強いよ!」
今、グレムリンから分離したヤマタノオロチが起き上っている。周辺の建物を飲み込むような大きさだが。
一度ヤマタノオロチを倒した可奈美、そしてその精神は最強の刀使である美奈都が隣にいる。
ガルーダの力を宿したウィザードは、この上なく心強くなっていた。
ウィザードのこの姿についてはSICを参照ください