Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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ウィザードが広場でマキマや洗脳された参加者たちと戦っている一方、リゲルは市役所に侵入していた


蟲毒

「来ると思っていました」

 

 その言葉に、リゲルは足を止めた。

 この市役所は、何かしらの城塞のような歴史的建造物を再利用しているらしい。

 だからこそ、中世的な大広間も存在し、普段は美術品を鑑賞できるよう市民にも開放している。

 そして、そんな大きな広間の中央階段の途中に、彼女はいた。

 

「マスター……!」

 

 柏木鈴音(れいん)

 いくらリゲルと言えども、自らのマスターに対してどうこうすることはできない。

 灰色のコートを着た、いつもの室内スタイル。日光をあまり浴びない白い肌を持つ彼女の自宅は、ここからかなり離れており、基本逃げ回るスタイルを主としている彼女がこの場にいるのは、マキマがそう命じたからに他ならない。

 

「最悪ね……あなたが私の前に立つなんて」

「リゲル。ウィザードに味方をするのですね?」

「あなたがその方針を取ったんでしょ。忘れたの?」

 

 リゲルの煽りへ、鈴音は言葉では返さない。

 代わりに、姿勢で示して見せた。躊躇ない、自らのこめかみに向けての行動。その手には、シンプルな殺意の権化___拳銃が握られていた。

 

「……!」

 

 リゲルは完全に移動速度がゼロになった。

 これはつまり、マキマからの人質だ。きっとこう命令しているのだろう。リゲルがこのフロアを突破したら自害しろと。

 

「マスターが決して行わないことよ。自らの生存を最優先に考えるマスターが……」

 

 だが、リゲルの軽口に鈴音は全く取り合わない。無表情のまま、リゲルを見据えている。

 

「自ら戦える参加者はウィザードの探索として各地に散って、単体で戦闘能力のないマスターはいずれ集まるであろうここ(市役所)に配置。お人よし揃いな上、参戦派の私には最大の足止め要因にもなれる。理に適っているわね」

 

 腹立たしいほどに、とリゲルは付け加えた。

 鈴音はじっとリゲルを見つめる。やがて、左手の銃を持ち上げたまま、右手を突き出した。

 その右手にあるもの。それを見た途端、リゲルは顔を引きつらせた。

 

「まずい……!」

 

 サーヴァントは、令呪の命令に逆らえない。今ここで彼女が令呪を使った命令を下せば、リゲルも実質マキマの手駒になるのと同然だ。

 だが、いつまで経ってもその時は来ない。鈴音は何度も口を動かそうとしているが、その口がそれ以上に開くのを拒んでいた。

 

「……マスター?」

 

 それが果たして彼女の意志か、それともマキマの洗脳が令呪への干渉を行うことを聖杯戦争が許していないのか、それは分からない。

 ただ、今だけならば鈴音を無力化できる。

 そう確信したリゲルは、すぐに行動に移った。

 すなわち、他の全てを投げ捨てでの、鈴音の拘束。

 リゲルはすぐさま、鈴音に飛び掛かる。リゲルの長い四肢が、鈴音を捕縛しようとする。

 だが。

 

「!」

 

 レーダーが、危険を訴えた。

 足を止め、振り向きざまにリゲルは手に剣を出現させる。

 同時に、剣を伝いリゲルの全身に重い圧が乗しかかった。

 

「衛藤可奈美……!」

 

 彼女の様子からすれば、マキマはリゲルも完全な敵と見定めたようだ。

 可奈美の冷静かつ正確な剣が、リゲルの首を狙い迫る。リゲルが持つ膨大な剣術のデータベースや予測により何とかいなしていくが、それでも可奈美の技量はすさまじい。

 

「あんた、こんな時に……!」

 

 千載一遇のマスター保護の機会(チャンス)を失った。リゲルは唇を噛みながら、鈴音を守るように立つ可奈美を睨む。

 

「いい加減にしなさいよ、衛藤可奈美……!」

鈴音(れいん)ちゃんに手は出させないよ!」

「私を悪者みたいに言うじゃない……! 本来なら、剣も使えない状態のくせに……! 何でこうなるとしっかりと使えてるのよ!」

 

 リゲルは叫び、砲台を手にする。

 だが、可奈美の動きに合わせて狙い撃つのは困難を極める。

 リゲルの光線をほんの髪の毛一本差でよけ、むしろそれは可奈美の導線となる。

 光線に沿って接近してきた可奈美。彼女の千鳥は、もう目前だ。

 

「くっ!」

 

 止められない。

 リゲルは自身の剣で千鳥の斬撃を防ぐ。

 そしてそこからは、可奈美の領域だ。

 彼女の剣技は、この世界でも指折りの実力を持つ。

 そんなものに対して、リゲルの剣では歯が立たない。剣を主にしている可奈美の動きは、素のリゲルでは敵わない。

 その上、今は鈴音が令呪を使うタイミングを今か今かと狙っている。その後に可奈美が動きを止めようが止めまいが、そうなってしまえばもうリゲルの負けだ。

 

「だったら……!」

 

 リゲルは自らのゼクスとしての本領を発揮した。

 可奈美が技量で千手先を予測するのなら、こちらはAI技術での予測だ。

 リゲルは全身にリソースをフルに活用。可奈美の動きを先読みし、数千通りの剣術を計算する。

 予測に予測を重ねた動き。詰将棋のごとく、一手で千手先まで見据えている者同士の剣技は、見る者がたとえ剣聖だろうと理解を超えていく。

 

「あんた、今あんまり剣が使えないんじゃなかったの!? キング・ブラッドレイにトラウマ植え付けられて!」

「そんなことないよ! 剣はいつだって、最高の相棒なんだからね!」

 

 笑顔だが、むしろその笑顔のまま剣を振るっているのにより一層の恐怖を引き立てる。ましてや、リゲルは剣で応戦するのに神経を尖らせている。

 最初は読みあいにより拮抗していたのに対し、やがてリゲルが劣勢になっていく。

 

「こういうのは柄じゃないんだけど……!」

 

 技量で負けているならば、力で上回るしかない。

 長期的に見れば悪手だと分かっているが、それでもリゲルは剣を持つ手に力を籠める。

 いくら卓越した技であろうとも、安定した出力が常に出せるわけではない。人間である以上、当然ムラがある。

 そして。

 

「はああああああッ!」

 

 ほんの一瞬。剣が振るい終えたこの瞬間に全力を注ぐ。

 振りぬいた千鳥は、大きく弾き飛ばされていく。それに伴い、可奈美の体から白いオーラも消失していく。

 

「よし……!」

 

 可奈美の能力は強力だが、その分全てを千鳥からの出力に依存している。

 御刀を手放してしまえば、もう彼女はただの一般人と同じだ。

 

「悪いわね。しばらく眠っててもらうわよ!」

 

 リゲルは即座に剣の出力を下げ、気絶にとどめるように剣を振り落とす。

 だがリゲルは、見誤っていた。狂気的ともいえるほど、剣術に没頭している可奈美。彼女の剣への目利きは、何も刀使として能力が底上げされているからこその物ではない。

 剣が関われば、可奈美はただの人間とは一線を画す。リゲルが操るゼクスの剣を受け止めることはできない。そう思っていたのだが。

 

「無刀取り……!」

 

 彼女の手は、しっかりとリゲルの腕を掴んでいた。

 無刀取りと呼ばれる、可奈美の流派、新陰流が有する体術。刀がない状態であろうとも、剣を持つ相手に対して対抗する手腕。

 

「……っ!」

 

 リゲルが目を見開くと同時に、可奈美の動きがさらに続く。

 この結果は、剣を取られた瞬間分かっていた。可奈美の手がまるで生き物のように滑り、リゲルの剣を取り払っていく。気付いたときには、もうリゲルの剣はその持ち主に刃先を向けていた。

 

「……っ!」

「形勢逆転、だね!」

 

 可奈美が声を跳ねさせる。

 そこから応戦しようともう一本剣を生成するものの、それはすぐに弾き飛ばされてしまう。その勢いで倒れたリゲルの首筋に、可奈美の剣があてられる。

 

「そんな……!」

「勝負あり!」

 

 やはり剣では勝てない。

 リゲルが唇を噛んだ時、静かに鈴音が語り出した。

 

「リゲル……あなたはこんな話を知っていますか?」

「な、何を……?」

 

 鈴音の口が動くのと時を同じくして、可奈美の動きが完全に静止した。彼女の明るい顔は、まるで鉄面皮のような不気味さを醸し出しているが、逃げようとしても彼女の剣の前から逃げられる計算式は立てられなかった。

 

「古代中国で行われた古い魔術……蟲毒(こどく)

 

 彼女の言葉を耳にした途端、自動的にリゲルのAIが検索を始める。すでに知識として持っていたリゲルは、黙って検索機能を切った。

 

「私前からこう思うんです。聖杯戦争は蟲毒によく似ているんじゃないかって……」

「まあ、同意できるわね」

 

 リゲルの返答は届いているのかいないのか。鈴音は全く応じない。

 ただ、この鈴音の言葉は彼女自身のものなのか、それとも彼女を支配するマキマのものなのか。それは分からなかった。

 

「蟲毒というのは、毒虫を使った呪殺の技法なんです。まず百種類の毒虫をひとつの壺に閉じ込めるんですよ。閉じ込められた毒虫は当然殺し合います」

「……」

「そして壺の中で虫たちが死んで、死んで、死んでいって、最後に残った最強の毒虫が……」

蟲毒(こどく)……」

 

 リゲルがその言葉を引き継いだ。

 自身で口にすると、少し愉快に感じてきた。剣先に近づくのに、思わず顔を背けて笑みをこぼす。

 

「そう。それが蟲毒……まさに、今の聖杯戦争と同じだと思いませんか?」

「ええ、そうね。……そっくりよ。あなたにもよく似ているわね……」

 

 リゲルはそう言って、鈴音を見据える。そして、マスターを操り人形にして糸を引いている支配者へ言い切った。

 

「壺中の女王……ウォッチャーのサーヴァント、マキマ」

 

 このまま動かなければ、この一画の虫たちは永遠に食らい合うことはないだろう。

 そう考えたリゲルは、このままずっとここで静止していることにした。そうすれば、絶対的な速度と剣術を持つ可奈美と、自らの生命線(マスター)である鈴音はこの場で固定できる。

 だが。

 

「おや、おや、おや」

 

 世の中、そううまくはいかない。

 全く聞き覚えのない男性の声が、この場に入ってきたのだ。

 なぜだ。派手な赤いローブの乱入者を凝視しながら、リゲルはマキマがここに新たな人物を差し向けた理由を探し求める。可奈美でリゲルの命を奪わない以上、マキマにとって現状より有利な状況は存在しない。それなのに、なぜこの空間に人が入ってきたのか。

 

「待ち侘びていましたよ……?」

 

 赤……臙脂色のローブに身を包んだ男性。彼は君の悪い笑みを浮かべながら、ゆっくりとした足取りでこの広いフロアへ立ち入ってきた。彼はリゲルを、可奈美を、鈴音を見据えながら高笑いを上げた。

 

「ああ、ようやくだ……なんて刺激的な時だ……!」

 

 この現代で、あんな金色の装飾がついた大剣を担ぐ一般人などいるわけがない。そして、マキマの支配を受けずに自由に動いている。

 フードを外し、ウェーブかかった髪型を見せたその男性は間違いなく。

 

「聖杯戦争の関係者ね……」

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