Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
一方、マキマにより響と友奈を差し向けられたウィザードは……
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「やあああああああああああああああああああ!」
黒と桃色。二色の拳が、地面を穿つ。
それに対し、ウィザードは全力の蹴りで応える。灼熱の炎が、二人の拳と相殺し合い、爆発を引き起こす。
「ぐっ……!」
聖杯戦争トップクラスの突破能力を持つ二人が相手だ。簡単に相打ちすることはできず、ウィザードの方が大きく吹き飛んだ。
尻餅をついたウィザードは、回ってそのまま追撃してくる二人の攻撃をかわす。
『ビッグ プリーズ』
「はあああっ!」
普段なら巨大な腕で圧倒する使い方が多いが、彼女たちへはそれだけでは通じない。
炎のウィザードの魔力をより強く込め、炎の手となり二人へ向かう。
だが。
「だとしてもッ!」
「勇者は根性っ!」
二人の拳は、たとえ炎だろうとも打ち砕く。
巨腕は炎ごとかき消され、さらにその中から二人が迫ってくる。
『ディフェンド プリーズ』
無論、炎の壁だろうとも意味をなさない。
だが、一瞬の目くらましになれば十分だ。
『ライト プリーズ』
本命の目くらまし。
人間の視界を狂わせる光量が、二人の視神経を麻痺させる。飛び上がっている今だからこそ、二人も自由に動くことができない。
すぐさまウィザードは、ローブから炎を発生させ、両腕に集中させる。炎の掌底を一気に、二人の腹に目掛けて放った。
心の中で謝罪しながら、ウィザードは二人がこの広場の奥まで吹き飛んでいくのを見届けた。
だが、今ウィザードを狙うのは響と友奈の拳だけではない。
「いたぞ! ウィザードだ!」
「倒せ! 奴を血祭に上げろ!」
多種多様の怒号が、見滝原北の広場を埋め尽くしていく。
いつしか、この広場には無数の参加者が入り組むように入ってきていた。
地響きが鳴り響き、声が質量を伴って迫ってくる。そして、その発生源はとてもこの世界のものとは思えない者たちだった。
「あいつらも……参加者なのか」
剣士、銃士、魔法使い。
古今東西のファンタジー作品から出てきた者たちが、虚ろな目でウィザードへ攻め込んでくる。
『コネクト プリーズ』
「数が多すぎるだろ!」
これまでウィザードが戦ってきた参加者など、ほんの一握りだ。
その事実を実感し、ウィザードはウィザーソードガンを握る拳に力を籠める。
「こんなに……いるのか……!」
マキマもいるというのに、ウィザードは完全に体から力が抜けてしまった。
だらんとぶら下がった手からは、ウィザーソードガンが音を立てて地面に落ちる。
だが、異能者たちが配慮をしてくれるわけがない。素手になったウィザードへ、彼らの物量攻撃が迫る。その場から急いで退避するが、それによってウィザーソードガンが彼らの足元に見えなくなってしまう。
「ぐっ……!」
一瞬ながら心が折れたことに心底後悔しながら、ウィザードは剣士の攻撃を受け流す。続く銃士の銃弾と魔法使いの炎を背中に背負い、怯んだ隙に剣士の一撃がウィザードの鎧を弾いた。
「ぐあっ……!」
すでに至近距離にいる剣士は一人ではない。全く毛色の異なる剣士たちが、一斉にウィザードへ攻撃を行ってきている。
「あーあ、これは大変だね」
いつの間にか、マキマは広場中央の時計台の上にいた。丸い時計に腰を落とし、膝を交差させながらこちらを見下ろしている。
「どうする? このままここで永遠に参加者たちと戦い続ける?」
「マキマ……!」
だが、彼女へ気をかけている暇はない。
たった数秒だとしても、あらゆる参加者が入れ替わり立ち替わりウィザードへ攻撃を仕掛けてくる。それも一方向だけではない。死角を含めて、あらゆる方向から参加者たちが雪崩れ込んでくる。
彼らの外見は本当にバラエティ豊かだ。古今東西という言葉がこれほどふさわしい状況もなかなかないだろう。
彼らの攻撃を受け流していくと、いつしかウィザードの深紅のローブに炎が走っていく。
そして。
「いい加減にしろおおおおおおおおお!」
回転するウィザードの手刀が炎を放つ。
炎は爆熱となり、周囲の参加者たちを一気に焼き払った。大きく吹き飛び、彼らは黒焦げになりながら地面に投げ出されていった。
「はあ、はあ……」
全員、息はある。
最低限それだけを確認し、ウィザードは続く参加者たちの波に備える。
『バインド プリーズ』
『ビッグ プリーズ』
『エクステンド プリーズ』
あらゆる魔法を動員させ、参加者たちを蹴散らしていく。
拘束し、巨大な腕で押しつぶし、伸縮可能な蹴りで薙ぎ払う。参加者たちは次々に倒れていくが、それと同じように後ろに控えていた者たちが雪崩れ込んでくる。
だがそれでも、人間の欲望のように数が減らない。
一体どれだけの人数が、マキマに操られているのだろう。
そして。一体どれだけの参加者が、この見滝原に潜伏していたのだろう。
「きりがない……!」
「そっちが魔法なら、こっちも魔法をぶつけてやる!」
参加者たちの誰かがそう宣言したのを契機に、状況が一変した。
剣士たちの攻撃から、今度は魔法使いの魔術詠唱の嵐だ。
火の玉、氷の礫、風と雷の矢、土の弾丸、毒の液、光と闇の一閃。
いつしかこの見滝原の広場は、無数の世界の代表者が入り混じる戦場となっていった。
「こんなの、いつまでも耐えられないぞ……! リゲルに追いつかなくちゃいけないのに……!」
ウィザードは全力で走り、魔法の雨から逃れる。ウィザードがいた場所が次々に被弾し、コンクリートがはじけ飛んでいく。
だが、すぐに魔法たちは追いついてしまう。
「だったらこれだ!」
『チョーイイネ スペシャル サイコー』
ウィザードの魔法陣が、その胸元に力を与える。
魔力が生成した、ドラゴンの頭部。ドラゴスカルは、無数の参加者たちへ威嚇した。
「「「「「ファイアボール!」」」」」
参加者たちが一斉に火球を放つ。多種多様の世界から降臨した同名魔法が融合し、より巨大な火の玉となった。
それに対し、ドラゴスカルが負けじと吠える。浮かび上がったウィザードは、その胸の炎を大きく吐き出し、ドラゴブレスを放った。
膨大な炎と炎。それぞれがまじりあい、より巨大な火炎となり、アスファルトの地を埋め尽くし、蒸発させる。
周囲の建物から窓ガラスを破壊し、ガラスの雨が降り注ぐ。
その中、ウィザードは数多くの参加者たちが倒れていくのを目撃していた。
「はあ、はあ……」
これでかなりの人数は戦闘不能になったはずだ。が、まだまだ見滝原に渦巻く欲望は残っている。
「後、何人いるんだ……?」
倒れた参加者たちを乗り越えて、まだまだファンタジー世界の者たちがにじり寄ってくる。やがて彼らもまた、魔法や弓など、多様な遠距離攻撃を放ってきた。
防ぐか、跳ね返すか、それとも避けるか。
だが、普段なら簡単に選別できていたその判断も、今やまともに取れないほど、ウィザードの疲労は蓄積していた。すでにそれらは、ウィザードの目の前に迫ってきている。
そして。
「これは……っ!」
彼らの攻撃は、ウィザードに届くことはなかった。
ウィザードの目前に現れた半透明な壁が、あらゆる攻撃を受け止めていた。
そして、それを発生させているのは六つの黒い機械。ダガーのような形をしており、六角形の頂点を描くように配置されている。
「えりかちゃんの……!」
途端に、青い光が目の前に走る。
「松菜さん! ご無事ですか!?」
「えりかちゃん!」
ウィザード第二のサーヴァント、蒼井えりか。
彼女はすぐさま状況を察したのか、右腕を上げた。
「シールドトルネード!」
彼女の号令で、黒い機械は即座に陣形を変形させる。円形のままえりかの手の上で回転し、一気に残る攻撃を打ち消した。
「あ、ありがとう……助かった」
「はい!」
「他の皆は?」
「バラバラになりましたけど、大丈夫でしたよ」
彼女の肩には、ユニコーンが鎮座していた。プラモンスターが彼女をここまで連れてきてくれたのだろう。
ウィザードの手に戻ったユニコーンは、すぐにその体を消滅させた。残った指輪を収納したところで、ちょうどえりかが顔を背ける。
「でも、時崎さんだけ行方不明なんです……」
「狂三ちゃんが?」
「はい。あの……爆発やら無数の参加者たちに襲われたとき、完全にはぐれてしまって……」
「……」
彼女は分身だ。とはいえ、今は協力関係なうえ、信頼もしている。
気がかりにはなるが、そのためにここで止まることはおそらく彼女の本意でもないだろう。
少し考え込んでいたが、そんなウィザードへえりかが語り掛けた。
「大丈夫に決まってるだろ!」
楽観的ともいえる答えが、ウィザードの背中を叩く。
見れば、金色の猛獣がすぐそばにいた。
「コウスケ!」
「かなり大変だったぜ、デイダラの野郎を振り切るのはよ!」
魔法使い、ビースト。彼は腕を組みながら、無数の参加者たちを睨む。
「ったく、監督役の口車に乗せられたアホがここまでいるなんてなあ!」
「それ、俺たちも一応当てはまるよ? 乗せられたわけじゃないけどさ」
「皆までいうなって!」
自分にとって不都合なことは聞かないことにしたビーストは、どこからか青い銃を取り出した。
ビーストが激戦を経て生成した力。たとえ形態を変化させていなくとも、使用することができるようだ。
ビーストはその引き金を引き、参加者たちの足止めをする。
だが、その中に突っ切ってくる者たちがいた。
「響、それに友奈……!」
あの参加者たちと同様、マキマにより先兵にされている二人。ビーストは即座にダイスサーベルを手にし、そのダイスを回す。
『2 バッファ セイバーストライク』
そして放たれる赤い猛牛。それは、二人とせめぎ合い、その勢いを殺した。
「ここまで戦って継戦はきついだろ。休憩しながら移動しておけ。ここはオレたちが何とかするからよ」
「大丈夫かよ……? 響ちゃんに友奈ちゃんだっているんだぞ……?」
そう。あの二人は、魔法一つで抑えられるほど甘くない。
二人が放った拳に、赤い猛牛は消滅していった。
「心配すんな! こいつもあるしな!」
ビーストは銃と同じく青い指輪を見せつける。中心には金色の装飾が施されているそれは、ビーストの切り札だ。
「三回目の使用がお前ら相手だとは思わなかったぜ! 響、友奈!」
『ハイパー ゴー』
青と金の魔法陣がビーストを通過する。
ただでさえ派手な装飾がより一層ランクアップする。青と金の二色が眩く輝き、目の前の参加者たちは一時目を覆う。
「ハルト、行け! あのバカ二人はオレが止める!」
「なら、私は他の皆さんを!」
「……! ありがとう!」
今なら、完全に振りぬける。
ウィザードは全速力で広場を走り抜ける。すでに光が治まりかけているころ、背後ではすでに言葉通りの事態が発生していた。
響と友奈の前に立ちはだかるビーストが格闘を繰り返しており、えりかの盾が最大限に展開され、参加者たちの攻撃を受け止めていた。
そして、目の前。巨大な城塞の入り口がぐんぐんと近づいてくるが、その前に黒いコートが立ちはだかった。
「行っていいの?」
マキマは、右手の指輪を見せつける。
結梨にプレゼントし、彼女の形見となって返ってきた指輪。中指から甲にかけて陽の光を反射するそれに、ウィザードは足を止めた。
「これ、取り返したくないの?」
「……逆に、お前が俺をここに足止めをするのか……?」
ウィザードは拳を握る。
彼女の手から指輪を取り戻したい。だが、そうしている間にあの施設内では、可奈美がリゲルに襲い掛かっているかもしれない。
彼女に足止めをされたくない。そう思っている間にも、マキマは指をこちらに向けている。
「ばん」
「ッ!」
見えない弾丸が放たれる。
ウィザードが回避すると、先ほどまで踏んでいたアスファルトが破裂する。粉々になったコンクリート片が、頭上から雨のように降り注いでいく。
そして、そのままウィザードへ狙い撃ちされる見えない弾丸。
だが。
「……っ!」
途端に、マキマの無表情が険しくなる。それまでウィザードに向けられていた余裕は消え、警戒とともに飛びのいた。
すると、彼女がいた地点を黒い光線が飲み込み、蒸発させた。
この黒い光線を見た途端、ウィザードの内心が沸き上がった。
「キャスター……!」
「君が……キャスター」
それ以上の言葉は不要。
舞い散る無数の黒い羽根をたどって見上げれば、その姿は確かにあった。
漆黒の全身に、頬を走る赤い涙線が特徴の彼女は、全くの無表情のままマキマを見下ろしていた。
「なるほど。君がキャスター……うん」
マキマはゆっくりと口元に笑みを浮かべた。
「勝てる気がしない」
だが、果たしてそれがマキマの本心だと思える者がいるだろうか。
少しも絶望の表情などなく、彼女はじっとキャスターを凝視している。
今は一刻も早く見滝原市役所に入らなければならないのに、ウィザードはただその場でじっとしていることしかできなかった。
やがて、ウィザードは肩に乗る手で我に返る。
「松菜ハルト」
「! ほむらちゃん……!」
キャスターのマスター、暁美ほむら。
すでに白と紫を基調とした魔法少女と呼ばれる衣装になっており、彼女は頷いた。
「ウォッチャーは私とキャスターで引き受けるわ。奴を野放しにはしておけない。私たちにとっても、きっと脅威になる」
「……ありがとう。でも、気を付けてよね」
リゲルを助けに行く。可奈美を止める。そして、キング・ブラッドレイおよび巨人の暴走を止める。
その三つを胸に秘め、ウィザードは見滝原市役所へ駆け込んでいった。
そして、ウィザードが知る由はなかった。
ウィザードを見送ったマキマが、静かに語るのを。
「いいよ。別に」
マキマは静かに、キャスターとほむら、そしてこの広場で戦う参加者たちをじっと見据えた。
「彼に止められるとは思えないし。君たちの誰にもね」
いつしかマキマの頭上には、天使のそれにも似た天輪が浮かび上がっていた。
ただし、腸のように生々しい出来のものが。