Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
リゲル 可奈美と戦闘中に乱入者
狂三 行方不明
その他 広場にて大混戦
乱入者の存在は、可奈美と鈴音も絶対有利の体勢を崩すほどだった。
「今っ!」
可奈美の気が反れた隙に、千鳥を蹴飛ばして脱出。今やリゲルと可奈美の間に走る黄金の一閃は、この男が振るう剣だった。
「また別の参加者……? まさか、市役所の中にも潜り込んでいたなんて……!」
「ほう、その言い方……あなたもがたも、聖杯戦争の参加者ということですか」
男は可奈美を、鈴音を、そしてリゲルを見据える。それぞれに対して大きく顔を歪め、笑い声をあげた。
「マスター? それとも、サーヴァント?」
リゲルが剣を向ける。
すると、この男は肩を震わせながら「ええ」と頷く。
「少し違います。が、どうやら私にも運は味方しているようだ……あなた方参加者を始末すれば、私も晴れて参加者に仲間入りさせてくれると監督役が約束してくれた!」
「その言い方から察するに、参加者というわけではなさそうね……見学者かしら? それとも……」
リゲルは目を細める。この局面で現れる、聖杯戦争の事情に精通している者。ということは。
「処刑人……」
「ご明察」
男はさらに顔を歪めた。
「聖杯戦争……なんて素晴らしい饗宴でしょうか! 私自身が参加できないのが残念で仕方ありません」
彼は両手を大きく広げてフロアを歩き回る。足音が響き、彼の赤く長いローブが地面をゆっくりと擦っていく。
「ですが、私も新たにこの世界に呼ばれた以上、私が行うべきことをするほかありません。そう、新たな争いをね……」
「あなた……狂ってるわね」
リゲルは冷たく吐き捨てた。
すると男は、顔を大きく歪めた。
「この私を侮蔑するな!」
何と短気なのだろうか。
リゲルがそんな感想を抱いている間にも、男の情緒のボルテージは上がっていく。
顔を数回震わせた後、彼は水を打ったように、落ち着いた表情を浮かべた。
「まあいいでしょう。お前はすぐにわかるのですから。この私の偉大さを」
突然表情を落ち着かせた彼は、やがてそれを取り出した。
臙脂色の枠組みが特徴的な直方体。質感は固そうだが、その動きから、リゲルはそれを世にありふれたものと同一だと断じた。
『オムニフォース』
本。
絵画のような表紙をめくられると、本は自らそのあらすじを音読していく。
『伝説の聖剣と選ばれし本が交わりし時、偉大なる力を解き放つ』
読み上げられると同時に、男の背後に巨大な本が設置される。それが開くと同時に、その本から真紅の霞が溢れ出してきた。
「何、あれ……」
まるで世界の終わりを告げる予言書のような印象。
改めて本を閉じた男は、静かに、いつの間にか装着していたベルトに本をセットする。
そして。
「変身」
男が告げる。
すると、霞と同時に溢れ出た金色の光が男の身体に集い、新しい姿を作り上げていく。
『オープン ジ オムニバス フォース オブ ザ ゴッド カメンライダーソロモン』
新たに生成されたのは、この世界を破滅させる全知全能の書を持つ者の姿。
剣を肩に持ち上げた際、本が最後の一言を語った。
『フィアー イズ カミング スーン』
「処刑人……!」
リゲルが警戒を浮かべる。
男が変身した、金色のその肉体。
あの音声によれば、それはソロモンという名前らしい。
「さあ……始めましょう。私の新たな戦争を……!」
ソロモンはその手に持つ大剣、カラドボルグを突き付ける。彼はすぐさま、攻撃に移った。
その動きは、リゲルの予想を超えるものだった。大剣を扱うのであれば、その動きは大振りになるはずだ。だが、ソロモンの剣はそうはいかない。
機敏な動きを保ったまま、リゲルへ苛烈な攻撃を加えていく。
当然、彼の動きも全てリゲルはデータとして頭に叩き込んでいく。だが、この世界に存在するあらゆる剣技とは全く異なる動きの彼に、リゲルはすぐに対応できない。
「ぐっ……!」
剣を盾にするが、ソロモンの苛烈な攻撃は簡単にリゲルを圧倒してくる。
ならばと距離を取り、腕に出現させた砲台を向ける。
「食らいなさい!」
青の奔流が放たれる。
だが、それがソロモンに命中することはない。カラドボルグを地面に叩きつける形で光線は両断され、それぞれ奥の壁を爆破した。
「……!」
大きく目を見張るリゲル。
だがすでに、ソロモンの動きは反撃に転じていた。金色の残滓とともに、その姿はすぐ目の前に迫っていた。
「さあ、食らいなさい! 神の一撃を!」
ソロモンのその言葉とともに、痛烈な痛みが襲い掛かる。
リゲルの肩口から、黄金の斬撃がその身を裂いていた。
「がああっ!?」
大きく転がったリゲル。
全身に走る痛み。起き上りながら、これまでの戦いの内容を分析するが、情報収集能力以外、リゲルに勝機は見いだせなかった。
「全く……何かを守るなどというくだらないことを……! 無力な者など放っておけばいいのです。自らが持つ力を振るい、あらゆる破壊を振りまく。それこそが最も素晴らしく刺激的な生き方だというのに」
「邪魔しないで!」
そう叫ぶのは可奈美。
背後からソロモンへ斬りかかる彼女だったが、それさえもソロモンには読み取れていた。あたかも予め記されている予言書に従っているかのように、軽やかなソロモンを可奈美の剣が捉えることはない。
「小娘が……ッ! 神たる私に歯向かうか!」
その大剣が、可奈美にも牙を向く。可奈美は大剣を受け止め、そのまま何度も打ち合っていく。だが、神を名乗るだけあり、その剣術の腕は可奈美のそれにも匹敵する。
だんだん可奈美は劣勢になっていき、追い詰められている。
「衛藤可奈美……!」
一度地面を手でたたき、リゲルは砲台を掲げる。すると、青の世界のリソースが、砲台に集中していく。
「シャイニングブリッツバースト!」
銃口に光を溜めながら、リゲルは突撃。
ゼロ距離で放たれる一撃。すさまじい一撃を誇るものだが、ソロモンは全く動じない。
ベルトに装着された本を一度閉じ、上部のスイッチを二度押す。
すると、本が新たなページを開く。ソロモンの右腕と大剣が描かれたページがめくれると同時に、その解説が流れる。
『オムニバス ローディング』
本から剣へ、まがまがしいエネルギーが流れていく。
すると、金色の剣が巨大化していく。この広い階層の天井まで届きそうな大きさに、リゲルは思わず動きが止まった。
『ソロモン ストラッシュ』
振り下ろされた大剣と青の光が激突する。拮抗していたと思ったのは、リゲルの錯覚でしかない。すぐさまリゲルの攻撃は両断され、本人にも斬撃のダメージが及んでいく。
「ぐあっ!」
エネルギー量が違い過ぎる。むしろ体が無事だったことを幸運に思うべきだ。
リゲルは起き上がりながら、可奈美の様子にも気を配りながらソロモンを睨む。
「いいですね。あなたはまだ戦ってくれるのですね……」
ソロモンは首を左右に揺らしていく。
「ですが、少し物足りない。このままあなたを倒すのは簡単ですが、もう少し刺激が欲しい」
「刺激? 何を言っているのよ。殺し合いをしているのよ、私たちは。刺激なんてもう辟易するぐらいあるでしょう」
「いいえ? これ程度では足りないのですよ……私の心を満足させるには!」
ソロモンはそう言いながら、剣を縦に向ける。
高速で移動する可奈美の攻撃を完全に読み切り、それを防いでいたのだ。
「無駄なことを。神に傷をつけることなど、小娘ごときには不可能なことですよ!」
ソロモンから放たれる苛烈な斬撃。剣を受けることが得意な可奈美であろうとも、神を名乗る斬撃を受け切ることはできない。
いつしか可奈美は受けきれず、その身に何度も斬撃を食らい、飛ばされることとなった。
「さて。少し趣向を凝らしてみましょうか」
ソロモンの目が、隠れている鈴音に向けられる。
「あなた方のような者たちは、大切にしているものを壊されてしまえば一体どんな顔をするのですか?」
「……!?」
彼の真意を察した途端、リゲルは叫んだ。
「マスター! 逃げて!」
だが、リゲルの悲痛な叫びでも、今敵として洗脳されている鈴音には届かない。
マキマの影響下にある鈴音はじっと隠れているままだ。
そしてそれは、瞬間移動をして見せたソロモンにとって、恰好の獲物となる。
「ははっ……! 逃がしませんよ?」
ソロモンは愉快そうに首をカタカタと動かす。
首を掴まれて初めて、鈴音は顔に恐怖を浮かべた。だが、もう手遅れだ。
すでに襟首を掴まれた鈴音は、ソロモンに拘束されてしまった。
「マスター!」
このままでは、あの処刑人に好き勝手させられる。
リゲルは自らの体をカードデバイスに変化させ、一気に可奈美へ向かう。彼女の剣をひらりと躱し、刀使の体と接触する。
『強制オーバーブースト!』
青の光が発生する。リゲルの武装が瞬時に可奈美へ装着され、その姿が変わっていく。
『私の剣じゃ、アイツは止められない……! 少しだけ、剣の腕を借りるわよ!』
右手には千鳥。左手には生成した剣。
二本の剣を手に、リゲルは可奈美の体を乗っ取った。
だが、今可奈美はリゲルを敵として認識している。体の自由を奪われたと感じている可奈美が抵抗するから、あまり自由に体を動かせない。
「どうしました? 動きが随分とぎこちないですが、それで戦えるのですか?」
『放っておきなさい!』
聞こえるはずのないが、リゲルは反抗した。
二本の剣で、カラドボルグを受け流しながら、リゲルは一体化している可奈美へ呼びかける。
『いい加減にしなさい、衛藤可奈美っ!』
オーバーブーストにより、それは可奈美の脳に直接響いた。
音が彼女の脳を揺らし、意識が揺れる。だけど、それでもまだ洗脳を解除できていないのは、一体となっているリゲルが一番認識できた。
可奈美は頭を大きく振る。これでも、まだマキマの支配下からは逃れられない。予想と反する動きでこの体はより動かなくなり、その隙に何度も斬撃が体を貫く。
リゲルは呼びかける。何度も、何度も。だがマキマの束縛は強く、やがてソロモンの反撃を捨てて回避に専念するしかなくなっていく。
その時。
_________目を覚ましなさい、可奈美!________
聞こえた。
衛藤可奈美と同化している自分の頭にも、はっきりと誰かの声が。
『……!』
可奈美の動きが止まった。
だが、それが何かと疑問を持っている暇などない。
すでに動けなくなっている自分たちへ、ソロモンの剣先が迫ってきているのだから。
もう、他に手はない。
自らの体となっている可奈美と、ソロモンの手に掴まれている鈴音。
『マスター……許しなさいよ、これくらい……!」
言葉の後半からは、もうオーバーブーストを解除していた。そして、すでに眼前にあるカラドボルグへ___
「……っ!」
寝ていた。だろうか。
頭がすっきりとしている。さっきまで長い間、頭が何かもやにかかっていたようだ。
いつの間に地面に倒れていたのだろうか。ゆっくりと起き上がり、可奈美は今自分がどこにいのかを確認する。
かなり古風な作りの大広間。見滝原ではないかのような場所に、可奈美は一度目を疑う。
そして、目の前に落ちている自らの分身に目を移す。
「千鳥……」
御刀、千鳥。これまで苦楽を共にしてきた愛刀。体になじむ重さを感じるが。
「……うっ……!」
持った途端、体に痛みの記憶が走る。
震える手だが、それでも剣にまつわる大切な思い出が、千鳥を握らせた。
「何よ。遅いお目覚めじゃない、衛藤可奈美」
その時、よく知る声に顔を上げた。
幾度となく聖杯戦争に関して同じ時を過ごした、ガンナーのサーヴァント。
「リゲル……さん……?」
だが、目の前のそれを見て、可奈美は言葉を失った。
「リゲルさん!」
「リゲル!」
可奈美と鈴音。
その姿を見た二人の悲鳴が、広間に響き渡っていった。
大剣、カラドボルグに胸を貫かれていた、リゲルの姿を。