Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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見滝原北にて、様々な戦いが繰り広げられていく。
そして、見滝原区役所の最上階では……


異物と遺物

「下が騒がしくなってきたな……」

 

 見滝原市役所の市長室。静寂が支配するはずのこの空間だが、先ほどから遠い爆発音が響いてきている。

 秘書マキマの進言に従い、戦えない邪魔者を市役所から排除しておいてよかった。騒ぎが広がってしまえば、自分達の邪魔になるに違いない。

 

「ふむ。……ベルトルト」

「はい」

 

 背後に待機している自らのサーヴァントの一柱、ジャイアントのベルトルト。

 

「君も下の騒ぎに参戦してきたまえ。おそらく何人かこの施設に入り込んでいるかもしれないから、排除もしておきたまえ」

「……分かりました」

 

 数刻の沈黙の後、ベルトルトは市長室を後にした。また訪れる沈黙だったが、特に何をするでもない。キングはただ、下で行われている聖杯戦争を見下ろしていた。

 青と金色が混じった光が迸っている。だが、それを覆い被さるように白い氷が広がっていく。あれも参加者たちが戦っている時に発生しているものなのだろう。

 無数の爆発が連鎖的に続いている。さらに、上空では黒と赤が派手な花火を繰り返している。おそらくマキマは後者だろう。

 

「ふむ。これだけの数の参加者がこの見滝原にいるとは……これも人間の欲望か」

 

 そこまで言い切ったところで、扉が蹴破られる音が響いた。

 ゆっくり振り向けば、この市役所にふさわしくない服装の人物がそこにいた。

 独特な茶色の民族衣装に身を包んだ青年。胸元と左目に独特の紋様が刻まれており、その目はとても冷たくキングを見据えていた。

 

「ほう……」

 

 壮年の顔に、感心が浮かび上がる。

 

「この場の一番乗りが君だとは予想していなかったが……どうやら君は、マキマの影響を受けて居なさそうだ」

 

 彼女からは、すでにこの状況の詳しい説明を受けている。

 曰く、マキマ自身が下だと認識、理解した存在を操ることができるとのことだ。彼女は当然人間を理解しているため、その精神を支配することができる。犬や猫、ネズミや虫といった生物たちも同然だ。

 

「君はどうやら彼女の理解が及ばないようだ。だが、生身の人間にしか見えないが……どういうことかね?」

「そんなことはどうでもいい」

 

 あらゆる発言を、彼は吐き捨てた。

 いつの間にか彼の手に握られているのは、見慣れない携帯端末。厚みやディティールがキングのスマホとは全く異なる形状をしており、未知の機器と言えた。

 

「君のことは知っている。超古代文明、ムーの生き残り。だろう?」

「……フン」

「名前は確か……ソロ」

 

 名を言い当てられたソロは目を細める。

 

「そしてそれがムーの遺産(スターキャリア)か。そういえば、君はサーヴァントを連れていないそうだな」

 

 キングは壁に飾ってある剣を手にしながら続けた。

 

「ムーが栄えたのは一万年ほど前だったか。マキマが定義する人間とは、ここ一万年以内の話なのか、それとも君たちムー人に何かしらの特殊な能力があり、それによって支配能力が及ばないのか。神のみぞ知るか……」

「マキマ……それがキサマのサーヴァントか……」

 

 ソロの目が、キングの右腕に向かっていく。

 キングの右腕に刻まれる二人分の令呪。それを見た途端、彼の目に冷たさが宿る。

 

「信用できない相手に、よくもまあ命を預けようとしたものだ」

「ほう。君は聖杯戦争の参加者にも関わらず、サーヴァントを召喚しないらしいな」

「自身以外の力を使う奴らの神経が理解できないものでね。それに……自分の手ではなく、ただの人間で取り囲んで戦うお前の手が気に入らないんだよ……」

「ふむ。私というよりも、マキマのやり口に文句があるということかね」

 

 ソロの返答は、端末の起動。その先端より発せられた光が、空中に紋章を描き出す。

 その紋章について、最近まで知る者はほとんどいなかっただろう。だが昨年末に起こった事件により、それは多くの人々が知ることとなっている。

 

「ムーの紋章……」

 

 それは、だんだんと数を増やしていく。ソロの前後左右を覆うように出現したそれはに構うことなく、ソロは両手を左右に伸ばした。

 そして。

 

「電波変換!」

 

 その一言とともに、紫の光が柱となってソロを包み込む。より一層大きな紋章が出現し、ムーの生き残りは新たな姿へと生まれ変わる。

 全身を黒に包んだ姿。目元を紫のマスクで隠し、胸元に大きくムーの紋章を刻むその姿は。

 

「ブライ……!?」

 

 そう言ったのは、松菜ハルト。

 いつの間に市長室に到着したのだろうか。彼と衛藤可奈美、そしてもう一人___柏木鈴音が、市長室入り口に詰め寄っていたのだ。

 

「なんでソロがここに!?」

 

 だが、ブライは二人を一瞥するだけだ。

 いつしか、彼の背後には灰色の幽霊まで出現している。視覚が果たしてその生物の実体を伝えてくれているのかさえも怪しい生命体。それはブライに背を合わせ、ハルトたちへ向かい合っている。

 まるで彼らに「邪魔をするな」と訴えているようだ。

 そして、ブライの手にムーの術式が展開されていく。生成されていく剣を握り、ブライはその刃先をキングへ向けた。

 

「超古代の戦士か。面白い、受け立とう」

 

 キングはそう告げ、身構える。

 そして。

 錬金術により生を受けたホムンクルスと、ムーの生き残り。

 この世界における異物と遺物の戦いが始まった。

 

 

 

 何がどう動いているのか、全く追いつけない。

 だが、ファントム(ドラゴン)としての目が、その光景をしっかりと捉えていく。

 キングの剣技がどれ程優れているのか、見ただけで感じることができる。可奈美をも上回るその実力は、空気を震わしただけで肌を突き刺してきそうだ。

 一方、ブライ。これまで何度も彼とは戦ってきているため、その実力は分かっている。ムーで鍛えられた剣術は、錬金術の剣技にも負けず劣らず追随していた。

 

「すごいすごい! すごいよ、あの二人の剣術……!」

 

 さっきまで落ち込んでいたはずなのに、可奈美は少しずつ元気を取り戻している。

 彼女へどのような目を向ければいいのか悩みながら、ハルトは二人の戦いを見守る他ない。

 

「ブライバースト!」

 

 ブライの腕が地面を抉る。無数の衝撃波が発生し、キングへと向かっていく。

 だが、キングは老体とは思えないほど機敏な動きでそれを回避する。そのままブライへ接近するが、彼もまたブライソードで応戦する。

 

「でも、これは困りましたね……」

 

 鈴音も眉をひそめている。

 

「キングを止めようにも、あの生命体が邪魔をしていますし……」

 

 一歩でも足を踏み入れたら、この怪物___ラプラスが刃のような手を伸ばしてくる。

 

「ブライブレイク!」

 

 一方、ブライの声とともに大剣が叩きつけられた。

 キングの傍を通り抜け、床を抉った剣は、地面から強い衝撃波を突き上げていく。

 それは、市長室の床を大きく削り飛ばし、市役所に大きな吹き抜けを作り上げてしまった。

 落下していくキング。彼を追い、ブライも空中を自在に移動していく。

 

「待て! ……二人とも、追いかけるよ! 変身!」

『ハリケーン ドラゴン』

 

 ハルトは即座にエメラルドの指輪で変身。風のウィザードとなり、可奈美と鈴音を脇に抱えた。

 緑の風を足場に、ウィザードは大きくジャンプ。二人を追って吹き抜けに飛び込んでいく。

 だがどれだけの床を突き抜けても、足場には届かない。降りれば降りるだけ下降していく。

 気づけば、ウィザードたちはすでに最下層である一階まで降り立ってきていた。

 

「あっ! あそこ!」

 

 可奈美の声に従い、ウィザードたちは顔を向ける。

 周囲の破壊を厭わず、そこではブライとキングの戦いが繰り広げられている。剣技の上、時折ブライが紫色の攻撃を放っている。だが、剣一本で応戦しているキングは見事にその全てを捌き切っていた。

 

「ぐっ……!」

「どうしたのかね? ムーの生き残りとやら。それ程度か?」

「舐めるな!」

 

 ブライの右腕が大きく輝く。元々紫の炎と化していた右腕から放たれた無数の拳が発射されていく。

 だが、キングには決して命中しない。回避及び斬り弾くことで、それはすべて見滝原区役所の壁を破壊していく。

 

「ふむ。このままではこの職場も倒壊するかもしれんな」

 

 煙を上げる市役所を見渡しながら、キングはどことなく他人事のように呟いた。

 

「見滝原中央駅に加えて区役所も倒壊か。これで来年度の予算はゼロだな。……来年度があればだが」

「ブライナックル!」

 

 ブライの拳の雨はまだ続く。

 だが、どれだけ爆発が起ころうが、そこには無傷のキングが仁王立ちしていた。

 

「ふむ。全力で来たまえ。そこの化け物も、ただの飾りではないのだろう?」

「クッ……! ラプラス!」

 

 ブライは剣を左手に持ち変え、右手を掲げた。

 すると、ラプラスがその声に呼応する。その姿がみるみるうちに変化していき、ブライソードとは真逆の禍々しい歪んだ剣となる。

 ブライの手に収まったラプラスソードと合わせて二刀で、キングへと斬りかかっていく。

 ブライソードが凄まじい紫の衝撃波ならば、ラプラスソードのそれは広範囲への斬撃。

 フロア一帯を全て灰色の波に包んだが、キングはその波を一気に両断し、切り伏せた。

 

「……ッ!」

 

 顔を強張らせたブライが、

 

 キングはその真の力を発揮していたのだ。

 

「あれが……キング市長……いや、ホムンクルスの真の力……」

 

 キングの眼帯が隠していた目。

 その下にあったのは、赤い紋様と化した瞳。

 

「……っ! うん。あれが……あの目の剣術が……ッ!」

 

 可奈美はトラウマを克服したようだが、それでもあの目線は突き刺さっているようだ。

 まるで蛇が自らの尾を噛み、それによって円を作っているような文様。ウロボロスと呼ばれるそれを見せてから、明らかにブライが劣勢に陥っている。

 

「見てられないよ……! 私も……うっ!」

「可奈美ちゃん!」

 

 可奈美は身を乗り出すが、すぐにバランスを崩してしまう。マキマによる洗脳下の活動の上、祭祀礼装を使用した彼女は、もう戦える状態ではないのだ。

 そうしている間に、ブライは次々と紫の攻撃の手を加えていく。

 苛烈を極めたそれは、次々に区役所の一階を破壊していく。

 そして。

 

「どうやら、そろそろ潮時のようだな」

 

 キングが言い切った。

 その言葉の通り、もう見滝原区役所の基盤はボロボロになっている。

 いつしかこの建物はゴゴゴと悲鳴を上げ始める。ボロボロと欠片が落ちてきており、まるで地震が起きたかのように震えている。

 

「まずい……脱出するよ!」

 

 ウィザードは再び二人を脇に抱え込む。

 風を前進に覆い、直進。ガラス張りのエントランスを突き破り、ウィザードたちは外へ脱出する。

 倒壊する見滝原区役所から脱出する直前にウィザードが目にしたのは。

 最後まで戦い続けるブライとキングの姿だった。

 

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