Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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ブライによって、見滝原区役所が倒壊する。
脱出したウィザードたちは、変わり果てた市役所前の広場に戻ってきた。


正気

「……」

「……」

 

 果たしてどれだけの戦いが繰り広げられていたのだろうか。

 空中での戦いの余波が足元に広がる雲に大きく影響を与えており、白い雲が黒い雷雲へと作り替えられている。

 両者が召喚した者たちはすでに跡形もなく消失し、この青空の世界はすでに二人きり。

 それでも死力を尽くし、この戦いを制したのは。

 

「……はあ、はあ……」

 

 キャスターであった。

 全身には戦いの中で受けた無数の傷跡を作り、背中から突き出ている四本の翼はもとの形状から大きく歪められており、すでに数多くの羽が散らされている。

 

「ここまで……やるとはな」

「……」

 

 マキマは答えない。

 口をあんぐりと開け、虚ろな目で上方向を見ている。

 彼女の胸元には、キャスターの右腕が貫いており、間違いなく心臓を穿っている。

 

「本当に倒した……のか?」

 

 キャスターの問いに、マキマもまた反応しない。大きく目を見開いたまま、表情を凍り付かせていた。

 だがそれでも、気付けば顔を蘇らせて反撃してくるのでは。そんな予感さえしてくる。

 

「……っ!」

 

 マキマの胸から、腕を抜き取る。ズボッという音を響かせ、腕が自由となる。

 支えを失ったマキマの体は、自由落下に捕まっていく。その最中、不意に持ち上がった指先から何かが外れた。

 

「……これは……」

 

 反射的に掴んだものを見下ろす。マキマの返り血を浴びたそれからは、銀の手触りが帰ってくる。

 

「ウィザードの指輪か……」

 

 仕組まれている魔術回路は完全に断絶されており、魔法の発動はできないだろう。

 

「……ぐうッ……!」

 

 途端に、キャスターの体が脱力していく。

 あまりに消耗しすぎた。これ以上戦うのは難しいかもしれない。

 キャスターは自由落下に身を任せ、地上への最短ルートを選ぶのだった。

 

 

 

 六月らしく、見滝原を雨が支配した。もっともそれが自然によるものではなく、大空で暴発していた魔力によるものなど知る由もない。

 轟音を立てて崩れていく見滝原区役所を脱出したウィザードがまず目にしたのは、死屍累々と倒れる無数の参加者たちだった。

 

「何、これ……」

 

 呆然とするウィザードに抱えられていた可奈美はゆっくりと足を地面につける。

 鈴音も同じく自分の力で立ち、周囲を見渡している。

 湿っていく空気の中、バラエティー豊かな世界観を持つ参加者たちが一様に地面に伏している。やがて少しずつ体が消滅していくところから、聖杯戦争からの脱落を意味している。

 そして、その原因も明確だった。

 

「戦況がかなり動いたみたいですね……何より、アレが動いています」

 

 鈴音が指さすのは、頭上。彼女が指したのは、

 

「巨人……!」

 

 超大型巨人。

 崩落した見滝原区役所の煙の奥から現れた超大型巨人はゆっくりとこちらを見下ろしていた。可奈美がソロモンを倒してから、ウィザードたちがキングと睨み合っている間ずっとこの広場を制圧していたのだろう。

 こちらの存在に気付いた強大な腕が、こちらに接近してくる。

 だがその接近を、無数の爆発が防いだ。目を覆う直前に現れたのは、手榴弾に間違いない。

 

「ほむらちゃん!」

「松菜ハルト。……その様子だと、衛藤可奈美はもう平気みたいね」

 

 目の前に立つ、黒と紫の魔法少女。

 ほむらは、両手に銃器を身構えながら、ウィザードたちを見やる。

 

「……ガンナーは?」

「……」

「リゲルは……」

 

 ウィザードと鈴音が口を噤む。それによってほむらは大体を察したように表情を固めていった。

 だが、その時はさほど長くない。やがて、「そう」と何かを察したように頷いた。

 

「前にも言ったわよね、松菜ハルト。私たちは敵同士よ。感傷に浸る必要はないわ」

「そんな言い方ないでしょ……」

 

 可奈美が力なく反発した。

 だが、ほむらは構わない。

 引き続き、銃火器を手に超大型巨人へ発砲している。

 だが、超大型巨人にはほとんど効果がない。その肉体に何度も火花を散らせながらも、その動きを食い止めることがほとんどできていなかった。

 ウィザードも加勢しようと、ウィザーソードガンを構える。だが、それよりも先に迫る殺意に、ウィザードは防御をする他なかった。

 途端に、銀の銃剣に重さが圧し掛かる。

 

「ぐっ……! な、何だ……!?」

「お前がウィザードか」

 

 迫るその顔に、ウィザードは目を細める。

 まるで肉食獣が血を滴らせながら口を開けているような顔面。言葉は静かでも、声色が明らかに獰猛さを隠しきれていなかった。

 

「お、お前、何者だ!?」

 

 この群青色の戦士はそれに答えない。

 手にした体色と同じ色合いの剣で、ウィザードへ何度も切りつけてくる。

 風のウィザードになっていることが幸いした。どれだけ激烈な斬撃でも、風を刀身に乗せて受け流せる。

 

「ハルトさん! ぐっ……!」

「可奈美さん、あまり無理は……」

 

 疲弊しきった可奈美を抑える鈴音。

 そんな彼女たちを遠目に、ウィザードはその斬撃をいなしていく。

 その中で、ウィザードの脳の片隅に可奈美との剣で打ち合ってきた記憶を蘇らせる。

 これまで彼女とは、様々な剣術の練習相手として付き合ってきた。いずれも定められた型に則って行われており、剣を振るえば振るうだけその練度が上がっていった。

 だが、この紺色の斬撃は違う。荒々しさと獰猛さが人の形に当て嵌められており、定められた動き方などはまるでない。

 ようやく見つけた隙を付き、ウィザードは蹴りを放つ。風を乗せて、相手との距離を置いて、ウィザードはようやく一息入れながら敵と目を合わせることができた。

 

「はあ、はあ……なんだ、こいつの動きは………ッ!」

「フ、面白い。さすが、他の奴らに敵視されていることはあるな」

「何……!?」

「この世界に召喚されて、ようやく歯応えのある敵と出会えた」

 

 それを言うということは、マキマの影響を受けていないということだろうか。

 その疑問を抱いている間に、群青の戦士は剣を肩に乗せた。

 

「俺はデスリュウジャー。獰猛の戦騎Dだ。邪魔な雑魚は粗方片づけてやった。さあ、俺と戦え!」

「今はそれどころじゃ……ぐっ!」

 

 デスリュウジャーはまた猛獣のように攻め立ててくる。風の勢いを体に乗せて防御を繰り返すウィザードは、その勢いのまま新たな指輪に交換する。

 

『ウォーター ドラゴン』

 

 水の魔力を纏い、サファイアのローブに身を包んだウィザードは、蹴りでデスリュウジャーとの距離を開く。剣で防御されたものの、その隙に新たな魔法を発動させた。

 

『バインド プリーズ』

「無駄だ」

 

 水の鎖に対し、デスリュウジャーが剣を横向きにする。フルートを演奏する要領で口を付け、不気味な音楽が演奏開始となった。

 

「何!?」

 

 デスリュウジャーの音楽は、まるで音そのものが壁となっているかのように、ウィザードの鎖を弾き飛ばしていく。白い魔法使いのものにも近い。

 

「なら、これならどうだ……!」

 

 ウィザードはソードガンを発砲する。

 魔力によって、無数の銀弾がそれぞれ別のルートでデスリュウジャーへ向かっていく。

 だがデスリュウジャーは、動物的な動きでその全てを弾き落とす。

 

「嘘だろ……?」

「さあ、次は何だ?」

「だったら……!」

『チョーイイネ ブリザード サイコー』

 

 発動する凍結の魔法。

 吹雪のように白い冷気が吹きすさぶ。

 だが、デスリュウジャーは全く関さない。

 

「フルートバスター!」

 

 彼の剣先から群青色の光が放たれる。遠距離攻撃となったそれは、ウィザードの冷気とぶつかり、爆発を繰り返していく。

 魔法は通用しない。

 そう判断したウィザードは、即座にルビーの指輪に交代。

 

『ボー ボー ボーボーボー』

 

 空気中に残る冷気を吹き飛ばす炎のウィザード。

 

「はああ……っ!」

 

 変身するや否や、ウィザードは全身に炎を沸き起こす。

 両手を突き出し、炎が放射状に放たれる。

 だがそれは、デスリュウジャーの音波と拮抗。

 炎と音波は、ともに衝突し大きな爆発を引き起こした。

 

 

 

 果たしてどこから調達したのだろうか。

 ほむらが身構えた銃弾から、ロケットランチャーが発射される。

 さすがにこれはまともに被弾したくないのだろう。巨人は腕で防御し、爆発を右腕だけにとどめた。

 だが、それでも大したダメージにはなっていない。

 

「ほむらちゃん! ……ぐっ!」

 

 可奈美も手を貸そうとしたが、マキマ洗脳下の休みなしの活動や祭祀礼装を使ったソロモンとの戦闘、そして何よりリゲルの亡失により心身ともに疲れ果てている。

 だが、そうしている間にも巨人の手が迫ってくる。

 可奈美は全身に鞭を打ち、ほむらの体を抱え、大きく飛びのく。目の前の地面が大きく揺れ、巨人の手形が市役所前に刻まれた。

 だが、巨人の動きがそれで終わるはずがない。すぐさま筋肉で作られた腕の第二波が迫る。

 

「「可奈美ちゃん!」ッ!」

 

 だが、そんな可奈美を守るように二つの拳が現れた。

 

「友奈ちゃんに響ちゃん!」

 

 助けてくれた二人の洗脳は解けてはいない。だが、どうやら可奈美を敵視するようにはなっていないようで、変わらず可奈美の隣に並んでくれる。

 

「ありがとう二人とも! 助かったよ!」

「う……うん……ッ!」

「無事で、よかったよ……!」

 

 そう言いながらも、二人は頭を抑えている。

 頭痛でもあったかのように呻きだしている。見ればそれは二人だけに限った話ではない。フロストノヴァもメイドも、その他この広場にいる無数の参加者たちが次々に呻いている。

 

「な、何? どうなっているの?」

「これは……もしかして」

 

 鈴音が何かしらの予感を感じ取ったようだ。

 

「マキマを誰かが止めたのではないですか?」

「それじゃあ、皆その影響で洗脳が解除されたということ?」

 

 だとすれば、この上ない朗報だ。

 可奈美は顔をぱっと明るくして、目の前の二人に呼びかける。

 

「響ちゃん、友奈ちゃん! 二人とも、しっかり!」

「可奈美ちゃん……! わたし、一体どうしたの?」

「あれ? なんでわたし、勇者になってるの?」

 

 意識が朦朧としているようだ。

 だが、二人からはもう敵意も感じていない。ハルトと行動を共にしていたほむらへも敵意がなく、可奈美は胸を撫で下ろした。

 

「よかった……二人とも、もう洗脳されていないんだね」

「洗脳? って、ええええッ!? 巨人ッ!? あれ? わたしたち、見滝原市役所でついさっき巨人をやっつけて、それからどうなったんだっけ?」

さっきまで(・・・・・)雨なんて降ってなかったよ!?」

「ああ、そうだよね、そこから記憶があいまいだよね!」

 

 ならば、今助けてくれたのは反射的な行動だということだ。

 安堵していたら、ほむらがぴしゃりと叫んだ。

 

「いいから構えなさない!」

 

 ほむらの声に、可奈美たちは一気に身構える。

 すでに目前まで迫った巨人の腕。

 だがその前に、二重の盾が現れる。

 

「皆さん! よかった、もう無事ですね!」

「何が起こっている……? 戦いは一度終わったはずではないのか……?」

 

 えりかとフロストノヴァ。

 セラフと氷がそれぞれ防壁を作り上げ、巨人の攻撃を阻害していたのだ。

 

「ぐっ……! うッ……!」

 

 そして、彼女のすぐ隣では、ようやく起き上ったメイドが頭を振っていた。

 

「何がどうなっている……? こんなところで私は何を……!」

「あ、あの! 初めましてで申し訳ありませんが、力を貸してください!」

「本当にいきなりだな!」

 

 メイドは文句を言いながら、呪文を唱える。

 すると、割れていたアスファルトから地面がむき出しになり、ゴーレムが出現する。岩石の人形もまた、二人に追加戦力として盾となる。

 

「柏木さん! 早く蒼井の後ろに!」

「はい!」

 

 鈴音がえりかの方へ向かっていくのを見送りながら、可奈美は響、友奈、ほむらと目を合わせて頷き合う。

 果たしてどれだけ戦えるかは分からない。

 可奈美はもう一度、写シを引っ張り出す。体が白いオーラに包まれたのを確認して、超大型巨人へ挑みかかる。

 果たして小さな四人が相手だというのに、超大型巨人は全く気にも留めない。全身から溢れ出る蒸気により、接近戦を主とする三人は近づけなくなっていた。

 

「ぐっ……!」

「饅頭みたいに激熱ッ!」

「任せて! うおおおりゃああ!」

 

 そう宣言するのは友奈。

 彼女は右腕を先端に突撃していく。彼女の主力技である勇者パンチ。桃色のオーラを拳の形にして放つ技だが、今回は蒸気を防ぐ盾となっている。

 そのまま超大型巨人の下へ、友奈がたどりついた。

 

「二人とも! 私の後ろについて! これなら、あの蒸気でも突っ切っていけるよ!」

「ありがとうッ! 行くよ、可奈美ちゃんッ!」

「うん!」

 

 響とともに可奈美はジャンプ。

 突っ切る友奈に従い、その背後を取る。

 そして、蒸気を完全に抜け、超大型巨人の眼前までたどり着いた。

 

「今だよ! 私を蹴って!」

「うん!」

「ありがとうッ!」

 

 友奈が腕を突き出し、それを足場に可奈美と響はジャンプ。巨人の反撃を掻い潜り、その頭上まで躍り出た。

 

「太阿之剣!」

「我流・撃槍烈破!」

 

 紅の斬撃と黄色の拳が炸裂する。

 二つの大きな攻撃は、そのまま巨人の顔面から体全体を大きく揺らがせる。

 そのまま、紅と黄のエネルギーは全身まで必達し、爆発していく。

 爆発する巨人をしり目に、三人は着地。

 だが。

 

「まあ、あれくらいじゃまだ倒せないよね」

 

 爆炎を掻き消しながら現れる超大型巨人。

 その敵意の目線は、完全に可奈美たちに向けられた。

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