Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
そして足元では、キング、デスリュウジャー、そしてブライの戦いも行われていた。
紺色の巨人が吠える。
合体の素材となっていたトバスピノ同様、このスピノダイオーもまた、動物的な動きを得意としていた。
高層ビルの森を駆け抜け、超大型巨人まで接近。ハンマーと鉄球を駆使して、徐々に超大型巨人を追い詰めていく。
だが、超大型巨人も負けてはいない。強靭な肉体がハンマーを打ち返し、変則的な動きをする鉄球を蒸気が吹き飛ばした。
スピノダイオーはそれを確認し、今度はブーメランを投影する。
素早い動きで四方八方から切りつけてくるブーメランを被弾するたびに、超大型巨人の全身から出血していく。だが、超大型巨人は耐える。表情をぴくりともしないまま、その目でブーメランの動きを追う。
そして、その巨腕が動いた。
ブーメランにクリティカルヒットする拳。紺色のブーメランは大きく戦場から外れ、持ち主の下へ戻っていく。
軽いジャンプでブーメランをキャッチしたスピノダイオーは、そのまま全身をコマのように回転させながら超大型巨人へ襲い掛かる。これまた四方八方からの斬撃になり、超大型巨人は悲鳴を上げた。
だが、超大型巨人の変身者であるベルトルトは、あくまで冷静であった。上半身はたしかに全身凶器と言っても差し障りないが、足元は比較的攻撃性能は低い。
超大型巨人は、迷いなく屈みこみ、スピノダイオーのひざ下へ蹴りを放つ。人間とはまるで異なる身体構造の紺色の巨人だったが。あえて足に防御体勢を取ってはおらず、大きく地面へ倒れた。
巻き上がったアスファルトの欠片が大きく地面から吹き飛んでいった。
この隙に、超大型巨人はスピノダイオーに乗りかかる。巨大な質量同士が重なりあい、見滝原全体が激震した。
馬乗りになった超大型巨人は、これまた大質量の拳を振るい上げ、機械の巨人に叩きつける。筋肉と機械がぶつかり合い、何かが歪むような音が大きく響く。
それも一度だけではない。右へ左へ、超大型巨人の拳がスピノダイオーの顔を何度も傾かせていく。
だが、そんな有利な状況が永遠に続くはずがない。幾度か叩きつけられたのち、スピノダイオーの右腕が超大型巨人の追撃を受け止めた。
そこから、スピノダイオーの反撃が始まる。両側からの拳を止めたスピノダイオーは、そのまま強靭な足で巨人を蹴り飛ばした。
これにより、超大型巨人は大きくその場から退いていく。
果たして今の一撃は、スピノダイオーの琴線に触れたようだ。肩のトバスピノとともに、スピノダイオー本体も強い咆哮を放ち、空気を震わせる。
そして、その足元では巨人たちのマスターもまた、戦いを続けていた。
キング市長とそしてデスリュウジャー。
そして、彼らへ容赦なく剣劇を加えていくブライ。
彼らの剣技は、もはや他の追随を許さない。時折蛮勇を見せて彼らに割り込もうとする者もいるが、一瞬で切り伏せられてしまっている。
無数の参加者が集まっている見滝原北のこの広場にて、行き交う
あれだけ無数の参加者が入り乱れていた戦いも、いつしか参戦している者はこの五名だけとなっていた。
「フルートバスター!」
特に、デスリュウジャー陣営の苛烈さに手加減はない。
フルートバスターと、スピノダイオーの攻撃。それぞれの遠距離攻撃は敵対相手だろうが参加者たちだろうが容赦なく襲い掛かっていく。
次々にはじけ飛んでいく参加者たち。動かなくなる者も少なくない。
スピノダイオーが手に持つブーメラン。超大型巨人への牽制として使われたものだが、それは地上へも容赦なくその牙を向けてきた。
「させません!」
それに対し、えりかが大きく盾を広げる。
透明な防壁が大きく展開され、無数の参加者を流れ弾から守っていた。
だが、戦いを続ける者たちの猛攻はそれ程度では止まらない。
ブライの紫の手から、地面を走る衝撃波。キングの人間離れした剣技。デスリュウジャーが投影するブーメラン。
いくらえりかが最強の防御力の名を冠するサーヴァントといえども、無数の参加者たちを巻き込む攻撃を耐え凌げるはずがなかった。
少しずつ、えりかの背後で参加者の悲鳴が増えていく。
歯ぎしりをしたえりかは、さらに盾を広く展開する。だが、フルートバスターの猛威はそれではとても防ぎきれず、紺色の攻撃は途切れない。
やがて、戦いの中心人物のうち一人___キングが、その目線をえりかへ向けた。
「っ!」
危険。
それを感じ取った途端、えりかは盾を一気に縮小、目の前に集中させる。少しでも遅れていたら、キングのレイピアが胸を貫いていたかもしれない。
「ふむ。さすがだな、蒼井君」
突きの姿勢を解除したキングが、ゆっくりと見据えた。その蛇が自らの尾を加える形をした瞳を見た途端、えりかは息苦しさに襲われる。
「市長……」
「ボンドルドといたとき、まさか君が本当にこのサバイバルゲームに参加しているとは思わなかったよ」
「……蒼井も、望んで参加しているわけではありません」
えりかは、自らの腕を掴んだ。
「でも、蒼井は教授に召喚された身です。聖杯戦争から逃れる選択肢はありませんでした。でも、あなたはそもそも自ら志願しなければ、参加しない選択肢だってあったのでぇあないでしょうか。あなたは、なぜ参加したんですか……?」
「君には分からんよ」
キングの目が冷たくなる。
あれは明らかに、同じ人間に向けていい目ではない。
「生まれ持った運命を持つ我々のことは」
「どういうことですか?」
「君は……私の弟と妹を知っているかね?」
「?」
「愚弟パピヨンと……結梨だ」
「え? 結梨ちゃんが……妹?」
えりかが一歩踏み出す。えりかの人並外れた記憶力が、名前からあの幼い少女の姿を思い浮かばせた。兄妹というより、親子___いや、それすら通り越して祖父と孫といった印象を覚える。
だがそれ以上の言葉をキングが続けるよりも先に、彼を冷気の牙が襲った。
次々にそびえたつ氷の山。だが人間離れした反射神経を駆使し、キングは全て避け切っていた。
「フロストノヴァさん……!」
「流石に甘いか……っ!」
一方、唇を噛んだフロストノヴァ。
彼女の凍結能力が何度も襲い掛かっていたが、それは決してキングには届かない。大きく退避行動を取ったキングは、決して氷の牢獄に捕らわれない。
そして氷の波は、そのままブライ、デスリュウジャーまで及んでいく。
突如の邪魔を、戦闘狂の二人が認めるはずがない。
「ダンシングソード!」
「フルートバスター!」
投げられる生きた刃物が、二方向から氷の波を堰き止める。
粉々になった氷の雨の中、二人の視線がフロストノヴァに向けられていた。
「……ッ! こっちを向いてください!」
えりかが盾を向ける。すると、紫と紺の攻撃は、吸い込まれるようにえりかの盾に激突し、相殺された。
「助かった……」
「いいえ」
えりかはほほ笑んだ後、キングへ目を向ける。
彼は微動だにしないまま、えりかへ視線を投げている。
「どういうことですか? キング市長。結梨ちゃんが……妹?」
「ボンドルドのよしみだ。君には、少し教えてあげてもいいだろう」
キングはブライが放った余波を両断しながら続けた。
「私たちはホムンクルス……錬金術により作られた存在だ。この賢者の石の存在により生かされているだけの、出来損ないの命だ」
「ホムンクルス? 市長が……?」
「ああ」
キングは自らの胸に手を当てた。
「私の賢者の石はうまく合成できているが、それでも人間のように生きることはできない。まあ、君たち人間はあまりに醜く、同じように生きようとは思わんがね」
「……」
「だが、この命。自らの力で生き抜いてこそ価値がある。この聖杯戦争は、それにうってつけの舞台というわけだ」
「……」
えりかは、キングの話を聞きながら、頭の中ではある本を思い浮かべていた。
賢者の石。その作成方法について記された本。崩落したボンドルド教授の研究室から、えりかが唯一持ちだした本。
「では、市長は……」
「私の願いは、自らが生まれてきた意味を成すこと。作られた私が、作られた以上の意味をこの世界に残さないと意味がないのだよ」
「でも……でも!」
「おい……! いつまで喋っている!」
フロストノヴァの言葉が、えりかを正気に返す。
今目の前にいるのはキングだけではない。比較的自分達に手を出しそうにないブライは別にして、デスリュウジャーは完全に自身以外の全てを敵とみなしている。
「魔楽章 デーボスフィニッシュ!」
紺色の牙は、その射程圏内全てに食らい付く。ブライとキングは回避、えりかとフロストノヴァはそれぞれ防御で防いだ。
そして、この場でもはや弱者となっている名もなき参加者たちへ、牙が向かう。
だがそれを、黄色の歌が打ち消していった。
「キサマ……ッ! ランサー!」
その姿を見た途端、ブライが剣を構えた。
「ソロッ! もうやめてッ!」
彼の目線の先。黄色の装甲を装着している響が大きく呼びかけていた。
「あなたは、戦わなくたっていいはずだよッ! 今まで何度だってわかり合ってきたんだから……わたしたちは、手を取り合えるッ!」
「黙れ。ランサー。いいだろう……デスリュウジャー。お前たちは後だ。今日こそ、キサマと決着をつけてやるッ!」
「!」
ブライはあっさりと響へ狙いを変更した。
彼はあまりにも素早く、えりかの手が届くところから離れてしまった。聞くところによれば、ブライの故郷であるムー大陸を破壊したのが響らしい。
「バカめ……くだらない因縁に捕らわれるなど……」
一方、デスリュウジャーはブライへ冷たい目線を投げている。
だが彼は、ブライへの追撃よりも、より多くの獲物を選んだようだ。攻撃の牙が、すでに参加者へ迫ってきている。これも、えりかの速度では間に合わない。
だが。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
その前に、桜の花びらが舞い踊る。
それを全身で受け止めた友奈が、デスリュウジャーを睨み上げていた。
「ぐっ……!」
「貴様……!」
「みんなに、手は出させない!」
どれだけ傷を負おうとも、友奈は決して怯まない。
苛烈な攻撃を防御しながら、一歩ずつデスリュウジャーへ近づいていく。
「結城さん!」
力関係ならば問題ないだろうが、友奈に対してデスリュウジャーはあまりにも素早い。
彼女へ手を貸そうとしても、その前をキングが立ちはだかる。
「どうやら君は少し、状況を理解した方がよさそうだ」
「……!」
「このデスゲームに、優しい君は不向きなようだね」
振り上げられた剣が、えりかへ向かう。
「いわば、ここにいる参加者は全員敵同士だ。君からすれば、本来は松菜ハルト君と、彼の最初のサーヴァント以外は葬るべき相手だ。君には向いていないよ。この戦いは」
「……!」
キングの剣が振り上げられる。
それはそのまま、えりかの肉体を貫き___
「させない!」
が、その直前に小柄な肉体がそれを防いだ。
「衛藤さん……!」
「ほう」
「キング市長……! 私が相手だよ!」
白いオーラに身を包んだ可奈美は、そのままキングへ打ち込んでいく。
刀使の素早い動きにも関わらず、ウロボロスの目を持つキングには通用しない。顔色一つ変えず、彼はいとも簡単に受け流していく。
「あれだけやられたのに、未だに挑んでくるとは。それとも、君は挑むべき相手さえ理解できない馬鹿なのかね?」
「……あなたが私よりも強いってことくらい分かってる……!」
可奈美は、何度も大きく呼吸している。だが、呼吸を繰り返していくごとに、彼女は落ち着いていく。
「でも……! リゲルさんのためにも、ここで立ち止まるわけにはいかないんだ!」
「ほう……よかろう。もう一度君を切り刻んであげよう」
二人の剣士は、本気で互いに切りつけていく。
それはもう、えりかの動体視力どころか、目でさえも負えない速度だった。
いつしか、三人の戦闘狂は、みな別々の相手と戦い始めるのだった。