Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
それはウィザードの手元で、新たなアイテムへ変化していった。
握っただけで、内包された魔力がウィザードの体にはね返ってきた。
ウィザードの魔力を下地に、錬金術、マキマ、キャスター。合計四つの力をそれぞれ内包した力を持つこのアイテムは、それぞれの色彩を象徴するように、中央に四つに分かれた円形が設置されていた。
本体そのものはウィザードが使用するアイテム共通の黒い掌をモチーフにしたものも取り付けられており、主だって仕様する指輪というよりも腕輪のような大きさをしていた。
取り付けられている円形のパーツも相まって、まるで時計だな、と思い至ったウィザード。さらに、上部分にはドラゴンを象った像が設置されており、触れるだけで魔力が循環していくのを感じた。
ほぼノータイムで、ウィザードはこの時計に名前を付けた。
ドラゴタイマーと。
「ウィザード、来るぞ!」
もうこれ以上、
「そうだった!」
『ディフェンド プリーズ』
「くっ!」
発動した土の壁が、ゴーレムの体をより強固なものにしていく。さらに、キャスターがなけなしの黒い魔力を注ぎこんでいる。結果、燐が肩に乗るゴーレムは、自身の十倍の大きさを誇る恐竜巨人の攻撃をその身で受け止めていた。
「ミストルティン」
キャスターの銀色の光が閃く。
命中したものを石化させる魔法。スピノダイオーといえども命中するわけにはいかないのだろう。軽い動きで身を翻し、キャスターから距離を取った。
そして。
「ハルトさん!」
鋭い叫び声が聞こえてきた。
それは、友奈から。
彼女と対峙していたデスリュウジャーが投影したフルートバスターがこちらに向かってきていたのだ。
凶刃を弾いた直後、すでにデスリュウジャーが友奈を放って迫ってきていた。
ウィザードへ剣先を切り替えたデスリュウジャーが、すでに目前まで差し迫っていた。
「ぐっ……またお前か……!」
時計を左手に持ったまま、ウィザードはソードガンで応戦する。その間にも、スピノダイオーの攻撃は続き、燐のゴーレムと満身創痍のキャスターが巨人の相手をすることとなる。
「ウィザード! どうするつもりだ!」
「どうするも何も、まずはこいつを止めないと!」
獰猛な動きをするデスリュウジャーは、土のウィザードでは捉えきれない。
ソードガンで反撃をしながら、ウィザードは指輪を取り換えた。
『フレイム ドラゴン』
再び炎のウィザードに戻り、互角の戦闘となっていく。その中で、デスリュウジャーがウィザードの手から時計を弾き飛ばした。
「なっ!?」
宙を舞うドラゴタイマー。だが、もうウィザードの手は届かない。
そうしている間にも、もうデスリュウジャーの猛攻は続いていた。宙に舞う新アイテムを横目に入れながら、ウィザードはフルートバスターを受け止める。
「邪魔はさせない!」
ようやく追いついた友奈が、デスリュウジャーの前に割り込む。彼の斬撃を受け止めた彼女に内心感謝しながら、ウィザードは手を伸ばす。
すでに時計は地面に叩きつけられ、破損しようとしており___
「やああああああああああああ!」
その目前で、水色の閃光がそれを攫った。
ゴロゴロと地面を転がり、ラグビーのようにドラゴタイマーを胸に抱えたのは、えりか。
彼女は大きく息を吐きながら、全身でキャッチしたそれを見下ろした。
「よかった、間に合った……」
「えりかちゃん!」
彼女に駆け寄ったウィザードは、えりかの顔と手にしてある時計を交互に見やる。えりかが差し出したそれを手にし、ウィザードは頭を下げた。
「あ、ありがとう。助かったよ……」
「いいえ……」
首を振ったえりかは、やがて目を細めた。
「これ、結梨ちゃんの形見なんですよね……」
えりかはじっと時計を見下ろす。
時計部分が、まるで顔のようにウィザードたちを見返している。やがてウィザードは、ドラゴタイマーを手に___その形状がそうだと訴えている通り、ウィザードは腕輪として左手に装着した。
「ふむ……錬金術も使用されている代物、か」
その声に、ウィザードとえりかは振り向く。
見れば、可奈美と剣を向き合っているキングの姿があった。
息を切らしている可奈美に対し、キングはいたって冷静だ。彼は目を細めてウィザードの手元の時計を見つめていた。
「ならば、ホムンクルスである私が所有しておくべきだろうか」
「……!」
彼の目は本気だ。
錬金術が使われた。ただその一点のみで、彼はこの結梨の形見を奪い取ろうとしている。
「させ、ない……!」
それは可奈美。
それまでずっとキングと対峙していたが、いつのまにか打ちのめされており、地面に伏せていたようだ。
すでに体力も限界を迎えており、千鳥を構える手が震えている。それでも彼女は、キングから目を反らすことはなかった。
「ふむ。君も往生際が悪いな。勝てないと分かり切っているのに、よくもまあ挑み続けられるものだ」
「あなたの……剣から伝わってくる……!」
可奈美の呼吸は明らかに乱れている。
だがそれでも、もう彼女に恐怖心はない。剣をトラウマにしたキングに対し、啖呵を切った。
「自分への……哀れみ……! 人間でないことへの、寂しさを……」
「知ったような口を……」
顔を歪めたキングは、こちらへの注目を全て可奈美に集中させた。
「可奈美ちゃん……!」
「私は平気! だから、ハルトさんは巨人たちを倒して!」
「減らず口を……」
すでにキングは動き始めている。
容赦のない剣劇。可奈美の動きを捉え、簡単に切り刻んでいく。可奈美の身を守る白い光が見る見るうちに引きはがされていく。
やがて、完全に生身となった可奈美。彼女の胸元へ、キングのレイピアが突き刺され___
「むっ?」
その直前、友奈が割り込んだ。彼女の蹴りが、レイピアをはじき返し、虚空の彼方へと飛ばしていったのだ。
「勇者キック!」
そのまま桃色の蹴りが放たれる。
命中さえすればキングといえども無事では済まないだろうが、彼の大蛇が象られた目は明らかに見切っている。回避されるが、その隙に友奈は可奈美を抱え、離れる。
「バカな奴だ……」
控えの剣を手にしたキングと、可奈美、友奈の戦闘。そんな彼らを横目に、デスリュウジャーもまた、鼻で笑っている。
「奴相手に、小娘が二人だろうが何ができる……」
フルートバスターを肩にかけ、彼は笑い続ける。
「この戦いは、もはや佳境に入った。今この場で優位に立つ者が、全ての獲物を食らいつくす。俺か、奴か」
「違う……!」
ウィザードは立ち上がる。
「この戦いに、勝者なんてない……! これ以上、お前たちの好きにはさせない……!」
「この状況をどうにかできるとでも?」
彼の言う通りだ。
二体の巨人がそれぞれ、仲間たちを大きく追い詰めている。
巨人の猛攻はいまだにとどまることを知らない。ビーストとほむらも超大型巨人を食い止めているが、旗色は明らかに悪い。
響とブライは拮抗しているが、その分他の誰も助けに行くことができず、また割り込む隙間もない。
「お前たちはこれで終わりだ。そして俺がこの聖杯戦争を制し、永遠の聖杯戦争を引き起こす」
「何だと……?」
ウィザードは耳を疑った。
「そうだ。俺の願いは、永遠の戦い。デーボスもいないこの世界で、キサマたち人間が絶滅するまで……勝者は、俺一人でいい!」
「……させない」
ウィザードの脳裏に、これまで敵として戦ってきた者たちの顔が浮かび上がる。
狩人。
蒼い悪魔。
大荒魂。
邪神。
異世界の魔法使い。
彼らはそれぞれ、何かしらの目的があった。自身の目的のために、この聖杯戦争を戦ってきた。
だが、目の前のこの紺色の参加者は、戦いそのものが目的だ。
野放しにするわけにはいかない。
「お前の戦いは、俺が終わらせてやる!」
「出来るわけがない!」
ウィザードとデスリュウジャーは、そのまま切り結ぶ。
何度も、何度も。それぞれ赤と紺の斬撃が交差し、切り離される。
そしてウィザードは、宣言した。
「俺は諦めない。戦いを終わらせるその時まで!」
そして、腕に取り付けたままのドラゴタイマーに手を触れる。時計盤を回転させ、手のオブジェの指部分を押すことで起動させる。
『ドラゴタイム セットアップ スタート』
時計より流れるアナウンス音。
すでに、この魔道具の使い方は魔力から理解していた。
「フン。キサマの手の内などすでに見切っている!」
デスリュウジャーとの斬り合いは続く。だがそうしている間にもタイマーは動き続けていく。
やがて、元々赤の部分を指していた針が青い部分に到達する。それを見計らい、ウィザードは再びスイッチを押した。
すると。
『ウォータードラゴン』
ドラゴタイマーから音声が鳴る。
すると、水の魔法陣がすぐとなりに生成される。
そして現れたのは、ウィザード ウォータードラゴン。
「……む?」
現れたもう一人のウィザードに、流石のデスリュウジャーも一時的に動きを止めた。
「はあッ!」
瑠璃色の斬撃が、一度デスリュウジャーをウィザードから引き離す。
さらに、水のウィザードはその特性をフルに活用する。
すなわち、秀でた魔法適正。指輪をベルトにかざすごとに、多種多様な形の波が放たれていく。
「松菜さん、これは……?」
「このまま行くよ!」
『バインド プリーズ』
水のウィザードは、拘束の魔法を発動させた。
無数の水でできた鎖が放たれる。それぞれ別々の方向から狙ったものだが、デスリュウジャーは無言のままそれらを一気に切り伏せる。
水のウィザードは、さらに様々な魔法を連続で発動。それらも全て切り崩されてはしまうものの、本体である火のウィザードがもう一度ドラゴタイマーのスイッチを押す時間は稼げた。
『ハリケーンドラゴン』
すでに時計の針は緑に到達している。
翡翠の魔法陣から、風が形となる。上空に現れた風のウィザードが、デスリュウジャーへ正面から挑みかかる。
「ほう……! ウィザードが三人に分身するということか。だが、それ程度では何も変わらない!」
デスリュウジャーは怒鳴り、大きく切りつける。
水と風、二人のウィザードは同時に後退し、三人のウィザードが並ぶ。
「デーボスイン」
その隙に、デスリュウジャーはすでにその動きを進めていく。
電池をフルートバスターに装填し、彼の目が妖しく光る。
「魔楽章 デーボスフィニッシュ!」
紺色の斬撃が強く放たれる。
獲物をかみ砕こうとしてくるそれは、三人のウィザードを一気に食らいつくしてくる。
だが。
『ランドドラゴン』
紺色のブーメランに立ちはだかる、巨大な土壁。完全にブーメランを阻んだそれが崩れ、その中からは琥珀のウィザードが姿を現した。
「何……!?」
合計四人のウィザード。
それぞれは自立して動き、バラバラの動きでデスリュウジャーを追い詰めていく。
「チィ!」
デスリュウジャーの獰猛さは、まだ収まっていない。
地面を抉る威力。空気を切り裂く斬撃。
だが、今回のウィザードたちの息は、当然全てあっていた。琥珀が受け止め、翡翠が牽制。瑠璃が足止めをして、真紅が攻撃していく。
それまでの絶望感とは打って変わり、ウィザードはだんだんと優勢になっていく。
『ウォーター スラッシュストライク』
そして、水の斬撃が放たれる。デスリュウジャーを切り上げ、頭上に浮かせたところを、同じく飛び上がった風の斬撃が待ち受ける。
『ハリケーン スラッシュストライク』
そうして切り落とされたデスリュウジャーを待ち受けるのは、土の斬撃。
『ランド スラッシュストライク』
そうして突き飛ばされた先には、炎の剣。
『フレイム スラッシュストライク』
「はああああああああああッ!」
そして、ウィザードの赤い斬撃が、その面を切りつけた。
「ぐあああああああッ!?」
大きく転がったデスリュウジャー。その面は粉々に割れ、その内側から素顔が現れる。
「……ッ!」
その外見に、ウィザードは一瞬言葉を失った。
顔が牙だらけ。そういう印象を持ってしまう。鼻、口、頭。目以外の顔全ての部位が牙で覆われており、首にかけて長い管が垂れ下がっていた。
外見からも、彼の好戦的な性格が表れているようだった。
「その姿が……Dか」
「ぐっ……! おのれえええええ!」
だんだんと余裕がなくなってきた魔人は、やがて恨み言を口にするようになる。
だがそれに対し、四人のウィザードは同時に指輪を切り替えた。
『チョーイイネ スペシャル サイコー』
火のウィザードが魔法を発動させる。
続いて、残り三人のウィザードたちも同じように魔法が生成。
四体のドラゴンの幻影が現れ、それぞれの担当部位___火は胸元、水は腰、風は背中、土は腕___に吸収される。
ドラゴスカル、ドラゴテイル、ドラゴウイング、ドラゴヘルクロー。四つのドラゴンの力がそれぞれ顕現。
「クク……ハハハハ!」
突然笑い出したD。
「いいぞ……! ここまでの力を持つとはな……! お前を倒してこそ、俺の本能が満たされる!」
「……戦いばかりのお前は……もう、終わりにしよう……!」
「最終楽章 デーボスフィニッシュ!」
デスリュウジャーの今度の一撃。
同じ名前のものだが、その規模はこれまでのものとは段違いだ。最終と銘打っているだけあり、その大きさも比べ物にならない。
だが。
『チョーイイネ ブリザード サイコー』
『チョーイイネ サンダー サイコー』
『チョーイイネ グラビティ サイコー』
「「「「はあああああああああああああああああッ!」」」」
四人のウィザードもまた、同時に魔力を放つ。
炎、氷、雷、重力。四つの魔力が一つとなった巨大な魔力の塊は、そのままデスリュウジャーの最後の一撃を飲み込み、消し去る。そのままデスリュウジャーまで及び、その体に命中させた。
「ぐああああああああああああああっ!」
上がるDの悲鳴。
だが、すぐさまその悲鳴は、スピノダイオーを呼び寄せた。
写し身たる恐竜は、Dの盾となり、やがて爆発。手応えがなくも、目の前から紺色の敵の姿はいなくなっていた。
「逃がした、か……」
肩で呼吸しながら、その手応えからウィザードは結論付ける。
このまま魔力を全て解きたいという欲望に駆られながらも、ウィザードは次の巨人へ目を移す。
いまだにこの戦場を支配する、超大型巨人を。