Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
「ほう……彼が消えたか」
キングは目を細めた。
デスリュウジャー。先ほどまで熾烈な戦いを繰り広げ、いつしかこの戦場の中心となりつつあったが、強化されたウィザードには歯が立たなかったようだ。
「ふむ。この停滞した者たちの中では、なかなか見どころがあったのだがな。いち早く戦場から脱落してしまうとは残念だ。まあ、死んだわけではあるまい。またどこかで相まみえる時もあろう」
キングはそれ以上の感傷を持たず、自らの前で苦しむ者たちへ問いかける。
「戦場が傾いてきたが、君たちはどう考えるかね?」
この言葉は、目の前で満身創痍になり伏せる少女たちに向けられていた。
すでに何度も全身をズタズタに切り裂かれ、写シの鎧を貫通して、生身にも傷だらけになっている衛藤可奈美。
剣を持たず、ほとんどキングに翻弄されて切り傷だらけのサーヴァント、結城友奈。
二人は息を吐くことだけに集中しており、キングの受け答えも出来ていない。
「フン、もう君たちはダメだな……む?」
そうして、キングの目は捉えた。
戦場から少し離れた場所に隠れている少女___柏木鈴音を。彼女は確か、ガンナー___リゲルのマスターだった。すでにリゲルの消滅はウロボロスの目で確認したが、あの少女にはまだ令呪が残っていたはず。ならば、潜在的な脅威を潰した方がいいかもしれない。
こちらの視線に気づいた彼女は逃げようとするが、あのような小娘の足など、たかが知れている。
「先にあちらを斬るとするか。何、君たちもすぐに後を追わせてやろう」
キングはそう言い放ち、二人の参加者へ背を向ける。
鈴音へ向かおうとするが、その足が止まった。
「む?」
「行かせない……! 絶対に!」
「あなたはここで、足止めするんだ!」
「愚かな娘たちだ」
キングはため息をついた。
両足を死に物狂いで掴んでいる二人の手など、簡単に振り払えた。
「もう少し賢明になりたまえ。多少でも長生きできるチャンスを不意にする必要もあるまい」
彼女たちなど、いつでも始末できる。それよりも、今後正体不明のサーヴァントを召喚し得る鈴音の方が優先だ。
だが。
「させない……!」
「む?」
「リゲルさんと約束したんだ……鈴音ちゃんを、守るって……!」
果たしてどこにそんな体力が残っていたのだろうか。
可奈美が少しずつ起き上ってくる。
ふらふらな太刀筋が歯向かってくる。避けるのも対処するのもあまりにも容易だ。
「だから、ここで倒れるわけにはいかないんだ!」
可奈美が叫ぶ。
彼女が振るった千鳥だが、もはや傷だらけの彼女など恐れるに足らない。数歩のステップで、彼女の千鳥は空を切る。
「二人だろうと三人だろうと、君たちに運命は変えられない。私へのリベンジなど、永遠に叶うはずもない」
「うおおおおおおおおおおおっ!」
可奈美の剣がだんだんと速度を増していく。
だが、いかに迅位といえども、キングの目はそれを正確に捉える。受け流し、逆に切りつける。
「君の剣など、私には遠く及ばない。それなのに、まだ理解していないというのかね?」
だが、明らかに可奈美は耳を貸さない。
彼女の持つ様々な剣技が、あらゆる角度で襲い掛かる。だがそれすらも、全て見抜いている。
「ふむ。ならば、前にも言ったことをもう一度試してみるとしよう。果たして何回斬られれば死ぬのか、改めて実践させてもらおうかっ!」
「ぐっ……!」
キングが力んだ剣が、千鳥を大きく震わせる。
一度怯んだ彼女は、また異次元の時間流に逃げ込んだ。
普通の人間ならば、この時点で彼女への勝機がなくなるところだろう。だが、キング・ブラッドレイはそうはいかない。錬金術の成果として生まれたこの目は、刀使の動きでも適切に対処できる。
「愚か者が」
キングは吐き捨て。そのままレイピアを突き刺す。
御刀がなければ、刀使などただの小娘。
キングはそのまま、可奈美の心臓部へ剣を突き刺し____
その剣先は、突如発生した巨大な花びらによって防がれた。
「ぐっ……うおおおおおおおおおおおっ!」
手甲に花を出現させて可奈美を庇ったセイヴァーのサーヴァントは、そのまま拳を振りぬき、放つ。
回避そのものは難しくないが、それによって千鳥が可奈美の手に収まるのを許してしまった。
「むぅ……」
「根性うううううう!」
叫ぶ友奈。
大振りであり、甚大な威力を発揮する彼女の攻撃は、万が一にも受けてはならない。
キングは飛びのき、彼女の拳が空を切る。
再び刀使の体が白いオーラに包まれる。写シと呼ばれる基本能力は、基本といってもかなり厄介な部類のものだ。
彼女の速度は、キングの目であれば問題ない。だが、純粋な新陰流のみならず、彼女が経験してきたであろう様々な流派を折り交ぜた剣技は、刀使の能力以上に面倒だ。
それでもウロボロスの目からは逃れられない。いくら速かろうが、キングの目には彼女の動きははっきりと認識できた。
異次元の速度でも、問題なく切り結んでいく。その間に何度も友奈の横やりが入り、余計な動きを強制されてしまう。
だが。
「それでも甘い!」
キングの技量は、二人の剣術武術を組み合わせたものよりも遥かに高い。
可奈美の体を貫き、友奈の拳よりも早く蹴り倒す。
バランスを崩した友奈が転がり、そのまま串刺しにした可奈美の剣を抜き取る。
「まずは君からだ。衛藤可奈美君」
キングの冷酷な宣言が告ぐ。
空中に放られた可奈美。一度剣が抜き取られた途端、可奈美の写シも解除され、生身となる。
そうして、待ち受けるのはキングの剣による串刺し。
だが。
「むっ!?」
とうとう、キングの顔に動揺が走る。
可奈美の顔に、笑みが浮かんだのだから。
予定通り、可奈美の体は貫かれる。だが一点、予想外のことがあった。
可奈美の体が、再び白く輝いていたのだ。そう、まだ写シを張る余力があったということだ。
「これで、もう逃げられないね!」
「小娘が……!」
毒づくキング。
だが、もう遅い。
可奈美はがっちりとキングの腕を掴んでいたのだから。
それはつまり、キングの得物が使えないということに他ならない。
そしてすでに、目の前には桃色の光が集まっていた。
「友奈ちゃん、私ごとお願い!」
「全力! 勇者パンチ!」
背後から放たれる桃色の拳。写シを貫き、それはキングの胴体に命中。
「むっ……ぐううっ……!」
きりきりと回りながら、市長の肉体は時計塔に命中する。
大きく土煙を上げながら、キングは友奈の肩を借りている可奈美を見つめ返した。
「ほう……あの啖呵さえもブラフだったか。君はあくまで陽動、サーヴァントにすべてを託していたか」
「はあ、はあ……」
「どうなったの?」
可奈美も友奈も、キングの命を奪うことを望んでいるわけではないのだろう。
これ以上の追撃は無さそうだ。
キングは起き上がり、彼女たちを見据える。
「……!」
だが、彼女たちが驚いているのは、おそらくまだキングが動けたからではない。
しばらく様子を伺い、キングは自らの状況を把握した。
「なるほど。これか」
「市長……何、その体は……?」
「何を驚いている。君たちの成果だ」
キングの胸元は大きく抉れ、その体内が露になっている。
人間ならば、そこにあるべきなのは心臓。だが、キングにはそのような臓器などない。
かわりに輝いているのは、赤い宝石。文字通りキングの心臓として命を支えるこの石を、二人の少女は青ざめた顔で見つめている。
「賢者の石。私がホムンクルスである証であり、これがある限り私は死なない」
「賢者の石?」
「聞いたことはないかね? 卑金属を金に変え、永遠の命をもたらすもの。ボンドルドが錬成した三つの賢者の石のうち、私のもののみ、非常によく錬成できていたのだよ」
「……」
唖然としている二人。
キングは彼女たちを見つめ、やがて鼻で笑った。
「どうしたのかね? 君たち。見ての通り、私は今動けない。この石を砕けば、私は死ぬ。無論そうなれば、あの巨人も魔力枯渇により倒れるだろう」
「私たちは……あなたを止めたいのであって、命を奪いたいんじゃない」
可奈美が言い切った。
「だから……もう、これ以上の戦いを止めてください」
「無駄なことだ。人間とホムンクルス。その間には明確な違いがある」
言いながら、胸元に開いた傷跡は徐々に再生していく。心臓部である賢者の石を守るために、肉体が再構成されているのだ。
やがて、賢者の石は完全に見えなくなった。このまま時間を置けば、全身の傷も完治し、落ちている剣を拾い上げれば先ほどまでと同じく活動できるだろう。
だが。
「よかろう。今回は君たちの勝ちだ。だが、あちらはどうかな?」
キングの目線。それは、自らのもう一体のサーヴァント。
超大型巨人に向けられていた。