Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
キングはこの場では負けを認めた。
残るは、超大型巨人のみ。いよいよ九章クライマックス!
超大型巨人の全身から、膨大な量の蒸気が噴き出す。
それは巨大な肉体を包んでいた氷の檻を蒸発させ、発生者であるフロストノヴァもたじろいていた。
そんな彼女へ、巨大な掌が迫っていく。
「くっ……!」
もはや氷を作り上げる余力はない。
だが潰される直前、青いウィザードがその身を攫った。
「ウィザード……!」
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
いわゆるお姫様抱っこという形になった。下ろされたフロストノヴァは、息も絶え絶えになりながら、超大型巨人を見上げていた。
「ガーチャー……デスリュウジャーは?」
「逃げたよ。それより、こっちはどうなってるの?」
「どうもないな……ぐっ」
フロストノヴァの体がふわりと折れる。
「アーツを使い過ぎた……
「……なら、あとはこっちに任せてよ」
ウィザードがそう告げるのと同時に、さらに三人のウィザードが同時に並び立った。
「……は?」
「まだ、俺は戦えるから」
「待て」
「よし……。じゃあ早速」
「待て待て」
「俺が先に……」
「待て待て待て!」
さっきまで会話していたのは間違いなく瑠璃色のウィザードだ。
だが今、言葉を発しているウィザードはどの色だろうか。
比較的声を荒げることのないフロストノヴァだが、この時ばかりは思わず大声を上げてしまった。
「ウィ、ウィザード……? お前、そんな能力まであったのか?」
「あったというか……」
「手に入れた」
一斉にこちらを向いたウィザードたち。仮面で覆われた顔というのもあって、ますます誰が喋っているのかが分からない。
アーツの消耗だとか、体内の鉱石病の痛みだとか、そういうものさえも忘れてしまいかねない。フロストノヴァはただひたすらに、呆然と四人のウィザードを眺めることしかできなかった。
「おう、ハルト! って、な、なんだあああああ!?」
ビーストが軽くパニックにならなければ、本当にフロストノヴァは発狂していたかもしれない。
先ほどまではフロストノヴァを倒した金色の姿だったが、いつの間にか通常の金色の姿に戻っている。ビーストは四人のウィザードにベタベタと触れ、次から次に顔を覗き込んでいた。
「ハルト……! お前、何だよそれ。今度は分身か?」
「ああ、まあ……」
「お前の能力もここに極まれりって感じだな。分身なんてずりいぞ!」
「それ、言っていいのか……?」
もっとも、フロストノヴァ自身もどこかでそれを思っていた。多彩な魔法が持ち味のウィザードが、分身能力まで身に着けた。その上彼には、本来一人一体だけのサーヴァントを二体従えている。
もう、彼と敵対しようものならどれだけの不利になるのだろうか。
だが、それ以上の思考をこの戦場は許してくれなかった。
超大型巨人が、再び地面を叩く。
フロストノヴァ、ビースト、そして四人のウィザードの体が揺れ、コンクリートが悲鳴を上げた。
巨大な質量と、それに物を言わせた持久力。超大型巨人が薙ぎ払うだけで、対峙していた参加者たちは簡単に吹き飛ばされてしまう。
だが、その中でも身を翻し、巨人へ接近する者がいた。
「キャスター!」
銃火器を使いこなす黒い少女___確か、名前は暁美ほむら___。彼女の指示に従い、上空のキャスターは両腕を突き出す。
だが、命令されたキャスターには、以前フロストノヴァを圧倒した力は残されていない。微量の黒い光線が吐き出される程度で、それも超大型巨人の筋肉を貫くことはできなかった。
「まだ奴は倒れない……か。戦士としては最上の部類だな」
「みなさん、蒼井の後ろに!」
叫ぶえりか。
一瞬青い光となって移動し、彼女はフロストノヴァたちの前に割り込んでいた。
彼女の言う通り、展開された盾の後ろに下がる。質量とエネルギーのぶつかり合いに、フロストノヴァはまるで目の前に落雷があったのかと錯覚してしまった。
「ぐっ……うっ……ッ!」
盾はまだ大丈夫そうだ。だが、それを支えるえりかの負担が大きい、と察してしまった。
彼女顔に、血が滴っている。なぜ鼻血が出ているのかは分からないが、過剰な武器の使用が使用者を傷つけているに違いない。
ようやく、超大型巨人の腕が一度引っ込められた。負担がなくなり、支えがなくなったえりかはその場で崩れ込んだ。
「ウィザード! 彼女はもう無理だ! 下がらせろ!」
「えりかちゃん! もう十分だ、下がって!」
「だめです……! 蒼井は……まだ……!」
無理に体を立たせようとする彼女だったが、もう見ていられない。
フロストノヴァは彼女の腰に戻った盾に手を触れ、冷気を与えた。
するとどうだろうか。黒い機械でできたパーツは、みるみるうちに白い氷に閉ざされていく。彼女の盾が持つ機械の発熱が少しでも抑えられ、これで負担も少しは減らせるのではないだろうか。
「フロストノヴァさんっ……!」
「お前、鼻血が出ているぞ。どう見ても負担に体が耐えられていない」
「は、はい……」
ようやく巨人の拳が退き、えりかは膝を折った。
彼女を守るように立ったフロストノヴァは、氷の弾丸を無数に放つ。
だが、もう全身がアーツの連続使用に耐えられなくなっている。数発で弾切れとなり、超大型巨人の体にへばりついた氷もすぐさま消えていく。
えりかの盾を無力化した巨人が、再び攻め入ってくる。
だが。
『『『『シューティングストライク』』』』
その強大な筋肉を、四つの魔法の奔流が押し流していた。
「大丈夫だよ」
そう言ったのは、ウィザード。
彼は___いや、彼らは一歩前に出て、告げた。
「この戦いは……もう……俺が終わらせる!」
『『『『オールドラゴン プリーズ』』』』
それこそ、ドラゴタイマーの真の力。
瑠璃、翡翠、琥珀のウィザードが、それぞれ魔法陣に回帰していく。やがてそれは、真紅のウィザードへ集約していく。
瑠璃のウィザードは尾を。
翡翠のウィザードは翼を。
琥珀のウィザードは爪を。
そして、本体たる真紅のウィザードは胸にドラゴンの顔を。
「うおおおおおおおおお!」
そうして進化していくウィザードは、どんどん高度を上げていく。
やがてウィザードは、体を大きく回転し、雨雲を突き破る。
大いなる魔力が溢れ、雨雲を掻き消していく。そして見滝原に、太陽の光が射しこんできた。
超大型巨人も。
無数の参加者たちも。
誰も彼もが、太陽の光を地上に齎す魔力の龍へ、目を奪われていた。
だがすぐさま、超大型巨人はその目つきを変える。
その目は、明らかにウィザードを恐れていない。むしろ、彼こそが狩る側であり、ウィザードはあくまで獲物でしかないと語っているようだ。
「俺は獲物じゃない……それにこれは狩りじゃない……! 俺たちは、暴走しているアンタを止める。ただそれだけだ!」
それが、開戦の合図となった。
風のウィザードもかくやというほどの飛行能力。それは超大型巨人の拳をかいくぐり、顔面までの接近を可能にした。
「はあああっ!」
土のウィザードが与える物理性能。鉤爪が超大型巨人の顔面を切り裂き、轟音に匹敵する悲鳴が見滝原を走っていく。
だが、それ程度では有効打にならない。
当初の長時間戦えないというウィザードたちの推測を裏切り、超大型巨人は執拗にウィザードを握りつぶそうとしてくる。
「まだ動けるのか……!」
一度でもあの腕に捕まれば、最初の接触と同じ結果になる。全力で回避し、巨人の周囲を旋回する。
途中、少し速度を犠牲にしてドラゴブレスを放つ。魔力が込められた炎が、防御に差し出された巨人の腕を焼き焦がしていた。
だが、巨人はすぐさま炎を振り払う。骨までむき出しになった肉体だが、すぐさま組織は再生していく。
そしてそれはそのまま、巨人の攻撃動作へと移り変わっていく。
「くっ……!」
ウィザードは体を大きく翻して回避。だが、その動作はあまりにも過剰過ぎた。
ハリケーンウィザードとスペック上は同じはず。だが、極まった魔力を内包する翼は、ウィザードを遥か彼方まで連れ去ってしまった。
「う、おおおおお!? 離れすぎる!」
背面に魔力をためて、ウィザードは何とかその場に踏ん張る。同じ速度で巨人へ向かうも、巨人に交わされてウィザードの体は地面にめり込んだ。
「せ、制御が難しい……」
頭から地面に突っ込むという離れ業から解放されたウィザードの前には、もう巨人の足が圧し掛かってくる。
両腕を交差し、巨人の質量に迎え撃つ。全身に重くのしかかる重圧が、ウィザードの体から悲鳴を上げさせた。
「ぐあっ……!」
全身から声にならない悲鳴が上がる。ミシミシと嫌な音を上げて、オールドラゴンの耐久値を削っていく。
「こ……のおおおおおッ!」
だが、それでもオールドラゴンのスペックはウィザード自身が考えている以上だ。
大きく振りぬき、超大型巨人を振りぬく。
そのままジャンプで顔面まで飛び上がり、体を一回転。尾を打ち付け、巨人を後ずさりさせた。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
水のウィザードがもたらしてくれたのは、尾の存在だけではない。尾を起点に膨大な魔力が、無数の魔法陣として出現。
それは、反撃として放たれた拳への盾となる。
だが、その魔法陣の本質は盾ではない。次々に砕かれた魔法陣の欠片は、そのまま拘束具となり、巨人の腕を縛り上げた。
「________」
うめき声を上げる巨人。
だが、ウィザードの今の魔法はこれだけではない。
「これで……終わり!」
ウィザードは大きく飛び上がる。
太陽をバックに、ウィザードは翼を大きく広げると、ウィザードを中心に四つの魔法陣が出現。
「いっけええええええええええ!」
ウィザードがその鉤爪を振るう。
投影されるような動きで、三つの魔法陣は超大型巨人へと飛んで行く。
それらの魔法陣は、それぞれその姿を変化させた。
それぞれの色に対応した、オールドラゴンへ。
まず先行するのは、黄のオールドラゴン。
それは、丁度超大型巨人が迎撃に繰り出した右手の拳と激突。黄色の魔力はその捨て身の攻撃により、右腕を道連れに消滅していった。
続く、緑のオールドラゴン。
利き腕を失った超大型巨人は、慌てて左腕で防御。風の突破力もあり、左腕は緑のオールドラゴンとともに消失した。
そして、両手を失った超大型巨人へ、青のオールドラゴンが続く。
すでに、超大型巨人には対抗手段がない。
その懐へ、青のオールドラゴンが飛び込んでいく。
大きく腹を裂かれ、悲鳴を上げる超大型巨人。
そして。
今、太陽が大きく傾いた。空は青を失い、黄昏時となる。
宵闇に輝く、緋色の流星。まさに紅蓮の弓矢と見紛うストライクドラゴンは、超大型巨人の胸元に炸裂。巨人の肉体へ、大爆発を引き起こし。
見滝原の夕暮れに、昼間をもたらすほどの火柱が立った。