Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
エピローグと登場人物紹介のあと、とうとう十章に入ります!
「はあ、はあ……」
もう限界だ。
オールドラゴンどころか、ウィザードの姿すら維持できない。
着地と同時に、その姿がハルトに戻った。肩で呼吸しながら、ハルトは崩れていく超大型巨人の肉体を見つめた。
あれだけの質量が瞬時に気体に代わっていく。水蒸気どころか、霧といっても違いないほどの濃霧に、ハルトの赤い目でもその内部は見切れなかった。
「うっ……」
もう、体が持たない。
全身から力が抜けたハルトだったが、それをコウスケの肩が受け止めた。
「よ。無茶しすぎだぜ。ったくよ」
「ああ……」
ハルトは左腕に付けたままのドラゴタイマーを見下ろす。
「自分でも分かるほど、魔力がすっからかんだ……結梨ちゃんの形見だけど、あまり多用はできないな……」
「マジモンの切り札ってことかよ。……オレのハイパーと交換しねえか?」
彼の冗談をスルーしたところで、ようやく霧が消えてきた。やがてハルトの前には、超大型巨人の正体たる人物___ベルトルトの姿が現れた。
「彼が……超大型巨人の正体か」
「ああ」
頷くコウスケ。
思い返せば、彼と接触しているのはコウスケだけだ。だが、彼の表情が、目の前にいる人物こそがベルトルトだとゆうに物語っている。
肝心のベルトルトも、ハルトと同じく満身創痍に違いない。もう自立すらできないようで、片膝を地面につけ、こちらを見返している。
「あんたが、ベルトルト……」
「ま、まだだ……」
ベルトルトは、まだ諦めていない。
近づこうとするハルトへ、手に持った長い刃物を振るう。ハルトが足を止めた途端、
彼はおもむろに自らの指に噛みついた。
「な、何をやって……!」
驚くハルトたち。
だが、彼の歯型が指に刻まれただけで、それ以上の出来事は何も起こらなかった。
「……ッ!」
唇を強く噛むベルトルト。だが、彼はそれ以上の噛みつきを行うことなく、ハルトたちを睨みつけた。
巨人化の体力消耗の影響だろうか。顔や全身からは筋肉がげっそりと削げ落ちている。だが、それでもその目には力強さが残っている。
あの目は、確かにあの超大型巨人の目だ。
「動くな」
その時、霧から冷たい声がベルトルトに当てられた。
いつの間に回り込んだのだろうか。燐が、その手に巨大な針の形をした岩石を浮かせながら背後を取っていた。
「貴様があの巨人の正体か」
「君は……」
ベルトルトが目だけを動かして燐を見返している。
だが、燐は容赦するつもりはないようだ。彼の頭を掴み、地面に着き伏せさせる。
「これは何だ? お前の傍に落ちていたが」
そう質問を重ねる彼女の手にあったもの。それを見た途端、ハルトは息を呑んだ。
「あれは……ッ! 賢者の石!」
「あれがあったから、消耗なく活動できていたのか……」
見るだけでわかる。この石が内包する魔力を。これまでハルトが扱ってきた魔法石全てを合わせても、この魔法石に比べれば微々たるものだ。
だがパピヨンに見せてもらった時と比べて、燐の手にある石は……。
「とても……濁っていないか?」
「当然だ」
そう言い切ったのは、キングの声。見れば彼は、すでに燐の後ろを取っていたのだ。
振るわれる剣。燐は岩石のターゲットをキングへ変更、岩石は見事に切り刻まれてしまった。
「ちぃ!」
飛びのいた燐。だがキングはそれ以上追撃することはなく、ベルトルトの安全確保を選んだ。
「底なしの体力かよ、ホムンクルスっていうのは」
ハルトは何とかウィザードライバーを出現させる。だが、逃避行からの戦闘続きでもう魔力は底をつきており、ウィザードリングからもドラゴンの力が抜けている。
「これ以上は厳しいな……コウスケは?」
「オレも
一方キングは、燐が持つ賢者の石を見つめたまま頷いた。
「その石はもう君にくれてやろう。何、一時的な効力のみを発揮する偽物だ」
「何だと? ……はッ!」
燐が驚いたような声を上げた。見れば彼女の手にあった石はすでに輝きを失い、塵と化していた。
キングはそれを見届けると、ハルトたち参加者を一望する。
「さて、今回は我々の負けということにしておこうか。何、次の機会にはまた戦ってあげよう。私の職場もなくなったことだし、今は新たな拠点を探したいのでね」
「……」
止めることはできない。
ハルトを始め、いまここにいる参加者は全員ボロボロだ。
一時的にキングを退けた可奈美と友奈は、視界の端で気絶している。
分かれて戦闘をしていた響も、ソロとともに膝をついている。
えりか、フロストノヴァも超大型巨人やスピノダイオーとの連戦で動けない。
キャスターはマキマの激戦から疲弊しており、ほむらもとうに弾切れ。
一方あれだけの激戦を潜り抜けたはずのキングは、全く疲弊を表に出していない。
これ以上、ここで戦うのは危険だ。
だが。
「ふざけるな!」
燐が怒鳴る。
彼女は瞬時にゴーレムを再生成。その巨体を持って、キングへ拳を振りかざす。
「ここまで好き勝手に暴れまわっておいて、タダで済むと思うな!」
「燐さん、ダメだ!」
だが、ハルトの言葉は届かない。
激昂したメイドの指示の下、ゴーレムが拳を鉄槌とする。さきほどまでの巨人を思わせるような動きだが、それは途中で止まった。
「な……に……?」
動きが止まったのは、ゴーレムだけではない。術者である燐もまた、完全に動きが止められていた。
「停戦しようって時は、静かに受け入れましょう」
その声に、ハルトとコウスケの表情が同時に唖然となる。
一体いつ、燐の背後に回り込んでいたのだろうか。
悪魔の囁きのようなウィスパーボイスを口にした女性の姿を見て、絶望が体内を駆け巡った。
燐と同じく、ゴーレムの右肩に乗る人物。その特徴的な目を、果たして忘れることなどできようか。
彼女は燐の首筋に触れて、静かに言い放った。
「はい。ここは穏便に終わらせましょう」
「くっ……!」
燐が何か抵抗の姿勢を示した。
だがその途端、彼女の様子が変わった。全身から力が抜け、その体が宙へ投げ出される。
「燐さん!」
ハルトはコウスケを突き飛ばし、駆ける。赤い眼でファントムの力を全身に巡らせ、何とか燐をキャッチ、すぐさま飛び退いた。
「お前、キャスターが倒したんじゃ……」
燐の気絶により崩れていくゴーレム。その岩の雨の中、赤い髪を振り乱すマキマが音もなく着地した。
「ああ……!」
キャスターの声が少し離れたところから聞こえてくる。
あまり表情が変わらない彼女にしては珍しく、大きく動揺していた。
「バカな……!?」
キャスターの驚愕の顔。間違いなく、それを目撃したのは初めてのことだ。
「私は、明確に急所を抉ったはずだぞ……!」
「……うん」
マキマは上着をめくる。
彼女のシャツには、あちこち血で赤く染まっている。だが、それを纏うマキマには傷が一切見られない。
「うん。死んだよ?」
普通の会話ならばまず出てこない発言。それを耳にして、ハルトの頭にこの言葉が浮かんできた。
「お前……不死身の能力まであるのか……」
「どうだろうね? 私の死は、見滝原の誰かの事故死に置き換えられるから……」
マキマはそう言って、両手で三角形を組む。キャスターをその中に入れ、やがて手を叩く。
「うーん、ダメみたいだね。さすがはキャスター。君のせいで、私の支配の力が一部使えなくなってしまったみたい」
「……ってことは」
「うん。ハルト君にやった
平然と言い切ったマキマだが、彼女もまた満身創痍とはとても言えない。
確かに赤い絵の具をひっくり返したように血まみれだが、今戦おうと思えばこの場にいる誰も彼も___おそらくキャスター含めて___を蹴散らすことができるだろう。
マキマの無事を確認したキングは、一度目を閉じた。
「どうやら天は我々に味方をしているようだな。さて、君たちに問おう。このまま我々を見逃すか、ここでもう一度死ぬまで戦うか」
「……これ以上戦うつもりはない。退却するなら……止めはしない」
「賢明な判断だ」
キングは頷き、自らの服を掴んだ。
整っていたスーツが引き裂かれ、その内側の服装が露になる。それまでの群青の服装は一転、屈強な黒い薄着となる。全身に巻き付くベルトからは、様々な剣の帯刀を可能としていた。
「……!」
「我々はこの場にはもういられないだろう。今後は身を隠し、聖杯戦争への勝利の機会を伺うとしよう」
「……ホムンクルス……巨人、それに……」
ハルトの目は、敵対する三人に次々に向けられていく。
今、最もハルトが恐れている相手。マキマ。
「マキマ……あんたたちは、何のためにここまでの戦いをしていたんだ……? なんで巨人で、あちこちの建物を壊していたんだ?」
「私の支配する世界に不要なものを消していただけだ」
キングははっきりと答えた。
「聖杯が成す私の願いは、私をれっきとした生命体にすること。そして私は、その命をもってこの世界を支配する。我々が持つ、真の平和といってもいい」
「マキマが言っていた世界か……」
ハルトは拳を握った。
「あらゆる人間の苦しみが無くなった世界……だけどそれは、お前たちにとっての都合のいい世界でしかない……!」
ハルトの目が赤くなる。
とうに魔力は切れている。それでも、全身にはウィザード、ファントム両方が由来の力がみなぎっていた。
「お前たちを止めてやる……! 人を人形みたいにした世界になんて、させるものか!」
「ふむ……ならば」
キングは、ウロボロスの目を光らせる。
二つの赤い眼が交差し、この広場に沈黙をもたらした。
「止めてみるがいい。君に、できるものならね」
見滝原市長、キング・ブラッドレイが行方不明となったニュースが公開されたのは、その数時間後のことだった。