Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
プロローグ
乾いた音が次々に落ちていく。掴んだ鉄製の手すりから、冷たく硬い手触りが跳ね返ってくる。
松菜ハルトは、ひたすら鉄製の階段を駆け上がっていた。人間ならばとうの昔に息切れしている勢いだが、赤い目で人を超えたハルトに疲れはない。
ようやくたどり着いた屋上で、ハルトの目には予想通りの人物と、予想だにしていない人物が飛び込んできた。
「モノクマ……ッ!」
『おっ! ハローハルト君! ひっさしぶりィ!』
そこにいるのは、小さな熊。左右それぞれ白と黒に分かれており、白側は穏やかな笑みを見せている一方で、黒側は邪悪な顔つきをしていた。
明らかに自然的な生成物ではない存在。モノクマと呼ばれる妖精は、挑発するように両手を振る。
だが、ハルトの目線はすでにそこには向かっていなかった。ハルトが見つめるのは、モノクマの隣。何らかの儀式の生贄のように鎮座させている少女を見て、ハルトは歯を食いしばった。
「まどかちゃん……!」
この街、見滝原に来てから幾度か関わってきた少女、鹿目まどか。桃色の髪を可愛らしくツインテールにまとめ上げ、リボンが特徴的なその少女を助けるために、あの階段を駆け上がってきたのだ。
「お前、まどかちゃんに何の用だ……!? 彼女は参加者でも何でもないんだぞ!」
『ごめんね、ハルト君。彼女にはちょっと私用で手伝ってもらうものだから、君に邪魔させるわけにはいかないんだ』
「邪魔させるわけにはいかないって……何を!?」
『うぷぷ。内緒。……ゴー! デスリュウジャー!』
「!」
その名前を聞いた途端、ハルトの背中に悪寒が走る。
すぐ背後には、凶暴な紺色の獣が迫ってきていたのだ。
全身を紺色のスーツで覆い、恐竜の意匠が組み込まれた装飾に身を包んだ戦士。前回の戦いで、その正体は牙の怪物だと分かっている。
彼の腕を受け止めながら、ハルトは問う。
「デスリュウジャー……!? お前、何でここに……!?」
「クク……はああッ!」
デスリュウジャーの凶器が唸る。
剣としても笛としても使用できるブーメラン。フルートバスター。
ハルトは何度もそれを回避し、バク転して距離を取る。
だが、デスリュウジャーはそれで諦めることはない。吠えながら、また襲い掛かってくる。
「言葉もなしか……!」
『コネクト プリーズ』
ハルトは手にしていた指輪をベルトに押し当てる。
すると、それは発動した。指輪に組み込まれていた魔法陣が読み込まれる。ベルトを通じて体内の魔力が魔法陣の通りに出力され、まさに魔法となる。
そしてこの魔法は、空間湾曲。ハルトの手元に発生した赤い魔法陣に手を突っ込めば、銀の銃剣が姿を現した。
そのまま銃剣、ウィザーソードガンで防御。目の前で火花が飛び散った。
「ぐっ……!」
「さあ、どうしたウィザード! 前のように激しく戦え!」
フルートバスターが苛烈に暴れまわる。何度も防ぎながら、やがてハルトは剣から蹴りで応戦。
フルートバスターが一時大きく弾かれた。その隙にさらにハルトは両足で飛び蹴りを放ち、デスリュウジャーを一時的に引き離す。
「会話する気はなしか……こいつを出し抜いた上でまどかちゃんを助けないと……」
後ずさりしながら、ハルトはデスリュウジャーとまどかを何度も見比べる。
一見獰猛な獣のような動きをするが、その実それらは理性によって計算されている。どれだけ攻撃の手を加えても、デスリュウジャーが隙を見せることは決してないだろう。
『うぷぷ! ありがとうね、デスリュウジャー!』
モノクマが片腕を上げた。
『どう? ガーチャー……ボクのサーヴァントは?』
「お前のサーヴァント……だって?」
ハルトは耳を疑った。
「キュゥべえみたいに、また監督役がサーヴァントを召喚したのか!? 今度は何のために……!?」
『うーん? そんなの決まってるじゃない』
モノクマは目の前で体を何度も宙がえりさせる。その都度ピコピコと音が鳴っている。
『人がやっているお祭りを見るのって、つまんないじゃない。ボクだって参加したい! 仲間外れはよくないよ!』
「仲間外れって……!」
『だからこの度、ボクも君たちと同じく戦うことにしました!』
モノクマはそう言って、手にした黒い物体を腰に当てた。あまりにも自然な動きで行ったため、ハルトがそのディティールを把握するまで数秒かかってしまった。
「あれは……!」
ハルトは反射的に腰のベルトに触れる。
果たしてこれと同じやり取りを、数か月前にも行っていた。
「また俺のベルトのコピー品か……!」
『さあ! ボクもカッコよく変身しちゃうぞ!』
モノクマはそう言って、ベルトのつまみを操作する。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
すると、ベルトが歌いだす。魔力詠唱を簡略化したそれは、ハルトもよく知るもの。
『変身!』
『チェンジ ナウ』
指輪がベルトに読み込まれる。
そして発生するのは、黄金の魔法陣。
夜の景色をどこまでも塗りつぶしていくその輝きに、ハルトは思わず目を伏せる。
「な、何……!?」
そして、モノクマのベルトより流れる黄金色の音色。
眩いほど黄金の魔法陣が夜空を照らし、まるで日の出が早まったようだ。
そうして、魔法陣がモノクマの姿を書き換えていく。白と黒のツートンカラーから、豪華な金をメインにしたものへ。
「うぷぷ。どう? 黄金の魔法使い、かっこいいでしょ?」
変化した姿であっても、声はモノクマのままだ。
ミスマッチさを感じながら、ハルトは彼の言を促す。
「僕はキュゥべえとは違って、ちゃんと名前は付けるよ。君が
黄金の魔法使いはゆっくりと顎に手を当てる。そしてゆっくりと、自ら名付けた。
「悪い魔法使い……ソーサラーってところかな」
「ソーサラーだと……?」
ハルトは顔をしかめながら、指輪を腰に当てる。
『ドライバーオン プリーズ』
モノクマと同じ動きで、銀のベルトが生成される。
そうしてハルトは、これまたモノクマと同じ操作方法でベルトより音声が流れだしていく。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
ベルトが代用して行ってくる呪文詠唱。
手にしたルビーの指輪、その装飾を落とし、ハルトは叫んだ。
「変身!」
『フレイム ドラゴン』
深紅の魔法陣が、黄金の輝きと拮抗する。
『ボー ボー ボーボーボー』
そうして魔法陣がハルトを通過、指輪の魔法使い、ウィザード フレイムドラゴンとなる。
『コネクト ナウ』
「うぷぷ。さあ、どこまで出来るかな?」
ソーサラーが指輪をベルトに読み込ませる。そうして発生した魔法陣は、こことは別の空間に繋がっており、ソーサラーはそこから長物を引っ張り出した。
それは、長斧。ディースハルバードの名を持つその武器は、見ただけでその破壊力が大きいと推し量ることができた。
デスリュウジャーとソーサラー。
一対二。明らかに不利だが、それでもまどかを救出しなければならない。
身構えていたウィザード。
だがその時、バリン、と。大きなガラスが割れるような音が響いた。
「な、なんだ?」
今の異変は、どこから響いてきたのだろうか。
そして、その音の発生源らしきものに気付いた。
割れたのはガラスではなく。
「空……?」
黄昏時の空が、大きくひび割れている。少しずつ破片が剥がれ、空の向こう___虹色の光が見え始めていた。
「なんだ……? アレは?」
空に入った亀裂は、少しずつ大きくなっていく。そして、その奥の虹色の光が大きくなるほど、なにやら奇妙な歌が聴覚に訴えてくる。
「よし、呼び寄せられたね。デスリュウジャー、その子はもういらないし、今回は帰るよ」
「何を言っている?」
ソーサラーの指示に対し、デスリュウジャーは構えを解かない。
「この前の続きだ。さあ、俺と戦えウィザード!」
「ストップストップ。いいの、今日の目的はアレだけだから。ハルト君と戦いたいなら、また今度いい機会を設けてあげるから」
「……」
だけど、デスリュウジャーは納得していないみたいにフルートバスターをソーサラーの首元に当てている。
「ふざけるな。俺はキサマの僕ではない」
「ふーん。困ったなあ」
ソーサラーはため息をつきながら、手をかざす。
「じゃ、令呪使うか。ボクの命令には絶対服従。あ、これずっとね」
「貴様、ふざけ……!」
振り上げたフルートバスターが静止した。令呪の力で、完全に支配されたのだ。
「ぐっ……! 貴様……!」
「はいはい。恨み言は帰ってからね。これでも忙しいんだから。よし。それじゃあね、ハルト君。その子は返すから」
ソーサラーはそれだけを言い残し、指輪をベルトに装填した。
『テレポート ナウ』
ウィザードは持たない空間移動の魔法。
それによって、ソーサラーとデスリュウジャーの二人は空間の歪みの中に消えていった。
ただ一人、ウィザードは取り残されたまどかと虚空を交互に見つめ、もう一度上空を見上げた。
虹色だった空は、何事もなかったかのように夕方空に戻っていた。