Fate/WizarDragonknight 作:カラス レヴィナ
友奈はほんの少しだけ、違和感を覚えた。
顔。髪。服。全部同じ。
間違いなく城戸真司だ。
「真司さん、どうしたの?」
友奈の問いに、真司は答えない。
今、友奈たちは商業施設の屋上に来ていた。すぐ近くでは、子供連れが何人か集まっており、空が暗くなってきてもまだ明るい感じがする。
「ちょっと疲れちゃった?」
友奈の質問にも答えない。
自分の後について歩いている彼は、石像みたいだ。
いつもならば元気に自分と一緒にはしゃいでいるのに、どうしたのだろうか。
屋上の奥の方は賑わっているが、裏口のこちらはほとんど人がいない。
まだ元気が有り余っている。なんとなく、地面に設置されている配管に乗って見る。
「ねえ、こういうの子供の時やってた? 落ちたら溶岩~ってやつ」
「……」
何も言わない。
時間が経つごとに、だんだん違和感が強くなる。
「真司さん……どうしたの?」
さっきからずっと、口が全く動かない。
そして。
真司が手が、友奈の腕を掴もうとしてきた。
「っ!」
友奈の反射神経が、その手を払い落とした。
パチンと乾いた音が響き、真司の手が反れた。
「……」
「真司さん……?」
謝るべきだろうか。それとも、いきなりどうしたのかと問いただすべきだろうか。
だが、武術を心得た自分の直感が、今の真司が危ないと訴えていた。
「……」
表情がほとんど変わらない。
真司なら、急に手を払われれば『何だよ!?』だとか、『痛ったああ!』とオーバーリアクションがあるはずだ。
なのに、目の前の男はただじっと自分を見ている。
「もしかして……」
友奈の足が一歩下がる。
「この人、真司さんじゃない!?」
それに気付くのに遅れてしまった。
生身ながら、友奈に迫ってくる彼。
その目は、真司のそれとは違う赤い目をしている。
「っ!」
友奈は赤い目の真司の手を弾き、その腹部に拳を叩き込む。
だが、赤い目の真司はそれにすぐさま適応し、左手で受け止めた。
「やあっ!」
友奈はすぐさま体重をかけた蹴りを放つ。それもすぐに防御され、むしろ赤い目の真司の手が、友奈の首を掴む。
「はあっ……!」
友奈は即、それに対応。
腕を大きく振るい、相手の手を振り払う。そのまま反撃として、腰の入った拳を放った。
だが、乾いた音とともに、拳は左手で受け止められた。
驚いた友奈は、即座に回し蹴りに切り替えるが、それすらも腕で流される。
「っ!」
逆に、友奈の首へ手が伸びる。
「うっ!」
掴まれる前に、その腕を両手で払い上げ、そのまま胸元へ踏み込み掌底を叩きこむ。
すると、ようやく赤い目の真司の顔に歪みが生じた。
「……」
相手の様子を伺う友奈。やがて相手は、むっくりと体を起こした。
「やっぱり……真司さんとは、違う」
見た目は同じなのに動きが違う。
真司は考えるより先に体を動かす。
多少無茶でも真正面からぶつかる。
だけど今の男は違う。
こちらの攻撃を最低限の動きだけで処理する。
それが気味が悪い。
「あなた……誰なの?」
しばらくの間、赤い目の真司は友奈を睨み。
やがて、ポケットからそれを取り出した。
カードデッキ。
だが、友奈が知る龍騎のそれではない。
下地からエンブレムにかけて、全てが漆黒に塗り潰されている。
「あれは……!」
静か。
耳が痛くなるほどの沈黙の中、彼は目を閉じた。
そして。
「変身」
その言葉は重く、そして強く響く。
静かに、Vバックルのスロットに挿入されていくカードデッキ。同時に、黒い鏡像が彼の姿に重なっていく。
そして。
「黒い……龍騎……!?」
黒い龍騎。
そうとしか呼べなかった。
燃えるような赤い体も、守るための銀の鎧も。
全て、黒い闇色に塗り潰されている。
ただ一点。降りしきる雨の中、黒い龍騎の目は赤く輝く。
「……っ!」
息を呑んだ友奈。
黒い龍騎は、ゆっくりと動きを始める。
友奈の防御をものともせず、その肩に掴みかかり、突き落とす。
「うわわっ!」
転落する友奈。
「牛鬼!」
その中、友奈は叫ぶ。
すると、自らの力の源である白い妖精が現れ、落下する友奈の下に桃色の光を放っていく。
牛鬼から溢れる光へ落ちていく友奈。
転がりながら着地したころには、友奈の変身は完了していた。
勇者の姿となり、立ち上った友奈の背後に、ドシンと重い音が足元を揺らす。
商業施設前に、突然友奈が着地した。
そうなれば、騒ぎになるのは必定。
「皆! ごめん、今は早くここから逃げて!」
友奈の叫びが通じたか否か、人々はそれぞれ逃げ出していく。
そして、誰もいなくなった直後、友奈の目の前に黒が降り立った。
黒い龍騎。
夜の闇と相まって、一層の不気味さを感じさせた。
「あなたが誰なのか知らないけど……真司さんの姿で」
拳を握ったまま、友奈は黒い龍騎を睨んだ。
「勝手なことしないで!」
友奈の武術は、決して何者にも引けを取らない。
だが黒い龍騎の腕は、高技術の友奈の武術を全て受け流していく。拳は受け止められ、裏拳は流され、蹴りは避けられた。
「当たらない……!」
あまりにも洗練されている。
むしろ、黒い拳や蹴りは、容赦なく友奈の体を痛めつけ、伏せさせていく。
「があっ!」
悲鳴に応えるものはない。
ただ、友奈は黒い拳に打ちのめされ、体に痛みを走らせるほかなかった。
一度地面を転がった友奈。それに対して、黒い龍騎は余裕そうに両手を広げていた。
「勇者は……根性!」
もう一度、黒い龍騎に挑みかかる。
だが、やはり全てが空振りに終わる。
それどころか、相手回避を利用してその身を回転させ、その勢いで裏拳を放ってきた。
「がっ!?」
体が再び地面に落ちる。全身のダメージへ歯を食いしばりながら、友奈は身構え、挑む。
そして気付かなかった。
『アドベント』
龍騎のものと比べて、低くくぐもった電子音が響く。
すると、友奈の頭上から黒い影が食らいつく。
友奈を圧し潰し、地下まで貫通させるそれ。
「ううっ……!」
痛みに堪えながら友奈は、それが黒い龍___ドラグレッダ―と瓜二つの存在だと気づいた。
「嘘……っ!」
だが、この黒いドラグレッダーは友奈が知るものではない。
何で、と疑問を抱く暇すらない。自らの顔面が、コンクリートの柱に迫っていたのだから。
そして。
黒い龍は、駐車場の柱を何本も、友奈の体を叩きつけて破壊していく。
「うっ……ぐあっ……! ああ……っ!」
友奈の悲鳴さえも塗り潰す破砕音。
そのまま黒龍に放り捨てられた友奈は、もうほとんど動けない。無造作に地面を転がり手足が曲がってはいけない方向へ傾いていた。
「あっ……ああっ……!」
死さえも凌駕するような痛みに、友奈は声もほとんど上げることが出来なくなっていた。
やがて、体内に宿す神樹の力が、友奈の傷を接合していく。
バキバキと無理矢理な治癒により、悲鳴を上げたくなるような痛みが全身を駆け巡る。
やがて痛みを引き継がせながら、全身は元の状態に戻っていた。
「まだ……!」
無理やり体を起こしながら、友奈は声を上げた。
「何者……なの? あなたは……!」
顔を上げた友奈は、黒い龍騎の右手に装着されたものに目を見開く。
ドラグクロー。
龍騎の動きと全く同じそれを、友奈はただ指をくわえてみていることしかできない。
「……はあああっ……!」
黒い龍騎が腰を落とす。
動きを見ただけで分かる。龍騎の主力技の一つ、
それが、友奈へ向けられている。
逃げようとしても、体が動かない。
黒い龍とともに放たれた黒い炎が、友奈の体を焦がす____
その直前に、赤い影に突き飛ばされ、友奈は無事だった。
「おい! 大丈夫か!?」
「真司さん……」
この声。
今度こそ、分かる。
「友奈ちゃん!」
「……真司さん」
今は、龍騎の姿だ。
友奈の無事を確認して、相手である黒い龍騎相手に言葉を失っている。
「……俺?」
黒い龍騎は何も答えない。
ただじっと、本物の龍騎を見つめていた。
やがて、雲が月を覆い隠し、より深い闇が訪れる。龍騎の姿が影に隠れ、黒く見える。
するとどうだろうか。龍騎と向かい合う黒い龍騎。二人の姿が、本当に見分けがつかなくなる。まるで鏡みたいだ。
「……」
相手は何も言わない。
ただ、友奈たちから目をそむいて、どこかへ歩き出していった。
「おい、待て!」
龍騎が覆うとするが、相手は近くの鏡に触れた、その途端その姿を消した。
鏡の中に入った。そのように見えたが、意識が朦朧としている今、これ以上の疑問を保っていられなかった。
「ゆ、友奈ちゃん! 大丈夫か!?」
薄れゆく意識の中。
龍騎の変身を解除して、必死に呼びかけている真司の姿が映っていた。