Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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行方不明

「……よし」

 

 蒼井えりかは、何度目か分からない確認を終えて携帯電話を閉じた。

 午後六時過ぎ。見滝原中心部から少し離れた再開発区域には、かつて大型商業施設として使われていた建物が、取り壊しを待つように夕闇の中へ残されていた。正面入口も立体駐車場も既に閉鎖され、周囲には工事用フェンスと資材ばかりが並んでいる。

 

「ここ……ですよね」

 

 四宮かぐやとの情報共有を始めてから、燐より一つの情報が届いていた。

 この周辺で、原因不明の失踪が続いている。

 それだけなら聖杯戦争と結びつけるには弱い。だが失踪者の多くに、直前になって新しい同居人や急速に距離を縮めた人物がいたという共通点があった。

 

「ハルトさんたちは、城戸さんの方を調べてますし……」

 

 昨日、友奈が城戸真司と全く同じ顔をした男に襲われた。

 

『顔は真司さんと同じだった。でも、動きが全然違う。黒い龍もいて、最後は鏡の中に消えた』

 

 友奈の表情を思い出すだけで、それがただの偽物ではなかったことは分かる。

 そのためハルトや真司、友奈、可奈美は現場となったショッピングモールを調べている。

 なら、自分も何かしなければならない。

 

「蒼井にだって、できることはありますから……!」

 

 完全記憶能力を使えば、情報収集では役に立てる。

 

「……一人で行動するなって、かなり言われましたけど」

 

 何かあれば必ず連絡するようにも言われた。

 それでも今日は調べるだけだ。

 

「戦うわけじゃありませんし。終わったら、すぐ帰ります!」

 

 誰にするでもない言い訳をして、えりかは工事用フェンスを越えた。

 閉鎖された商業施設の裏側には、かつて搬入口だった広い空間と平面駐車場が続いている。街灯のほとんどは消え、残されているのは工事車両や資材、古びた案内板。そして建物を覆う巨大なガラス壁だけだった。

 

「こ、怖くありません。蒼井、元軍人ですから。キャンサーとだって戦いましたし……」

 

 ガタン。

 

「ひぃっ!」

 

 思わず飛び上がった。

 慌てて振り返れば、風に煽られたブルーシートが資材へぶつかっただけだった。

 

「……怖くないのと、驚くのは別ですからね!」

 

 誰もいない場所で弁解し、スマートフォンのライトを点灯する。

 失踪者の最後の目撃地点は駐車場西側。そこへ向かって進んでいると、不意に光が舗装の一角を照らした。

 

「……?」

 

 丸く焼け焦げている。

 自然に燃えた跡には見えない。

 

「これは……」

 

 えりかは周囲を見回し、少し迷ってから息を整えた。

 

「……どうか、安寧な記憶を」

 

 青いワームホールが頭上に開き、盾型セラフ――Shooting starが姿を現す。

 腰へ装着されたセラフから淡い光が漏れ、暗かった周囲を照らした。

 

「ふう……なんて贅沢な使い方」

 

 焼け跡を撮影し、今日はこれで戻ろう。

 そう考えた直後。

 ピッ。

 

「……?」

 

 電子音が鳴った。

 駐車場の中央。工事用バリケードの上に、小さな黒い機械が置かれている。

 えりかは眉を寄せた。

 完全記憶能力が断言している。先ほどまで、あそこには何もなかったと。

 

「ゲーム機……?」

 

 手に取ってみると、中央には小さな画面があり、左右にはAとBのボタン。上部にはソフトを差し込むような口まである。

 

「どうして、こんなところに……」

『ゲーム スタート』

「え?」

 

 突然画面が点灯した。

 同時に紫色の光が周囲へ広がり、闇に沈んでいた駐車場が、不自然なほど明るく変化していく。

 

「な、何ですかこれ!?」

「いやあ、よく来たな」

「!」

 

 男性の声。

 廃車の屋根に、黒い服を着た長身の青年が座っていた。

 あり得ない。さっきまで、そこには誰もいなかったはずだ。

 

「誰ですか……?」

「俺?」

 

 青年は楽しそうに自分を指差す。

 

「ゲームマスター……ってところか?」

「ゲーム……?」

「いや、今は違うな」

 

 笑みが深くなる。

 

「俺は――」

『処刑人だ』

 

 別の声が、直接頭の中に響いた。

 工事用フェンスの上に、白い小動物のような生物が座っている。

 

「……コエムシ」

『よお。お前とは初対面だったな、シールダー』

 

 えりかも、その存在は聞いていた。

 聖杯戦争の監督役の一体。

 

「どうしてここに……!」

『ルールを守らねえ参加者を始末するためだよ。そいつはオレ様たちが用意した処刑人ってわけだ』

 

 青年が軽く手を伸ばす。

 すると、えりかが持っていたゲーム機がオレンジ色の粒子へ変わり、その手の中で再び形を作った。

 

『第一、お前のマスターは目立ちすぎなんだよ。サーヴァントを二騎も抱えて、あっちこっちで戦いを止めて、最後には聖杯戦争そのものまで終わらせようとしてやがる』

 

 コエムシの視線が細くなる。

 

『健全な聖杯戦争には邪魔なんだよ』

「……!」

『まあ、毎回アイツ本人を狙うのも芸がねえ。お前が一人で来てくれて助かったぜ』

 

 えりかの表情が変わった。

 

「松菜さんには……手を出させません」

「へえ」

 

 青年が楽しそうに笑いながら立ち上がった。

 

「いい顔するじゃん」

 

 取り出した黄色い機械を腰へ押し当てると、鋼色の帯が伸びて身体へ巻き付いた。それは完全に、派手な色合いのベルトとなる。

 

「じゃ、ゲーム開始だ」

 

 続いて丸いパーツの付いたゲームソフトを装填する。

 

『デュアルガシャット』

 

 左右に透明なゲーム画面が浮かんだ。

 

『The strongest fist! What’s the next stage?』

「変身」

『ガッチャーン! マザルアップ!』

 

 そして、腰のベルトが開く。左右に展開され、ベルトからは長方形の透明な画面が飛び出した。

 

『悪の拳強さ! 闇のパズル連鎖! 悪しき闇の王座! パーフェクトノックアウト!』

 

 黒い画面は、そのまま青年を貫通していく。丁度ハルトが魔法陣を通ってウィザードに変身するのと同じ異様に、青年の姿が画面を通過することで変わっていった。

 そこから姿を現したのは、濃淡だけで複雑な装甲を形作った漆黒の仮面ライダー。胸元の表示と両目を除けば、全てが黒一色で染め上げられていた。

 

「アナザーパラドクス。心が滾る……!」

「……っ!」

 

 えりかもセラフを浮かせ、両足を踏ん張る。

 

「蒼井は……簡単にはやられません!」

「その方がゲームは面白い!」

 

 アナザーパラドクスの腕に装着されたガシャコンバグヴァイザーⅡが振るわれる。

 刃を盾で受け止める。

 続く斬撃も、えりかは盾を変形させて防いだ。

 

「くっ……!」

「さすがシールダー。防御だけは一人前ってか?」

「シールドトルネード!」

 

 高速回転した盾が黒い胸部へ激突し、火花を散らした。

 だが。

 

「おいおい。今のが攻撃技か? 弱いな」

 

 アナザーパラドクスは胸元を軽く払った。

 直後、緑色の斬撃が放たれる。

 

「っ!」

 

 えりかは盾を展開して受け止めた。

 

「おらァ!」

 

 だが斬撃は囮だった。

 盾の死角から蹴りが腹部へ突き刺さり、えりかの身体が廃車へ激突する。

 

「がはっ!」

「守ることしかできないとか、タイマン性能最悪だな?」

 

 休む暇など与えられない。

 拳を盾で防げば、次には蹴り。さらにバグヴァイザーの刃が迫り、受け止めるたび腕から肩まで痺れが走る。

 それでも見えてはいる。そして、完全記憶能力が一度受けた攻撃を全て蓄積していく。

 右拳の後には左脚。バグヴァイザーを振り下ろした直後には右肩が僅かに下がる。三度目の踏み込みは必ず左足。

 攻撃の癖は、少しずつ分かってきた。

 なのに。

 

「くっ……!」

 

 反撃できない。理解する速度と、身体が対応する速度は別物だ。

 

「へえ、一発で全て見切れるのはすごいな」

 

 アナザーパラドクスが拳を叩きつけながら笑う。

 次の一撃に、盾が大きく震えた。

 

「まあ、防げても勝てないから意味ないけどな」

 

 鈍い音が響く。

 見れば、セラフが紡ぐ正六角形のポジションが、崩され始めていた。

 

「そもそも、その盾を壊したら終わりだよな?」

 

 彼はもう、盾そのものではなく、それを展開させる黒い機械を狙っていた。

 えりかが盾を生成すれば、攻撃の狙いを六角形の頂点であるセラフに切り替えている。

 あっさりと盾の形状がくずされ、そのままの衝撃にえりかが弾き飛ばされ、えりか自身も反動で舗装の上を転がる。

 

「うっ……!」

 

 それでもえりかは地面へ手を突いた。まだ立たなければならない。

 

「まだ……!」

 

 そんなえりかを見て、アナザーパラドクスは不思議そうに首を傾げた。

 

「なあ。お前、誰を守ってるんだ?」

「……何ですか」

「ここに誰かいるか?」

 

 えりかの動きが止まる。

 誰もいない。

 

「シールダーなんだろ? 誰かを守るのが仕事なんじゃねえの?」

「それは……」

「一人で来た。攻撃も弱いし、俺にも勝てそうにない」

 

 指を一本ずつ立て、最後に両手を広げる。

 

「お前、本当に何しに来たんだ?」

「蒼井は……」

 

 言葉が詰まった。

 ハルトたちの役に立ちたい。

 ただ守られるだけでは嫌だった。

 

「松菜さんたちの……役に立ちたくて……」

「結果、足引っ張ってるけどな」

「……っ」

 

 一人で行くなと言われて、何かあれば連絡しろとも言われた。

 全部無視してここへ来た。

 このまま死ねば、リゲルを失ったばかりの仲間たちへ、今度は自分まで負担を押しつける。

 

「蒼井は……松菜さんの足を引っ張るために来たんじゃありません」

 

 遠くへ弾き飛ばされたShooting starが、意思に応えて僅かに浮かぶ。

 

「助けてもらうためでもありません。蒼井だって……戦えます」

「そうかよ」

 

 アナザーパラドクスの手がゲーマドライバーへ伸びた。

 

「じゃあ、立派に戦って、これで一人減るな」

 

 ベルトが閉じられ、そして再び開いた。

 

『ガッチャーン』

「これで……ゲームクリアだ」

『パーフェクトノックアウト クリティカルボンバー』

 

 アナザーパラドクスが跳び上がった。

 両脚に力を集め、一直線に迫ってくるライダーキック。

 えりかはセラフを呼び戻す。

 だが、完全記憶能力など使うまでもない。

 盾が戻る速度と相手が到達する速度を比べれば、間に合わないという答えは瞬時に出ていた。

 

「……っ!」

 

 その時。

 目の前を、別の黒が横切った。

 

「ぐあっ!?」

 

 アナザーパラドクスの身体が弾き飛ばされ、地面を転がる。

 

「え……?」

 

 何が起きた。

 えりかは、自分の前を通り過ぎた黒い影を追った。

 ゲームエリアの紫色の光を受けながら、巨大な何かが宙を滑っていく。

 長い身体と黒い鱗。

 

「あれは……!」

 

 真司のドラグレッダーに瓜二つの、黒い龍。友奈から聞いた、危険な存在。

 そして、その龍が旋回するその中心に、新たな黒い戦士が佇んでいた。

 赤ではない。銀でもない。ほのかに残る灯りさえ呑み込んでしまいそうな黒。

 城戸真司と同じ姿でありながら、そのすべてを暗闇へ反転させた存在。

 

「黒い……龍騎……」

 

 昨日、友奈を襲った男。

 その黒い仮面ライダーが、黒い龍を従え、えりかとアナザーパラドクスをじっと見つめていた。

 

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