Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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黒と黒

「おい……お前!」

 

 地面を転がったアナザーパラドクスは、黒い龍騎を指差した。

 

「白けることすんなよ! 今は俺のゲームの最中なんだ。横入りしてんじゃねえ!」

 

 だが、黒い龍騎は答えない。

 えりかには、赤い複眼が自分とアナザーパラドクスを順番に見比べているように思えた。

 

『まあ待て』

 

 工事用フェンスからコエムシが降りてくる。

 

「コエムシ! 誰なんだ、こいつ!」

『知らねえよ。ただ……サーヴァントみてえだな』

「はあ?」

『クラスは……アルターエゴか? だが、その枠はまだ契約されてなかったはずだが……』

「なんだよそれ……」

 

 苛立ったアナザーパラドクスが、バグヴァイザーを構えた。

 紫色の弾丸が連続して放たれる。

 だが、黒い龍騎は走らない。大きく飛び退くことさえない。ただ、肩を傾け、半歩ずれ、必要な時だけ首を動かす。それだけで、全ての弾丸が黒い装甲のすぐ横を通過していった。

 

「何だよ……俺のゲームに乱入する気か?」

 

 黒い龍騎が僅かに首を傾ける。返事は、それだけだった。

 

「だったら!」

 

 アナザーパラドクスが踏み込む。同時に黒い影が動いた。

 

「……城戸さんじゃない」

 

 えりかの口から、自然と声が漏れる。

 速い。

 けれど、それだけではない。

 バグヴァイザーが振り下ろされるよりも早く、黒い龍騎は相手の手首を掴んでいた。そのまま腹部へ蹴りを突き刺し、崩れた身体へ拳と裏拳を叩き込む。

 

「ぐっ……!」

 

 一撃ごとの振りも小さい。

 それなのに、アナザーパラドクスは反撃する暇さえ与えられず後退していく。

 やがてアナザーパラドクスへ重い蹴りを与えて退かせた後、黒い龍騎は静かにカードを引き抜いた。

 赤い龍騎と同じように、左腕のドラグバイザー___これも例外なく黒い___に差し込む。

 

『ソードベント』

 

 低く、くぐもった音声。

 現れたのは、ドラグセイバーと瓜二つの剣だった。ただし、その刀身までもが深い黒に染まっている。

 

「今度は剣か……」

 

 アナザーパラドクスはバグヴァイザーを腕に付けなおす。刃物になっている部分を向けて、黒い龍騎へ斬りかかっていった。

 バグヴァイザーと黒い剣が激突し、火花が散った。

 どれだけアナザーパラドクスが斬りかかろうと、黒い龍騎は一切動じない。ただひたすらに受け流し、隙を見つけては逆にアナザーパラドクスの身体に斬りかかっていた。

 

「ぐっ……だったら……!」

 

 アナザーパラドクスの複眼が光った。

 すると、ゲームエリア全体へ、いくつもの円形のものが浮かび上がってきた。それぞれには人のシルエットが別々のポーズをしているシーンが描かれていて、まるでゲームのアイテムみたいだ。

 

「これならどうだ!」

 

 手を伸ばすと、複数のアイテムが光へ変わって身体へ吸収された。

 

『高速化』

『マッスル化』

 

 しばらくの間、黒い龍騎は黙ってそれを見つめていた。

 やがて、その黒い体が動き出す。アナザーパラドクスへ向けて、剣を振り下ろした。

 だが、今度は当たらない。

 アナザーパラドクスの姿が掻き消え、次に現れた時には黒い龍騎の背後へ回り込んでいた。

 

「はああっ!」

 

 肥大化した右腕。

 そこから放たれた拳を、黒い龍騎はドラグセイバーで受けた。受け止めたはずだった。

 それでも身体は大きく吹き飛び、積み上げられた資材へ突っ込む。

 

「ははっ! 分かったぞ!」

 

 アナザーパラドクスはさらにアイテムを取り込んでいく。

 

『鋼鉄化』

『回復』

『ジャンプ強化』

 

 切り刻まれていた装甲が回復し、身体は鋼鉄のような光沢を帯びていった。

 

「お前、動きに無駄がねえんだよ。こっちの攻撃を見切って、一番少ない動きで避ける」

 

 もう一つ。

 

『伸縮化』

「だったら、避けられない速さと、受けきれない力で潰せばいい!」

 

 伸びた腕が、煙の中から立ち上がった黒い龍騎へ迫る。

 今度は避けられない。拳が黒い仮面へ直撃し、その身体を壁まで吹き飛ばした。

 

「当たった……!」

 

 えりかが息を呑む。

 アナザーパラドクスはそのまま一気に攻勢へ転じた。

 高速化された刃が肩を切り裂き、強化された拳が胸へ突き刺さる。さらに蹴りが腹部へ入り、黒い龍騎が次々と後退していく。

 

「どうした! さっきまでの余裕は!」

 

 立場が完全に逆転していた。

 

「結局ゲームなんてのは、攻略法さえ分かれば――」

 

 その瞬間。

 黒い龍騎の目が、赤く光る。

 隙を晒していたのだ。思わず、バグヴァイザーを攻勢とばかりに、高く振り上げてしまった。

 

「なっ!?」

 

 アナザーパラドクスが、足を払われた。

 身体が横倒しになり、その背後には黒い龍騎が立っていた。

 

「いつの間に……!」

 

 ドラグセイバーが振り下ろされる。

 アナザーパラドクスは横へ転がって辛うじて回避した。直前まで頭があった場所へ黒い刃が突き刺さり、舗装を深く切り裂く。

 追撃にも躊躇がない。

 

「くそっ!」

 

 バグヴァイザーで剣を受けた瞬間、腹部へ蹴りが叩き込まれた。

 えりかは、そこで気付いた。

 黒い龍騎が強くなったわけではない。速度も、力も先ほどまでと変わっていない。

 ただ、戦い方を変えている。

 伸びる腕から距離を取らず、逆に懐へ潜る。

 高速で突進してくるなら、攻撃そのものではなく足元を崩す。

 鋼鉄化した装甲には剣を叩きつけず、関節や体勢の綻びだけを狙う。

 相手が力を変えるたび、その力を前提として戦法を組み直している。

 

「何なんだよ……!」

 

 アナザーパラドクスが距離を取る。

 

「何でそんな平然としてやがる!」

 

 返答はない。赤い複眼が、ただじっと相手を捉えて離さない。

 怒りも焦りも、優勢になった喜びすら感じられない。

 ただ、倒す相手を追っている。

 

「……やっぱり、城戸さんじゃない」

 

 えりかの知る真司は、こんな戦い方をしない。

 何より、黒い龍騎はえりかを必殺技から救っておきながら、一度としてこちらを振り返っていなかった。

 無事かどうかさえ確かめていない。自分を助けるために割り込んだのではない。

 

『こいつ……処刑人を狙って来たのか?』

 

 コエムシが小さく呟いた。

 

「え?」

『いや……違うか』

「何がですか!」

『見てれば分かる』

「分からないから聞いてるんです!」

 

 その間にも、アナザーパラドクスは残されたアイテムへ手を伸ばしていた。

 

「だったら、もっと強化すればいいだけだ!」

 

 複数のアイテムが浮かび上がる。

 だが、夜の駐車場へ、低い咆哮が響いた。

 

「……!」

 

 巨大な黒龍が建物を這うように旋回、大きく口を開き、黒炎が吐き出された。

 その対象は、アナザーパラドクスではなかった。

 炎がゲームエリアを横切り、浮かんでいた円状の物質を次々と焼き砕いていく。

 

「エナジーアイテムが!」

 

 アナザーパラドクスは最後の一つへ手を伸ばす。

 その直前、黒いドラグセイバーが飛んだ。

 回転する刀身が最後のアイテムを両断する。

 

「あ……」

 

 強化の光が消えていく。

 太かった腕は元へ戻り、鋼鉄化した装甲も通常の姿へ戻った。

 

「……」

 

 黒い龍騎にも、アナザーパラドクスの強化が切れたことは明白だ。

 すでに、その姿はアナザーパラドクスのすぐ背後に迫っていた。

 

「何!?」

 

 驚きながら、アナザーパラドクスはバグヴァイザーを振るう。

 だが、すでに彼の動きは見切られている。手首を掴み、アナザーパラドクスの動きは封じられていた。

 そのまま、黒い拳が腹部へ炸裂。

 

「ごっ……!」

 

 顎へ掌底を打ち込み、浮いた身体へ回し蹴り。アナザーパラドクスは工事車両のボンネットへ叩きつけられた。

 

「まだ……!」

 

 それでも立ち上がり、ゲーマドライバーへ手を伸ばす。

 

「まだ……ゲームは……」

 

 身体を起こそうとした彼の前で、黒い龍騎の手がカードデッキへ伸びた。

 

「……おい」

 

 一枚のカード。その内容が、えりかの目にも飛び込んできた。

 

「待てよ」

 

 ドラグバイザーへ装填されるそれ。もう、どんな声が聞こえてくるか、予想もついていた。

 

『ファイナルベント』

「……!」

 

 やはり。

 真司が使う、ドラゴンライダーキック。

 同じ技のはずなのに。

 今から始まるものだけは、全く別のものに感じられた。

 

 黒い龍が上空を旋回した。

 

「待て……!」

 

 アナザーパラドクスが立ち上がろうとする。

 足がもつれた。

 

「待てって言ってんだろ!」

 

 黒い龍騎が宙へ浮かび、その背後へ黒龍が回り込む。

 今のアナザーパラドクスが出来るのはただ一つ、回避のみ。

 だが。

 

「何!?」

 

 黒龍が吠えた途端、アナザーパラドクスの動きが止まった。見れば、彼の足元から腰に掛けて、黒いもやのようなものがせり上がり、彼の自由を奪っていたのだ。

 そしてそうなれば、待ち受ける運命は一つ。

 

「ぐあああああああああっ!」

 

 轟音とともに、大爆発が巻き起こる。

 黒い龍騎のライダーキックが、アナザーパラドクスに命中したのだ。

 

「きゃっ!」

 

 えりかはShooting starを展開し、爆風から身を守った。

 煙が晴れるまでには、数秒しか経っていなかったはずだ。

 それでも、ずっと長く感じられた。

 

「……」

 

 巨大な亀裂と焼け焦げた舗装が、真っ先に視界に飛び込んできた。

 消えていくゲームエリアの光の中、アナザーパラドクスは、どこにもいなかった。

 そして、黒い龍騎はまだそこにいる。

 多少傷ついているものの、爆発の中にいたとは思えないほど静かに立っていた。

 黒い仮面が僅かに動き、初めて赤い複眼が、えりかを捉えた。

 

「……っ」

 

 ただ見られただけなのに、身体が自然と一歩退いた。

 

「あなたは……何者なんですか?」

『それはオレ様も聞きてえな』

 

 コエムシへ視線が移る。

 

『オレ様も敵か? やるか?』

 

 黒い手がカードデッキへ向かった。明らかに、こちらへ敵意を向けている。

 えりかは反射的に盾を構えた。

 そして。

 

「……時間切れか」

 

 それは、初めて黒い龍騎から発せられた声だった。

 自身の手を見下ろし、静かにこちらにももう一度視線を投げてきた。

 

「時間切れ?」

 

 その真意は分からない。

 ただ、黒い龍騎は静かに背を向け、去ろうとしていた。

 

「待ってください!」

 

 巨大なガラス壁へ歩いていく黒い龍騎。その背中へ、えりかはただ叫んだ。

 

「あなたは、城戸さんと、どういう関係なんですか!」

 

 一瞬だけ足が止まった。

 それでも答えない。

 そのままガラス面へ身体を沈め、鏡の向こうへ消えていった。

 

「……いない」

 

 えりかが駆け寄った時には、ガラスに映っているのは傷だらけの自分だけだった。

 

「何なんですか……あの人」

『知らねえよ』

「でもアルターエゴだって」

『クラスしか分からねえ。少なくとも、オレ様が用意した奴じゃない』

 

 コエムシは黒い龍騎が消えた場所を見つめる。

 

『面白いのが増えたな』

「面白いって……!」

『それよりシールダー。今日は運がよかったな』

 

 えりかは何も言えない。

 

『あいつが来なかったら、お前は死んでた』

「……」

 

 事実だった。

 

『次もそうなるとは限らねえぞ』

 

 その言葉だけを残し、コエムシは姿を消した。

 

「待って……!」

 

 もう遅い。

 再び夕闇へ戻った駐車場には、壊れた携帯電話と、激しい戦いの痕跡だけが残されていた。

 

「……帰ろう。みんなに、全部話さないと」

 

 処刑人に遭遇したこと。それと、黒い龍騎に結果的には助けられたこと。

 一人で来て、本当に死にかけたことも。

 

「……絶対、怒られます」

 

 それだけは、完全記憶能力がなくても簡単に予想できた。

 

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